第53話 開戦、激化
颯達からの報告も終わった魔人達は、何やら慌ただしく動いていた。
「これからどうするの?」
「こっからが本番よ。帝国と神皇国の戦争に私達も乗っかるのよ」
「戦場に行くということですか?」
「えぇ、そうよ。まだ主力同士が戦っていないだけで、戦争自体はもう始まっていると言っても過言じゃないわ。これから、この戦争で一番大きな戦いが起きるはずよ」
そこには大量の奴隸も動員される。両軍が戦闘に集中している隙に、奴隸となっている魔人達を救出しようという作戦をするそうだ。
「私達は仲間を増やせるし、向こうに被害も与えられる。一石二鳥よ」
3人はこれからの計画を伝えられた。どうやら本格的に戦場へ行くみたいだ。向こうで帝国や神皇国と戦闘に発展するのかは、その時にならないと分からないとも言われた。一応の覚悟ぐらいはしておくべきと注意され、身が引き締まる。
「ま、見てなさい。私達は必ず、私達の国を取り戻すから」
「それ、僕らに言うの?」
「えぇ、そうよ」
ヘラは笑いながらそう言った。希望に満ち溢れ、彼女の美しさを最大限に引き出している。これから戦場に向かうだなんて、微塵も感じさせなかった。
それから数日かけて、両国が戦っている場所へ移動する。カリ草原と呼ばれるその場所は、どこまでもなだらかで平坦な地面が続き、足元程度の高さしかない雑草が一面に生い茂っている。一見、平和に見える豊かな大地で帝国と神皇国は既に交戦していた。
聖騎士が率いる神皇国の騎士達が戦場を疾走する。迎え討つ帝国軍の兵士達も、手に剣を携えている。この戦争のために開発、量産した魔剣だ。兵士一人ひとりが持つ魔剣は、特殊な魔術を施された神皇国の騎士達が持つ剣と互角の戦いを見せる。この時点で、神皇国が圧倒的に有利である、という状況ではないことが戦場に知れ渡った。さらに、魔剣を持つ兵士が数人がかりで立ち向かえば、敵無しと謳われた最強の武具である聖剣とも今までの歴史にないほど渡り合えている。戦闘が始まってしばらくは、帝国の兵士達の士気は異常なまでに高かった。
目的の場所に到着したファヴニール率いる集団は一連の戦いを遠くより観察していた。
「聖騎士とこれだけやり合える奴らが、かつての魔王軍幹部以外にいたとはな」
誰かが呟く。前の戦争で魔王軍として戦っていた魔人は、聖騎士の強さというものをよく知っている。それだけ味方が聖騎士達に殺されてきたのだ。しかし、今目の前で起こっているのは、かつてのような戦いではなかった。この戦争は、想像以上に激しいものになりそうだ、と先程呟いた者は思う。
帝国軍兵士が扱う魔剣は、近接武器としての役割だけではない。戦場をよく見ると、剣先から光弾のようなものが飛び出している。敵に当たって爆破するものもあれば、地面に当たって辺り一面に火の粉をばら撒くものもある。もともと乾燥している植物が多かったこの草原は、瞬く間に火の海となった。
防戦一方となる神皇国軍であったが、そんな中、活路を開いていったのは、やはり聖騎士であった。聖剣が最強の武器とは言えなくなっても、彼らが積んできた練度は並の兵士の比ではない。物量で押してくる帝国に、聖騎士は一騎当千の実力を見せる。
思っていたように数で押すことが出来ないと見た帝国側は、新たな兵器を投入する。地面に無数の魔法陣を描き、そこから巨大なゴーレムを次々と召喚していく。
「あれ、見たことある・・・・・・」
シュリィが呟く。戦場に現れた巨大な人形は、祖父べンガーの家にいた時に見た、あのゴーレムと全く同じものだった。あれが何だったのか当時は分からなかったが、ここに来てようやくその正体が判明したのだ。
魔法陣から出てきたのは、ゴーレムだけではない。キメラも同じく召喚されていた。つまりあの時、べンガーの家の近くでは帝国による兵器の実験が行われていたのだ。その事実に颯達3人は呆然とする。
さらに、ゴーレム、キメラと続いて、魔法陣からはドラゴンが召喚された。
「あれはドラグニアを襲った・・・・・・。じゃあ、あの時も」
ヘラが呟く。彼女がファヴニールと出会った時にドラグニアの街に突如として出現したドラゴン。その後ファヴニールが倒したが、それと全く同じものが、また目の前にいた。
ゴーレム、キメラ、ドラゴン。帝国が隠し玉のように出してきた3種類の兵器。記憶と違うのは、どれも数々が尋常でないほどに多いということだ。あっという間に戦場の大地と空を覆い尽くしてしまった。
一瞬で様変わりを果たした戦場。その中にあっても正義に仕える聖騎士達は戦い続けている。
「キリがないな」
「あぁ、だがそれぐらいでちょうどいい」
愚痴をこぼしながらも、お互いを励まし合い敵に立ち向かっている。
その様子を魔人達は遠くから傍観していた。
「これからどうするの?」
颯がヘラに尋ねる。周囲の魔人達は皆、戦いに備えた準備を始めている。
「まだ様子見よ。ちょっとどうなってくるのか分からなくなってきたわ。それに、潜り込んでる仲間からの報告も届いてないしね」
「報告?」
「そ。向こうにどれぐらい奴隸になってる魔人がいるのかとか、単純に様子とか。気になるでしょ?」
「まぁ」
そんなもんか、と力なく返事をする颯。そこから気づきを得たようにヘラは3人を見て、あることをしてもらおうと思いつく。
「そうだ! あんた達にもやってもらおうかしら」
「やるって、何を?」
「潜入調査よ。人間だしバレないでしょ。機会があったら、捕まってる魔人も助けてくれるとありがたいわね。それで、ここに1人は残ってもらうわ」
「何で?」
「一応だけど保険よ。危険も付いてくるだろうし、あなた達が逃げないためにね」
周囲の魔人達からは、相変わらず疑いの目を向けられている。信頼は得られず、警戒されてばかりだ。ファヴニールとヘラは、颯達のことを疑っているわけではないが、こうしなければ面目が立たないのだろう。仕方がないと受け入れた。
「で、誰が残る?」
「じゃあ私残る」
シュリィが名乗り出た。3人の中で、最も体力のないシュリィ。戦場を行くには役に立たないと、自ら判断した。颯もヒロナもそれを否定しない。否定をするということは、自分の代わりに戦場に行け、ということになりかねないからだ。
「あんた達2人ね。あ、そうだ。これも持ってって」
ヘラが颯とヒロナに1枚の紙を渡す。模様が書かれた紙だ。
「魔王軍で使われてたマークよ。知らない魔人はいないわ。信じてくれるかは分からないけど、ないよりはマシだと思うわ」
そう言われ、颯とヒロナの2人は陣地を離れ、戦場の中へと行くことになった。取り敢えずの目的地は帝国の陣地だ。神皇国には魔人の奴隸はいないので、帝国の方へ行くだけでいい。さらに、帝国の兵士のほとんどは志願した冒険者なので、2人ならなおさらバレにくいだろう。しかし、軍兵となることを拒んだというのにも関わらず、結局戦場へと来てしまっていることに、2人は気づかないまでも、どこか引っかかりを覚えていた。
「ヘラはああ言ってたけどさ、具体的にはどうやりゃいいんだろ」
「無理にやらなくてもいいって言ってましたし、やってみて信じてもらえなかったら他に行っちゃえばいいんじゃないですか? それに、奴隸の解放はついでとも言ってましたし。様子を伝えられたら、一応の目的は果たせると思いますよ」
「うーん。ヒロナが言うならそうするか」




