二日目02
今作から少し短くなります
携帯では編集しづらいという私個人の身勝手な理由からですがご了承下さい
尚、場面の分割化を計る代わりに話の密度は上げたり更新間隔を短くしたり努力致しますので今後も応援よろしくお願いします
早朝
夏とはいえ日の出たばかりの大気は少々肌寒い
高度が空に近くなればなる程、地上からの放射熱から遠ざかっているビルの屋上は気温が低いからだ
それが分厚い雲の影に隠れているなら同然の事である
そして、とあるビルの屋上の一角に人影は立っていた
いや、人影と呼ぶには未だに適切とは言えないかもしれない
その人影は濃紺のレインコートを纏っていた
この天気の中では不自然な格好ではある
雨除けにしては上空は分厚い積乱雲に空の青色が隠れているとは言え、雨が降るには足りないように思える
それに空の七割が雲によって覆いつくされてはいるが残りの三割の空からは青々とした霹靂が拝めた
どう考えても雨具のレインコートなど不要の長物である
だというのに
その人物はそれが同然であるかの様に自然な振る舞いを見せていた
ビルの屋上に暗い色のコートを羽織った謎の影が立っている
それはシーズン真っ盛りの怪談ネタになるくらいには異様な光景だった
「天気は悪くない。絶好とは言い難いが…」
ふと、人物が独り言が漏れる
低い声から察するに性別は男のようだ
しかし、それだけでかの人物の正体を推し量るには材料が足りなかった
(ニルによるとネズミが一匹張り込んで居るらしいが、果たして計画にどれほどの支障が生じるだろうか?)
彼は腕を組み黙考しているようだ
人波に紛れ込んだら決して周囲に溶け込めないであろうその姿とは意外な位、その男は物静かな空気を己が周りに放っていた
(さて、そのネズミとやら…この俺をどこまで楽しませてくれるのだろうか?)
コートの男が微かに笑った様な気がした
それは見た目では全く判らない。彼の持つ空気の変化だ
例えるならば、質素な造りの太刀が白刃を晒したとき人に与えるような危険な鋭さ
つまりは剥き出しの凶暴性、忌み嫌われる暴力の証
(実験のついでになるだろうがネズミの方とも楽しませて貰う)
男の肩が微かに震えている、恐らく笑っているのだろう
男の空気は先程の物静かな様相を既に捨てていた
いま彼の人物を纏う大気はピンと張り詰めた真冬の空気の如く、鋭く冷たい
「さて、始めるか」
男の独り言が空中に霧散する前には屋上でコートの姿は確認出来なかった
言っておくが、彼が普通に降りていった形跡は無い
ちなみに此処は、三十階建てのビルの屋上である
元々、そんな場所等には存在しなかったかのように一片の痕跡も残さずコート姿の人物は消失していた
まるで、その存在自体が幻だったかのように