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異世界運命記  作者: ドカン
第8章 神と真理
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第75話 創生

 颯は目を覚ます。心地よさに包まれ、そのせいでもう少し横になって眠っていたいぐらいだ。誰かが膝枕をしてくれている。こんなに気持ち良く、そして幸せになれるものはありはしないだろう。そう断言出来る。そんな眠りと覚醒の間で揺れているような意識の颯の視界の中に、こちらを覗き込んでくる女性の顔が入り込んできた。知っている顔だ。その名前を呟く。

 「ヒロナ・・・・・・。え、ヒロナ!?」

 自分で言っておいて、その名前に驚く。颯は衝撃のあまり飛び起きた。

 ここはヒロナやシュリィと共にいた、あの小屋ではない。世界は明るく、どこまでもが広がっている。まるで、白銀の少女と出会っていた、あの場所のようだ。そしてそんな場所に、いるはずのないヒロナがいる。しかし驚く颯を前に、女性は落ち着いた様子で答える。

 「ヒロナ? いえ、私はそのような名前ではありません。私の名前はユミル。あなたがあまりにも幸せそうに寝ているものだから、少し見つめ過ぎてしまったみたいです。迷惑だったらごめんなさい」

 ユミルと名乗る、驚くほどヒロナと似ている女性。このような空間には似合わない綺羅びやかなドレスを身にまとっている。

 「いや、迷惑ではなかったけど・・・・・・。ところで君はここで何を?」

 「何も、何もしていません。ここには私以外、誰もおらず、他人に出会うのもあなたが初めてで・・・・・・」

 この場所は、どこまでも開けた空間こそあれど、それ以外には何もない。そんな場所で誰とも会わず、たった1人で彼女は居続けていたのだ。

 誰もいないから、何もしない。することがない。彼女はそれを当たり前だと思っているし、ただ無為に時間を過ごし続けている。同情だとかはするだけ傲慢のようにも感じるが、自分もここに来てしまった以上、ただただ時間を潰すというのも辛いだろう。

 「何もないなら、何か造ってしまおう。そうすれば君は退屈に思うこともなくなるよ」

 「造ると言っても、何を造るのです?」

 「うーん、それは・・・・・・」

 アイデアを出すために辺りを見渡す。しかしやはり何もない。何もないから、何かが必要になることもない。1から2にすることと、0から1にするのとでは難しさは格段に違う。颯とユミルは今、まさに0から何かを始めようとしている。どうしようかと考えていると、あることに気付く。

 ここは颯が白銀の少女と出会っていた場所に似てはいるが、似ているだけである。あそこにはあって、ここにはない決定的な物がある。中央に生えている、巨大な樹がないのだ。

 「ならここに木を植えよう。すぐに完成するものではないけど、その分、変化を楽しむことが出来るはずだ」

 「木、ですか?」

 「うん。木を植えるには、良い土と良い水、そして良い空気が必要なんだけど」

 颯が木が育つために必要なものを言う。別に彼は植物や園芸の専門家ではないので、詳しいことまでは言えない。だが、今挙げた3つに関してはその分野に詳しくない人にでも分かるし、だいぶ曖昧な言い方でもあったので間違えようもないだろう。

 さて、彼がそのような考えを言葉にした時、颯とユミルの足元から3体の竜が現れた。もしくは誕生した、とも表現出来る。逞しい手足に勇ましい翼。強靭な尻尾に鋭利な爪と牙を持ち、雄大な肉体が自然の化身たる姿を表している。彼らはそれぞれ、大地、海、空へと姿を変え、やがて世界そのものが形作られた。

 「これは・・・・・・」

 目の前の光景が、今まで見ていたものから一瞬にして生まれ変わる様を目の当たりにしたユミルは、しばらくその景色に見入っていた。やがて誕生した世界を一通り見たユミルは、その手に種を持っていた。彼女がそれをどこから持ってきたのかは分からないが、颯とユミルは、その種を大地に植えた。

 種は瞬く間に育ち、立派な樹に成長する。そして世界に根を下ろした。

 颯はその樹に見覚えがあった。それはまるで、白銀の少女の場所に生えていた大樹のようだ。

 「この樹はもっと大きく育っていく・・・・・・。やがては世界を支え、世界そのものとなっていくのですね。世界樹とでも呼びましょうか」

 ユミルがそのようなことを呟く。世界樹。これ以上ないほどにこの樹を表している。根は大地に通じて、枝や葉は空に通じる。どこまでも大きく育ち、世界を繋げていくのだろう。

 しかし、それでも変わらないものがあった。世界を包む白い結晶、氷だ。世界を閉ざし、行く手を阻んでいた。

 「これは、どうしようもないのでしょうか? 触れれば冷たく、痛いのですから、これ以上先は行くなと、誰かにそう言われている気分です」

 「誰もそんなことは言ってないよ。それに、どうしようもないなんてこともないさ」

 颯は世界樹から枝を1本だけ折り、火を付けた。

 「その枝の名前は?」

 ユミルが聞いてくる。

 「枝? 枝に名前なんてないよ」

 「ではレーヴァテインと呼びましょう!」

 「まぁ、君がそれでいいならいいけど」

 レーヴァテインの炎は、世界を包んでいた氷を溶かし、世界には澄んだ水と風が行き渡る。世界はさらに広がり、地平の果てまでも光は届くようになった。

 ユミルは広がった世界へと足を踏み出す。

 「こんなにも変わってしまうだなんて、少し前まで考えられもしませんでした・・・・・・。あなたが来てから、私は驚くばかり。あなたには何か、とても惹かれるものを感じます」

 「僕に?」

 「えぇ。この気持ちを言葉で表すならきっと、好き、と言う言葉でしょう」

 ユミルの言葉を素直に嬉しいと思う。生まれ変わった世界で、愛を言葉にする彼女は何よりも美しかった。それこそ夢見心地とでも表せられるような、多幸感のようなものに包まれる。

 「一緒に世界を見て回りませんか? あなたと見る世界ならきっと、美しいものになると思うのです」

 ユミルが颯を誘う。それが不思議と意外で颯も快く、その誘いにのった。

 2人はお互いに手を取りながら、出来上がった世界を見て回る。世界には綺麗な水が流れ、心地よい風が流れる。緑に彩られた大地を行きながら、会話を交わす。

 「その、私はあなたのことを好きだと言いました・・・・・・。あなたは、私のことをどう思っていますか? 正直に、教えてほしいのです」

 彼女の顔が、少し赤く火照っている。颯にとってユミルは、旅の中で出会った幾多の人のうちの1人にすぎない。いくらヒロナに似ているからといって、ユミルとヒロナは別人でもある。しかしユミルにとっては、ずっと孤独の中にいた中、初めて出会った他人なのだ。彼女にとって、颯は特別な存在となった。

 「好きだよ。だけどそれは、君の言う好きとは少し違うかもしれない。君の隣を歩くのは幸せだし、君とこうやって世界を見て回るのは楽しい」

 「それだけでは、駄目なのですか?」

 「駄目、ではないよ。ユミルは何も悪くないし、自分を責める必要も全くない。駄目なのは僕の方さ。まだ不安が自分の中にあるんだ。君と一緒にいる時間は好きだけど、それで僕の不安はなくならなかった。このまま君といても、君に迷惑がかかるだけだからね」

 「そんな! あなたは何も悪くはありません。あなたが来たから、私はこうして愛する人と一緒にいられるのです! それに私に迷惑だなんて、そんなはずはありません! あなたと共にいられるだけで嬉しいのですから、そんなこと、あるはずがありません!」

 ユミルのその言葉に颯は驚く。真っ直ぐな気持ちを向けられ、どうすればいいのか分からなかった。ただ、彼女の言葉に偽りはなく、その目は真剣なものだ。

 「あの、もし、これでも駄目だと仰るのなら、1つだけ付いてきてほしい場所があるのです。一緒に来てくれませんか?」

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