第2話 魔国
小屋を一瞬にして修繕した颯。それを見ていたヒロナは、驚きながらも要望を出してきた。
「あの、これって他にも出来ます?」
「出来るけど、何かあるの?」
「そのー、まだ家具とかが何もありませんから、そういったものを用意してくれると......」
昨日の夜に小屋で寝た時も、確かに中には何もなかった。今は小屋の外側だけを綺麗で丈夫にしただけなので、家具や内装といったことには一切手をつけていない。しかし、今後ここに住むというのなら、ヒロナの言う通りに用意すべきだろう。
「ずるいことするわね。ヒロナも」
「いいんです。大事なことなので」
「ブー。なによそれー」
「じゃあどんな感じにする。無難にシンプルな感じでいいかな?」
「そう、ですね。あまりこだわり過ぎずに、質素なものでお願いします」
颯はまた小屋に手をかざす。だいぶ慣れてきたのか、流れ作業のように終えた。小屋の中に入って見てみれば、夜とは全く異なる、生活感の溢れる住環境が出来上がっていた。住むのに必要なものは一通り揃っている。もし他にも必要なものがあれば、その時は再び颯の力を使えばいい。
「ねぇ、これって本当に何でも出来るの!?」
「まぁ、頭の中で考えれば、それが現実になるよ。例えばねぇ」
そう言って颯は黙り込む。しばらくすると空から雨が降ってきた。彼が、今の天気は雨であると考えたのだ。そのため雨になった。雨粒が地面に落ちる音がしばらく続いた後、雨は止んだ。外に出ていたシュリィはずぶ濡れである。
「最低......」
「はぁ......。仕方ないだろ......」
シュリィの服を濡し、文句を言われた颯はシュリィに手をかざし、彼女の服を一瞬で乾かした。その感覚がなにやら表現し難いものだったらしく、シュリィは自分の体を颯から隠すように覆いながら叫んだ。
「変ッ態!」
「仕方ないだろ!」
この能力にも大変なところはある。今みたいに文句を言われることはさておいて、考えたことが現実になるということは、考え過ぎてはいけないのだ。常に自分を律し、余計な雑念を払わなければならない。まぁ、しかし、既に起こっている事柄や現実を直視出来ているのならば何も問題はない。それ以上でもそれ以下でもいけないというだけである。
一通り小屋の中を見て回ったヒロナが2人のもとに戻ってきた。表情から内装に関しては納得いただけたようだ。
「マイホームですね......!」
「テンション高いわね、ヒロナ」
「ふふっ、えー、そうですかぁ?」
マイホームと言っていたが、こういったものに憧れていたのだろうか。言葉から溢れている嬉しさを隠しきれていない。
「まぁ、いいわ。出来たなら私は休むから。あ、そうだ。私の部屋って作れる?」
「あぁ、出来るよ」
颯が人差し指を振っただけで、シュリィの部屋が作られた。
「あぁ、あとそれと、2人の寝室も別に作っていいわよ」
「何で君に許可もらわなきゃいけないんだ」
「......それもそうね」
シュリィが新しく作られた自分の部屋に入っていった後、颯はもう一度指を振って、部屋をもうひとつ作った。それが何の部屋なのかは説明する必要はないだろう。
「そんな何食わぬ顔でやらないでください!」
ヒロナは顔を赤らめながら、颯に言った。そして部屋に入っていった。が、少ししてから顔を覗かせ、不満そうに言う。
「来ないんですか?」
「え、今!?」
「......なに考えてんですか! 休まないんですかって聞いただけです! まったくもう!」
お互いに少し勘違いをしていたみたいだ。だがまぁしかし、反応を見るかぎりヒロナも満更ではないらしい。
3人がそれぞれ体の疲れを取り、しばらく経った頃。とりあえず作ったリビングで寝転び、颯はふと思った。
「そういや今、他の場所ってどうなってんだろ」
「さぁ? 上手くやってんじゃないの」
「どこか行かれるんですか?」
「うん。そうしようかな。見に行ってみようよ」
「はぁ。行くったってどこ行くのよ。それに今からじゃ時間だってかかるでしょ」
「大丈夫だよ」
時刻は昼過ぎ。やろうと思えば颯は能力によって時間を変えることだって出来るが、今回はそんなことはしない。彼は玄関ドアに手をかけ、少し細工をした。
「じゃあ、まずはここかな!」
颯は勢いよく玄関の扉を開ける。そこは小屋が建っていたはずの森の中ではない。人の行き交う、活気に溢れた街だ。
「は? どこ?」
「魔国みたいだね」
「魔国? それって滅んだんじゃなかったかしら」
「シュリィが言ってるのは『前の魔国』だね。『今の魔国』は違うよ」
魔国。それは魔人の国。勇者が魔王を倒した際、各国の分割によって魔国は滅んだが、新たな魔王によって領土を回復し、再興した。その新たな魔王こそファヴニールである。彼は多くの魔人を奴隸から解放して導き、帝国と神皇国が戦争をして国力を失った隙を狙って国を建てた。もちろん彼だけの力によって成し遂げられたわけではないが、自らが率いた魔人達の強い願いによって魔王として君臨することになったのである。
「てか、なんであんたがそんなこと知ってんのよ」
「そりゃ分かるよ。むしろ知らないことの方がないもん」
「だったら来なくったってよかったじゃないのよー」
「ただ知っているだけなのと、実際に目で見てみるのは違いますもんね」
「そう! そういうこと! それにファヴニールが王様の国だよ? 見てみたいって思うだろ?」
「思わないわ。だって私に関係ないもん」
「えー。少し興味持ったっていーじゃん」
3人は話しながら外に出る。周囲の風景を見渡せば、煉瓦で作られた道路に建物が並ぶ。行き交う人々によって交わされる取引の数々。帝国にも神皇国にも勝るとも劣らない国の姿があった。
少しばかり街の中を歩く。道端に捨てられた新聞があったので、拾って読んでみる。今日の新聞だ。そこにはここ最近の情勢が書かれており、世間に疎かった3人にとってはありがたい情報だった。
そこには色々と書かれている。ます、魔国が建国され、神皇国と和解をしたということ。神皇国の騎士王モルドレッドと魔王ファヴニールが直接顔を合わせて行った会談の中で決まったことらしい。なお両国からは反対の声も上がっているとのこと。とくに神皇国のペルセウス教団からは猛反発があるらしく、騎士王はその立場すらも危ぶまれているとのこと。
次に、その神皇国と魔国に帝国を加えた3ヶ国によって条約が交わされたらしい。それぞれの軍縮や経済協定など、様々な内容を盛り込んだものらしく、これによって国際的なパワーバランスを維持する目的なのだそうだ。
その次に、長年鎖国を守ってきたヨトンヘイムが魔導連邦と接近をしていると書かれている。まだ公式に発表されたものではないが、連邦に加わる可能性もあると、新聞にはある。実際にどうなるか分からないが、実現すれば色々影響が出るかもしれない。
「ヒロナこれ......」
「あ、いえ。私は気にしてませんから。お気になさらず」
「そう」
「はー。どうせこれも知ってたとか言うんでしょ? だったら最初から気まずくならないようにしなさいよねー」
「まぁ、知ってたよ。でもあれじゃん。ほら、こういうのってスラスラ読めちゃうから」
「だからーそういうとこに気をつけなさいって」
「あーもう、2人共! 変なことで言い争ってないで次いきますよ! 次!」




