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異世界運命記  作者: ドカン
第5章 希望と絶望の狭間
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第45話 発着と分岐

 乗車した瞬間、汽車は出発した。切符には座敷の指定はなかったので、近くの4人用の席に3人で座った。

 「私窓側ね!」

 シュリィが1番に自分の座る席を決めた。隣にヒロナ。反対側に颯が座る。

 「おー、速い」

 既に街が遠くに見えるほどまで来ている。まぁまぁ揺れるものの、それに見合った速度で進む汽車に少しばかり興奮していた。

 「で、どこまで行くの?」

 「そう、ねぇ。ここからだとエスカペイルが1番いいかなー」

 「えっ」

 次の目的地としてシュリィが候補に上げたエスカペイルという街。その言葉を聞いた瞬間、ヒロナが驚いたような反応をした。そしてシュリィはそれを見逃さなかった。

 「どうしたの。なんか、えっ、って言ったけど」

 「いえ、何でもないです。話を続けてください」

 「なんか隠してるでしょ」

 「そんなことはないですよ」

 「いーや。なんか隠してる! だってそんな顔してるもん! 言いなさい! 隠してること全部! 今なら許してあげるから!」

 「ちょっ、許すってなんですか! そんなやましいことじゃないですからね! てか掴まないでください! こんな狭いところで暴れないでくださいよ!」

 「狭いのはヒロナがデカイからでしょー! 私にとってが十分に広いわよ!」

 2人が言い合っている。シュリィは彼女が隠していた祖父のことを知られた。自分だけが秘密を知られた状態だったのが嫌で、颯とヒロナの秘密も曝け出させようと狙っていたのだが、ここに来てヒロナがそれっぽい反応を示してしまったばかりに、シュリィはここぞというように躍起になっている。

 彼女達がそんなことをしている間に、2人の男性が横を通った。1人は先ほど、駅で見かけたような軍人達が着ていた軍服と似たものを着ている。もう1人はスーツだ。相当裕福なのだろうなということが一目で分かる。男達はそのまま汽車の奥の車両へと移った。


 3人の横を通った2人の男性。軍服姿の男は帝国における軍部大臣である。もう1人は、ゴールド商会の取締役だった。ゴールド商会とは、この世界における最大の営利団体であり、他とはその規模が群を抜いている。国境の枠組みに縛られることなく活動している多国籍企業で、様々な事業を展開しており、冒険者ギルドもそのひとつだ。

 軍部大臣と取締役は、颯達がいる車両とは別の車両へと乗っている。綺羅びやかな装飾が部屋全体に施されており、かなり豪華な仕様だ。ここは要人のための特別な客車で、滅多なことでなければ使われることはない。彼らは用意されたテーブルに座り、話し始めた。

 「このような場しか用意出来ず申し訳ない。本来ならばこのような重要な話は、もっと相応しい場があるのだが、そうした場所は今は全て使われてしまっており・・・・・・」

 「いえ、大臣。私はここで十分に満足していますよ。大臣がよく使う客間などに比べれば、確かに見劣りはするかもしれませんが、新鮮で良いではないですか。出せる料理もこのような場所では限られてしまいますが、そこは調理する者の腕が分かるというもの。何より移動しながら、こうして会議などを兼ねられるのが非常に効率が良い。それだけで出資した甲斐があるというものです」

 大臣と話す男の名はシルバー。彼は若いながらもゴールド商会の取締役である。

 「おぉ、そうか。シルバー殿が満足なら何よりだ。この鉄道は我が帝国の技術を持って作り上げた傑作。そういってくれると嬉しいかぎりだ」

 「それに帝国は今、神皇国との戦争中ではないですか。非常に忙しいのでしょうし、こういったことは仕方がないというものです。何かあれば、我が商会はいつまでも協力させていただきます」

 「いつものことながら本当に申し訳ない。それにそちらも大変なのだろう? 私も聞いているが、ゴッパー殿が急に亡くなられたとか。私はお会いしたことがなかったが彼も優秀であったと聞く」

 「終わったことをあれこれ言っても仕方がありません。彼は元から不摂生な食事や女遊びばかりで、健康的でない生活ばかりしていましたし。いくら優秀だとしても、自らの危機管理がなっていなかったのだとしたら、それは彼の落ち度でもあります」

 シルバーは、急に亡くなった同僚に対して、厳しい物言いをした。軍部大臣は、シルバーがいいというなら、とそれ以上その話はしなかった。そのようなことよりも、2人にはするべき話というものがある。

 「それで、本題の方なのですが」

 「えぇ、分かってますよ。今、お見せします」

 そう言ってシルバーは、横に長いケースを机の上に置き、中を開けた。そこには1本の長剣が厳重に包まれており、黒く輝きながら異彩を放っている。

 「おぉ、これが」

 「えぇ、我が商会が開発に成功した、魔剣です」

 「魔剣・・・・・・。触っても?」

 「はい。なんなら手にお持ちになってみても構いませんよ」

 大臣は魔剣を手に取り、その感触を確かめる。剣身は鋼鉄で出来ており、持ち手は握りやすいように柔らかな素材に覆われている。重さもそこまで重くはなく、ちょうど振りやすい程度しかない。

 「よく出来ている・・・・・・。美しいとすら思うぞ」

 「ありがとうございます。この剣は、ここにですね、この魔力瓶を込めることだ出来ます」

 シルバーは、ケースに入れられていた小指サイズの瓶を取り出した。彼が魔力瓶と言ったその瓶を、魔剣の柄頭にある蓋を開け、剣の中に込める。蓋を閉め瓶を奥の方へやると、魔剣は紫色の光を帯び始めた。

 「おぉ!」

 「今この剣は、魔素を帯びています。さらにこの魔剣を振れば、魔素を持つ魔弾を発射することも出来ます。私は魔法使いではないので魔力を持ってはいませんが、そんな私でもこの剣を使うことが出来ます。この魔剣の最大の利点は、魔法使いではない、つまりなんてことのない人々が、魔素を用いた攻撃を行うことが出来るということです。これさえあれば、魔法使いの人員補充にわざわざ悩む必要はありません。一般の兵に魔剣を持たせば、下手な魔法使いよりも十分に活躍が出来るでしょう」

 「ふむ」

 この世界では、誰もが魔法を使うことが出来るわけではない。魔法というのは、ある程度の才能もしくは教育が必要で、それは多くの場合、特権階級にのみに与えられていたようなものだった。しかし、最近の研究や調査により、魔素や魔力についてのことがある程度判明してきていた。魔剣というのはいわば、科学によって再現された魔法のようなものである。

 「これを使えば、兵士一人ひとりの戦力向上に繋がるか。その魔弾というのは、一体どれほどの威力がある?」

 「鉄製のものなら一撃、それ以上のものでも何度か当てれば容易に破壊するほど、ですかね」

 「帝国の1番の懸念は聖騎士達だ。今までのあらゆる兵器では、彼らの持つ聖剣に太刀打ち出来なかったからな」

 「その点は十分に理解しています。確かに聖剣は人類が持てる最強の兵器ではあります。しかし、それは飽くまで個の話です。聖剣には数に限りがあります。しかしこの魔剣は、材料さえあればいくらでも造ることが出来る。既に私達は量産出来る体制を整えており、いくら数を揃えることが出来ると自信を持ってお答えします」

 シルバーの言葉に大臣は納得した。

 この汽車はまもなく駅に着く。駅は大きく、いくつもの停車場を抱えている。汽車は何度も分岐点を通過し、その度に進む線路を変えたり変えなかったりしていく。乗車している客は、この汽車が一体どの停車場に止まるのかを知らない。運転手は知っているのだろうが、だからといって止まる停車場は客には知らされない。どこへ着くのかが分からないことを不安に思ったり、気にしたりする客もいるだろうが、殆どの客は着く駅は同じなのだから、それでいいと思っている。

 そしていくつもの分岐を越え、汽車は予定通りに駅へと到着した。

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