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美女?と野獣の異世界建国戦記  作者: とりあえず
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(番外編)ヴァル君にお休みを

 うららかな昼下がり、爆弾は唐突に落とされた。


「はあ、レートビィがヴァルの仕事を手伝うと?」


 部屋でニートしているときに唐突にヴァルに言われたが、そうか、としか言いようがなかった。確かにヴァルは働きすぎだし、少しくらい休んでもいいと思う。


 だが、なぜこの狼は頭痛を抑えるような顔をしているのだろうか。


「もちろんお断りしましたが。姫様に何かあっては一大事ですので」

「いや、そんなに心配することでもないと思うんだが。ブレズだって最近は執事が板についてきてるし」

「いえ……姫様の作りし傑作に文句を言うわけではありませんが、何事にも得手不得手がございます。特に、ブレズとレートビィの組み合わせは目に余るものがあります。まだハンテルのほうがましという恐ろしい事態です」

「そこまで言うのか……」


 ヴァルがハンテルのほうがましっていうのは相当ひどいぞ。そりゃ、ハンテルは性格こそおちゃらけているが、性能自体はかなり優秀だけどさ。


 いったい何がヴァルをそこまで憔悴させているのだろうか。こっちとしても興味があるので、今のうちに聞いておこう。


「ブレズについては言うまでもなく、彼は少しでも慌てると信じられないミスをするのです。この前もお茶を沸かすときにポッドに入れるはずがなぜかそのままシンクにすべて捨てておりました。そしてそのまま固まって自分のしたことに瞠目。おかげで姫様にお茶をお出しする時間がわずかに遅れてしまいました」

「まあちょっとぐらいは誤差だからそこまで気にしないけどさ。……そっかあ、そんなミスするんだあいつ……」


 あんな包容力の塊なのにドジっ子なんだもんなあ。ちょっとちぐはぐすぎませんかね。


「それでも最近はおとなしくなったほうですが。このまま成長してくれれば御の字です」

「今後に期待しよう。でもそんなのは前からだろうが。なんで今更?」

「……姫様はご存知かもしれませんが、レートビィは加減を知りません」


 ごめん全く知らなかった。確かに精密な作業をさせたことはないけど、盗賊職でそれはさすがにまずいのではないかな。


「仕事はまじめです。特に探索と鑑定などの作業に関しては鼻歌交じりでもこなしますし、射ることに関しては目をつむってでも的に当てて見せるでしょう。その反動か、元来の優秀さと相まってやる気の空回りがすさまじいのです」

「あー……そういえば最初の盗賊退治のときも手加減ミスってたなあ」

「基本的に加減が苦手なのでしょう。たいていの作業をやりすぎるという癖がそこから生まれております。この前はホリークの作業を手伝うと言って、すべての本を散らかしました」

「それ手伝ってなくない?」

「彼にとってはそれが手伝いなのですよ。なにせ盗賊系スキルのおかげで乱雑とした場所でも物のありかが手に取るようにわかるのですから。散らかってようが片付いていようが関係ないのです。ホリークにとってはそうではないので、本の山を自分なりに整理するのに一日を費やしたそうです」


 やる気もあって性能も優秀。だけど手加減を知らない。


 それは確かにヴァルの辟易とした感情も理解できるというもの。というか、もし執事を手伝ってたらそのしわ寄せが全部おれに来そうだな。


「ちなみに、レートビィは図書館に出禁を食らいました」

「……それで依頼をこなしてるわけか」


 モンスターならミンチにしても問題ないしな。しかし、それだとレートビィにできる仕事ってあまりなさそうだな。おれよりは多いだろうという点には当然目をつむるとして。


「そうですね。しかし、やる気だけは有り余っておりますので、どうにもブレズが根負けしてしまいまして……」


 そこまでヴァルがしゃべっていると、頃合いを見計らったように扉が勢いよく開いて、小さな執事が顔をのぞかせた。続いてブレズがやってきて、二人は声を張り上げる。


「失礼します!」

「失礼いたします姫様。ヴァルから話は聞いているかと思いますが、レートビィも姫様の役に立ちたいとのこと。ぜひその働きをご覧ください」


 レートビィは小さな体をヴァルたちとおそろいの執事服で着飾り、満面の笑みでこちらに歩み寄ってくる。その姿はほほえましいの一言に尽きる。彼からすると大きいであろうトレーを持つ手はたどたどしく、傍で見ているブレズなんかもうそわそわと尻尾が動いてしまっている。


 だが、さすがにブレズじゃないんだからこけたりすることもなく、おれの机にしっかりとトレーを置いてくれた。


「はいどうぞ姫様。ブレズに習ってお茶を入れてみました。お口に合えば、えっと、災害です」


 微妙に間違っている言葉をもらいながら、空のカップが目の前に置かれた。レートビィからすると机の高さは顎くらいの位置にあり、ぎりぎり届くかどうかの高さで頑張ってお茶を入れようとしてくれる。


「待て」


 ポッドの口から今まさに注がれようとしたとき、なぜかヴァルが待ったをかける。そのまま狼はポッドのふたを開け、鼻を引くつかせたのちにこう言った。


「レートビィ、これはどういうお茶だ?」

「これはね、姫様に元気になってもらおうと思ってホリークからもらった栄養剤を入れてあるんだよ」

「その栄養剤の中身は」

「えっと、確か、コウゴウギョの心臓とマスラステラの血とハナカンムリの根っこ、だったかな。他にも……」

「もういい。ちなみにホリークにはこれをお茶にするとは言ったのか」

「ううん、言ってないよ」

「そうか。これは捨てるぞ」


 さすがヴァルさん容赦ねえな。むっとした表情は怒ろうか悩んでいるといったところか。ブレズもレートビィも完全な善意で行動するから、余計こじれそうになってるな。


 やりすぎだとは聞いていたが、効率厨だとは聞いてなかったぞ。どうせお茶を飲むなら栄養価が高いほうがいいという思考の下、味を度外視して効率を求めに来たか。こいつ絶対料理下手だろ。


 結局ヴァルは味が大事だとたしなめて、レートビィのポッドを没収した。幼子の涙目による攻撃などどこ吹く風で、ヴァルは眉一つ動かさない。

 捨てるのももったいないので外の農作物にやってみてはどうだろうか。栄養はあるみたいだし。


「申し訳ありません姫様。今新しくお茶を入れなおしますので」

「もう、ヴァルはきちんと休んでてよ。僕とブレズだけでもなんとかできるんだからね」

「断言してもいいが、絶対に無理だ。お前らのせいで私の胃に穴が開いたらどうしてくれる」


 あの二人だけで何とかなるというのはおれも疑問だが、確かにヴァルは少し休んでもいいかもしれない。こいつは常に働いているし、いい機会だと思って。


「姫様のご厚意は感涙にむせぶほどうれしいのですが、目を離すとギルドが壊れかねません」

「いや、さすがにそれは言い過ぎなんじゃないかな」

「そうそう、僕だってそれくらいに分別は持ってるよ」

「だったらこうしよう、おれの部屋で一緒に休めばいいんじゃないかな。それなら監視もできるし一石二鳥かな」

「……かしこまりました。姫様がそこまで言うのでしたら」


 しぶしぶヴァルが了解してくれて、おれの背後に立つ。


 いやいやいや、どうせなら向かいに座ってよ。それは休んでるうちに入らねえだろうが。


 そこまで強く進めて、ようやくヴァルは向かいに座ってくれた。凛と伸びた背筋で向かい合うと、真っ赤な瞳がおれに降り注ぐ。作り物のように精巧な相貌に見つめられると、ああ、こいつって本当にかっこいいんだなと思い知らされる。狼男なんてもっとぼさぼさした毛皮の粗暴なキャラクターが一般的だと思っていたけど、こいつに限ってはそんなことが当てはまらない。親ばかだとは思うけどさ。


「ではブレズ、姫様のためにお茶を入れてきてくれ。レートビィの監視も怠るなよ」

「了解した。では行こうかレートビィ」

「うん!」


 一番の巨漢と一番の小柄が並んで部屋から出て行って、おれらは静かな部屋に取り残された。自分で言い出したことだけど、こいつと何を会話していいか全くわかんねえぞ。


 うなれおれのコミュ障! こういうときはあたりさわりのないことから聞くのが一番だな。


「こうしてゆっくりするのって初めてだな」

「そうですね。姫様に言いつけられなければ、このように向かいに座るなどとてもできません」

「別に断りを入れてくれればいつでも座っていいんだけどなあ」

「そのお気持ちだけで結構です。それに仕事がまだ残っていますから」

「手伝おうか?」

「滅相もございません!」


 案の定思いっきり遠慮されてしまった。ニートの務めに仕事はないんだな。知ってたけど。


 しかし、向かいの狼は尻尾を落ち着きなくそわそわと動かしており、どうやらお茶を入れに行った二人のことが気になって仕方のない様子。表情こそ凛々しい狼なのだけど、感情がでやすい尻尾までは気が回らないのだろう。それこそ、こいつがリラックスしている証拠なのかもしれないが。


「あいつらのことが心配か?」

「ええ、まあ……茶器の一つで済めばいいのですが」

「失敗することは確定事項なんだな」

「私の耳は物事をよくとらえます。先ほどから甲高い音がなっているのも、しかと聞こえておりますから」


 そう言ってヴァルは溜息を一つ。こいつにとって仕事を任せることが疲れを助長する原因なのかもしれないな。


 そういえば、おれは気になったことをこの際だから聞いてみることにしよう。


「ヴァルって手に肉球あるよな」

「はい、あります」


 ヴァルはいつも手袋をしており、おそらくあるだろうという推測の域を出ていなかったんだ。ビーグロウにはきちんとあったんだから、ヴァルもそうなんだろうと気になっていた。


 そして、おれの興味はこの先にある。


「なあ、触ってみてもいいか?」

「いけませんっ」


 思ったより強い語気で否定されてしまった。ひょっとして潔癖症か何かだろうか。

 だとしたら申し訳ないことをした。それに、今のおれは女の子なのだから、そんな気やすく触っていいわけがなかったな。めんどくさい体だなあほんと。


 おれがそう言って謝罪すると、ヴァルは申し訳なさそうな顔になって眉を下げてしまう。それは、なにかをこらえているような、おれには触れないという意思を固めているような。

 そんな見ているほうが辛くなりそうな痛みがあった。


「失礼しました。つい……」

「いや、おれも変なことを言った。わるい」

「姫様が謝ることなど何もございません。すべては私の穢れ故、この素肌に姫様が触れるなど、あってはならないことです」


 穢れ? まじで潔癖症なのかなこいつ。おれはそんな設定つけた覚えはないんだけど。


 後天的な設定を追求してみようと思い口を開く。おれが知らないこいつの秘密を、ぜひ聞いてみたかったんだ。

 だがおれが言葉を紡ぐより早く、部屋のドアが勢いよく開いてしまった。


「お待たせしました! お茶を持ってきたよ!」


 小さな体で台車を押して、レートビィがやってきた。その後ろではブレズが優しい笑みで見守っており、父性を際限なく高めている。


 ヴァルは鼻を引くつかせ、匂いを確かめているようだ。眉をひそめはしたが、そのまま何も言わないってことは合格基準に達しているらしい。それならこちらも安心だ。


 どうやら今度はやりすぎもなく、ブレズがきちんと制御できたのだろう。兎はにこにことこちらにポッドをもってきて、カップにお茶を注いでくれた。

 その動作はぎこちなかったけど、それが初々しさを醸しておりこちらまでほほえましい気持になってしまう。


「はいどうぞ姫様!」


 差し出されたのは湯気が立った紅茶。透き通るほどの褐色に鼻をくすぐる甘い香りも心地よく、これなら素直に飲めそうだ。


 カップを持って口に運ぶ前で、ヴァルがレートビィと会話する。


「ずいぶんと時間がかかったな。それに、嗅ぎなれない香りだ。どの茶葉を使った?」

「ブレズがいつも使ってるやつだよ」

「ふむ、それはこんな甘い香りではないはずだが。蜜でも入れたのか?」


「ううん、ホリーク特性の栄養剤だよ」


 おれの口に流れ込む液体は、まさに名状しがたい味で。酸味とか苦味とか甘味とかがぐっちゃぐちゃに混ざり合って溶け合うことなく自己主張しており、舌の上で壮絶な大戦争を繰り広げていく。

 はっきり言ってまずいなんてレベルじゃない。人が口にできる上限をはるかに超えている。まずいというだけで毒薬認定していいくらいだぞ。


 その味を脳が認識した瞬間、おれは美少女だということも忘れて思いっきり口から紅茶を噴き出していた。


 そして、とても残念なことに。真正面には狼が、おれが座るように勧めたヴァルがいた。


 当然お茶がヴァルにかかる。のだが、狼は眉一つ動かさず濡れた毛皮を輝かせるだけ。


 あ、おれ死んだかもしれない。


 部屋に舞い落ちるのは沈黙、それも爆発のカウントダウンに等しい。噴きつけたおれでさえ命がないのではと危惧せずにはいられない。そんな針のむしろのような沈黙が部屋を埋めていくのだ。

 レートビィとブレズは血の気を失い、おれもヴァルから目が離せない。戦々恐々とした視線を一身に受け、ヴァルはゆっくりと口を開く。


「――――ブレグリズ」

「はいぃ!」

「姫様と私にナフキンを渡せ」

「こちらに……あぁ!」


 慌てるブレズはドジをする確率が天井知らずに跳ね上がる。今回も例にもれず、ナフキンを渡そうと動いた瞬間に前につんのめった。


 ブレズの巨体は重量もでかく、それが勢いよく机にぶつかったらどうなるかなんて想像に難くない。轟音を響かせ、当然のように机は真っ二つになった。


 あまりのまずさにせき込むおれと、お茶を吹きかけられたヴァル。ぶっ壊れた机に倒れるブレズ。

 まさに地獄絵図が完成している。これにはさすがのヴァルもぶちぎれて、というか誰でもきれると思うのだが、足でブレズの頭蓋を踏みながら地の底から響くような声を出す。


「私はナフキンを渡せと言ったのであって、机を壊せなど一言も言っていないのだが?」

「申し訳ない……申し訳ない……」

「それで、どういう了見で姫様にこのような毒にも等しいお茶を飲ませたんだ? 答えによっては今すぐ首をはねるが……レートビィ?」

「はいっ! え、っと、えっと、その、姫様が元気になればいいなって。ほら、ホリークに今度はきちんとお茶に入れるよって伝えて、新しく調合してもらったんだ」

「そうか、その結果が匂いだけはまともなお茶なのだな。お前ら三人は後で言うことがある。明日の朝日を拝めるかどうかはそこにかかっていると思え」


 真紅の眼光でにらまれると、兎も竜もひきつったような返事を返すだけ。そりゃ怖いよな。おれだってあれを真正面から向けられたらちびるかもしれないし。


 その後、ヴァルは台車から持ってきたナフキンをおれに渡して、自身も顔を拭く。ナフキンから眼光が出るときだけ異様に怖くて背筋が震えるぞ。子供が絶対泣き出すいないいないばあを見るのが怖かったので、おれはできるだけ目をそらしながら謝罪することにした。


「ごめんな、ヴァル。あまりにまずかったんで、つい噴き出してしまった」

「姫様が謝ることなどありませんよ。悪いのは人並みの味覚を有していない畜生どもですので。自分らが入れたお茶の味がどれほどのものか、今からきちんとわからせますのでご安心ください」


 いつもより言葉のとげが痛いな。これはかなり怒っていらっしゃる。

 それでも表面上はすました顔の凛々しい執事で、ヴァルは二人にここを片付けるように命令する。部屋は机の残骸と飛び散ったお茶のせいで散々な光景になっていた。


「ごめんね姫様……」


 レートビィが心底すまなそうに謝ってきた。目には涙も浮かんでおり、今にも泣きそうなほど。

 さすがにそんな子供を怒る気にはなれなかったので「いいよ」と言うと、決意を秘めた目が返ってくる。涙目ではあったが、幼子はこれをばねにきちんと仕事をしようと決意していた。


「片付けは絶対上手にするからね! いくよ、『同空間袋(ディスメディション)』!」


 とか言いながらレートビィはダンジョンにおけるアイテム袋生成魔法を発動させたかと思うと、手当たり次第に部屋のものをそこに放り込んだ。そう、手当たり次第。

 机もベッドもタンスも何もかもが、レートビィの作った異空間に放り込まれていく。アイテム所持数上限を増やす魔法の入り口は漆黒をたたえており、飲み込まれたものがどこに行くのか全然見えない。ついでに言うと、無我夢中で動いているレートビィも周りが全然見えてない。


「うぅぅ……失敗しちゃったなあ。次は絶対うまくするんだ!」

「待て、待て待てレートビィ。片づけるのは机だけでいいと……」


 などと止めようとしていたブレズだったが、兎につかまれて放り込まれてしまった。


「うおおぉぉっ!」


 叫び声だけ残してブレズは異空間に消えてしまった。なにこれ、生き物も入るの? ホラーかよ。


 しかし、おびえるおれに反して、ヴァルはいつもの冷静沈着で『思考伝達(チャット)』を飛ばす。こういうときは本当に頼りになる――。


『待てブレズ。出るのは構わんが、お前がそこで暴れると姫様の家具がすべて燃えてしまう。後で出してやるから今はそこで反省しておけ』


 やっぱ冷酷だわ。あんな怖いところなんて一秒たりともいたくないぞ。

 『異空間袋(ディスメディション)』は別空間に入れられる袋を作る魔法なので、確かにブレズなら袋ごと燃やせるだろう。おれの家具が全滅するが。


 とかなんとかしているうちに、レートビィは部屋のものすべてを袋に片づけてしまった。がらんと広くなった部屋で、幼子はやる気に満ちた声を出す。


「お片付け終わったよ! これを捨ててくればいいのかな」


 何もない部屋にすがすがしい幼子の笑顔がまぶしすぎて直視できない。

 なるほど、これが加減を知らないレートビィのやりすぎなのか。あと、君が言うこれの中にはブレズも入ってるんですけどね。おれの騎士を捨てないで。


 ヴァルはすでに言葉をかけるのも疲れているようで、ただただ殺意だけを立ち昇らせている。

 おれはそんなヴァルを見て、同情にも似た感情を覚えていた。善意とおせっかいの塊二人がこんなにポンコツだとすると、今までヴァルにかかっていた心労は相当なものなのではないだろうか。


 そう思うと、ねぎらわずにはいられない。


「いままでありがとうヴァル。できれば、これからもよろしくしてくれないか」

「当然でございます。かけねなく言わせていただきますが、このヴァルデック以上に執事として姫様の役に立てる者はいないでしょう」


 この部屋のありさまを見れば嫌でもわかる。ヴァルが休めないと言っていた意味も。


 おれとヴァルがこの先にある面倒ごとに頭痛を覚えている中、レートビィだけがきょとんと首をかしげている。


 結局、ヴァルの休みはすぐさま水泡に消えてしまった。


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