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異世界運命記  作者: ドカン
第6章 氷の女王
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第61話 天空の国ヨトンヘイム

 古より存在する天空の国ヨトンヘイム。ヒロナは懐かしみ、颯とシュリィは、その美しさに圧倒された。山の頂上、その窪みにこじんまりとある小国。遠くから見た時の雪を被っていたとは思えないほどに、そこは緑に溢れていた。点在する家屋。放し飼いにされている家畜。小規模な田畑。その中心にはこの国の美しさを形にしたかのような宮殿がある。一体、いつ、どのようにして作られたものなのか。宮殿の放つ神秘的な雰囲気は、穢れなく輝いていた。そして国の全体を両の目で収められるほどにこの国は小さいが、しかしその光景、存在は、独特な威光を放っている。

 初めてこの国を訪れた者は誰であろうとも、それまでに感じたことのない風や空気に触れる。それらが体中を駆け巡り、魂を震わせる。

 ヒロナは宮殿へと向かう。その途中、この国の人々とすれ違う。この国の国民だ。皆、一様に背が高い。そして人々はヒロナを見て、自らの目を開く。

 「おぉ、ヒロナ様!」

 「ヒロナ様がお帰りになられた!」

 すれ違う全ての人がヒロナを見て歓声を上げる。この国の誰もが、ヒロナの帰りを待っていた。

 やがて宮殿に近づく。向こうから駆け足で来る人達が見える。かしこまった格好の集団。彼らもやはり背が高い。

 「この度のご帰還、一同心よりお待ち申しておりました」

 集団の1人が、胸に手を当てながらヒロナに頭を下げる。

 「迎えに行けなかったことをどうかお許しください」

 「構いません。それより・・・・・・」

 「既にフリュムから聞いて、皆で準備を進めてまいりました。しかしフリュムは、彼はせっかちですから、また外国に行ってしまいました」

 「そうですか。苦労をかけましたね」

 「いえ、心待ちにしていたことですから、苦労などと誰一人として思っていません。さ、ヒロナ様、どうかこちらへ。お付きの御二方もこちらへ」

 誘われるままに宮殿へと入る。中は神秘的で輝かしい空間となっており、外から見るのとはまた違う美しさがある。

 宮殿では、さらに多くの人がヒロナを迎えた。この全ての人がヒロナの家来である。

 家来の中でも特に年季の入っている家来、重要な役職についている壮年の男性がヒロナに近づいてきた。

 「お帰りになられたところ、大変に申し訳ないのですが、出来る限り早くに即位と戴冠式をやらなければなりません。今から日程などの調整を行いますので、ヒロナ様も御出席ください」

 「えぇ、すぐに向かいます」

 この国には現在、王がいない。玉座に誰もつくことなく空いているのである。このままでは、国の政治からあらゆることに支障をきたしてしまう。国家として姿勢を整え、再び国として立ち上がるためには一刻も早く、王を立てる必要があった。

 そのためにヒロナが準備を始めようとした時、頭上から上品な、しかしどこか嫌味のある言葉が聞こえてきた。

 「あら、ヒロナ。帰ってきてたのね」

 「おぉ、スカディ様。お喜びください。ヒロナ様がご帰還なされたのです」

 「ありがとう。でも見れば分かるわ」

 スカディと呼ばれた、その高貴な女性は、縦に巻かれた髪を揺らしながら階段を降り、ヒロナの前に立った。2人は同じ目線で見つめ合う。そこには気迫のようなものが感じられ、少しばかり、この場の空気が引き締まる。

 「お久しぶりですね。お元気でしたか? スカディ」

 「見たまんまよ。分かるでしょ?」

 スカディはヒロナの言葉に返事をした後、ヒロナの後ろに立っていた颯とシュリィを見て、微かに笑みをこぼした。

 「ふぅん、下界の小人なんかを2人もお供にしたの。結構、満喫でもしてたのかしら。まぁ、別にあなたが帰ってこなくとも、私が代わりに引き継ぐことは出来ますから、それでもよかったのですけれど」

 「相変わらず自信に満ちてて素敵ですね、スカディ」

 挑戦や煽りとも取れるスカディの言葉をサラッと笑顔で返すヒロナ。スカディは口を尖らせ、それ以上喋ることはなかった。そこに従者が再び声をかける。

 「ヒロナ様、どうぞこちらへ」

 颯とシュリィにも別の従者から声がかかる。

 「御二方はこちらへ。お部屋をご用意しております」

 ここからはヒロナとは別行動になる。案内に従うまま用意された部屋へと向かう。2人を案内しているのは、メイド服姿の老年の女性である。白髪でメガネをかけているが、姿勢や歩き方からは衰えを感じさせない。

 「さっきヒロナに話しかけてた人、私達のことバカにしてなかった?」

 シュリィは先程のスカディが気に入らないようだ。確かにスカディは颯とシュリィを「小人」と侮蔑に近い言葉で表現した。この国で外国の人々がどのように呼ばれているのかは分からないが、スカディの放った言葉は少なくとも良い意味で言ったものではないだろう。

 「お許しください。スカディ様は少しばかり素直ではないかもしれませんが、他人を根拠もなく貶めるような方ではありません。スカディ様は、ヒロナ様に次ぐ王位継承第二位を持っておられます。ヒロナ様がご不在の間も立派に自分の役目を果たしておいでで・・・・・・。せっかくお越しいただいたあなた様方のことも、きっと快く思っておられることです」

 「ふぅん」

 「ヒロナとは仲が悪いんですか? さっきはあまり歓迎というような気はしませんでしたけど」

 「いえ、そのようなことはございません。ヒロナ様とスカディ様は、小さい頃から非常に仲良しで、それはそれは毎日のように2人でいたのを覚えています」

 案内をしている老年の女性はそう語った。しかし、それなら何故スカディはヒロナにあのような態度をとったのだろうか。

 「あ、そうだ。僕らはこれからどうすれば?」

 「そうですね。お二人には申し訳ないのですが、しばらくしたら、お帰りいただくことになるでしょう」

 「この国にはいられないということですか?」

 「はい。お恥ずかしながら、この国にはあまり余裕がなく、また時間もあまりありませんので」

 「まぁ、それなら仕方ないわね」

 「ご理解いただきありがとうございます」

 颯よりもシュリィの方が先に理解を示した。颯はそのことが意外だった。シュリィは駄々をこねてでもこの国に居座るんじゃないかと、そう思っていた。颯もこの国の事情を何となく分かっていたので、とくに不満には思わなかった。

 「それでは、こちらがお部屋になります」

 話しているうちに2人が泊まる部屋へと着いた。

 「食事は時間になれば担当の者が運んできます。他に何か必要な物があれば、なんなりと申してください。では、私はこれにて失礼させていただきます。どうかごゆっくりお過ごしください」

 そう言って役目を終えた案内係は立ち去っていった。さっそく部屋の中へと入る。まず目に入ってくるのは、部屋に飾られた豪華絢爛な装飾の数々である。家具や小物にも金の装飾や宝石細工が施されており、この国の力、栄華、そういったものを見せつけられる。また、そういったものが配置されてなお、あまりある広い部屋。1人は当然ながら、2人でも相当持て余すほどの空間だ。

 部屋に用意されているベッドは1つしかない。2人で寝るには十分過ぎるほどに広いので十分ではある。真っ先にシュリィがそのベッドへとダイブする。柔らかすぎるそのベッドに、勢いよく飛び込んだシュリィが跳ねることなく沈んでいく。

 「あんま汚すなよ」

 「ごゆっくりしてんのよ」

 颯もベッドに座り、疲れを癒やす。部屋の窓からはこの国を一望することが出来る。この世のものとは思えない感覚に包まれながら、深くベッドに沈み込んだ。

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