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異世界運命記  作者: ドカン
第2章 失われた時
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第27話 迷いの森

 ドラグニアのギルドで、ファヴニールとヘラと別れた後も、3人はまだそこにいたままだった。このまま依頼のないドラグニアにいることは出来ないが、かといって依頼のある帝国へと行くための船に乗るお金も持っていない。帝国はドラグニアから見て、街の北にある湖の向こう側に位置している。お金のない3人は帝国へ行く場合、湖をぐるっと回りながら行く方法しか残されていない。問題は、西回りか東回りかということだけだった。

 「西回りよ。絶対西。途中の山を越えていくなんて、無理だわ」

 「でも東から行った方が近そうだよ? 西から行っても森を通らなきゃいけないみたいだし」

 「西の森は道も整備されてませんしね。東なら遠回りすることになっても、連邦を通っていけば安全です」

 ドラグニアから東には、多くの山々が連なる山脈が存在している。しかも、湖のすぐ側にその山脈はあるため、どうしても山脈を迂回するように進まなければならない。最も安全な道は、ウィザーニア連邦という国を経由して帝国まで行くものだ。多少、道は長くなるが、それまでの安全や利便性に比べれば十分すぎるほどのものだった。

 逆に西に行けば、森の中を進むことになる。平たく起伏のない場所だが、人の往来は少なく、そのため道もしっかりと整備されているわけでもない。途中で魔物と遭遇することも考えられ、道中は決して安全とは呼べないものになる。

 「ぜーーーったいに西! 東なんてありえない!」

 シュリィが叫ぶ。何か、譲れないものが彼女にはあるようだ。説得も出来そうにないと、2人は折れることにした。

 そこまで言うなら・・・・・・と2人はシュリィの意見に従い、ドラグニアから西にある森の中を歩いていた。陽の光は木々によって遮られ、薄暗い場所を通る。シュリィは地図を開きながらどう進むべきかを必死に考えているようだが、この森の中で地図はあまり役にたたないだろう。迷うのも時間の問題だろうな、と2人は後ろで見ていた。

 ヒロナが、並んで歩く両道に話しかける。

 「あ、あの、颯、さん」

 颯。両道の下の名前だ。ヘラが別れ際に呼んでいたように、ヒロナも両道のことを下の名前で呼んでみる。呼ばれた方は、それが自分の名前であるということを思い出すのに時間がかかってしまい、反応するのに少しの間が空いた。

 「え、あぁ、俺か。それで、どうしたの?」

 「いえ、呼んでみただけです・・・・・・」

 少し顔を逸らすヒロナ。颯はこの時のヒロナの気持ちが分からなかった。今度は颯から話しかけようとすると、前を歩くシュリィが2人に向かって急げと言う。

 「ちょっと、颯もヒロナも何してるのよ」

 シュリィもそう呼ぶのか、と思いながら急かされた颯はシュリィのもとまで走った。

 「ちゃんと道分かってるよね?」

 「こっちよ」

 自信たっぷりに堂々と進んで行くシュリィ。

 「え、本当に分かるの!?」

 「分かるわ。勘だけどね」

 「勘かよ・・・・・・」

 一瞬でも期待してしまった颯は、その後さらに不安になった。ヒロナも後ろからやってきて、3人で地図を見ながら歩く。地図を見てばかりで前を見ていなかった颯がいきなり何かにぶつかった。

 「痛てっ!」

 頭をぶつけた颯は、痛みのする箇所を撫でながら、自分にぶつかったものを見る。しかし彼はそれに驚いた。

 「え、竹?」

 颯がぶつかったそれは、間違いなく竹だった。さらに辺りを見渡すと、周囲は全て竹だらけだ。

 「竹ってなに」

 「え、た、竹ってのは、これだよ、これ」

 そう言って颯は近くの竹を手で押す。どうやらヒロナとシュリィは竹というものを知らないらしい。

 「森の中にこんな場所があったなんてなぁ」

 「私、初めて見ました」

 「私も聞いたことすらなかったわ」

 「そうなんだ」

 「ついでに言うと地図にも載ってないわよ」

 「え」

 慌ててシュリィの持つ地図を見てみる。森、と大きく書かれていてそれ以外には何も書かれていない。

 「まぁ、ここも森みたいなもんだし、分からなくなったんだったら来た道を引き返せばいいんだよ」

 そう言って、自分達が来た方角を向く。しかしそうして見た景色に、3人は徐々に不安になってくる。

 「ねぇ、この竹林ってあんなに奧の方まで続いてたっけ」

 「いやー、どうだったかしら」

 試しに来たと思われる方へと歩いてみる。しかし、いくら歩いても元の森の景色には戻らない。3人は、自分達が迷ったんだと、この時に確信した。膨れ上がる焦りと、現実のものとなってしまった不安。これらによって、颯とシュリィの2人はお互いに相手のせいだと言い始めた。

 「どーすんだよ、これ! ヤバいんだろ!?」

 「わ、私に言わないでよ! 私は地図もちゃんと見てたし、迷ったのはあんたのせいなんじゃないの!?」

 「俺!? そんなわけないだろ! そもそも西じゃなくて東に行ってればこんなことにはならなかっただろ!」

 辺りに響く2人の声。颯とシュリィは、道だけでなく冷静さまで見失っていた。お互いに責任を押し付けている2人の横から、ヒロナがこの竹林の中で気づいたことを言う。

 「あの、何だか暗くありませんか?」

 「暗いって、こんな場所なんだから当たり前だろ」

 「いえ、そうじゃなくて、陽の光が無いっていうか」

 「陽の光?」

 「今って、もしかして夜じゃありませんか?」

 ヒロナがそんなことを言った。まさか、と颯とシュリィの2人は竹の葉の隙間から僅かに見える空を見た。その空は先ほどまでの明るさなどまるでなく、月と星が輝くことが出来るぐらいの暗さだった。つまりは夜だった。

 「月が綺麗だね」

 「うるさいわね、月なんていつでも綺麗よ」

 さっきまでの言い合いがシュリィの心の中にまだ残っていたのか、喧嘩腰の姿勢のままのシュリィ。それに対して颯は、もう争う気力も残っていなかった。

 「そうだね、ごめん」

 「いや、いいのよ。私も言いすぎだったわ。ごめんなさい」

 気持ちが落ち着いたからか、素直に謝ることが出来た。2人のぶつかりはあっという間になくなった。

 「あの、夜ですよね? 私達、野宿の準備とかしてましたっけ?」

 「してないね」

 「するお金が無かったのよ」

 「なんだ、そうだったんだ」

 「納得しないでくださいよ! ここでどうやって朝まで過ごすんですか!? 何もないんですよね!?」

 一気に昂った心は、その後それと同じくらいの速さで冷めた。しかしその波に付いていくことの出来なかったヒロナが1人戸惑う。彼女の言っていることは最もだが、ここでの2人には通用しなかった。

 「野宿なんていらないわよ。まだ疲れてないし、お腹も・・・・・・まぁ、空いてても少しだけだしね」

 「朝飯前って感じだよ」

 夜になったのなら、眠くなってもいいし、1日の疲れが出ても不思議ではない。しかし今の3人にそのような感覚は全くと言っていいほどなかった。まるで昼間と変わらない。

 「じゃあ、それまでは」

 「歩きましょ。道もなんとなくだけど分かるし。歩けばどこかに出るわよ」

 ヒロナは反対しようにも出来なかった。野宿の準備もしていないこの状況で、他に良い案も思いつかなかったからだ。前を歩く2人の間に入って、しぶしぶ歩く。

 歩いてしばらく、突然横から人の顔が出てきた。大人の男の顔だ。

 「なぁ、お前らはここの住人か?」

 その問いかけに答える間もなく、3人は驚きの声を上げた。まるで見てはいけないものを見てしまった時に上げるような、そんな声だ。3人はこの日で一番大きな声を上げた。

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