第68話 魔導祭と望まぬ再会
ヒロナから逃げていたシュリィが急に立ち止まった。そこに、追いついたヒロナがシュリィの手を取る。
「つ、捕まえましたよ! ・・・・・・どうしました?」
息切れしながらシュリィを捕まえたヒロナだが、反応が全くない。疑問に思ったヒロナが、シュリィに聞く。それに彼女は、やや震えた様子で聞き返した。
「もしかして、ここから1番近いのって、ウィザーニア?」
「そうですね。ついでに今の時期ですと、確か魔導祭が開催されているはずですよ」
3人のいる場所から最も近い場所にある国はウィザーニアという、魔法の研究に力を入れている連邦国である。そのことを聞いたシュリィは肩を落とした。そこに颯が追いつき、話に加わる。
「ん、なに? そこに行くの?」
「まぁ、今から行けるところなんて、そこぐらいしかないですね」
「そっか、じゃあ今日はもうそのままそのウィザーニアってとこに行こう」
「え、本当に行くの?」
「そこしかないんだろ?」
「まぁ、そうだけど・・・・・・」
「それに魔導祭って魔法使いのシュリィさんなら興味があるんじゃないですか?」
「あるけどぉ・・・・・・」
「じゃあ、行こう」
どうやらシュリィは乗り気ではないようだ。しかし彼女は同時にウィザーニアに行くことに完全に否定的でもない。どっちつかず、といったところである。ここで迷っていても仕方がなく、それ以外に選択肢があるわけでもないので、3人はこのままウィザーニアへと向かうことにした。
「あ、そういえばこれ、落ちてたよ」
颯は来る途中に拾ったものを2人に見せた。それは紅いビー玉のようなものだった。小さな球体のなかで、紅色の模様が美しくゆらゆらと輝いていた。
「なにこれ」
「さぁ?」
「綺麗ね。これも私のものなのかぁ。もう落とさないようにしないといけないわね」
「だから国のものですってば」
「だけどこれは本当に何なの? ただの宝石?」
「それにしては手が込みすぎじゃない? 綺麗すぎるよ。誰かが何かのために造ったんだよ、きっと」
「ふぅん」
本当かどうか分からない颯の説明に頷いたシュリィは、それがまるで始めから自分のものであったかのように自分のポケットにしまった。ヒロナはそれを見て、ただ溜息をつくことしか出来なかった。
それから3人は、最も近いウィザーニアの都市、マカジットへとやってきた。ここは国の首都についで連邦で2番目の大きさを誇る都市である。魔導連邦ウィザーニアは各都市を貴族が領主となって治めている。このマカジットもそれは変わらない。
この時期にマカジットで開催されている魔導祭見たさにやってきたシュリィと2人。街には珍しい物品の数々が集まっており、目を引く。また、魔法使い達による魔法の展覧会のような催しも開かれており、見ていて飽きることがない。出店も多く、魔法に疎い人でも楽しめるようになっている。
「ねぇ、人混みに紛れましょう?」
シュリィが2人にそう言う。しかしそれではせっかくの催しや珍品を見ることが出来ず、来た意味が薄くなるようなものだ。
「それじゃ、何も見れないだろ」
「いいのよ、どうせおじいちゃんの二番煎じとかそういうのばっかなんだし」
「お前、さっきまで見たそうにしてたじゃんか」
シュリィの態度は気まぐれのように変わる。颯とヒロナの2人はそれにいちいち付き合ってはいるが、こうも振り回されっぱなしとなると、さすがに疲れてくる。しかしシュリィも、別に考えなしにあれこれしているわけではない。だがそれを2人に言うことはあまり多くはない。
「も、もしかしたら凄いのとかがあるかもしれないでしょ! 魔法使いとして、そういうのはやっぱりチェックとかしておかないといけないのよ!」
「はいはい」
彼女の言い訳のようなものに颯は馴れた反応で返す。全てを真に受けていては、体力が持たないだろう。
このようなことを繰り返しながら街の中を進む3人の前に、ある建造物が現れた。4、5階建ての建物で、縦というよりも横に広がっており、白い塗装で周囲の建物とは違う雰囲気を出している。
「随分とデカイね」
「あぁ、あれ学校よ」
「え、そうなの!?」
驚く颯が建物に寄って、表札を確認する。そこには確かに「スリード魔導学校」と記されていた。
「あれ? これってシュリィの名字じゃない?」
「・・・・・・まぁ、そうよ」
「もしかして、この街の執政官のアーガンの娘さんだったりします?」
ヒロナのその言葉を聞いた瞬間、シュリィが驚く。
「な、なんで・・・・・・」
「そりゃあもう、賢者べンガーの孫で、シュリィさんの名字の学校があるなんて、ここまできたら答えを言ってるようなものですよ」
「うぅ・・・・・・颯の無知さに甘えてた自分を呪うわ」
シュリィは唸り声を上げながら、頭を抱えた。しかしその直後に態度を変え、ヒロナに懇願する。
「そこまで分かったならお願い! 私を隠して!」
「隠してって、何故です?」
「てか誰から」
「パパとか同級生とか! とにかく何でもいいから私を隠して!」
「んなこと言われてもなぁ」
颯とヒロナは悩んだ。シュリィの頼みを断るつもりはないが、顔も何も分からない相手からどう隠せばいいのかが分からない。しかし彼女は深刻そうな顔をして2人を見つめている。彼女の過去を無理に詮索するつもりもないが、場所と相手が悪いと颯もヒロナも感じていた。
「てかシュリィの実家がここにあるってこと?」
「やだ! 行きたくない! 絶対にやだ!」
「シュリィさんがパパさんのことを嫌がっても、やっぱり挨拶とか行った方がいいですかね。私達、もう長い付き合いですし」
「やだぁ! 絶対にやだぁ! ヒロナもこんな時に育ちの良さとか生かさなくていいからぁ! わーたーしーはーいーやー!!」
シュリィが叫ぶ。情けなく、子供のように、品の欠片もなく。周囲には騒ぎまくるシュリィに注目しまくる人だかりが出来上がっていた。隠れたがっていた彼女自身がその状況をぶち壊していく。
そしてついに、人混みをかき分け、ある男性が3人のもとへとやってきた。
「シュリィじゃないか!」
シュリィと同じ、金髪で整った顔立ちの男性。髭を生やし、息を乱していてもそれなりの威厳が感じられる。スーツや靴、身につけている物はどれも整った、高級なもの。そんな男性が、シュリィを目を見開いて注視している。
「誰?」
「・・・・・・パ、パパ」
彼女はついに自分の父親に見つかった。自身が騒いだせいなのは明白である。
「今までどこに行ってたんだ。心配してたんだぞ!」
瞬間、シュリィは脇目も振らずその場から走り去った。あまりの見事な走りは颯とヒロナを置き去っていく。
「後で合流!」
シュリィの言葉。
「待て! どこへ行く! シュリィ!」
それを追う父。
嵐のような騒ぎは、嵐のように去っていった。その嵐の中心がいなくなった学校の前では、集まっていた人々は自分達の目的を思い出し、どこかへと散っていってしまった。
「合流たって、ねぇ・・・・・・。あれって俺たちに言ってたんだよね?」
「だと思いますよ」
残された颯とヒロナ。既にシュリィもその父親も、見えないぐらい遠くまで走っていってしまったので、追いかけようにも追いかけられない。
「追いかけなくてもいいかな」
「大丈夫、だと思いますよ」
「なんとかなるよね?」
「えぇ、おそらく」




