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異世界運命記  作者: ドカン
第2章 失われた時
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第29話 用意されたもの

 「よい、しょっと」

 スサノオは立ち上がった。

 「じゃあ、また行ってくる」

 ビクッとクシナダは体を震わせるが、すぐ後に「あぁ」と頷く。一瞬だけ、何かに対して嫌な顔をしたのに気づいた者はそこにはいなかった。

 「行くってどこへですか?」

 「この辺りだ。まぁ、具体的にどこに行くってよりも散歩みてぇなもんだ。お前も来るか?」

 じゃあ、と答え颯も立ち上がり、スサノオと共に玄関へ向かう。段差を挟んでスサノオと颯の2人とそれ以外の4人は向かい合った。

 「ちゃんと帰ってきますか?」

 「あぁ、帰ってくるよ」

 「いつ頃に帰ってきますか?」

 「それは分かんねぇな。まぁでもそんな遅くなんねぇよ」

 「本当に?」

 「嘘は苦手だ。それに、ここにいる間は、早いも遅いもないだろ」

 「そんなことは」

 「ちゃんと帰ってくるよ」

 クシナダは手で胸を押さえ、不安そうにスサノオを見つめる。彼はそんなクシナダの言葉を途中で遮った。

 颯達はそんな2人の様子を横で見つつ、何ということのない言葉を交わす。

 「俺も行ってくるね」

 ヒロナとシュリィは揃って頷き、颯を見送った。

 スサノオもクシナダに見送られ、家を出た。カグヤは家の外に出てまで、2人に大きく手を振っていた。

 しばらく歩く。どこまで行っても変わらない竹やぶの中だ。足が土を踏む音に聞き飽きてきたところで、スサノオが口を開いた。

 「なぁ、お前はどう思う?」

 「どうって?」

 曖昧すぎる質問だ。一体何を聞きたいのか要領を得ない。

 「この世界、要はこの場所のことだ。どこまで歩いても出口は見つからない。景色も変わらない。そんなここのことだ」

 「え、ここって元からこういうのなんじゃ・・・・・・」

 スサノオの質問に答えようとした颯の前に、突如として川が現れた。一本の真っ直ぐな川だ。あまりにも突然だった。スサノオは知っていたのだろうか。

 「この川に来るまでにどれくらいかかったか覚えてるか? お前は初めてだろうから分からないだろうな。まぁいい。また来よう」

 颯は突然人が変わったようなスサノオに戸惑う。川に背を向け再び歩き出すスサノオの後に続く。

 「もう帰るんですか?」

 スサノオは黙ったまま何も言わない。しばらく歩くと、家に着いた。颯は不審に思った。この家から川に行くまでかかった時間と、川からこの家にまで来るまでかかった時間が大きく違うような気がしたのだ。別に急いで帰ってきたわけでもない。道も行きと帰りで真っ直ぐの、同じ道を通ってきたはずだ。だというのにこんなにも行きと帰りに差があるのは何故だろう。

 家に帰ってきたスサノオは扉を開けた。

 「ただいま」

 「おかえりー!」

 カグヤが元気よく2人を出迎えた。その後にヒロナとシュリィが奧から来た。

 「あれ、もう?」

 シュリィがそんなことを言う。確かにもっと周りを見てきても良かった。帰ってくるには早すぎるぐらいだ。颯達3人、そして多分スサノオも、そう思っているはずだ。そんな中、1人だけ違うことを言った。

 「遅い」

 最後に来たクシナダだけは、そんなことを言った。冷たい視線で、まるで人が変わったかのように言い放つ。スサノオは家に上がり、すぐに謝った。

 「すまなかったな。次はもっと早く帰ってくるよ」

 その言葉を聞いて満足したのか、クシナダは家の奥へと戻っていった。スサノオは居間へ向かい、そして座った。「今、お茶を用意しますね」と言うクシナダに、スサノオは「あぁ」とだけ返す。颯達3人はどうすればいいのか分からず、その場に突っ立っているだけだったので、スサノオが3人を居間へ読んで、彼の向かい側に座らせた。

 その後すぐにクシナダが湯呑みに入れたお茶を人数分持ってきて、それぞれの前に置いた。

 「せっかく沸かしたお茶も冷めてしまうかと思いました」

 「確かに冷めてしまうのはな。しかし、それはそれで良いんじゃないか?」

 「私は温かい方が好きです」

 口元は優しく笑っているように見えたが、その口から発せられた言葉は強く威圧的だった。スサノオはその言葉に何も返さず、ただ、そこにあったお茶を一杯、ズズッと飲み込んだ。

 この場にただよう空気感を颯は重く感じた。目の前に置かれたお茶に手を出せずにいる。お茶の表面は揺れることなく、綺麗に水平を保っていた。颯はただそれを見ていることしか出来ない。そんな颯のことなど全く気にもせず、隣でシュリィが湯呑みに手を触れる。しかし、まだ熱は冷めておらず、あつっ、と声を漏らしながら勢いよく手を離した。その瞬間に、颯の目の前に用意された湯呑みの中のお茶の水平は崩れ、同時に辺りを走り回っていたカグヤの足がぶつかり、こぼれる。

 「あっ」

 「こぼれてしまいましたか。また新しく入れるので待っていてください」

 クシナダは再び奥の方へ行き、お茶を入れる。その間にスサノオがカグヤを呼びつけ、注意をした。カグヤは少し不満そうであったが、スサノオはそれでも強く言いつけた。

 カグヤはその後、スサノオとも颯達とも距離の離れた場所に座った。彼女の様子を気にする颯だったが、スサノオから声をかけられる。

 「カグヤのことは気にすんな。あいつが悪かった。家の中は走り回る場所じゃない。」

 お茶がこぼれて、すまなかったな。と言われ、いえいえ大丈夫です、とだけ答えた。

 「もう少ししたら、また外に行くか」

 「えっ、またですか?」

 「なんだ? もしかして疲れているのか?」

 「いえ、そういうわけではないんですが」

 急に言われたことに驚く。今さっき帰ってきたばかりだというのに、また行こうというのだ。颯にはスサノオの意図が分からなかった。確かに家の中ではやることなど何もなく、外を歩くのは暇つぶしにもなる。しかし、あのどこを見ても変わらない景色、例えその先にある川に着いたところでなにをするわけでもなく、ひと目みてすぐに帰ってきてしまう。あれが暇つぶしとは颯には思えなかった。それに次も同じ場所に行くとは考えづらい。もしそうなら、家に帰ってこずにもっと歩き回っているはずだ。だから、また外を歩いて同じ道をたどって川に向かうというのは普通に考えて、ないだろうと思う。だが、スサノオならむしろそれを選ぶだろうと、颯はなんとなくだが思った。いや、もしかして、スサノオはそれを選ぶのではなく、それしか選べないのではないだろうかとも考えた。

 颯が頭を抱えているうちにクシナダが新しく入れたお茶を持ってきた。そのお茶からは湯気が立ち、水面はよく見えなかった。

 「それを飲んだら行くか」

 スサノオにそう言われ、颯はお茶が冷めるのを待った。しばらくしてから手に持ち、息を吹いて、火傷をしないようにしてから飲んだ。颯はお茶を飲み干すと、湯呑みを床に置いた。

 颯が飲み終わったことを確認したスサノオは立ち上がり、再び玄関へと向かった。颯もその後を追う。

 「今度は早く帰ってくる」

 玄関まで来ていたクシナダにスサノオはそう言う。クシナダは1回頷くだけで、他には何も言わなかった。

 「じゃあ、俺も行ってくるね。すぐ帰ってくるっぽいけど」

 「えぇ。でも一応はちゃんと見てきてくださいね。今は地図も当てになりませんから」

 ヒロナが颯に言う。心の中でそういえばそうだったと思い出したように、颯はハッとした。

 分かったよ、とだけヒロナとシュリィの2人に言って颯はスサノオに続いて家の外へと出た。

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