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異世界運命記  作者: ドカン
序章
22/120

第12話 夜の風に吹かれて

 ギルドの騒ぎが落ち着いてきた頃、両道がファヴニールがいないことに気付く。今まで場の空気に飲まれ、一緒になってはしゃいでいたものだから、気付けなかったのだ。

 「あれ、ファヴニールは?」

 「さぁ? 外なんじゃないの?」

 シュリィに言われ、そうか、と外に行く。

 ギルドから出てすぐそこ、扉の横にファヴニールは立っていた。

 「こんなとこにいたんだ。中には入らないの?」

 「はい。少しここにいようかと」

 「そっか。隣いい?」

 「はい。もちろん!」

 両道はファヴニールの隣に立つ。風が当たって心地の良い場所だ。

 「両道さんはもういいんですか?」

 「うん。僕はもう結構飲んだし、皆も潰れてきたからさ」

 「そうでしたか」

 「暗い顔してるね。なんかあった?」

 ファヴニールはつい先程まで受付嬢と話をしていた。それを引きずっているのだが、両道が知るはずはないことだ。しかし両道はなんとなく察した。

 「僕はそんな暗い顔をしてましたか?」

 「あぁ、もう。夜なのにファヴニールの顔だけ暗いよ」

 「そ、そんなに・・・・・・」

 「余計な詮索はしないけどさ、1人で考えすぎるのもあまり良いことではないかもよ」

 「そう、ですね」

 ファヴニールは俯き、何かを悩んだ末に両道に口を開く。

 「あの、実は先程まで、受付の方と話をしていまして」

 「あぁ、それでいなかったのか」

 「えぇ、ですがその、受付の方は何か思い悩んでいるようでして」

 「ふぅん」

 ここまで言って、これ以上言うべきかファヴニールは悩んだ。受付嬢は自分を信頼したからこそファヴニールに打ち明けたのにも関わらず、両道に話してしまうことは彼女を裏切ることになってしまうのではないだろうか。

 「受付嬢の子に、連れていってとでも言われたの?」

 「え」

 「当たりかな? まぁそんな感じはしてたよね。他の人が気づいてたかは分からないけど。まぁ、俺もファヴニールの話を聞いて、ようやくって感じだけどさ」

 「・・・・・・」

 「で、君は受付嬢の頼みを断ったんだな。良いと思うよ、それで。少なくとも俺はね。」

 ファヴニールは両道の話に何も返さず、ただ聞いているだけだ。それは、言い返す必要のない、的を得た言葉だったからだ。まるで最初から知っていたかのような、心でも読まれているかのような両道の言葉にファヴニールは聞き入る。

 「でも仮に君が受付嬢の希望を受け入れても俺は反対も何もしなかったよ」

 「出来ませんよ、そんなこと。だって」

 「君に連れて行かれた命を羨ましいと言ったからね」

 「気付いていたんですか? 僕が何なのか」

 「どうだろう。酒が入ってるからかなぁ」

 「誤魔化さないでください・・・・・・」

 少し怒気のあるファヴニールの声。しかし両道自身も、自分が何故こうも言えるのかが分からなかった。ただ単に勘がいいだけなのか、それとも本当に自分が何かを知っているのか。分からない以上、答えようがない。

 そうであっても話は続く。ファヴニールは自身の心の内を吐露する。

 「魔物と対峙した時、魔物を倒した時、自分の中に強くこみ上げるものがあって、それが僕は嫌なんです。だけどそれも、紛れもない僕自身で。命を奪うということに、向き合えないんです。取り返しのつかない責任を負うような、そんな」

 「もし取り返しがつくようなことがあったら、その時は遠慮なく命を奪うの? ファヴニールはさ、帰ってこないものを失うのが怖いのか、命が消えていくのが嫌なのか、どっち?」

 「その質問は意地悪な質問ですよ。命とは消えたら帰ってこないのですから、そこを分別することは出来ません」

 「いや、分けて考えるべきだよ。失ったら帰ってこないものは、何も命だけではないのだから。もし分けて考えないのなら、それは君にとって真に大事で失ったら悲しいものが、命ではなく、取り返しのつかないもの全てということになるんだから」

 ファヴニールは黙ってしまう。これ以上返す言葉を持ち合わせてはいなかったらしい。しかし、その代わりに別の話を続けた。

 「あの、もし僕が線引を見失って、何か取り返しのつかないことをしてしまったら、どうしますか?」

 「止めるよ」

 「今日、バッタとの戦いの時のあの力は、今の僕にちゃんと扱うことが出来るか分からないものです。それにあなた自身もまだ目覚めていない」

 ファヴニールが口走る。彼の言う言葉のひとつひとつの意味は理解しきれない部分もあるが、彼の様子から察するに、何かに怯えているのだろう。それは恐らく、彼自身の中にある得体の知れない何かである。数多くの魔物を屠ってきたのも、バッタの群れを駆逐したのも、受付嬢を引き寄せたのも恐らくは、その何かだ。しかしそれこそがファヴニールの正体なのではないかと両道は感じている。ファヴニール自身も恐れるものではあるが、きっと悪いものではないはずだ。だから両道は恐れることもなく止めると言い切れる。

 「大丈夫だよ。何があっても、きっとどうにかなる。強く感じるんだよ。君は俺がまだ目覚めてないって言うし、それが何なのか俺にはまだ分からないけど、ファヴニールのその力は恐ろしいものなんかじゃないってことは分かるよ。その力はきっと必要だからあるんだ」

 「・・・・・・あなたは、強いですね」

 「いやいや、僕なんか何の役にも立ってないよ。強さなら、ファヴニールの方が上だろ」

 そこからお互いにあまり喋ることはしなかった。ファヴニールも落ち着いたようで、いつものような冷静さを取り戻せたようだ。

 「ところで、明日からはどうするのでしょうか」

 「明日からは・・・・・・ドラグニアにでも行くんじゃないかな」

 「新しい町、ですか」

 「俺たちにとってはだね」

 ドラグニア。この町の北にある大都市だ。巨大な湖に面しており、その湖の向こうにある都市との貿易によって、様々なものがやってくるらしい。

 「ドラグニアには、奴隷っていうのがあるんだって」

 「奴隷?」

 ファヴニールにとって聞きなれない言葉だ。この町にはないので、実際にどういったものなのかは見に行く必要がある。

 「そう、なんか最近は魔人の奴隷が増えてるらしいよ」

 「魔人、ですか」

 「あ、なんか知ってる?」

 「いえ、全く」

 魔人もまた聞き慣れない言葉だ。また、魔人もこの町にはいない存在だ。ここより大きな街ということもあって、やはりそういったものには豊富なのだろう。

 それに加え、ファヴニールは魔人という言葉に引っ掛かりを覚えた。しかし魔人に関しての記憶は全くない。何故気になったのかも、すぐに忘れてしまった。

 「俺も全然知らないし分からないんだけどさ、だからちょっと楽しみなんだよね」

 両道は分からないものに期待をし、胸を膨らます。この町の外にある見たことのない世界はどうなっているんだろうと、想像ばかりをしていた。

 話をしているうちに、昇ってきた眩しい光が2人の顔を照らした。いつの間にか夜ではなく朝になってしまったようだ。

 吹く風が暖かさを帯び、頭を切り替えさせる。寝起きでもないのに身体を伸ばした。

 「じゃあ、俺はヒロナとシュリィを起こしてくるから」

 そう言って両道はギルドの扉を開けた。酒と騒ぎと熱気の臭いがまだそこには残っていた。他の冒険者や町の住民もまだ寝ているようで、起きていたのは両道とファヴニールだけのようだ。ヒロナとシュリィが起きたら、ドラグニアへと発つだろうか。

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