二日目03
日常描写は難しい
神城空はマスターの喫茶店へ向かっていた
その様子は心なしか何時もより急いているように見えた
空自身、親友の甲田がマスターに会って話を聞いてみたいと言うのをいち早くマスター自身に伝えるためだ
そのため、彼はバイトの昼休みが訪れるとすぐに弁当箱を包んだ袋をひっつかんでマスターの喫茶店へ急いだのだった
途中でバイトの店長に見つかり変な顔をされたのだが強面に見えて実は人の良い彼はそれくらいの事で空を注意したり、引き止めて理由を尋ねたりはしなかった
せいぜい少しばかりは仕事中に話題に出すだろうがそれ以上の検索はしないだろう
その事は空も判っていたためにあまり気にしなかった
空自体人付き合いには中学校以来あまり無頓着になっていたために空のプライベートにあまり干渉してこない知り合いはありがたいものである
尤も、彼自身が集団行動に疲れ、変わり者である宗とばかり連むようになったというのも一つの原因では有るのだが
彼と組めば大抵の事は娯楽になった
例えばヒトラーは犯罪者扱いされてるのに共産主義者で長年に渡り敵対者を粛然してきた毛沢東が英雄視されるのがおかしいとか
UFOが実はドイツ軍が宇宙人の技術を使って開発した戦闘機で終戦後アメリカ軍が摂取しただとか
有史以来続いている皇族の血で血を洗うような継承者争いは未だに続いているだとか
他人が耳にすれば変な顔で苦笑されるような事を宗は明日の天気を予想するかの如く普通に言っており、空自身歴史には興味を抱いていたので、それで日が暮れるまで何度も口論したものだ
そんなときは決まって宗はこう言った
「いいか?
俺は他人に押し付けられた見方は納豆と同じくらい嫌いだ
だから、俺は自分の目で真実を見極める努力をする
俺はあらゆるものに覆い隠されている裏側にある真を垣間見たいんだ」
宗は譫言のように口ずさむその言葉はを話すときの彼はいつものようにふざけた様子もなく、目には真剣な光を宿していた
その時の彼は同世代の誰よりも大人に見えた
その時から空は宗をなるべく手伝おうと思った
親友として
正直昨日宗と話したとき彼が昔のままの宗でいるか不安だった
しかし、彼が『真実を見たい』と口にしたときにはその懸念は霧消していた
そして、彼に協力しようと決意したのだ
昔のままに堕落せず、己の目標を見失っていない宗に彼は密か憧れたのだ
その思いを胸に彼は喫茶店へと向かった
マスターに宗と話して貰うために
彼が彼なりの真実に近付けるように
遥か昔に道を見失った自分は宗を追いかけていればきっと何か目的が見つかるだろう
その時の為に今は全力で宗の為になるようにしたい
太陽に誰もが憧れるように、目を灼かれ、翼を溶かされながらも天を目指したイカロスの様に
空「…宗」
宗「どうしたんだ?空」
空「俺…お前の事が――」
宗「止めてくれ
その先は知りたくない
そんな真実知りたくない
だから止め………アッー」