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異世界運命記  作者: ドカン
第6章 氷の女王
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第66話 雪解け

 結局、一睡も出来ないまま朝を迎えた。日が昇り始めた頃、まだ誰も起きてはこないような時間に颯はヒロナの部屋を出る。見つかってしまっては面倒だからだ。

 「一旦部屋に戻るよ。シュリィも部屋にいるし」

 「はい、じゃあ・・・・・・」

 颯は明るくなり始めた廊下を渡り、客室へ戻った。部屋に戻るとちょうどシュリィが目を覚ました。扉を開ける音で起こしてしまったようだ。ボサボサの髪を揺らしながら、重たい瞼を擦って体を起こす。

 「んー。あんたもう起きてんのー?」

 「もう少し寝てたら?」

 「いい。あんたのせいで目が覚めた」

 ボーッとしているが、その顔からはシュリィが不機嫌なことが伝わってくる。なぜ起こした、お前のせいで眠れなくなったという無言の圧力。ウトウトしながらも若干の怒りが混じっている。

 ちょうどそこへ扉をノックして、メイドが部屋へとやってきた。

 「おはようございます。もうすでに起床されているようなので、要件を伝えさせていただきます。今日の午前中にヨトンヘイムから出国するようにと、おふたりには命令が出ております。要件は以上です。では失礼いたします」

 メイドは部屋から出ていった。とても簡素な言い方で、なんて分かりやすいのだろう。シンプル極まりない。

 「だってさ、シュリィ」

 「え、今なんか言ってたの? 眠くて聞こえなかったのよね」

 シュリィは体を起こしたまま目を閉じている。もう半分寝ているような状態だ。大人しく二度寝でもすればいいのに、彼女も中々強情なところがある。

 「すぐにここから出てけってさ」

 「出てくって、部屋から?」

 「国から。今日戴冠式なんだよ」

 「戴冠式・・・・・・。ヒロナのね。そう、本当に女王になるんだ」

 そう言うと、シュリィは大きく息を吸って目を開き、ベッドから立ち上がった。そして颯の方を見る。

 「素直に出てくの?」

 「・・・・・・」

 颯は黙る。彼は先程言われた命令というやつに素直に従うことを躊躇していた。そうしたくないと心のどこかで思っていた。颯のその姿を見てシュリィは微笑む。

 「私に良い考えがあるの。どう? やってみない?」

 シュリィのその言葉に、颯は強く惹かれた。そして、ポケットの中にしまったままの使っていない魔法瓶を握る。

 戴冠式の直前、使用人の1人が颯とシュリィを呼びに部屋へ向かう。しかしそこに2人の姿はなかった。


 それから時間が経ち、城の大広間。部屋の1番奥には玉座が設置されており、美しい赤い絨毯が敷かれている。この国の貴族達が整列しており、緊張が部屋を包む。

 しばらくして、盛大な音が鳴り響く。大広間の巨大な扉が開き、中からは純白のドレス、女王としての正装に身を包んだヒロナが、ゆっくりと威厳を背負いながら登場する。玉座の前に立ち、貴族達を上から見つめた。その瞬間、貴族達はヒロナに対して頭を下げ、その権威にひれ伏す。そして別の扉からは、王冠を持った司祭と、レーヴァテインを抱えた家来が入場し、ヒロナの前に立つ。彼女は先にレーヴァテインを手にする。剣を持てなければ女王になることも出来ない。ヒロナがレーヴァテインを手にした後、続いて司祭が王冠をヒロナの頭に載せようとする。

 その瞬間、大広間の扉が勢いよく開き、巨大な爆発音が響く。

 「何事だ!」

 しかし時は既に遅く、部屋は爆発によって生じた黒煙に包まれ、会場の誰一人として状況を掴むことが出来ずにいた。

 その最中、誰かがヒロナの手を掴んだ。彼女はすぐさま気付く。

 「颯さん!?」

 この混乱を引き起こしたのは颯であった。べンガーから貰った「エクスプロージョン」の魔法が込められた魔法瓶を使わずに持ち続けていた彼は、今この瞬間、ヒロナを連れ出すために使ったのだ。

 「行こう!」

 今までにないような強い声。同意を求めるような優しいものではなく、有無を言わせぬ強い力にまみれた命令に近い声だ。その声にヒロナは心惹かれ、頷く。

 「はい」

 颯に手を掴まれた彼女は、王冠を被ることなくレーヴァテインだけを持ち、颯に引っ張られその場から走り去った。

 「ヒロナ様はどうなった!?」

 「犯人を逃がすな!」

 会場に誰かの声が響く。しかし混乱の中、言うことは出来ても実行出来る人間はいなかった。

 部屋から出ようとする2人に、後ろから声をかける者もいた。

 「ヒロナ!」

 それはヒロナにとって聞き慣れた親友の声。スカディは、ただその場から悲しげな表情で、部屋から去ろうとするヒロナを見つめ続けている。目が合う。何かを必死に言おうとしているものの、何も言えない。あんなにも悲しげな表情は今まで知らなかった。そんな親友の顔を見ながら、ヒロナは颯の手を取り、その場から立ち去った。

 「2人共、こっち!」

 扉の向こう、シュリィが待っている。彼女は祖父から譲り受けた、姿を消す蓑を使い自分を含めた3人の姿を消す。

 「狭くない?」

 「しょうがないでしょ! もともと1人用だしこれしかないんだから! 文句言うならあんただけ追い出すわよ!?」

 「わ、分かったよ」

 外から見えなくなった3人は、追手の目を掻い潜り人気のない場所まで移動する。蓑が透明になれる時間は無限ではないし、3人でこれを被っていることにも無理がある。どこかに隠れ、一旦態勢を立て直す必要があった。ちょうどいい隙間に身を隠す。

 「どこに行った! 探せ!」

 城中の者が3人を探し回っている。いつ見つかってもおかしくない。息を潜めながら、この場をやり過ごす。

 「あの、何故このようなことを?」

 「我儘だよ」

 「え?」

 「僕の我儘だ。だから、これを綺麗事にするつもりはない。僕は今、この国に背いて多くの人に迷惑をかけている。それでもヒロナ、君をここから連れ出したいと、まだ仲間であり続けたいって思ったんだ」

 「颯、さん・・・・・・」

 見つかったらどうなってしまうのかなどというのは、目に見えている。この国の全ての人がヒロナを必要としていることも分かっている。しかしそれでも少年はまるで、魔女にそそのかされたかのように自らのエゴに正直になり、その欲望を、その手を掴んでいる少女にぶつけた。きっと、いや絶対に、正しい行いではない。であるならば、この行いを綺麗事に塗りたくり正当化しなければならない。しかしそんな気は起こらなかった。むしろ、もっと罪悪であってほしいとすら思っている節がある。そうでなければ気がすまない。だから暴力的なエゴで、我儘で、ヒロナをここから連れ去ってしまう。彼女には被害者でいてほしいと思ってしまっている。可哀想なお姫様であってほしいと。それが最も罪と向き合っている気がしてならない。もしかすると、これこそが最も偽善に満ちた綺麗事なのかもしれない。

 「来なくなったわね。多分今しかないわ」

 シュリィが声をかける。ここで失敗するわけにはいかない。

 途中、人の気配が薄くなったところで、蓑に身を包み3人は再び走り出した。颯のヒロナを掴む力はさっきよりも強くなっていた。

 ついに城の外へ出る。外には、この騒ぎを聞きつけた国民が大勢集まり野次馬を形成していた。その隙間を何とか潜り抜け、3人はヨトンヘイムへ来る時に使った隠し通路の近くまでやってきた。

 「ヒロナ様!? 何故ここに!?」

 このまま通路へ行こうとする3人の横から声がする。そこにいたのは戴冠式のために戻ってきていたフリュムであった。

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