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異世界運命記  作者: ドカン
第6章 氷の女王
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第63話 神話と盟約

 宮殿の廊下を1人で歩く颯。ヒロナが故郷に戻り、多忙を極める今、あのままシュリィと仲を悪くしてはいよいよどうなってしまうのか分からなくなる。そうなる前に颯は一旦時間を置くことにしようと部屋を出て宮殿の中を散歩していた。

 しかし、思った以上に城は広く、一口に言ってしまえば、迷っていた。元いた部屋にも戻れそうにない。どうしたものかと悩む颯は、とりあえず、片っ端から当たってみることにした。そこかしこの扉を開け、あらゆる通路を歩く。

 そうしている内に、さらに見慣れない場所まで来てしまっていた。そこには他とは違う、派手な装飾の施された巨大な扉があった。興味も相まって、颯はその扉を開ける。扉の先は大広間が広がっており、中央には炎が祀られた巨大な台座が設置されている。神秘的な雰囲気に目をひかれ、颯は台座へと近づく。

 「そこで何をしていますの?」

 突然、後ろから声をかけられる。驚き振り返ると、そこには城に来た時にヒロナに話しかけた高貴な女性。スカディという名前の、もう1人の王位継承者だった。

 「ここは神聖不可侵な場所。余所者が軽率に入っていい場所ではありませんのよ」

 「道に迷ってたら、偶然にもこれを見つけて・・・・・・。綺麗だったから、つい」

 「これは神が私達に授けた聖火ですわ。この炎から、世界は始まったのよ」

 美しく、この大広間を照らす暖かな炎。颯には見覚えのようなものがあった。

 「ヒロナの剣から出ていた炎も、こんな感じだったな」

 ただ、あの時は状況が状況であったし、戦いの最中で美しいなどとは思えなかった。しかし、目の前に灯る炎が、あの時と同じように見えたのは、偶然ではないように感じる。

 「あなた、レーヴァテインをみたんですの?」

 「レーヴァテイン? もしかしてヒロナの持ってる剣のことですか?」

 「えぇ、そうですわ。下界では、滅神大剣などという失礼極まりない名で呼ばれているようですが、あれは神器。世界樹の枝より神が作りし剣。レーヴァテインから生み出される炎が氷を溶かし、世界は水が溢れる豊かなものになった。レーヴァテインを扱うことが出来るのは、神と盟約を交わした始まりの巨人、その血筋を持つ者のみ。私もその1人ですわ」

 スカディが語る、レーヴァテインについての伝説。この国の王族のみが扱うことが出来る炎の剣は、ヨトンヘイムが過去の形を保ったままであり続けるための楔のようなものでもあった。

 彼女は一通り話した後、靴の音を鳴らしながら颯へと近づく。

 「私のことなどどうでも良いのです。それよりもあなた、ヒロナのことをどう思っていらっしゃるのかしら?」

 「え?」

 「今までヒロナの側にいて、何も感じなかったわけないでしょう!?」

 「まぁ、優しいなぁとか、頼りになるなぁとか」

 「で? 他には? まさかそれだけですの?」

 「いや、まだまだありますよ。なんせずっと一緒にいたんですから」

 スカディの質問に颯は何とか答えようとする。しかし、頭に思い浮かぶのは、優しさや頼りになるといったものでしかなく、今になってそれはヒロナの一面にしか過ぎないことに気付く。この国にやってくるまで、ヒロナが何を背負い、何に悩んでいたのか、何も分かっていなかった。知らなかったのだ。

 「待って。あなた達、いつから一緒にいたの?」

 「だいぶ前ですけど」

 「ふぅん」

 「何です?」

 「いえ、私は幼い頃から一緒にいましたけど? 2人でよく遊んだりもしてたかしら」

 「へぇ」

 「へぇって、何ですの! その態度は! 人の話はもっと礼儀正しく聞くものですのよ!」

 何が言いたいのか、よく分からない。・・・・・・もしかして、自分の方がヒロナについて知っていると、そう示したいのか?

 「もういいですわ。とにかく、ヒロナはこの国の女王になるのですから、お別れはすませておくことね。それと、客人用の部屋は向こうですわ」

 颯はその言葉通りに部屋に向かう道を歩く。途中、スカディに対する印象というものが変わった。彼女はヒロナを嫌っているのかと思ったが、どうやら逆らしい。少しだけの会話だったが、なんとなくスカディがヒロナを好意的に思っていることは分かった。素直になれていないだけなのかもしれない。

 それなりに時間は経ったので、いい加減シュリィの頭も冷めただろうと部屋に戻った。既に夕食が用意されており、シュリィは食べ始めていた。

 「あ、帰っていたのね。これ美味しいわよ」

 「え、マジ? ちゃんと残してくれてる?」

 「そんながっつかないわよ!」

 すぐに会話は途切れた。お互いに気まずいのか、食器の音だけが部屋に響く。

 颯はスカディのヒロナへの思いについて、考えていた。颯にとっては、その思いが素直でなくても、ただ自分の中に持っているという確信があること、それが衝撃に近かった。スカディは自分にとってのヒロナというものを確実に持っている。そうでなければあのような物言いは出来ない。さて、自分にはそのような思いや感情はあるのだろうか。それが問題だった。

 「・・・・・・思ったんだけどさ、俺達って何がしたかったんだろうな」

 「どういうこと?」

 「3人でいた意味だよ。俺とシュリィと、そしてヒロナと」

 「終わらせたくないのね」

 颯は黙る。シュリィの、会話の何手先も読んでから繰り出す言葉に、返す言葉を持っていなかった。その通りだった。

 何故旅をしてきたのか。何のために旅をしてきたのか。答えが出せない。それは、旅そのものに意味が無かったからではないだろうか。では何故、意味のないものにここまで縋っているのだろうか。一体何に、こんなにも悩んでいるのだろう。

 「始まったんだから、終わって当然よ。それを変えられるとしたら、神様ぐらいね。あんたも私も今まで目を背けてきてたのよ」

 「あぁ、その通りだ。考えずにやってきてたんだよ」

 「珍しいわね。そんなに落ち込んで」

 シュリィに言われ、気付く。自分は落ち込んでいたのか。なら何で落ち込んでいるんだろう。シュリィは、落ち込んでいないのか? さっきまであんなにも暴れていたのに、部屋に戻ってきたらあまりにも冷静になっているじゃないか。一体自分がいない間に何があったんだろう。何かを悟ったのか、そして決断したのか。そう思えてならない。彼女はそんな顔をしている。

 「部屋に来たメイドが言ってたんだけどね、この国の王様って女性しかなることが許されないんだって。なんか盟約? でそうなってるらしいわ。くだらないって思ったけど、それがこの国の何よりも大事な伝統なのよ。で、なんで女性しかなれないのかって言うと、女王は神様が復活する時に神様の妃になるっていう約束なんだって」

 古の時代に神とヨトンヘイムが交わした盟約。それは、神が復活する際に選ばれた血を持つ女性を神の妃にするというもの。選ばれた血というのが、この国の王家の血である。ヨトンヘイムの人々は約束の日、つまりいつ来るか分からない神の復活を待っているのだ。話の通りなら、ヒロナもそれになる。

 しかし、颯に話を伝えたシュリィは信じていないようだった。そしていつの間にか食事も終えている。

 「じゃあ私寝るから」

 「ベッド1つしかないのか」

 「私ベッドで寝るから、あんた床で寝なさいよ」

 「やだよ」

 「そ。でもこのベッドは私のだから。おやすみ」

 全く譲る気のないシュリィはさっさと寝てしまった。渋々、颯はソファーに寝転び、毛布をかけて眠りについた。

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