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間章 1

この建物は何かの研究所らしかった


照明が暗く判別が付きにくいなのは確かだが大型トラック二台分くらいの幅を誇る通路両脇にズラリと規則正しく円柱状のガラス槽が多数並ぶ様はなかなか壮観でありそうそうお目にかかれる光景では無いだろう


そのガラス槽を満たす溶液の中に何かが入っている


ここの薄暗いフロアでは判別が付きにくいがシルエットを一見すると体を丸めた猿の標本が浮かんでいるかのようだ


しかし、よくよく目を凝らして見てみると猿にしては大き過ぎる上、毛布のような薄茶色の体毛も生えていない

そして、ソレは代わりにきめ細かい綺麗な質を持つ極めて白に近い薄ピンクの皮膚が表面を覆っている

ただ、その皮膚は生命を喚起させる赤みがかった肌色ではなく、どちらかと言えば腐敗する前の水死体の如く血色が抜けすぎて青ざめていた気がするのだが


そう、おわかりになられただろうが、これはれっきとした人間である


否、だったと言うべきだろうか?



それを証明するのはただの前日にこの場所であった出来事だった



















「………」


ここに、ある人物が居た


白い白衣を纏う人影は培養槽を見上げ、なにかを思案しているようにも見える


一言で表せば、その人物は美しかった

僅かに紅みを帯びた黒瞳、鼻孔、唇のラインは奇跡的なレベルで整っており古代の芸術家が大理石より削りだした伝説の神々の像の如く荘厳なイメージを見る者に抱かせる

そして日光を反射して輝く絹を連想させる白に近い銀髪

その人物の雰囲気そのものが澄んで見えのであった


このような人間は滅多に居ないだろう

よほど人生経験豊かな老人か、生涯中にかなりの仁徳を収めた聖人か、ましてやこの世の毒を知らぬ生まれたばかりの無垢な赤ん坊か

もしくは、自分の信じた道を如何なる手段に頼ってもひたすらに進み通す邪教の信徒か

その男とも女とも言えぬ中性的な美しさを持つ人物は極端な言葉で示すのならそのような雰囲気を身に纏っているのだった


『PRRRRRRR♪』


携帯電話のでありふれた着信音が薄暗い通路内で反響する

デフォルトのままで変更すらされてない着信音すらもこの無色の気を纏う人物には似合っているようにも思えた



人影はポケットより携帯を取り出し少し億劫そうに耳に当てる


「ロウガかい?」


電話に答えた声は限りなく中性的なソプラノ

声質から判断するにこの天使のような容貌を持つ人物は少年らしい


『そうだ。ニル

そちらの準備は完了したか?』


“ロウガ”なる通話相手に彼――ニルが答える


「こっちの方は大丈夫だよ

拉致した一般人の試作ゴーレムの準備はさっき終わった

調整に色々苦労したけどね」


言い終えるなり電話を持たない手を顎に軽く当ててクスリと笑う

その仕草は少女のように可憐なものだ


『そうか

では俺は監視任務を続ける

計画の実行は明後日だな?』


「うん

“浸食体”とターゲットの融合実験は二日後だよ」


ロウガが戸惑ったように尋ねた


『…お前に意見するのも気が引けるのだが

ターゲットを拉致して専用のラボでやったほうがより確実な成果が出ないか?』


ロウガの疑問にニルはすぐさま返答する


「適合実験は野外でしたほうが沢山のデータが得られるからさ

それに僕らの“スポンサー”もいかなる環境でも適合するモノを求めているんだ

無菌に洗浄された綺麗な研究室では発生しないイレギュラーもあるから外で実験しないと充分な結果が出ないだろ?」


『……』


「それに街中ではゴーレムや融合細胞のエサがたくさん住んでいる

今まではコソコソやってくしか無かったけど今回は自由にやっていいらしいよ

余程、兵器として早い段階で実用化したいんだね

これは僕の提案だけど許可したのはこの国お偉方さ

仮初めの対面ってヤツもあるから渋るかと思ったけど意外とすんなり提案が通っちゃったから拍子抜けしたさ

かなり戦争をする道具が欲しいんだろうね

それともよほど――」


――同族殺しが好きなんだろうね?


言葉の後半は唇の動作だけで紡ぎ、声に出さなかった


『了解した。

俺はお前に言われたことをただやるだけだ

異論は無い』


「ありがとう、ロウガ」


ロウガに礼を告げた後、少年は天使のように微笑んだ


電話が切れる


少年は携帯を白衣の中に仕舞って、広い通路を更に進んだ


しばらく行くと通路の中心に両脇にある培養槽と比較にならない通路の半分のスペースとほぼ同等の大きさを誇る培養槽の前に立つ


その中に入っているのは他の培養槽と同じ“ゴーレムのなり損ない”ではなかった

そこに入っているのはそれよりも小さかった赤黒い塊が毒々しい緑の溶液の中に浮かんでいる


ニルはその肉塊を一瞥し、先程とは違った明るい微笑を見せる

それは――何かに対する期待感だろうか

そして彼は巨大な培養槽

いや、その中に浮かび脈動している醜い肉塊に向かい語りかけた


「もうすぐですよ

おそらくは姉さんも計画を嗅ぎ付けて来るでしょうから今から楽しくなります

だからあなたはそこで見守っていてください


僕達の業を」


そしてニルは培養槽に背を向けて、歩いてきた道を戻って行く


その間、彼は振り返る事はしなかった



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