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異世界運命記  作者: ドカン
第7章 黄昏の魔女
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第69話 久しぶりの、居心地の悪い我が家

 シュリィが追ってきた男から逃れるために、どこかへと走り去っていってしまった後、颯とヒロナが二人っきりになっていた。

 「なんとかなるって言ってもなぁ。シュリィがいなくちゃ、この街でやることとかほとんどないし、どうしよっか。とりあえず今日の宿でも探すか」

 「そうですね。どこか安い場所でもあればいいんですが」

 「いや、少し高くてもいけるんじゃないかな」

 そう言って颯は、自らのポケットから宝石を取り出した。その瞬間、ヒロナに手を抑えられる。

 「颯さんもですか」

 「いや、でも、これはシュリィが落としたものを拾っただけで・・・・・・」

 ポケットから取り出した宝石は、十中八九ヒロナの国から取ってきたものである。持ち出してきたのはシュリィかもしれないが、使うかどうかということでヒロナから見れば、颯もシュリィも変わらない。

 「でもこうしないと、俺ら今日泊まる宿代もないし・・・・・・」

 颯の言う通り、今まで持っていた所持金を使い果たしてしまった3人には、シュリィが盗み出した宝石や金目の物以外には何も持ってはいなかった。ここでヒロナが許したり見逃さなければ、路頭に迷うことになる。

 ヒロナは葛藤していた。仮にも王族だったものとして、このようなことを許していいものなのか。深く、深く悩んだ。国から連れ出される時以上に葛藤していたかもしれない。

 「し、仕方ないですね・・・・・・」

 「じゃあ、そこの換金所で換金してくるね!」

 「くっ」

 そうして颯は、ポケットから取り出した宝石を手に目の前の換金所へと向かった。

 しばらくして、颯が換金所から出てきた。手にはかなりの札束を持っている。宝石は相当な値段だったようで、一気に億万長者になった気分だ。

 「あの宝石、めっちゃ大金になったよ。この街で家が買える値段だってさ」

 「そんなに!?」

 「わりといいとこ泊まれるんじゃない? 豪華なホテルのスイートルームとかさ!」

 「いえ、これは元はといえばヨトンヘイムの宝石ですから、私が責任もって管理します。無駄遣いしないよう、節約しますからね!」

 「まぁ、そういうなら・・・・・・」

 少し残念そうな顔で、颯は手に入れた札束をヒロナに渡した。彼女が持っていた方が、無駄なく管理してくれそうではある。一文無しになるわけにもいかないので、渋々ではあるものの、颯はそれを了承した。


 その頃、2人と分かれたシュリィは人混みの中を走っていた。後ろから彼女の父親が追う。

 「何故逃げるんだ、シュリィ!」

 息を切らしながら走る父親をなんとか振り切ったシュリィは、人目のつかない路地裏へと駆け込んだ。外を覗き、追手が既にいないことを確かめてから深呼吸をしてその場に座り込む。

 「ここなら大丈夫そうね。でも何でいきなり会っちゃうかなぁ。私、ツイてなさすぎでしょ。2人とも分かれちゃったし、早いとこ探さないとね。遠くには行ってないわよね?」

 独り言を呟いた後、シュリィは少し黙った。考え事をする。父親に出会ってしまったせいだろう。

 家や学校のこと。つまりは颯とヒロナに出会う前のことだ。あまり良い思い出ではないので、思い出したくはない。しかし、どうしても思い出してしまう。

 いつまでも、つまらない過去に引っ張られていてはいけない。シュリィは気持ちも切り替え、その場を立ち上がった。そして路地裏から出ようとした、その時、目の前に人影があることに気付く。

 「見つけたよ、シュリィ」

 そこにいたのは、清潔感のある服を着た、シュリィよりも少し背の高い、気取った顔の少年だった。自信に満ちた表情で、シュリィの前に立っている。

 「誰?」

 「は? 分かんないの?」

 「うん。なに、もしかしてストーカーかなんか?」

 「本当に分からないの? 僕だよ、僕。レンス。君の、婚約者」

 「・・・・・・は?」

 シュリィは呆気にとられた顔をする。この見覚えのない男が、いつの間に自分の婚約者となったのか。いつの間に結婚などという話になっていたのか。急な出来事で、頭がついていかない。目の前の、レンスと名乗った少年は変わらず苛立ちを覚えるほどに自信あり気な顔だ。

 信じたくもない話で、どうすればいいのかが分からなくなる。シュリィは、その場で一気に無気力となってしまった。

 「君のお義父さんに言われて、探したんだ。さ、帰るよ」

 そしてシュリィは、長い時間を経て家に連れ戻されてしまった。

 彼女の家は、ヒロナが当てた通りの貴族の家系である。とはいっても、なったばかりの新入りのようなものだが、それでも家の中であったり、使用人などはきっちりとしていて、それなりの家柄なのだということが分かる。

 先に家に戻ってきていた彼女の父が、シュリィを出迎える。

 「よかった、ちゃんと帰ってきてくれたんだな。服が汚れているな。着替えてきなさい。既に用意はさせてあるから、それに着替えるんだぞ」

 無気力となったシュリィは、父親に命令されるがままに服を変えた。用意されていた服は、女の子らしい、着飾ったドレスで、女流階級のシュリィの年頃の少女達ならば皆着ているであろうものであった。ただ、そのドレスを身に纏うのは、シュリィにとっては甚だ屈辱的なことでもあった。

 「いや、しかし実にちょうどいい時に帰ってきてくれたな。シュリィ、お前もいい年だ。それこそ、お前の年ぐらいの他の子は、嫁ぐような時期でもある。だから縁談の用意をした。お前も知っていると思うが、お前を迎えにいってくれた彼、レンス君だよ。結構いい男だと思わないか? 学校も主席で卒業して、既に研究所から内定も貰っているらしい。あれだけの若さで、かなり優秀な子じゃないか。そんな子が一生の相手にお前を選んでくれたんだぞ? そのうちお前も気に入ると思うんだ」

 シュリィは父の言葉を延々と黙って聞き続けた。下を向いたその顔には、光は届いてはいない。彼女のことをまるで無視でしているかのような言葉の次々に、シュリィは既に耳を塞いでしまっていた。手は膝の上に置かれ、強く拳が握られている。父からはそれが見えていない。

 父親は無自覚にも、シュリィに対して圧力をかけるような言い方をしている。彼なりの事情というものがあるのだが、少しばかりシュリィのことを無視しすぎてしまっていた。そのことに気付いた彼女の父は、一旦話を止めることにした。シュリィが興味なさそうに聞いていたことも要因としてはある。これ以上はあまり意味がないと悟ったのだ。

 「まぁ、いい。また後で話そう。お前も疲れているんだろう? 部屋でゆっくりと休んでなさい。ただ夜はスリード家が主催の式典があるから、それまでにはちゃんと用意しておけよ」

 そう言って父親は席を立ち、荷物を持って家から出ていった。おそらく仕事があるのだろう。シュリィを見つけた時も、単なる偶然で仕事の合間にたまたま見つけただけなのかもしれない。

 怒りと悔しさと無気力の中、シュリィは自室へ行く。この家から出ていく前は、自分の部屋だったはずなのに、時間を空けてから入るとまるで別の部屋のように感じる。

 久しぶりの自室は人の手によって整理されており、いくつか物がなくなっていることにも気付く。家出の際に置いていった、けれども大切なものが、既に部屋からは消えていた。きっと捨てられたのだろう。自分以外の、価値の分からない者の手によって、そこは既に自分の部屋ではなくなっていたのだ。

 シワのない、綺麗なベッドに寝転がり、呟く。

 「帰りたい・・・・・・」

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