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異世界運命記  作者: ドカン
第2章 失われた時
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第28話 温かな時間

 「なぁ、あんな驚かなくてもよかっただろ?」

 「すいません・・・・・・。あまりにも急に出てこられたから・・・・・・」

 竹林の中を歩いていた3人は、1人の男と出会った。男は自らをスサノオと名乗った。

 スサノオは3人を驚かせるようなことになってしまったが、もともとそんなつもりは一切なく、ただ声をかけたつもりだった。しかしスサノオもこんな竹林の中で人と会えるとは思っていなかったので、見つけてすぐに近くまで行き声をかけたのだが、気配も出さずに近づいたため3人には気づかれることなく、それが驚かせることになった。

 「えっと、それで今はどこに向かってるんですか?」

 3人は竹林の中をスサノオに案内されながら歩いている。目的地を知らされることなくただ付いてこいと言われ、他に頼りになるものもないため、仕方なくスサノオの言う通りにした。

 「言ってなかったな。もうすぐ着くぞ」

 そう言ったスサノオは颯達の方へ振り向き、自分の後ろに立っている建物を指さした。

 「ここだ。俺達の住んでいる家だ」

 「家・・・・・・。っていうか「達」って、スサノオさん以外にも誰かいるんですか!?」

 「あぁ、いるぞ」

 前を向き再び歩き出したスサノオは、彼が家と呼んだ建物の扉を横に引き中へ入った。

 「ただいまー」

 「あら、おかえりなさい」

 奧から出てきたのは、赤い髪をした美しい女性だった。

 「クシナダ、紹介するよ。今さっきそこで会った人達だ」

 3人は自分の名前をクシナダと呼ばれた女性に言い一礼した。女性は少しの驚きを抱く。しかしそれを顔に出すことはなく、ここにいる者に気づかれることはなかった。いらっしゃい、と紹介された3人に声をかけた後、家の奧から駆けてくる足音が聞こえた。

 「お、カグヤ。良い子にしてたか?」

 やってきたのは白い髪の幼い女の子だった。スサノオに頭を撫でられ満足そうに笑っている。うん、してたよ! と答えた後に女の子は3人を指さして言った。

 「ねぇ、この人達は?」

 「さっきそこであったんだ。外からやってきたみたいで道に迷ってたから、お父さんが連れてきたんだよ」

 スサノオは3人に女の子を紹介した。カグヤという名前らしい。

 「まぁ、上がってくれ」

 言われるままに、3人は玄関で靴を脱ぎ家に上がった。随分と質素な家だ。部屋は大部屋と小部屋の2つしかない。大部屋と言っても、大した大きさではない。雨風さえしのげればそれで良いというような、そんな簡単な造りをしている。

 とにかく、大部屋に行くと部屋の真ん中には四角に切られている場所があり、スサノオはその場所を指して「囲炉裏の周りに座ってくれ」と言った。囲炉裏では火が焚かれており、すぐ上には鍋が吊るされていた。鍋はグツグツと煮え、そこから湧きたつ香りが食欲を誘う。

 「飯は出来てんだろ?」

 「えぇ、出来てますよ。ただ、客人が来るとは思わなかったので」

 「俺の分から分けてやれ」

 クシナダは元々用意していた3つの茶碗に加え、さらに3つ用意し、それぞれに鍋の中の料理をよそった。渡された茶碗の中を見てみると薄茶色の味噌汁とその中で浮かんでいる少しの米、そして切られたタケノコが入っている。

 なんだか懐かしいな、とじっと見ているとスサノオが颯達に向かって「悪いな、これしかなくて」と言った。悪いとはこれっぽっちも思ってなかったが、確かにこの一品しか出てこない。他を見ても、どれもこれだけなのでどうやら酷い扱いを受けているわけではないみたいだ。それなら文句も何も言うつもりは全くない。「いえ、ありがとうございます。いただきます」と返して、それに口を付けた。一口飲んで、だいぶ味噌が薄められていることが分かった。茶碗から顔を放して、下を見ると箸も用意されている。使わせてもらうことにした。冷めないうちに口の中へかきこむ。

 「おっ、いい食べっぷりだな」

 あっという間に食べきる颯の様子を見たスサノオが言った。どうやら颯が最初に食べ終わってしまったらしい。味も薄口だと思えばそう悪くはなかったので、おかわりを期待して鍋を覗いてみるも、既に中身は空だった。少し落胆を覚えつつも腹が満たされたことに満足もした。

 颯の次に食べ終わったスサノオが口を手で拭いながら、質問を投げかける。

 「お前らはどこから来たんだ? 顔つきも服も見かけないものだらけだが」

 「ドラグニアですよ。帝国に向かおうと森の中を歩いていたんですけど、途中で道が分からなくなっちゃって。気づいた時にはもう迷っていました」

 「ど、どら、どらぐ・・・・・・? 聞いたこともねぇな」

 「え、知らない?」

 スサノオから帰ってきた言葉に戸惑う。すぐ隣にいたヒロナとシュリィに小声で「聞いたことないって、そんなことある?」と聞いた。

 「ない、と思うけど、こんな森の中に暮らしてるぐらいだし、もしかしたら本当に知らないのかも知れないわね」

 「地図を見てもらえば分かるんじゃないでしょうか?」

 「あ、確かに。ついでに帝国までの道も教えてくれるかも。シュリィ、地図貸して」

 地図を手にした颯は、スサノオの傍まで行き地図を広げた。ドラグニアの場所を指さして自分達がやってきたと考える道も教える。しかし、それでもスサノオの答えは変わらなかった。

 「うーん、やっぱり分かんねぇなぁ。クシナダ、お前は分かるか?」

 「いえ、私は土地のことなどさっぱり分かりません」

 「そう、ですか」

 「すまねぇな。力になれなくて」

 「いや、ありがとうございます」

 颯はもといた場所に戻った。手がかりがまるで見えず、3人は困ってしまう。

 そこにようやく食事を終えたカグヤという名前の女の子がやってきた。3人に興味津々といった顔だ。

 「ねぇ、ドラグニアってどんなとこ? 教えて!」

 その質問にはどう答えるべきだろうか。見たまんま、と言ってもそれを表現するのも難しい。とにかく、頭に思い浮かんだことから言っていこう。

 「まず大きい街で」

 「大きいってどれぐらい?」

 うーん、と考えてしまう。目の前でカグヤが両手を広げて、これぐらい? と聞いてくる。いや、もっとと颯が言うとさらにその両手を広げていく。そんなカグヤに横からシュリィが説明し始めた。この家がこれぐらいなら、ドラグニアという街はこれぐらいだと言って教える。颯の説明よりも分かりやすかったらしく、驚いていた。

 「そんなに大きいの!?」

 「まぁ、そりゃ街ならデカいな」

 「お父さん知ってるの!?」

 まぁな、とスサノオが言うとカグヤは颯達の傍を離れての方へ行ってしまった。

 「私もいつか見てみたい!」

 「カグヤが大きくなったらな」

 「いつ大きくなれる!?」

 「んー、そのうちだな」

 「そのうちってどれぐらい!?」

 「そのうちはそのうちだ」

 「お母さん、そのうちってどれぐらい!?」

 どうやら曖昧な返事に痺れを切らしてしまったようで、今度はスサノオのもとを離れ、クシナダの膝に座った。カグヤの質問に少しだけ間を置き、クシナダは答える。

 「きっとすぐよ。カグヤならあっという間だわ」

 その答えが欲しかったと言わんばかりの満足気な表情をカグヤは見せる。それを微笑ましく思うスサノオと、深く関係があるわけでは無いため、この光景を遠くのことのように良かったと思う3人。

 道に迷っていることも今だけは忘れ、温かな時間がその場には流れていた。

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