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異世界運命記  作者: ドカン
第1章 竜と魔王
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第20話 目撃

 両道達の目に、見慣れない光景が入りこんだ。数人の子供達が寄ってたかって、何かしている。どうやら子供達は輪になって、地面に転がっているものを蹴っているようだが、蹴っているものが何かまではさすがに分からない。両道は気になって近づいてみた。

 すると子供達は突然、悪事を働いていることが親にばれたように一目散に逃げ出した。そこに置いて行かれたのは子供達が蹴っていたものだ。それが何だったのか、両道達にははっきりと分かった。

 人だ、人がやられていたんだ!

 そう思って近づくと、人だと思っていたそれが異形の姿であったことに気づく。一瞬、ギョッ、と目を見開かせたものの、すぐに心を冷静にする。

 「これって、人なのかな」

 「魔人よ、それ」

 「えっ、これが!?」

 シュリィが魔人と言ったのは、狼の顔に人の身体をした、所々に毛が生えているものだった。

 「あちこちボロボロで、息も少ししかしてないじゃない」

 「瀕死の状態みたいですね」

 「何とかしないとやばいんじゃないの?」

 「助けるの?」

 シュリィから返ってきた言葉に両道は戸惑った。この魔人を助けることは当然のことだと両道は思っていたが、彼女にとっては助けないという選択肢があったからだ。シュリィだけでなく、ヒロナの中にもこの選択肢はあるのだろう。

 「助けないと死んじゃうよ?」

 「助けたとして、それで得なんてないわよ」

 「・・・・・・だとしても俺は助けるからな!」

 「いいけど、路地裏でやってよね。あまり人に見られたくないのよ」

 瀕死の状態の魔人を近くの路地裏まで引きずり、そこで状態をよく見ることにした。しかし、医者でなければ、医療の知識も大してない両道に出来ることはなかった。

 「2人はなんでそんなに冷たいんだよ。魔人だったとしても、生きてることには変わりないだろ」

 「あんたみたいな人の方が珍しいわよ。ついこの前まで人を殺してたような奴らよ? そこまでいたぶるほどじゃなくても、良い思いを抱いてなんかないわ」

 どうすれば良いのか迷っていた時、魔人の首の周りに付いているものが気になった。

 「なんだこれ」

 「首輪ですよ」

 「首輪?」

 「奴隷が逃げ出さないように付けるんですよ。本当は首輪と鎖が繋がってるはずなんですけど・・・・・・」

 そう言ってヒロナは魔人の首輪を見る。首輪の後ろには短いが鎖があった。

 「千切ったんでしょうか、結構硬い鎖なんですよ」

 「噛み千切ったんじゃない? コイツ、歯が鋭いみたいだし」

 この魔人の歯はおそらく強かったのだろう。しかしそれも今では、欠けていたり、抜けていたりして、何も噛むことも出来ないほどにまでなってしまっていそうな歯をしていた。

 「それにしても、魔人ってこんな見た目してたんだな。もうちょっと人に似てるのかと思ってたよ」

 両道は今までの魔人についての話に疑問を抱いていた。戦争で勝ったからといって、なにも国まで滅ぼさなくてもいいだろうとか、奴隷として商品の扱いをするなんてとか、そう思っていた。ルカの魔人にそこまでやる必要もないという考えにだって、魔人なんて所詮ちょっとの違いでしかないんだろうと思っていたからこそ賛同出来た。

 しかし今は違う。両道は自分の頭で思い描いていたイメージと大きく離れた魔人の姿に少しばかりの嫌悪感を抱いていた。はっきり言ってしまえば、不気味だ。人の身体に動物の顔がくっついているというのは。

 帝国が魔人を人として扱わないのも、目の前の魔人が傷だらけになっていることも、両道は理解出来てしまったような気がした。

 もし自分が、少しだけこの世界に早くやってきていて、戦争を知っていたらどうなっていただろうか?

 両道の頭の中にそんな考えがよぎる。この、不気味と言えてしまうものに仲間を、家族を殺されたら・・・・・・。今と同じようにはいられないだろう。奴隷として扱うことに躊躇いを感じないのかもしれないし、寄ってたかっていじめることも不自然とすら思わないのかもしれない。

 しかし、彼には一度言ったことを無かったことにすることは出来なかった。奴隷の扱いに酷いと思ってしまったこと、傷ついた魔人を助けると言ってしまったこと。今になって後戻りはしたくなかった。

 冷たいとシュリィとヒロナには言ってしまったが、今も路地裏まで付いてきてくれている。彼女達にも魔人に対して思うところはあるはずだ。それだというのにここにいてくれているということは、彼女達が優しいということに他ならない。両道は2人に申し訳ないと思った。

 「ねぇ、助けないの?」

 シュリィに横から聞かれる。考え込んでいる間にも時間は過ぎていたようだ。

 「助けたいけど、どうすればいいのか分からないんだよ」

 大見得を切ったはいいものの、どんなに考えても両道には目の前の魔人を助ける手段は思いつかなかった。結局、魔人を人目につかない路地裏に連れてきただけで、その他のことは何も出来ていない。

 どうすればいいのか悩んでいた両道にシュリィが問いかけた。

 「あんた、回復薬は使わないの?」

 「回復薬? そんなの持ってないよ」

 回復薬とは、傷や疲労などによく効く薬だ。冒険者や軍隊などに重宝されるが、手ごろな値段で買えるような物はあまり品質も良くない。

 とにかく、両道も、シュリィやヒロナも、回復薬は持っておらず、目の前の魔人の体力を戻すことが出来なかった。

 「しょうがないわねー。買ってくるからちょっと待ってなさいよ」

 そう言って、シュリィは路地裏を出て回復薬を買いに行った。

 「お金ないって言ってたじゃんかよ・・・・・・」

 小さく愚痴を吐いて、両道はもう一度魔人を見た。

 自分の無力を痛感する。どうすることも出来ない。自分が言い出したことなのに、薬を買ってくると飛び出したのはシュリィだ。助けたいと思っても、それすら一度躊躇した。

 今もヒロナは側にいる。嫌な顔もせず、シュリィの帰りを待っている。付き合ってくれているだけなのだから、別に無理をしてここにいる必要もないのに・・・・・・。

 そんな2人と自分を比べると自分が嫌いになってしまいそうだった。こうなるんだったら、助けようと思わないほうが良かっただろうか。

 考え事をしている間に、シュリィが回復薬を買って帰ってきた。

 「ちょっと頭を持ち上げてくれる?」

 ヒロナが魔人の頭を持ち上げ、シュリィが買ってきた回復薬を飲ませる。買ってきた薬を全部飲ませた後、少し様子を見るが、とくに何が起こったわけでもなかった。傷は治らず、息も弱いまま。

 元々大した薬を買ってきたわけではない。質も悪く、量も少ない。それでも出せる分だけのお金でシュリィは薬を買ってきた。

 「なにも起こらないですね」

 「飲んだらすぐに効果が出るの?」

 「えぇ、そうよ。でもなにも起きないから、この薬じゃ不十分ってわけ」

 「そうなんだ・・・・・・」

 いよいよ本当にやれることがなくなってしまった両道達。どうすることも出来ないで、ただ時間だけが過ぎてしまった。

 「もう行きましょう。やれることはやったわよ」

 「でも・・・・・・」

 「別に両道さんが悪いわけじゃありません。あそこで見捨てるよりは、良かったと思いますよ」

 両道は説得されながら立ち上がり、その場を後にしようとした。路地裏を出ようとした時、彼の目の前には1人の女性がこちらを見ながら立っていた。

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