第3話 信じず、信じる
あらかた新聞を読み、街も見た。
「こんなもんでいいかぁ」
「あら、もういいの?」
「そうですよ。せっかく魔国に来たのに。てっきりファヴニールさんに会っていくのかと」
「うーん。でもなぁ、忙しいだろうし、知れただけでもよしとしようかなって」
ファヴニールは魔王として国を引っ張っている。颯達とは遠く離れた存在になってしまった。どれだけ会いたいと言っても、簡単に会うことを許される立場ではない。それなら、彼の治める国というのがどんなものなのか、それを知れたことだけでも幸いだと思っておくべきだろう。
「帰るかぁ」
少し名残惜しそうに颯は、その場を後にする。来た時とは異なる扉に手をかけ、再び細工をした。そして家へと繋がる扉に変え、国を去った。
我が家へと帰ってきた3人。時間は夕暮れで、せっかく休めた体も、また疲れてしまった。魔国には思っていたよりも長くいてしまったようで、名残惜しかったのはそのせいかもしれない。
「あー、私休むわ」
「お腹も空きました。何か作りましょうか」
「だったらもう夕食にしちゃう?」
「そうね。それがいいかもしれないわ」
時間的には少し早いかもしれないが、3人の意見も合ったことだし夕食にする。キッチンを新しく、颯の能力によって作り、ヒロナの望む食材も、その場で出現させた。料理そのものを出すことも可能だったのだが、ヒロナが「人が作ったものじゃないと」とか言ってきたので、その通りにした。ちなみに颯もシュリィも料理は出来ない。なのでヒロナに任せるしかない。
「そのうち出来るようになってくださいね」
「えっ、何のために......」
「いい年して自分で料理も作れないだなんて恥ずかしいと思わないんですか? こういうのは何かのためとかじゃなく、ちゃんと出来るようになっておくべきなんです」
「そ、そう......」
颯とシュリィからすれば面倒なことを言われた。まるで母親に注意されているような気分だ。それに前からヒロナには、どこか封建的な、しきたりなマナーなど、そういったことに若干うるさいきらいがある。
これまではいつか国に戻ると本人も思っていたために、颯やシュリィには強く言うことはなかったが、それがなくなってから口を出すようになってきた。やはり元王族ともなると、価値観まで高貴なのかもしれない。
それから手際よく、ヒロナは夕食の支度を終え、3人で食卓を囲んだ。机と椅子もそれぞれ颯の能力によって作ったものである。この空間で一緒に過ごせば過ごすほどに、必要なもの、足りないものが揃い、やがて家庭のようになっていく。
「じゃあ、いただきまーす」
「はい、どうぞ!」
ヒロナの作った料理を食べながら、3人は雑談を始めた。ちなみにヒロナの料理は文句が出ないぐらい美味しい。
「そーいえば、魔国と神皇国の条約に反対してるの、えっと」
「ペルセウス教団」
「それよ、それ。そもそもアイツらが私、よく分からないのよ」
「関係ないことには興味なかったんじゃないの?」
「まぁ、そうなんだけど。でもなんか関係ないようには思えないっていうか......」
「私も、彼らについては英雄ペルセウスの伝説を教義にしている、ってことぐらいしか知りませんけど」
「ヒロナの言ってることで合ってるよ。それとシュリィの勘もするどい」
「なんか知ってんの? あんた」
「うん。だってペルセウスって、ケイのことだよ」
シュリィの祖父であるべンガーのもとへ行く前に3人が出会った不思議な経験。馬に乗って弓を引いていた少年ケイ。あれが一体何だったのか、そもそもどこだったのかも謎のままだった。
「いたわね。そんな奴。言われるまで忘れてたわ」
「忘れてたってなぁ......」
「それで、ケイさんがペルセウスっていうのは一体どういうことなんです?」
「そのまんまの意味だよ。ペルセウスの伝説っていうのは、神馬ペガサスに乗った英雄ペルセウスが、12の聖剣を使い災いを鎮めた話だけど」
ちなみに、そのペルセウスが鎮めた災いは魔人によって起こされたものであるとする言い伝えもあり、教団が魔人を排斥しようとするのは、この言い伝えからきている。
「それは知ってるわ」
「最後まで聞いて! だから、俺達があの時会ったケイは、あの後ペルセウスになるんだよ」
「なるほど。でもそんなことがあり得るんですか? ペルセウスは大昔の人物ですし、もし颯さんの言っていることが本当なら、私達は過去に行っていたということになりますよ」
「そうね。確かにそうなるわ。つまり颯の言ってることは単なる与太話ってことね。妄想乙」
「妄想じゃないし、与太話でもないよ。あの時俺らは時空を越えてたんだよ。気付かないうちにね」
「さすがに無理のある話ね。ごめんなさいするなら今のうちよ」
「はぁ......」
颯の言っていることは間違ってはいないが、急に言われて信じろというのも難しい。
気付かない間に時空を越えた、その証明でも出来れば信じられるだろうか。
「まぁいいけどさ、信じてくれなくても。でもその時はシュリィの勘も外れたってことになるからな」
「......信じてみる価値はあるかもしれないわね」
「勘が外れるのがそんなに嫌なんですか......」
「時間を越えるっていうのは確かに信じられないかもしれないけどさ、空間なら1度越えたじゃん。なにかしらの距離を越えるっていうなら、大体一緒だろ?」
「そう言われると確かにそんな気もしてきますね」
「だろぉ?」
いつの間にか3人は夕食を食べ終わっていた。料理を美味しくするのは人との会話だと言ったのは、誰だったか。とにかく、この件に関しては3人の間でなあなあのまま終わった。腹休めも兼ねて、リビングでだらけている。
「颯ぅ」
「ん? なにシュリィ」
「あんたのそれってさ、もしかして、お金とかも無限に出せちゃう感じ?」
「出せちゃう感じだけど」
「ホント!?」
今まで床にダルそうに寝そべっていたシュリィは、颯のその言葉を聞いた瞬間に体を起こし、颯の方に目線を集中させた。
「凄い食いつきっぷりですね......」
「出せるよ。ほら」
颯は目をギラギラと輝かせるシュリィの前で、手のひらから金貨を大量に出した。流れ出る水のようにジャラジャラと音を立てて落ちる金貨の滝は、それはもう魔法使いの少女をこれ以上ないほどに興奮させたのだった。
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「俗物的過ぎませんか......?」
「しょ、正真正銘本物よね!? 偽物とかじゃないわよね!?」
「本物だよ。流通してるゴールドそのものだから。無駄な心配とかせず、自由に使っていいよ」
「ヤッタァァァァァァァ!!!」
嬉しさのあまりはしゃぎまわり、部屋の中で騒ぎ始めるシュリィ。一体お金の何がそこまで彼女を執着させるのかは理解し難いが、とにかく、これで世間の中で生活をしていくことに不自由することはないだろう。
「それ、私が管理します」
「え?」
「だってそうでしょう。シュリィさんの好きにさせたら、一体何をしでかすのか分かったものじゃありませんから。私が月に使っていい金額をおふたりに渡します。それが私が管理する、ということで」
「俺も?」
「はい。颯さんは使っていい金額に加えて、お金を出すことも抑えてください。不正な流れは認めませんので」
「え、えぇ......」




