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二日目04

しばらく走った末、空は喫茶店のドア前に着いた


マスターの喫茶店は今時店舗の入り口としては珍しく木製のドアを採用しており隣に置いてあるサボテンの鉢植えと共に珍妙な雰囲気を醸し出している


マスター曰わく自動扉を採用する店も増えてきているらしいが彼の趣味により入り口にはドアを付けたらしい

尤もここから中が見えないお陰で何も知らない人からはいかがわしい店だと見られている事もあるという

どうでも良いような事を思い出して空は嘆息した


とりあえずマスターに話をしないと


ドアノブを開けようとする


(…………?)


鈍い真鍮色のノブに手をかけようとしたときにどこからか視線を感じた


(なんだ

見られているのか?)


空は訝しげに思って辺りを見回してみたが誰も居なかった


(―――気のせいか)


視線なんて野良猫や烏にも出せるものだと半ば強引に自分を納得させ、空は店に入った










「うぃーっす!」


マスターはカウンターには居なかった


(今日、留守なのかな?

でも、ドアには営業中の札が架かってたし)


その時、突然


空の近くのテーブルからトンと何かを置くような音がした

見ると普通のガラスコップ、中にはマスター特製のカフェオレが入っていた


そしてそこのテーブルに座っていたのは

「マスター!」


マスターはびっくりした様子の空を見、壮年の彫りが入った精悍な顔がいたずらっ子の様に綻ろんだ


「どうしたんだいくう

今日の君は私に何か用があるのか?」


ズバリと図星を刺された空はあちゃーという感じで自分の頭を軽くたたいた後に答えた


「なんで判ったんですかマスター?」


マスターは曖昧に笑いながら答える


「さあね。

伊達に何十年も人間やってる訳じゃあないからね

君の考えてることはだいたい顔にでてるよ

で、用件は何だい?」


すぐに空は話し始めた

宗が昨日此処で話した連続通り魔殺人の裏に何かあると睨んでいること


彼がなるべくこの事件の概要を知りたがっていること

そんな宗に昔からの友人である自分が力になりたいということ

宗がマスターから話を聞きたがっていること


要約すればだいたいそんな事だった

全てを聞いたマスターは静かな面持ちで空に言った


「空君。

残念だけどその頼みは聞けないな」


「何故ですか?」


不思議に思って空は尋ねる

マスターなら快く引き受けてくれると思ったからだ


「昨日はほんのさわりの部分しか君に話していない

それで諦めるもよし、このことを忘れるのも良かった」


マスターが目に真剣な光を湛えて空を見る


「君は、これ以上この事に関わるのは止めた方がいい」


「それは…」


マスターがぐいっと詰め寄って来る

それほど広いとは言えない店内で平均より高い背の彼はより大きく見える

尋常じゃないと感じた

マスターの気迫に負ければ彼の知っている事を宗に聞かせる事が出来なくなってしまう

空は今のマスターが怖かったが、友人の役に立てないのはもっと辛かった


「マスター」


空はマスターの目を見た


「それでも、です。

お願いします

宗と話してください

あいつはこの事件の真相を自分で掴みたいだけなんです

だから――」


マスターは鋭かった視線をいきなり緩めて、にこりと笑う

それだけでこの狭い空間の空気が軽くなったかのように空は感じた


「君は本当に友達想いだね」


空は先刻からするとマスターの雰囲気と同じく弛緩した空気に安心した

彼からは了承の言葉引き出せる

そう予感することになんの疑いも無かった

そしてマスターの口が開き


「ダメだ

余り話したくは無かったがキミはこれ以上関わっちゃいけない」


「それはどういう――――」





「こういう事だ」


空でもマスターでもない第三の声が場に割って入った瞬間

木製のドアが半ばから綺麗に切断され店内には真っ二つになった木片が転がり、バタンと、音を立てた

空とマスターは同時にドアがはまっていた剥き出し入り口の見た


その音は空達以外の存在の乱入の証であり



そいつは切断され入り口近くに転がった木片を邪魔そうに蹴飛ばすコート姿で顔まで隠した謎の不信人物だった


「よう。被験者」


そいつは全くの場違いな行動を侵しながら、空に向けて旧知の友人のように軽く片手を振った


そして、この出来事は日常を破壊する『きっかけ』に過ぎなかった事を空は後から思い知ることになる


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