第34話 輝く星の下
颯達が招かれ、色々と世話になったその日の夜。夕食を終え、日が落ち、辺りが暗くなった頃。3人は、テントの中で横になっていた。しかしヒロナとシュリィはぐっすり眠っているというのに、颯だけは寝ることが出来ず、寝返りをうってばかりいた。風がテントの幕を揺らし、隙間を作る。涼しさと明かりを少しだけ彼のもとへと運んだ。
横になっていることに飽きた彼は、それらに惹かれたかのようにして、起き上がり外へ出た。そこには夜にだけしかない明るさがあり、彼は周囲を見渡しながら歩くことが出来た。元いたテントから少し離れたところに、ちょうど良い広さとなだらかさのある場所を見つけた。彼はそこに座り、上を向く。夜空を見ると無数の星々がひしめき合うように在り、そのどれもが、他の星々に負けじと光を放っている。
何を思うわけでもなく、ただそれを見ているだけだった彼のもとにケイという男がやって来た。
「こんなところで・・・・・・。あぁ、寝れないのか」
ケイは颯に尋ねようとしたところで、何を聞くわけでもなく納得した。彼は颯の隣に座り、そして彼も星空を見上げた。
「こんなところで、何をしてるんですか?」
「敬語じゃなくていいよ。あんま慣れないからな。俺はただ見回りをしていたんだ。今日は当番だったからな」
そうなんだ、と颯は言った。そこから少しの時間が沈黙とともに流れる。先に口を開き、沈黙を破ったのは、颯の方だった。
「実は」から彼の言葉が始まっていく。心の奥底にある気持ちが、こぼれていくように話した。
「ここに来る前に、女の子を1人、見捨ててきてしまって。助けられたかもとか、あの時こうしてればとか、そう思うと何だかとてつもなく・・・・・・」
「言いたいことは、なんとなくだが分かるぞ。要は後悔してるんだな」
未だに颯は、川に流されてしまったカグヤのことを思い考えていた。表面では気にしてないように振る舞おうとして、ヒロナとシュリィにも話せずにいた。
ケイは颯のこの感情を後悔と表したが、颯にはたったそれだけの言葉に落とし込もうとは思えない。いくら言っても言い足りないが、どんな言葉でも似合わないような気がして、さらに気持ちを吐き出せずにいた。
「ヒロナとシュリィ、自分と一緒にいた2人には、もう気にするなって言われたんだけど、そんなことはどうしても出来なくて。あの2人は全く気にしてないみたいだし、なんかちょっと冷たいなって、そう思う」
思っていることをなんとかして言葉にしていく。正直、これが本当に自分の気持ちなのかすら分からない。
颯が必死に何かを言おうとしている。しかし上手く自分の気持ち通りの言葉にならない。それを知ってか知らずか、ケイが一言だけ口にした。
「助けられなかったことを、仲間のせいにしたいのか?」
その言葉は、颯の胸に深く刺さった。知られたくなかった事実のようで、あまりこのことを直視したくない。彼にとって都合の悪い現実だった。
「最初は女の子を助けられなかったと、お前はそう言った。でもその後は、お前の仲間の2人が冷たかったって話題に変わってる。俺はお前達に何があったのかは分からない。だから本当は、お前は何も悪くないのかもしれない。だけど、だからといって身近な人を悪く言うのは、自分のためにならないんだろうな」
ケイは颯に向けて言った後、彼の方を向いてその顔が俯いていることに気がついた。少し言い過ぎたかもしれないと思い、「今のことは別に気にしなくてもいい」と言おうとする。しかし颯が彼がその言葉を放つ前に、顔を上げ口を開いた。
「うん、そうかもしれない。・・・・・・もういい。もう何も言わない。これ以上なにか言っても、言い訳にしかならない。でも気にしないわけじゃない。むしろもっと気にしようと思う。それで、二度と同じ失敗はしないようにするよ」
「そうか」とケイは頷いた。彼が思っていたよりも、颯は強く前を向こうとしている。その顔を見て、ケイも自分の心を打ち明けようと決めた。
一瞬、2人は何も話さず、その隙間を通るように涼しい風が通る。
「俺は明日、旅立つんだよ」
「旅? 1人で? どこに行くの?」
「さあな。まだ目的地とかは決まってないんだ。ここのしきたりみたいなもんでさ、大人になると1人であちこち周らなきゃいけないんだよ。どこ行ってもよくてさ、そうしてここに帰ってきてもいいし、どこか別のとこに暮らしてもいい。ここの奴らの何人かは、旅をして帰ってきた奴らで、他の何人かは、別のとこから来たんだよ」
彼らの民族の習慣、しきたりとして絶対に通る道だそうだ。外の世界を知って、一人前の大人のになることが大事なのだという。ケイも明日、その道を通る。
「ケイはどこか、行きたい所はあるの?」
「そうだな、俺は、自分がどこから来たのかが知りたい」
彼はそう言った。彼はここで生まれたわけではなく、偶然にも拾われた子供だったらしい。生まれたばかりの彼を、ここの人たちは拾った。ケイによると、その時に一緒に弓が彼の隣に置かれていたらしく、彼を捨てた誰かがそこに置いていったものなんだろうと、ケイとここの人たちは考えていた。
その弓は今は彼の持ち物で、狩りなどの際に使っているらしい。颯と話している時も、彼は肌見離さず持っている。
「俺が捨てられたのには、何か理由があると思うんだ。そうじゃなきゃ、こんな弓を一緒に置いていくはずはない。だから明日、ここを出てその理由を知りたい。誰が何のためにそんなことをしたのか。恨みだとかそんなんじゃなく、単純な興味だけなんだが、俺は知りたい。それに、この弓を見てくれよ」
ケイは自分の弓を颯に見せてきた。颯はそれを見て、気づいたことを言う。弓の真ん中、中央、ちょうど矢と擦れ合う場所、そこに奇妙にへこんだ部分がある。縦に長い八角形の形をしており、何かをはめ込むことが出来そうだ。
「お前も気づいただろ。この弓は他の弓とは違うみたいでな」
彼は弓についても語った。弓にある穴にはきっと何かが入る。それが何なのかは分からないが、きっとそうだと語った。
颯が、なぜそんなことが分かるんだと聞くと、ケイは、「なんとなく、だけど分かる」と言った。そんな彼に颯は違和感を覚えるが、そういうこともあるか、とその場では納得し、疑問を終わらせる。
会話が一旦途切れ、夜にしか聞こえない音がしていた。しばらくして、ケイが空を指差す。颯も彼が指差した空を見上げた。
「この星たちはさ、夜にしか輝けないんだよ。朝になると、太陽がやってきて、あいつらの居場所を奪うんだってさ」
「まるで、星が生きているような言い方だね」
「聞いた話だ。小さい頃にな」
おとぎ話だそうだ。
元々、空には星々が輝いていた。しかしそこにやってきて彼らから、空を奪っていってしまった。星々は力を合わせるためにお互いを線で結び、太陽に挑んだ。そしてなんとか空の一部を奪い返した。それが夜なのだという。しかし今も彼らは、太陽に戦いを挑み続け、勝ったり負けたりを繰り返している。そのせいで、季節ごとに昼と夜の時間が変わってしまうらしい。
「太陽しかない朝よりも、たくさんの星がある夜の方が俺は好きだ」
「ならその弓で夜を守ればいいんだよ」
「出来たらいいな」
星空の下、2人の少年は寝ることも忘れ、夜が明けるまで語り合った。その空には、太陽が昇るまでの間、牡牛座が輝き続けていた。




