第7.1話 危険な強さ
「よし、出来ました! 両道さん!」
「おう」
ファヴニールの冒険者登録を終え、さっそく他に受けることの出来る依頼がないかを探す。せっかく1人増えたのだから、魔物の討伐なんかが楽になるかもしれない、そう思い掲示板を見渡す。
「なんかいいのあった?」
「これなんてどうかしら。ケルウスの討伐」
ケルウスは、群れで草原などに生息している魔物である。ただの鹿とあまり変わらないが、繁殖力と適応力が高く、場合によっては本来なら生息していないはずの地域にまで姿を見せ、その繁殖力であっという間に周囲の植物を食べ尽くしてしまうことがある。人間に直接的な被害を出すことはあまりないが、環境に影響を与えてしまいかねないので、割と頻繁に討伐の依頼がギルドや役所から出される。
「ケルウスなら襲ってくることもあまりないでしょうし、いいかもしれませんね」
「じゃ、ヒロナもいいって言ったし、受注してくるわね」
そして4人はケルウスがいる場所までやってきた。ケルウス達は呑気に雑草を食べ続けている。しかし数はかなり多い。
「これ何頭いるんだ?」
「30頭以上はいそうですが・・・・・・」
「依頼にも出来るだけたくさん倒してきてって書いてあったわ。1頭につき1万ゴールドだって」
「そっか。なら頑張らないとなぁ」
「任せてください! 僕が何頭でも討ち取ってきますよ!」
そう言ってファヴニールは剣を抜き、ケルウスの群れの中へ1人で突っ込んでいった。そして目にも留まらぬ速さで次々とケルウスの首を刎ねていく。
「うっわ。すごいね」
「なんか、彼だけで終わっちゃいそうですね」
「いいじゃない。思ってたより楽だわ」
3人が傍観に徹してしまってからしばらく、ついにファヴニールはこの辺りのケルウスを全滅させてしまった。数え切れないほどのケルウスの死体が草原に転がる。緑豊かだった草原は、血の色で染まってしまった。
「事件でも疑われそうなぐらいだよ」
「依頼書を書いた奴もここまでやるとは思わなかったでしょうね」
「子供のケルウスまでやってしまったんですね」
一仕事を終えたファヴニールが3人のもとに戻ってきた。
「一通り終わらせました! 如何でしょうか!?」
「まぁ、うん。ありがとう」
「はい!」
満足気な表情のファヴニール。そんな彼を見て、3人は何も感じないわけがなかった。あれだけの数をあっという間に倒せてしまう強さと、魔物とはいえ命を奪うことへの躊躇のなさ。ファヴニールとの向き合い方を考え直さなければならないかもしれない。
そんなことを思っていたが、他にも考えなければならないことがあった。
「これさ、ギルドにどうやって報告すんの?」
「確かにそうですね。こんなにも討伐出来るなんて思ってもみませんでしたから」
「首を持ってくにしても100頭分とか持てないわよ」
「角だけ持って帰るとかどう?」
「角が生えてんのは雄だけよ」
「無理かぁ」
倒した分だけ報酬が払われる。しかしギルドも一気にこんなにも多くの数のケルウスを討伐する者がいるとは考えもしなかったのだろう。想定していたのは、多くても両手で数えられるほどで、それを冒険者達が複数人で何回にも分けて行われるものであると考えていたと予想がつく。それを1人で片付けるのは地域住民や付近の農家にとっては嬉しいのかもしれないが、ギルドにとっては良い迷惑だったかもしれない。
「まぁいいや。往復するなり何なりして持って帰ろう」
「そんな面倒くさいこと、本当にすんの!?」
「大丈夫です! 僕が全部、責任持って運びますから!」
そんなこんなで4人は討伐したケルウス全ての首をギルドへと運んだ。流れ出る血の臭いと、生温かい肉の感触はあまり気持ちの良いものではなかった。ギルドの係も、大量のケルウス討伐報告に驚いている様子だった。数えるのにも処理するのにも時間がかかるだろう。
今回の依頼と遺跡でのことから分かるように、ファヴニールはとてつもなく強い。
「依頼、すぐ終わるならもっと受けちゃいましょうよ」
そういった考えが出てくるのは当たり前とも言えた。
次の日から、4人は複数の依頼を並行して受けた。ファヴニールの強さに頼ったやり方ではあったが、どの依頼も滞りなく達成されていく。ファヴニールだけでも達成することが出来れば、あとの3人にはやることもなくなり、率直に言って暇になる。
そしてそんな暇になった時間、娯楽の少ないこの田舎町ではあるものの、シュリィの金遣いはどんどん荒くなっていった。
ある日。
「あの、シュリィさん、は、一体どこからそんなにお金を出してるんですか? 依頼を多くこなしてるとはいえ、そんなに贅沢出来るほどではないと思うのですが・・・・・・」
ギルドの受付嬢からだ。この町には頻繁と言えるほどではないにしろ、近くの都市から商品が運ばれてくる。生活に欠かせないものから全く役に立たないものまで、多様な品々がやってくる。中には娯楽品や装飾品などもあった。最近のシュリィはそういったものへの散財が酷く、シュリィのせいで近くの都市から運ばれてくるものが多くなったほどだ。今も輝く宝石などをこれでもかと身に着けている。
さすがに受付嬢やそれ以外の人達も怪しいと思い始めたのだろう。
「そうかしら? ちゃんと依頼の報酬で得たお金以外、私は持ってないわよ? それとも何、私が怪しいって疑ってるの? もしそうなら、今受注してる依頼、全部取り消してもいいのよ」
「あ、い、いえ! そういうわけでは! シュリィさん達には頑張ってもらってますし、このギルドの営業成績も上がってきてます。これもシュリィさん達のおかげです」
「ふふん。そうでしょ!」
受付嬢は立ち去ってしまった。結果としてはシュリィをさらにつけ上がらせただけで、逆効果だった。しかし彼女は、怪しまれていることに危機感を感じていたようで、遺跡のことを非常に心配していた。シュリィの贅沢は、依頼の報酬によるものに加え、遺跡の財宝を持ち出して使っていたからだ。
「どうしよう。アイツらにバレたりしないわよね?」
「大丈夫ですよ! あの遺跡は選ばれた者だけが立ち入ることの出来る特別な場所ですから。それ以外の人々には見ることしか出来ません」
ファヴニールが不安がるシュリィに説明する。言ってほしいことはそれではなかったのだが。
「ほんと!? なら大丈夫そうね!」
そこからシュリィの浪費はさらに拍車のかかったものになる。頻繁に遺跡に通ってはそこから財宝を持ち出し、以前よりもさらに多く使うようになった。
「シュリィ、最近調子に乗り過ぎじゃない? なんかあれだけ派手だといよいよバレそうっていうか」
「そう、ですね。少し心配です。バレるバレないじゃなく、シュリィさんの金銭感覚が。何も起こらないといいんですけど・・・・・・」
両道とヒロナの不安は現実のものとなる。ある日、彼女のスカートのポケットから、コインが1枚落ちた。それは発行流通している正規の貨幣ではなく、遺跡に眠っていたものだ。それを拾った受付嬢が、そのことに気付く。
「これはどこで手に入れたものなんですか? もし他に持ってるなら全部ギルドに提出してください。調査の必要がありますから」
「持ってないわよ! それにそれは私のよ!」
「調べさせてもらいますね。他にあったらそれも全て回収しますから」
「ちょ、ちょっとぉ! やめなさいよぉ!」




