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異世界運命記  作者: ドカン
第4章 錆びた街の賢者
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第39話 心を持たぬ人形

 颯は目覚めた。夢の中からこの世に戻って来た彼は、勢いよく体を起こす。そして何も考えることなく、ただ窓から差し込む光に照らされた。それから少し経って、意識が戻る。自分がいる場所を確認し、傷ついた腕の様子も見る。借りた部屋のベッドの上で、彼の腕は包帯に巻かれていた。今まで何が起きていたのかを包帯を見て思い出す。見たことのない魔物に噛まれ、そのまま意識を失っていたのだ。生きていたことに安堵すると同時に、腕から痛みが無くなっていることにも気付く。

 弱い毒だったのか?

 そう思った。こんなにも早く治るとは考えにくい。ただ、今がいつかにもよる。この部屋には時計がなく、自分がどれぐらい眠っていたのかを知ることが出来ない。考えても仕方がない、と思考を切り替えようとした時、隣にいる存在に気付いた。

 「うわっ」

 隣にいたのは黒い肌の豊満な女性だった。整った顔立ちで颯のすぐ隣で裸で寝ている。誰だろうとどうしようが同時に頭に浮かんだ、すぐ後に女性は目を覚ました。そして語りだした。

 「私は、颯さんの願いが形になったものです。私のことはどのように扱ってくれても構いませんが、まずは皆さんに説明してはいかがでしょうか」

 「え、あ、あぁ、うん」

 彼女は、颯が頭に思い浮かべていた悩みに的確に答えた。颯は少し戸惑ったものの、彼女の説明を受け入れる。しかし、よく考えてみると彼女が言っていたことの一部が理解出来ず聞き返そうとした時、部屋に食事を持ってきたシュリィが入ってきた。

 「颯。起き、た?」

 そこでシュリィが目にしたものは、自らの仲間が、上半身が裸のまま、見ず知らずの女性と共に同じベッドにいる姿だった。仲間を気遣って来たはずなのにこの光景。気が動転する。何か、かける言葉を必死に探す。

 「・・・・・・元気みたいね」

 食事を乗せたトレーナを置く音と扉を閉める音だけが響く部屋からシュリィが出ていく。

 「ヒロナー! 颯が女と寝てるー!」

 「待って待って待って!」

 部屋から出て、真っ先にヒロナのもとへ走っていったシュリィを颯が全力で追いかける。向かった先はキッチンだった。あの食事はヒロナが作ったもののようだ。服を掴んで、揺さぶりながら訴えかけてくるシュリィにヒロナは「どうしたんですか」と落ち着いた声で問う。

 「か、颯、アイツが、なんか、こう、男ウケしそうな女と一緒のベッドで寝てたのよ! 私の! 家で!」

 「だから違うって!」

 颯が騒ぐシュリィを抑えようとするが、彼女は全力の抵抗を見せる。

 「いや! 触らないで! 汚いのがうつる!」

 「勘違いだよ!」

 ギャーギャー騒ぐ2人を止めるためにヒロナは話題を変えようとする。テーブルの方を見て、「とりあえず朝食にしましょう」と提案した。

 「え、今って朝なの?」

 「そうよ。あんたは一晩中寝てたの。あの女と」

 「それについてはちゃんと説明させて」

 颯が弁明をしようとする。その時、当の颯と部屋にいた女性が1階へと降りてきた。颯とシュリィは、その女性の格好を不思議に思った。

 「あれ、服持ってたの?」

 「いえ、必要になると思い、先程作りました」

 「作った? ・・・・・・あぁ、あの部屋の毛布を使ったのね。もしかして魔法で?」

 「はい」

 「凄い実用的じゃん」

 「そうね。そこらへんの魔法使いなんかよりもよっぽど役に立ちそうね」

 例え魔法を使ったとしても、その短い時間の中で限られた素材だけを使って1人の服を作ってしまうのは簡単なことではないだろう。そんなことが出来たら服屋など存在しない。このことだけで、目の前にいる女性が世間一般的な人物ではないな、ということを3人ははっきりではないにしても認識することになった。

 キッチンとテーブルの間で話し込んでいるところへ起きたべンガーもやってきた。「おはよう」と言いながら、テーブルの席につく。

 「もしかしてうるさかったですか?」

 「ん? いやいや、そんなことはないよ。それに、寝坊するよりは健康的でいいじゃないか」

 颯が気にした様子で聞いたが、べンガーは意にも介していなかった。それよりも、見慣れない女性の方が気になっているようだ。

 「ところで昨日は、その方はいたかの?」

 「あ、いや、えっと、なんて言えばいいんですかね。自分にもよく分からないっていうか」

 「私は、颯さんの願いが形になったものです。なんとお呼びしてくれても構いません」

 彼女は淡々と答えた。しかし、それでは皆は理解出来なかった。颯でさえも彼女が何者なのかを知らない。

 「名前は?」

 「ありません」

 「ふむ。名前がないのは些か不便じゃな。では、名付けてもらうしかないのぉ。どんな名前がいいかね」

 「お好きなようにしてくれて構いません」

 べンガーと女性が話を進める。彼女の名前を付けるとなって、べンガーは深く悩んだ。「お前さん達は何か良い考えでもあるかね」と聞いてきたが、すぐには思いつかないし思いついたとして、そんな安易なものでいいはずもないとも考えた。

 少ししてから、べンガーが思いつく。

 「マリアンヌというのはどうじゃ? 賢く美しいということで、良い名前じゃと思うぞ」

 「うん。悪くないんじゃない」

 「とても良いと思います!」

 ヒロナとシュリィがべンガーの意見に賛同する。颯も反対することなく、受け入れることが出来た。

 「それじゃあ、よろしく! マリアンヌ」

 「はい。よろしくお願いいたします」

 マリアンヌはその場で一礼をした。名前を貰っても、彼女の堅苦しい態度は変わらない。颯はそんな彼女に、もう少し物腰を柔らかくしてもらってもいいと思っていたのだが、初対面の相手に失礼のないように、というマリアンヌの気配りには気付かなかった。

 程なくして、ヒロナがマリアンヌの分も新たに朝食を作り、皆で食べ始める。

 「腕はもういいのかね」

 「あ、はい。すっかり痛みも無くなりました。ありがとうございます」

 「よい、よい。毒が回る前に治療が出来てよかった。そもそも、私があんな依頼をしてしまったから、こんなことになってしまったんじゃ。謝らせてくれ。すまなかった」

 「頭を上げてください! 全然気にしてませんよ!」

 べンガーの謝罪を受ける。助かったとはいえ、毒によって命を落とすところだったことは事実であり、もしものことを考えたべンガーは心が苦しくなり、自らに反省をさせるように、深々と頭を下げたのだった。

 「ていうかあんな魔物があそこにいただなんて知らなかったんだけど、何なのあれ」

 「その魔物についてはワシも知らんかった。シュリィ達から聞いただけでは、何なのかも分からん」

 昨日出会った魔物は、ここに住むべンガーすら知らない未知の生き物だった。どこか他の場所からやってきた魔物なのかもしれない、と言っていたが、聞いたこともない特徴を持っており、どの種の魔物なのかの区別もつかないらしい。

 「ふぅむ。その魔物を見てみたい気もするが、しばらくはあそこには近付かん方がいいかのぉ」

 彼は魔法使い、また研究者として未知の魔物に興味を抱いていた。しかし、被害が出てしまった以上は、それも叶わない。安全とは変えられないと分かりつつも、少し惜しそうな顔をしていた。

 そんなべンガーの考えを覆すように、怪我から治ったばかりの颯が無謀とも思える発言をする。

 「もう一度、あの魔物のところへ行きましょう」

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