第48話 野望の胎動
3人は起きてすぐに鉄道に乗り込み、帝都へと向かった。帝都まではさして遠くはなく、思っていたよりも早くに着いた。
「着いたね」
「うん」
帝都の駅は、エスカペイルで見たものよりもさらに凄かった。いたる所に装飾が施されており、見ていて飽きない。田舎から来たのなら、ここを歩けば自分も都会人か貴族なのだと思わせるほどの豪華絢爛さだ。行き交う人も多く、活気が伝わる。ここで既にこんなにも凄まじいのなら、一体ほかはどうなっているのだろうか。否が応でも期待は膨らみ、3人は駅の外へと飛び出す。
「おぉ」
目に飛び込んできたのは、どこもかしこも人で埋まった大きな街並みだった。建物はどれも高く、圧巻の光景だ。帝都の中心には、帝国の発展を象徴するかのように歪な形をした城が建っていた。
街を歩き、人混みの中へと入っていく。押し合う人の波が騒がしい。周囲からは怒号のような声が聞こえてくる。それは全て入隊志願者の声だ。数え切れないほどの人々がここに集まり、戦地へと率先して向かおうとしている。止められるような勢いではなかった。
そもそも、なぜこんなにも志願者が殺到するのだろうか。
「凄い人混みだね」
「当然でしょ。てかこれ全員、冒険者ね」
「え、そうなの?」
「見りゃ分かるでしょ。物騒な顔してるわ」
「冒険者ってことは、ここにいる人達は皆、戦争に行きたがってるのか」
「そもそも冒険者の方々のほとんどは兵役経験者ですよ」
冒険者という職業は、比較的新しい種類の職業である。勇者の活躍によって終わった人類対魔人との戦争において、戦争に参加していた軍人達の終戦後の受け皿としての役割が冒険者の始まりだ。戦争は、勇者がその姿を見せる以前から長く続いており、それだけ人的資源を使い込んでいた。若いうちから戦闘のための訓練を課され、ろくな教育や生活を送っていなかった者たちが多数存在していた。戦争が終結して世界には平和が訪れたが、彼らにとっては非常に見慣れない生きづらい社会となってしまっており、社会復帰出来ない若者が後を絶たなかった。こうしたことは各地で見られ、とても大きな社会問題と化してしまっていた。
この課題を解決するために、各地の政府との協力のもとゴールド商会が設立した組織が「冒険者ギルド」である。国境を越えて存在する国際的な組織であるものの、その設立の理由と目的から、ギルドに属している冒険者の地位は、社会的にかなり低い。
「生活保障みたいなものです。積極的になろうと思う人は、多分あんまりいないと思います」
「そうだったんだ」
「だからあんま人に知られたくないのよ。分かったらあんた、絶対に私達が冒険者だとか言うんじゃないわよ」
「うん。分かったよ」
シュリィは実の祖父にも自分達が冒険者だと語らなかった理由、それは世間からの冒険者への視線を気にしていたことと、そんなものになったことが気に入らない自らのプライドによるものだった。
「それよりも人の波が凄すぎて前に進めてないんだけど」
「・・・・・・いっそのこと、一度流されちゃいましょうよ。どうせギルドに行くって分かってるんだし、ギルドに着いたらなんとかなるでしょ」
「そうですね、そうしましょう」
この人の波に逆らうよりも、むしろ利用してしまった方が良いと考えた3人は、そのままギルドの方へと押し流されていった。そして着いた帝都のギルドは、多くの冒険者がごった返しており、エスカペイルとは比べ物にならないほど騒がしかった。
ギルドで興味本位に確認した掲示板には、何も貼られてはいない。誰もが志願者として集まるここでは、依頼の紙も募集の紙も貼る必要がないのだ。そんな、この国の現状を表す掲示板を見ていた3人に声をかける者がいた。
「あの・・・・・・」
「ん?」
声のした方に振り向く。そこにいたのは懐かしい顔見知りだった。
「わ、わぁー! やっぱりそうだ! 覚えてますか? 私のこと」
「あ、えっと、確かコダで受付譲をしていた・・・・・・」
「そ、そうです! 覚えててくれたんですね!」
出会ったのは、まだ3人が冒険者を始めて間もない頃にいたコダという町にて、ギルドの受付を担当していた女の子だった。思わね再会にお互い、テンションが上がってしまう。
「でも、何でここに?」
「しばらくこっちの方の仕事を手伝うことになったんです。人手が足りないので、色んなギルドから派遣されて人員を増やして対処してるんですよ」
「へぇ、そうだったんだ」
「3人は何でここに、って、皆さんも参加されるんですね」
「あ、いや、俺達はそういうのじゃなくて、偶々立ち寄っただけだから」
「でも入隊はおすすめですよ。魔物はほとんどが軍に生け捕りにされて、被害が出ることなんて無くなりましたし、出身性別その他諸々は不問ですし、保証もされてますし」
受付譲は、3人に他の冒険者と同様に軍に志願することを強く勧めてくる。そうすることが仕事なのだろうが、負い目を感じている様子も見られない。
「あー、いや、俺達はいいよ。あまり気乗りしないんだよね」
「そうですか。残念です」
「うん。でも今日は会えてよかったよ。またね」
「はい、また」
そうして颯達は受付譲と別れ、ギルドを後にした。人混みが無くなり、これでやっと流されなくてすむ。話しながら、街の外れまで歩いた。
「思ってたよりも人が多かったね」
「そうね。それにあの子もここにいるなんて思わなかったわ。理由を聞いて納得したけど」
「シュリィさんが言うあの子は、受付の女の子のことですね。確かにびっくりしましたけど、なんだか他の人とも会えそうな気がしてきますね」
ヒロナがそう言ったすぐ後に、3人は前を通る2人組の男女と目が合う。彼らはお互いに驚いた表情をして、その場に立ち止まった。声をかけてきたのは向こうからだった。
「あれ? あんたたち・・・・・・」
「両道さん、ですよね?」
「ファヴニール!」
出会ったのは、ファヴニールとヘラの2人だった。ドラグニアで別れて以降、お互いを知らずにいたが、この帝都で再会することになった。2人は目立たず、露出を抑えた格好で街を歩いていた。そんな彼らに気付くことが出来たのは、ドラグニアまでのことが3人にとって印象深かったからだろう。
「おふたりは何故ここに?」
「敵情視察よ。後は奴隸になってる魔人の解放もちょっとね」
ヒロナの質問に答えたヘラは、以前に一緒にいた時とは様子が変わっているように思えた。敵情視察という言葉も気になる。
「それで、あんたたちは・・・・・・ここにいるってことは、戦争にでも行くの?」
「そんなつもりはないわ。ちょっと寄っただけよ」
「そう。じゃ今は暇なの?」
「予定がないのは、確かだけど・・・・・・」
「ふぅん」
ヘラはファヴニールに目配せをする。ファヴニールは少し考えた後に、ヘラに向かって頷き、3人にある提案をした。
「それなら、僕達と一緒に来ませんか?」
「え?」
「今、この街の外では僕達の仲間が待っています」
「仲間?」
「魔人よ」
「僕達は同じ目的のために集い、悲願を叶えようとしています」
「悲願って・・・・・・」
「魔人達の国、魔国の復興です」
ファヴニールの目に決意が見える。
戦いが始まろうとする最中、街の片隅で今まさに世界は大きく動こうとしていた。
そして問われる。
「共に来てくれますか?」




