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美女?と野獣の異世界建国戦記  作者: とりあえず
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始まって、終わる

 王様になったところで、おれに仕事があるわけではなかった。おれはニートの宿命から逃れられないカルマなのだろうか。

 いや、確かに戦争終わった直後こそナチュラルハイってやつだったんだけど、時間が空くととたんに魔法の使いすぎで寝込んでしまったのもある。だけどさ、その間におれ抜きで回る仕組みを整えるのなんなの? 有能なの? 


 国として再建されていくネーストを窓から見下ろして、おれはカップケーキを頬張ってもぐもぐ。超天級モンスターの加護があると理解した人々の顔に確かな安心が浮かんでおり、おれがしたことは無駄じゃなかったんだと誇らしくなる。


 戦争に勝ったことで、おれらは自分の国としての地位を確固とするものにできた。その旗頭としておれは結構注目を集めたらしく、この美少女フェイスがこういうところでも役に立ったのだなあと感慨深くなる。最初はあれだけ嫌だったのに。

 今では『竜の巫女』だの『白織の姫君』だの脚色含めの人物像が世界を飛び回っている。実態はただのニートなのだけどな! ああお茶がうまい!


「お元気になられたようで、何よりでございます」


 執事服のブレズが嬉しそうに喜色をつぶやいた。完全戦闘職の彼は、こうして戦争以外ではおれの執事として収まることになったようだ。執事兼近衛兵といったところか。

 そもそも軍隊とか持たない国だから、隊長もなにもあったものじゃない。竜は戦闘以外の仕事がなく、最近はお菓子作りの腕もかなり上達した。平和だなあと思うし、本人もまんざらではなさそうだ。


 そういえば、おれはあの後寝込んでしまっていたので、あの後どうなったのかあまり理解してないんだった。王様としてどうなのって体裁だが、聞かぬは一生の恥なので今のうちに聞いてしまおう。


「あの後ですか。ノレイムリアとの同盟は成立しましたし、飛び地を発展させるためにホリークはポータルの建設作業をしております。また、そこに街を作る計画をしておりますし、このギルドも王宮にする計画も進行中です」

「あー……そりゃここはお城にするよね」

「ここは王都ですから」


 にっこりと竜はいうけれど、本格的にここは国になったんだなあと実感が襲ってくる。戦争をしただけで気をやられるおれが王様かあ。死にそう。

 でも、日本という温室育ちにしては、頑張ったほうだと思うんだよなあ。なのでそれとなくほめてくれと伝えると、ブレズはとても温和な笑みを浮かべてくれた。


「はい。姫様は大変頑張っておられると思います。従者として、私の鼻も高いというものです」


 ものすごくストレートに言われると、照れる。この竜はとても素直なので、これが嘘偽りない本心なんだろう。おれの子の中でも、こいつはべた甘な部類だ。いや、全員べた甘だわ。

 おれは結構単純な男なので、こうして手放しに褒められて悪い気はしない。それに、頑張ったのだからという気持ちはあるし。なので、そういってもらえると素直にうれしい。


「ありがとう。こうして褒められると、頑張ったなって思うよ」

「姫様の頑張りは、この町で知らぬ者はおりませんよ。その健気な姿勢こそ、尊いものと思っております」

「……さすがにほめすぎじゃない?」

「本心からですよ」


 そうしてまたにっこり。体は群を抜いていかついのに、こんなに柔らかく笑えるんだからすごいと思う。剣をふるっている時とのギャップが相変わらず激しい奴だ。

 これ以上は過剰摂取なので、照れが勝ってきた。おれは会話の方向転換を図り、気になっていたことを口にする。


「イグサたちの経過はどうだ?」


 おれが帰ってきたときにはほとんど灰になりかけていた親子。なけなしの魔力を振り絞り、なんとか蘇生に成功していたはずだ。あいにく、あの時は他にも魔法を振るわなければならなかったので最低限しか施していないため、その後のことはよく知らない。


「ええ、無事に体も戻り、元気にしておりますよ。ステラにいたっては、魔法をうまく扱いたい、とホリークに先生を頼み込んでます。この国が落ち着けば、ホリークに魔法学校を開かせてもよさそうですね」

「でも、あいつって絶対教えるより勉強するほうが好きだろ。めんどくさいの一言で切り捨てられそうだけど」

「そうですねえ。姫様にでも言われない限り、まあありえないでしょうね」


 なんて言って二人して苦笑する。窓から差し込む陽気のようにまったりとした空気が流れ、おれの凝り固まった緊張がどんどん弛緩していく。

 こいつといるのが一番のんびりできるかもしれないな。何も話さなくても、苦に感じない。最近ヴァルがブレズをよこすのはそこら辺を見込んでのことなんだろう。


 そんなことでうんうん悩んでいると、なにやらとんでもない発言が竜から吐き出されたではないか。


「もしまだお疲れでしたら、この胸をいつでもお使いください」

「は?」


 お前唐突に何言ってるの? そんなこと言うキャラじゃなかっただろうが。


「ハンテルから話は聞きました。姫様を癒すには抱擁が一番だと。硬く無骨な体ではありますが、もしご入用でしたらいつでもおっしゃってくださいませ」

「あのくそ虎!」


 思わず美少女にあるまじき暴言が飛び出すが、ブレズはきょとんとした顔で何が悪かったのかわからず目を点にしている。こいつにやましい気持なんかないのは知っているが、おれのプライドにかけてもうそんな醜態は許されない!


 それでもハンテルとは違い父性の塊であるブレズに言われると、男としてのプライドをもってしても若干揺らいでしまうのが恐ろしい。こいつは人を甘えさせることに関しては随一だと思うんだ。


「先の戦争でまったくの役立たずだった私でございます。この体を使われることこそ本望というもの。何かあったら、遠慮なくお使いください」

「予想はしてたけど、まだ根に持ってるんだな……」


 頭にくそが付くほどの真面目なブレズだし、そんなことだろうとは思ったさ。

 でも、言い方がいちいちマゾいんだよなあ。本人絶対気づいていないけど。こいつは自分のことを騎士であり剣だと思ってるからこんな物言いになるんだけど、それは他の人に伝わってないんだよ。頼むから人前では控えてほしい。


 このままだと更なる醜態をさらすことになりかねないので、話題転換として温かい紅茶を飲みながら今後について尋ねていこうか。


「そういえば、労働力はどうするわけ? 町からまだ発展したばかりで、そこらへんが足りないと思うんだけど」

「その通りでございます。この国はビストマルトの中にあり、交通の便もあまりよくありません。移民希望がいたとしても、それをかなえるのは難しいかと思います。なので、飛び地のほうで募ることにいたしまして、そのためにホリークが精いっぱい急いでおりますし、レートビィも飛び地の守護にいそしんでおります」


 ふうん、なるほどね。そりゃビストマルトからしたらこの国に兵力を与えたくないだろうし、交通手段には目を光らせるよな。ノレイムリアから飛び地をもらってなかったら、先細りする展開だったのか。

 すると、今度は飛び地に接しているヨルドシュテインがどう出るかが問題になってくるのね。大国二つを相手にするこの立地最低すぎるでしょ。


 国として動き出してきたなあ。んで、おれは何をすればいいんだ? 王様だぞ?


「姫様には、我々が固めた案に目を通していただければと思います。気が進まないようでしたら、私が要点だけを口頭で伝えさせていただきます」

「至れり尽くせりかよ。でも、今聞いた感じだと当然のことをしてるだけだし、口を挟むものもないなあ。ちなみに、他のみんなは何してるの?」

「ハンテルは結界整備に明け暮れております。今度はビストマルトの兵器に負けないものを作ると意気込んでいますので、達成した暁には、どうか褒めてやってくださいませ」

「あいつはそれをやる気の動力源としてるからなあ……いやいいんだけど」

「ゴウランは町の代表として、意見をまとめて改善案をこちらに提案してくることになっています。その時に税の問題を話し合うつもりですので、良い結果になるよう努力いたします」


 税収とかニートの必殺技じゃん。おれのニートがさらにはかどるってやつだなつらい。血税をむさぼってニートするって本当に神経が太くないと無理だと思うんだ。おれには無理。

 んでも、外貨とかはどうするんだ? さすがに交易なしじゃつらいんじゃないのか。


「そこなのですが……われらの国には主要な産業もありませんので、外貨の獲得が難しい状況となっております。何か交易に使えそうなものがあればいいのですが、今のところ頭を悩ませている問題ですね。一応ホリークたちの作った魔道具は高値で売れますが、それで国を賄えるかというと難しいところですので。なにせ数が足りません」

「ふうむ、ビーグロウのいう通り、戦力の貸し出しとかしかなさそうなんだよなあ。ギルドの依頼をこなして回る戦闘国家みたいな」

「その間この国が手薄となりますから、あまりお勧めできませんが……」

「あー……あー……なるほど、そりゃそうだ」


 やっぱりお金を稼ぐっていうのは難しいな。ニートとして良心の呵責に耐えられないぞ。


 おれは椅子の上で思いっきり伸びをして、今後の不安をはねのけようとした。女の子としてはマナーが悪いだろうが、ブレズしか見てないんだ、許して。


「んー、どっかから国民が降ってこないかなあ。そうしたらいろいろ手が出せるんだけど」

「まったくです。産業よりもまず、国民を増やすところから始めないといけませんね」

「前途多難だなー。おれにできることがあれば、何でも言っていいからな」

「かしこまりました。姫様はこの国の象徴ですから、祭典などではぜひお力をお貸しください」

「……できれば目立たないのがいいなー」


 人前で祭事とか死ぬでしょ。でも、何でも言っていいって言ったばっかりだわ。自分で自分の首をしめてるじゃねえか。


 なんていったて、おれはスーパー美少女だからな。おれが笑顔で国民を募集してます! とか言えば何人か来てくれないかな。……あれ、これだとおれの仕事ってアイドルになるじゃん。国王でアイドルとかラノベでよくありそう。


 おれが自分にできる仕事を探して頭を悩ませていると、ブレズが控えめに声をかけてきた。それがあまりに弱々しかったので、おれはちょっと驚いてしまう。


「姫様、そのぅ、お気に召さなかったでしょうか?」

「え、何が?」

「われらが姫様を担ぎ上げ、建国したこと。行き過ぎたのではないかと。こうしてゆっくりとした時間を姫様と過ごしていると、もっと安穏とした暮らしが似合っているように思えたので……」


 唐突に何をいうんだこいつは。なんで自分の責任だと感じちゃうんだろうか。

 おれは竜の目を見つめ、しっかりと否定してやる。おれがここにいるのは、おれが決めたからだ。


「なので、お前が気にすることはないからな。それより、お前のほうが強いんだし、おれに従うよりも一人でどこかに行ける未来があったのに……本当に、いいんだな?」

「もちろんでございます」


 返事は即答で、しかもきっぱりと。竜は誰にはばかることなく、おれに仕えたいと言った。


 それがとてもうれしくて、一人じゃないってことがすごく頼もしくて。

 これから絶対めんどくさいことや不愉快なことがたくさんあるだろうし、おれが元の世界に戻れたり男になれる保証なんてどこにもない。


 だけど、こいつらがいてくれるから、何とかなるんじゃないかって思う自分もいる。思わず笑みがこぼれたら、ブレズも呼応して笑い返してくれる。それが、とても心地よい。


 一人で引きこもってゲームに明け暮れていたおれだけど、こうして実際に動くこいつらを見て誇らしさすら感じている。


 画面の向こうの世界。おれが知らなかった、異形の友達。

 最初こそ恐ろしいと感じていたけれど、こいつらはおれのことを慕ってくれていて、おれもこいつらのことを慕っている。


 だから、それでいいんじゃないかな。


 ブレズはドアをちらりと見て、もう一度おれに向き直る。その顔は、どこか楽しそうだ。


「私だけではありません、もちろん、全員が同じように返すでしょう。みんな、貴方様のことが大好きなのですから」


 すると、勢いよくドアが開き、ハンテルが入ってきた。その後ろにはヴァルを含めた全員がいる。


「ひーめーさーまー! おれも! おれもずっとここにいるから!」

「僕も! 早く大人になって、役に立つように頑張るからね!」

「聞かれるまでもない。当然おれも残るからな」


 びっくりして入り口から流れ込むやつらを見ていたら、最後に入ってきたヴァルと目が合った。


 狼はちょっとだけ申し訳なさそうに眉を下げたけど、すぐに恭しく一礼をした。説明がほしいと思っていたら、狼はきちんと答えてくれる。


「せっかく勝ったのですから、宴でも開いたらどうかとハンテルに言われたので……。サプライズのほうがいいとも」

「だって、そのほうが絶対楽しいだろ! 姫様最近疲れてたし、ここはおれらが一肌脱がないと!」


 なんだかいつもより元気なハンテルがしっぽを振り回しながら笑っている。その横でレートビィがにんまりと笑んでいて、サプライズが成功したことに満足そうなのがわかった。


 いやだから、そういうのはおれも呼べって言ってるだろうが! 敬われてるせいか、おれだけのけものなのが多くないか! サプライズしてくれる心根はうれしいけど、また準備手伝えなかっただろうが! バレンタインの時にも同じこと言ったぞ!


 決めた。おれの目標はこいつらと仲良くなることにする。もっと仲良くなって、居心地のいい空間にする。せっかく建国までしたんだ、今度は人間関係をよりよくすべきだろう。

 今でも十分かもしれないけど、やっぱりどこか一線を引かれてるのは感じてしまう。まるで、おれの気を引こうとしているように。なんだか他人行儀なのもなれないし、これからはもっとおれもぐいぐいつっこんでいくべきだろう。


 でも、見た目完璧美少女だから、どうやってせまっていけばいいのか。

 ……まあいいや。とにかく今は宴を楽しもう。せっかく準備してくれたんだ、ねぎらうのは当然だ。


「ありがとう、みんな。おれも、みんなのことが好きだからな」


 にっこり笑って、みんなの後についていく。

 冷静沈着なヴァル、おっとり包容力の申し子ブレズ、うるさいけど細かいことに気が付くハンテル、いつも元気いっぱいに頑張るレートビィに、不器用だけど優しいホリーク。


 おれみたいなふがいない王様ができたのもこいつらのおかげ。

 これからどうなるかわからないけど、おれはおれのできることをしよう。


 ――――おれの建国戦記は、始まったばかりだ。

ご愛読ありがとうございます。長々とお付き合いいただいて、感謝しかありません。

これから後日談が少しありますので、そちらもご一読いただければ嬉しいです。

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