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異世界運命記  作者: ドカン
第4章 錆びた街の賢者
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第42話 機械仕掛けの泥人形

 颯達のいるべンガーの家から見える山の麓。2人の軍人が作業をしていた。

 「よし。これで完了だな」

 2人が行っていたのは指定した場所に魔法陣を発動させるための設置作業である。魔力の込められた平べったく薄い円盤状のようなものを予め地面に埋めることにより、そこに人がいなくても時間差で魔法を発動することが可能となる。

 「そしたら、報告するぞ」

 軍人の1人が肩掛けバッグの中から魔法の込められた小瓶を取り出す。この瓶の中には、簡易的な爆発魔法が込められている。殺傷能力はさほどないため、戦闘においては直接は役に立たない。そのためこの道具が用いられるのは、もっぱら報告や連絡のためである。

 軍人は手に持った小瓶を高く投げ、遠くからでもよく見える位置で爆発させた。その後、2人はその場から離れた。しばらくして、円形の魔法陣がその場に描かれ始めた。


 べンガーの手伝いをしていた颯は、言われたことを考えていた。自分が一体何者なのかという問いは、今でなくても、きっといつかぶつかっていただろう。そして颯自身もこの問いに興味を持っている。興味といっては語弊があるかもしれない。義務、というべきか、とにかく考えたかった。今すぐ分かるわけではないし、分からくてもいい。いつかその答えに辿り着いていたいと思う。

 そうして颯が考えながら手伝いをしていると、急に外から大きな音がした。急いで家から出る。2階にいたヒロナとシュリィも降りてきた。

 「何かあったの!?」

 「音はあっちの方からした気がするけど・・・・・・」

 颯が音がしたという方を見る。その方角には山が見える。そしてそこには信じられないものがいた。

 巨大な人型の機械のようなもの。それが山の麓に立っていた。

 「あれは、ゴーレムかしら? でもその割には細いし、部品みたいなのが見えてるし」

 シュリィは突如として現れたものを推測しているが、正体を掴めていないようだ。顔や胴体、腕や足などは土塊によって構成されているが、それらを鉄製の部品が関節のように繋ぎ止めている。あんなものは見たことがないという。それでも土塊で構成されている以上、ゴーレムと呼ぶことは出来るらしい。しかしゴーレムは、人が魔法によって作らなければ生まれるはずのない存在であり、視界にいるあのゴーレムもその例からは漏れない。一体誰が何のために造ったのか、ということが分からないとシュリィは悩んでいる。

 奇妙極まりないゴーレム。それを気付かれることなく運ぶことは不可能であり、出来るとするなら転移、もしくは召喚用の魔法陣が必要である。しかし、あれだけの大きさを出現させるための魔法陣は大規模な魔術になってしまい、おいそれと出来ることではない。どれだけ優秀な魔術師であっても念入りな準備は欠かせないらしい。それだというのにも関わらず、現実として目の前には巨大なゴーレムが出現している。

 あれは一体何なのか、と考えている内にゴーレムが動き出した。一歩を踏み出し進む。振動が颯達のもとまで届いた。周囲のものを踏みつけ、壊しながら進んでいる。その巨体がもはや兵器であった。

 「あれ、こっちに向かって来てませんか?」

 「ほんとだ。まずいんじゃない?」

 「お、おじいちゃん! 何とかして!」

 シュリィはそう言って、家の中にいるべンガーを呼びに行く。べンガーは家の本棚から何かを探していた。

 「何してんの!? 早く来て!」

 「ちょっと待っとくれ。最近物忘れが激しくてな。複雑な魔術だと手順を忘れてしまうからの。こうして手元に魔導書がないと。確かここらへんにあるんじゃが」

 「えぇ! そんなの学生以下じゃない! ちゃんとしてよ!」

 シュリィも一緒になって探し、ようやく魔導書を見つけた。

 「えっと、メガネ、メガネ」

 「はい! これ!」

 準備を整えたべンガーは、シュリィに引っ張られながら外に連れ出された。そして魔導書のページをめくり、目的の魔法を見つける。

 「ふむ。では、ゆくぞ。「プロメテウス」」

 そこからは早く、圧巻だった。右腕を目の前に上げると、ゴーレム周囲に多数の魔法陣が展開される。次の瞬間、ゴーレムの足元から巨大な炎の柱が出現し、ゴーレムを飲み込み燃えた。とてつもない爆風が颯達のもとまで届く。あとに残ったのは、燃え尽き残骸となった土塊だけであった。

 べンガーは何も言わずに魔導書を閉じ、部屋へ戻った。3人は起こったことをただ呆然と見ているだけだった。既に昼も過ぎ、夕刻に差し掛かるかというような時間であった。その日はそれからとくに何もないまま3人は寝床につく。

 颯は2階の一部屋を貸し与えられている。ヒロナとシュリィとは別の部屋だ。マリアンヌもまた3人とは別の部屋である。なので1人で静かに寝ていたのだが、その静けさはドアを開ける音で壊された。颯は横になりながらドアの方を見る。そこにいたのはシュリィだった。彼女は颯の方へとやってきて、ベッドに腰掛けた。

 しかし彼女は何も喋らない。ただ寝るのを邪魔されるのも嫌なので、颯は「何しに来たの」と声をかけた。声をかけたが返事がなかったので、颯は寝返りをうって再び寝ようとする。その時になってようやく彼女は口を開いた。

 「ねぇ、おじいちゃんの魔法、っていうか魔術、どうだった?」

 「うん? まぁ、凄かったんじゃない?」

 「そうよね」

 何が言いたいのか分からない。颯は体を起こす。べンガーはシュリィと同じ魔法使いとして名を馳せた人だ。そして実の祖父である。自分とは何か違うことでも感じたのだろうと思ったが、何を感じたのかは言ってくれなければ分からない。

 「ねぇ、私って凄い?」

 「うん。凄いと思うよ」

 「何で?」

 「え、魔法が使えるから」

 「それだけ?」

 「え、うーん。あとは、明るい、とか。リーダーシップがある、とか」

 「でも私は魔法使いだから、そんなのがあっても意味ないのよ」

 「だからさっき魔法が使えるって言ったじゃん」

 「普通の魔法使いだったらもっと使えてるわ。あんたほんと常識知らずね」

 めっちゃ悪く言うじゃん。ただ、そのことは口に出さなかった。シュリィの言葉は受け入れた。そしてそこから彼女は語り始めた。

 「いい? まずね、普通の魔法使いっていうのはそれなりの家柄とか財産がないとなれないものなの。それで、そういう奴らの子供が、学校に通うわけ。通って習うの、魔法を」

 ここまでは知ってるわよね。と聞いてきたので、知らないと答えた。すると彼女は、ため息をつきながら、(自然にしてほしくはなかったのだが)ごく自然に右手で颯の頭を叩いた。

 「普通ならね、10個とか20個とか、優秀なら100個とか、便利だったり強かったり、とりあえず色々使えるのよ。魔法っていうのは魔法使いの特権なわけ。だから魔法使いってどこまでも重宝されるの。普通だったら冒険者なんかやんないで、もっと割のいい仕事とかやんのよ。で、私が使えるのは? 2個よ、2個。「ファイア」と「ボム」っていうあれね」

 シュリィの話を黙って聞く。前提となるような話をされた後に、彼女は結論を言った。

 「・・・・・・まぁ、つまり、私は、才能なしの役立たず、よ」

 芯だったり心だったり、とにかく強い人であれば、気にしないだとか、いっそのこと開き直って自虐にして笑い話にしまったりだとか、そういったことが出来たかもしれない。しかし、彼女からはそういったことにすら持っていけない、どこか弱々しい印象を受けた。

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