第40話 魔物討伐
颯の提案に、べンガーは反対する姿勢を見せた。やはり、危険だということで彼は3人を謎の魔物と関わらせたくはないようだった。しかし、それに颯は自分の意見で反論する。
「あの魔物は近くの炭鉱まで来ていました。もしかしたら、この街まで降りてくるかもしれません。そうなる前に対策をして倒しましょう」
「うーむ。それは・・・・・・」
べンガーは颯の言うことにも一理あるとして、言い返す気は起こさない。
もし颯の言う通りにあの魔物が街を降りてくるかもしれないといことを考えると、そうなる前にこちらが有利な状況で倒してしまった方が被害も未然に防ぐことが出来るだろう。そして、颯達は少しの間ではあるが、その魔物がどういった特徴や動きをしてくるのかということを知っている。べンガーは家の中を探し回り、いくつかの道具を用意した。
「君の言う通り、討伐に行ってもらおう。じゃが、ここにある物を持っていけ。大事な場面で必ず役に立つだろう」
そうして颯達の前に用意されたのは、手のひらサイズの小瓶となんてことのない蓑だった。颯とヒロナは、それらを手に取ってみたものの、どういったものなのかが分からなかった。
「まずはこの小瓶から説明しよう。この小瓶には「エクスプロージョン」という魔法が込められておる。使えば爆発が起きる。どれくらいかというとじゃな・・・・・・うん、まぁ、この家ぐらいなら簡単に吹き飛ばせるわな」
「危なすぎるでしょ!」
シュリィがツッコミを入れる。「エクスプロージョン」は彼女が使うことの出来る「ボム」という魔法と同じく爆発を起こす魔法だが、その規模は何倍も異なる。大きすぎても使いどころを選ぶため、「ボム」の有用性は変わらないが、自分の扱う魔法よりも強力な魔法がこの小道具の中にあるという事実は、シュリィの魔法を少なからず傷つける。
「しかし一度きりしか使えんから、ちゃんと考えて使うことじゃな。そして使い方は、魔法が起動するように念じ、この小瓶を投げれば、その先で爆発する、という感じじゃ。簡単であろう?」
凄まじい技術を見せられた。実際、このような道具は数が少なく、とても貴重なようだ。べンガーが魔物討伐に向けて出し惜しみをしていないことが分かる。
「では次に、この蓑の説明じゃな。この蓑は魔力を通しやすい植物で作られているうえに、特殊な魔法を施しておる。その魔法とはな・・・・・・」
そう言うとべンガーは、蓑を手に取り、そのまま自分に着せた。すると、べンガーの姿は消え、颯達の目に全く映らなくなってしまった。その光景に3人は驚く。
「このように、この蓑を被った者が全く見えなくなるのじゃよ」
誰もいないように見える場所からべンガーの声がする。彼が着た蓑は、纏った者を透明にする蓑だ。これを着て近づけば、何者であっても気付くことは出来ないと語る。
「音や匂い、そして足跡まで消してくれる。これを使えば、安全に戦えるじゃろう」
「何から何までありがとうございます」
礼を言う。ここまで厚くしてもらい、颯は感謝の念を抱いた。
そして魔物の討伐に行こうとした時、マリアンヌが声をかけてきた。
「私もお供します」
「え、でも危ないけど」
構いません、とマリアンヌは言う。彼女が自ら言い出したことに驚く。てっきり家に残るのかと思っていたため、彼女の分まで準備をしていない。そのことを伝える。しかし「心配いりません」と言ったマリアンヌは、家の台所からナイフを一本だけ持ってきた。べンガーに持っていいかとだけ確認をし、準備が整ったと言った。
「やっぱり危ないんじゃないかな」
颯の心配など気にせずに、「大丈夫です」と言って頑なに譲ろうとはしない。何がマリアンヌにここまでさせるのか、誰も分からなかった。
「ねぇ、もう行きましょう。危なかったら、おじいちゃんの道具で何とかすればいいじゃない」
「まぁ、それもそうか・・・・・・」
シュリィが颯にそう言った。確かにべンガーから貰ったものを使えばなんとかなる気がする。颯はシュリィの言葉通りにマリアンヌを連れて行くことにした。
採掘場跡へ向かった4人は、その途中でワイルドウルフの死体を見つける。昨日、ウルフ達と戦った場所よりも街に近い。そして、この周辺一帯の生態系の頂点であるウルフを倒すことが出来るのは、あの魔物以外にはいない。
「近くにいるみたいですね」
ヒロナがウルフを見て呟いた。それと同時に全員が周囲を警戒し始める。自分達の音を消し、聞こえてくる音を決して逃さないように集中する。張り詰めた空気が漂っていた。
近くで砂利を踏む音がした。あの魔物だと気付く。魔物の方もこちらに気がついているようで、隙をうかがいつつ距離を詰めてきている。周りは手入れのされておらず、森と化している。魔物の方からは4人を見ることが出来ても、4人の方から魔物は見づらい。魔物が自らが最も狩りをしやすい位置につくと、グッと足に力を込め、いよいよ飛びかかってきた。
それに反応して、手に持っていたべンガーから貰った小瓶を颯が魔物へ投げようとする。しかし、そうすることなく魔物は息絶えて地面に横たわっていた。一体何があったのか。魔物をよく見ると、首元にナイフが1本だけ刺さっている。
「あ、マリアンヌが持ってたやつだ」
魔物が完全に死んでいることを確認した後、そのナイフを見てみるとマリアンヌが台所から持ってきたナイフであることが分かった。3人がマリアンヌの方を見ると、少し離れた場所に立っていた。あそこからナイフを投げたのだろう。まさかこんなにもあっけなく終わることになるとは、3人は肩透かしを食らったような気分であった。
「あんな場所から当たるんだ・・・・・・」
「いや、普通は当たらないわよ」
3人は顔を寄せ合い、コソコソと小さな声で話していた。マリアンヌは何も言わず、少し離れた場所で姿勢を正したまま立ち続けている。
「もしかしてマリアンヌって凄い?」
「凄いっていうか、とんでもないわ。あんたよくあんな女引っ掛けてきたわね」
「その話はもういいだろ。いつまで引っ張るんだよ。嫌われるぞ」
「と、とにかく、思ってたより早く終わりましたけど報告しましょう。魔物が倒せて良かったじゃないですか」
「そうね。それで聞きたいんだけどコイツどうする?」
「コイツってマリアンヌのこと?」
「何言ってんのよ。魔物のことよ。仲間をコイツ呼ばわりなんてしないわ。あんたはするかもしれないけど私はしないわ!」
「俺だってしないよ!?」
「それで魔物は、どうしますか? 死体をこのままにしておくのもまずいと思うんですが・・・・・・」
この魔物は元々この辺りの地域に生息している生物ではない。もう動かなくなったとはいえ、放置しておけば何か悪影響が出るかもしれない。3人は話し合った後、べンガーに見せれば何か分かるかもしれないという期待もあったため、この魔物の死体を持ち帰ることにした。
「で、マリアンヌのことなんだけど」
「もういいじゃない。なんか凄い人ー、で済ませちゃえばいいのよ」
「いいのかな」
「人のことなんて詮索するもんじゃないわ」
「まぁ、そういうなら」とシュリィの言葉に納得することにした。ヒロナは元々あまり不思議がってはいなかったし、シュリィが良いなら良いことにしよう。
そして4人は魔物の死体を何とかして持ち帰った。




