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異世界運命記  作者: ドカン
第6章 氷の女王
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第58話 招待

 「今のは・・・・・・」

 颯は閉じていた目を開いた。さっきまで、自分に語りかけてきていた女の子と夢の中で出会うのはこれで2度目だ。相変わらず不思議な感覚で、これを何と言い表したらいいのかが分からない。

 「あ、起きた」

 シュリィが左にいた。自分は簡易ベッドの上に寝かされていて、ずっと眠っていたらしい。

 「大変だったんだからね。急に運ばれてきて。看病してあげたの、感謝してよ」

 「あ、ありがとう」

 傷は見当たらないし、どこも痛みはしない。看病のおかげだろうか。そう思う颯の横でシュリィは自分が剥いた果物を1人で食べていた。

 「ねぇ、それって俺のじゃないの」

 「は? なんでよ」

 「それって、看病する人が看病される人に食べさせるやつだろ?」

 「違うわ。私が剥いたから、私のよ。それにあんた、もう元気そうだし、いらないでしょ」

 シュリィはさも当然かのように、そう言う。別に気にするほどではないし、シュリィはこういう奴だったと、改めて認識もした。そうして一息ついた颯が、急に思い出したようにシュリィに聞く。

 「ヒロナは?」

 彼女は、どうなっているのか。あの戦場の真ん中、剣から放たれた炎に呑まれた彼女は無事なのだろうか。不安がこみ上げてくる。

 「ヒロナなら、あんたの横で寝てるわよ。酷い傷だったんだけど、ヘラが治療してくれたの」

 そこにちょうど、ヘラがやってきた。ヘラは起き上がった颯を一目見た後、ヒロナの方に目を落とした。

 「具合はどう?」

 「え、自分なら大丈夫です」

 「あんたじゃないわよ。この子の方」

 「変わらず眠ったままですよ」

 「そう。酷い火傷だったから駄目かと思ったけど、無事みたいで良かったわ」

 ヒロナがここに運び込まれた時、全身が火傷となっており、通常の治療では回復することが出来ないほどボロボロだったそうだ。助かったのはヘラの回復魔法が他とは違う特別な魔法だったということと、ヒロナの身体がとても丈夫だったから、らしい。

 「ありがとうございます。そこまでしてくれて」

 「感謝ならファヴニールに言って。あなた達をここまで運んできてくれたのは彼なんだから」

 そうだったのか、と颯は思う。周囲を見て、ファヴニールを探すが、彼は今、この魔人達の陣地の中心で指揮をとっていた。とても話しかけられる状況ではない。

 「ちょっと、聞いてる?」

 「え、あ、はい、すいません」

 「とにかく、この子にはもう出来る限りやったから、後は意識が戻るだけね。私も忙しいから、この子のことは、あんた達がちゃんと見てなさいよ」

 「はい」

 「あ、あと、わざわざ苦労かけちゃったわね。でもあんたとその子のおかげで、奴隸になってた仲間達も無事に戻ってきてくれたわ。ありがとう。もうあなた達に頼むこともないと思うわ。じゃあね」

 そう言ってヘラはこの場を離れ、ファヴニールのもとへと行った。

 自分達のやった行いが無駄ではなかったということと、それに対する感謝に、颯の胸の内はほんのりと暖かくなった。それはそれとして。

 「つまり俺ら、もう出てけってこと?」

 「まぁ、そうでしょうね。遠回しに言ったのは、あの人なりの気遣いでしょ」

 優しさから直接言われることはなかったものの、実際にこの場所に3人の居場所はない。さすがにヒロナが目を覚ますまでは待ってくれるだろうが、問題はその後のことである。

 「これから、どうすんの?」

 「さぁ?」

 2人は途方に暮れた。行く宛もなく、道端に放り投げ出された感覚である。シュリィは相変わらず自分で剥いた果物を食べていて、このことについて真剣に考えているのか分からない。颯が頭を悩めていると、隣でガバっと起き上がる音がした。眠っていたヒロナが目覚めたのだ。

 「え、もう起きたの?」

 「体とか大丈夫?」

 「はい、もうすっかり」

 「そう、なら良かった」

 「えっと、今までに何が?」

 2人は目を覚ましたばかりのヒロナに事の顛末を話した。知っていることは2人の間に差があるものの、情報共有の意味を込めて話せることを全て話した。戦闘が一時的に収まったこと、ヒロナが火傷を負ったこととその原因について、これからどうするか、などである。

 「争いは止んだのか。そういえば外から音もしないもんね。なら、出歩いても大丈夫な感じ?」

 「やめておいた方がいいんじゃない? 止んだだけで終わったわけじゃなさそうだし。それに戦場だった場所に、何があるかなんて分かったもんじゃないわ」

 「まだ危ないですよね・・・・・・」

 「あとヒロナの剣も、またなんかあったら私達じゃどうすることも出来ないわよ」

 「この剣のことなら、もう大丈夫です。あのようなことにはならないようにしますので、心配しないでください」

 ヒロナが少し顔を俯かせる。自分の近くに置かれていた大剣を見つめ、安心してほしいと言った。しかしそれは絶対の保障にはなりはしない。ヒロナがどう言おうと、危険が付きまとうものである以上、扱いには慎重になる。

 「ヒロナの剣については気をつけるとして、これからどうするかって話してこうよ。このままじゃ俺ら、行く宛もなく放り出されるよ」

 「そう、ですね」

 しかし、3人は考えても答えを出せなかった。それぞれ頭を悩ませていると、何やら周囲がざわつき始めた。どうやらここに訪問してきた男がいるようだ。その男を見て、ヒロナの表情が変わった。

 「どうしたの? もしかして知り合い?」

 「えぇ、まぁ、そんなところです」

 ヒロナは立ち上がり、大剣を持って身なりを整えだした。

 「あの、申し訳ないんですけど、2人も付いてきてもらってもいいですか?」

 彼女のその言葉に頷き、3人はその男のもとへ向かう。その男はこちらを見た途端に、強張っていた顔を緩ませた。

 「あちらで話せませんか? 私に用があるんでしょう?」

 男はヒロナの言葉に従い、人気のない場所へと移動した。そして会話を誰にも聞かれない場所まで来ると、男はヒロナに対し頭を下げた。

 「ヒロナ様、まずはご無事で何よりでございます。私のことを覚えてらっしゃいますでしょうか?」

 「えぇ、覚えてますよ、フリュム。久しぶりですね。それで、ここに来たのは」

 「はい、お察しの通りです。ヒロナ様がレーヴァテインを覚醒させたことは単なる偶然ではありません。これも神の導きでございます」

 ヒロナとフリュムと名乗った男は、近くにいた颯とシュリィを置き去りにして話を続ける。この2人がどういった関係なのかを颯とシュリィは知らないが、何か重要な話をしていることはなんとなく分かった。

 「そこの御二人の前で話してしまっても構わないのでしょうか」

 「えぇ、続けて」

 「はい。兄上様のことは誠に残念でしたが、我々にはヒロナ様がいてくださっております。それだけで我々には十分なのです。その他の全ての準備は整いました。皆が祖国の再興を願っております。ですから、ヒロナ様にはヨトンヘイムの女王になっていただきたいのです」

 男の言葉を聞いて颯とシュリィは驚く。ヒロナが女王になるというのだ。2人は開いた口が塞がらなかった。そんな2人を気にすることなく、男は話し続ける。ヒロナも、平然とした顔で話を聞いている。そして、3人のこれからの行く先を決める言葉を男はヒロナに放った。

 「どうか国に、ヨトンヘイムにお戻りいただけないでしょうか。皆、貴方様を待っております」

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