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美女?と野獣の異世界建国戦記  作者: とりあえず
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アイアム美少女

「まさか本当に来るとは少しばかり意外であったぞ。貴様は籠の中の小鳥として後生大事にされていくものかと思っておったの」

「その小鳥が籠から飛び立つのにはまあ、ひと悶着あったよ」

「だろうの。ましてや向かう先が権謀術数渦巻く王宮とあっては、無理もないかもしれん」


 リュシアはなぜだかこれぞロリババアって感じに豪華な着物でめかしこんでいる。そこは中世ファンタジーらしくドレス姿にしとけよって内心で突っ込みをいれておく。

 すでに場所は馬車の中。ロリババア感ましましになったリュシアとヴァルが仕入れてくれたドレスを着こんだおれに加え、明らかに堅気ではない雰囲気のブレズが同行している。

 一応いつもの執事服なんだけど、美少女二人に筋骨たくましい竜人の絵面がなんだか犯罪チックに見えるのはおれの心が汚れているからだろう。きっとそう。


「急な話であったのに、なかなかいいドレスではないか。これは王宮のオスどもが放っておかぬぞ」


 しししっと老獪に笑みを深めたリュシアが面白そうにこの先の展開を予測する。ヴァルだって情報収集に忙しいというのに、おれが晩さん会に行くとなるや否や、あふれ出る万能性をフルに発揮して徹夜で作ってくれたのだ、このドレス。

 おれの白に合わせた純白基調の生地にところどころフリルがあしらわれているが、ふんだんに使うというよりかは要所要所がさみしくならない程度に縫い付けられている。そのため、可愛らしさを残しながらも上品に感じられる匠の逸品だ。

 部屋の模様替えの時も思ったけど、ヴァルのデザインセンスはさすがとしか言いようがない。きちんと中世ファンタジーに即していて、なかなかなじみやすい。


 なんというか、結局みんなの手を借りてるんだよなあ。化粧道具なんて全くないからホリークが急きょそれっぽいものを作ってくれたし。これで収穫がなかったらみんなの手を煩わせただけ、っていうね。死ぬしかない。


 そのおかげで出来上がったのは美少女に磨きがかかったパーフェクト美少女ではあるのだが。薄く化粧してドレスを着て、鏡で自分の顔を見たときはまじで自分であったことを後悔したよね。どんなに美少女でも中身はおれなんだよなあ、死にたい。


「姫様に近寄る悪い虫は、私が燃やしますのでご安心を」

「できれば問題行動は控えてくれると助かるのじゃが」


 口ではそう言いながらもリュシアの顔は面白そうなことに期待を寄せているようだ。それでブレズが問題を起こすと、腹を抱えて笑うことだろう。どうやらこのロリババアは結構な快楽主義者っぽいな。


 それにしても、なんでおれをこんなところに招待したんだ。大事なことなのに、その意図を聞きあぐねていた。


「二つの意見が出たということは、それを吟味する必要がある。その根拠となる情報収集の一環になればと思い、こうして招待したのじゃよ」

「ずいぶん自信があるんだな」

「当然じゃよ。私は何も間違ったことを言っておらぬからな。それをこの場で確かめるがよかろうて」


 にやりとリュシアが笑みを深めると同時に、馬車が止まる。どうやら目的地へ着いたようだ。


「情報収集頑張るがよいぞ。私は腹を膨らませたら帰るからの」

「送り出したら放置するんだ」

「ふふ、心配せずとも友人への紹介ぐらいはしてやるぞ。そこを足掛かりにするがいい」


 腹を探られても痛くないということか。すごい自信だ。

 隠しきれる自信があるのか、はたまた本当にシロなのか。それを判断するのもおれの仕事だ。


『姫様、ヴァルでございます。そろそろ王宮についたころでしょうか?』


 さっきから定期的に飛んでくる『思考伝達(チャット)』におれは返事を返す。

 心配なのはわかるけど、もっと自分の仕事に専念してほしい。


『お、いよいよ王宮か。頑張れよ姫様。変な男に引っかかりそうになったらすぐブレズに言うんだぞ』

『王宮ってどんなところなのかな、僕も行ってみたかったな』


 虎もウサギも実に楽しそうだ。でも、おれの記憶が正しければ、今ヴァルは魔法研究所の保管庫で写本中なのでは?


『姫様の無事が最優先です。それに、話しながらでも手は動きます』

『み、見つからないようにね……』

『その点に関してはご安心を。すでにここの魔法は見切っております。万が一にも見つかることなどないでしょう。それに、レートビィの使い魔にステルス機能を付けて放っております。ここはすでに蝶の巣窟です。何かあればすぐにレートビィが教えてくれます』

『それとね、僕の使い魔にヴァルの『火の無いところに(コントロール)煙を立たせる(ボマー)』を仕込んであるから。遠隔爆破で人目を引くことだって簡単だよ!』


 怖い。率直に言える。超怖い。

 まとめると、絶対見つからないし見つかりそうになっても遠いところで意図的に爆破テロができるから逃げるもの簡単だっていうことだよね。この二人が手を組むと本当にやばいな。

 しかし、『第三の瞳(トライディション)』と『火の無いところに(コントロール)煙を立たせる(ボマー)』の合わせ技か。ゲームではそんなことできなかったな。柔軟な発想があれば魔法にももっと活用法があるのかもしれない。


 そうこうしているうちに城の従者がドアを開け、視界に絢爛な世界が広がっていく。従者はブレズを見るとギョッとした顔になったものの、すぐさま取り繕いおれらを案内してくれた。


 ブレズとは異なる執事服を着た人間の従者にしたがって、足を進ませる。


 手入れされた庭では月あかりを浴びて輝く噴水があり、生きているかのような彫刻が均等に並べられている。王宮に進む階段でさえ、大理石のごとく滑らかな光沢をもっていた。

 見上げてみてもその全貌がうかがい知れないほどに王宮は大きく、これが地球だったら文化遺産化は当然だろう。魔法が発達しているおかげで、火のあかりよりも幻想的な光で照らされているのもすごいところだ。

 これがこの国で最も贅をつくした建物。柱一つとっても職人の手が行き届いているここは、まさに中世ファンタジーの花形と言える。くそ、観光したい。

 階段をのぼりながら思わずあたりをきょろきょろしてしまいそうになるが、押さえろおれ。美少女はそんなことしない。


 後ろをついてくるブレズは全くの平常心で、竜の相貌にいささかも興味というものをうかがい知ることはできない。まるでそんなもの見慣れていると言わんばかりの態度は、主人であるおれの格をあげてくれるのだろう、本来なら。

 その主人はもう興味津々で、許されるなら観光したいんだなあこれが。


「そうじゃ、言い忘れておった」


 階段を登りきったところで、リュシアがつぶやく。明らかにいやな予感しかしないのだけど。


 人間用にしては大きすぎる扉を潜り抜けたところで、リュシアははっきりと残念そうな顔になる。


「……なんじゃ、本人か。つまらん。が、その決意は本物ということか」

「えーと、どういうことだ?」

「ふふ、この扉にはな、特別な魔法がかかっておるのじゃよ。『潜り抜けたものの正体を暴く』という魔法じゃ。これによって変装の魔法などを見抜くことができる」

「うわ、試したのかよ」

「ふふふ、まさか私も本人が来るとは思わなんだわ」


 と、そこであることが気になった。調度品であふれている廊下を進みながら声を潜めて問うてみる。


「変装の魔法とかってそんな簡単なものなのか?」

「ふむ? 当然じゃろう。姿を変える魔法など使い古された古典魔法の一つであろう」


 あれ、じゃあなんでヴァルたちはあんなに苦労して魔法を探してるんだ?


 そう思ったのだけど、リュシアの補足によってその答えを得ることができた。


「もっとも、低級の変装魔法なんぞある程度の実力を持つ魔法使いにはすぐに看破されてしまうぞ。あの門はそのような魔法使いをも欺く魔法を打ち消すものじゃ。あの門でも見抜けない魔法となると、今は亡き神々の魔法くらいじゃろ」


 なるほど、ヴァルたちはそれを探してるのね。道理で時間がかかると思った。

 うん、ごめんね。おれ、そうとは知らずに大変な課題を押し付けてた。もっと簡単に済むと思ってたんだ。


 ……ちょっと待って。これでもしおれが元の廃人生活をしていたころの性別に戻ったら大参事だったのでは? 汚いおっさんと華麗なドレス……その場で自害するしかない。いや、死体が残らないようにどこかの森でのたれ死のう。


「一瞬肝が冷えました。どうやらこちらの姿も本来の姿だと認識されているようです」


 悶々としていたおれだったが、ブレズが吐いた安どのため息で事の重大さを理解した。

 そうか、ブレズとか最高に危なかったのか。ここで変身されたら王宮が崩壊するところだったし、下手したらそのまま戦争に突入していたな。


 おれとブレズは顔を見合わせてほっと息をつく。あのロリババア、陰湿なことしやがって。


「ほれほれ、せっかくの晴れ舞台じゃぞ。もっと笑ったほうがいいと思うがの」


 ロリババアの笑みは湿っぽいのでぜひとも普通にしていてほしい。


 しかし、ここが敵地ど真ん中というのも事実。せっかくの美少女フェイスだ、活かさなければもったいない。


 おれは練習を積んでさらなるパワーアップを遂げた美少女スマイルを装備する。楚々として清楚な微笑みだ。あとは黙ってうなずいていれば完璧。

 最近自分が美少女だっていうのに慣れてきたよなあ。人は慣れる生き物って本当なんだ。

 しかし、これもヴァルが魔法を見つけてくれるまで。それがあれば、おれは男の姿になるんだ。


 そこに希望の光を求めて、おれらは会場へとたどり着く。


 荘厳なホールはとてつもない大きさで、そのすべてを照らすために数え切れないほどのシャンデリアが光を振りまいている。壁はもとより天井にも彫刻が施されており、細部に至るまで丁寧に仕上げられている。

 まるでこのホール自体が巨大な芸術品のような作りであり、赤いじゅうたんの上で華やかに笑う人々らもその一部であるように思えてくる。華美な宝飾が光を反射すると、上も下もまばゆく飾られているようだ。


 いや、おれは芸術的感性が乏しいと自覚しているので、そんな芸術品のホールを見ながらも、これ体育館より広いんだろうな、とか掃除が大変そうだなとか考えてるからな。

 それとおいしそうなご飯を早く食べたい。真っ白なテーブルクロスの上には豪華な食事が乗っているんだ。腹の虫が暴れだすのも時間の問題だ。


 まずは軽く胃にものを入れて、それから情報収集をしようかな。

 焦る必要などない。なぜなら、男なんて向こうからやってくるのだから。


 何度でも言っているが、おれの顔は最高の美少女だ。ゲームのアバターそのままということは、完璧に整った相貌そのままということ。芯の通った目鼻立ちに色素の薄い肌。ビロードをほどいたかのような白髪は透明感をもたらし、清楚という言葉を体現しているかのよう。そこに唯一濃く反映されている水色の瞳は、冬の空を思わせる淡い色彩で満ちている。


 これがおれでなければと、何度も呪った顔。見た目だけなら最高峰の美少女なのだ。


 そんなおれがテーブルの周りで料理を物色しているだけで、男たちの視線がばしばしと突き刺さるのを感じる。そのうちの一つを気まぐれにたぐりよせ、微笑みを返すだけでノックアウトさ。くそ、うらやましい。おれもこんな美少女に微笑まれたい。


 しかし、なぜだろう、なぜ誰もおれのそばに寄ってこないんだ。受ける目線から考えると引く手あまたのはずなのに。これじゃあ情報収集ができないじゃないか。


『ブレズ、今の状況はどうなっている。姫様の美しさに惑わされた不埒な輩は出ていないか?』

『問題はないぞヴァル。私が後ろでにらみを利かせているからな。何人たりとも姫様には近よさせぬ』

『それでいい。下心をもって近づく輩は灰にしろ』

『心得ておる』


 お前のせいかよ! 目的忘れてませんかね?! ただご飯食いに来たわけじゃないんですけど?!

 でもあっちに見える肉の塊はおいしそうだ。ちょっとつまみに行ってもいいかな。


『それとブレズ、絶対に焦るなよ。いついかなる時でも冷静を心掛けろ。お前は焦るとろくなことがない』

『わかっている。このような人目の多い場所で失態を犯しては姫様の顔に泥を塗ることになる。あ、姫様、そのように一人で行かれては困ります! 私の近くにブベッ!』


 追いつこうと足を動かしたブレズだが、なぜだか盛大にすっころんだ。会場で一番と言っても過言ではない巨体が派手に転んだせいで、否が応にも衆目を集めてしまった。


『……私の聞き間違いでなければ、今確実に転んだな貴様』


 体の芯から冷えそうな狼の声が脳裏に響く。ブレズは冷や汗をダラダラ流して申し訳なさそうな目をおれに向けている。すぐさま立ち上がり何事もなさそうに取り繕うとしているが、尻尾がかわいそうなほどしおれていた。


 これにはおれにも非があるので、助け舟を出すとしましょうかね。


『ああ、すまないヴァル。おれがブレズとぶつかったんだ。ここは人が多いからな』

『なるほど。まさか姫様の晴れ舞台で執事が粗相をするなど言語道断ですので、心配からつい早合点をしてしまいました。すまなかったなブレズ』

『い、いや、全然そんなことはない、ぞ。勘違いは、誰にでも、あるものだからな』


 本当にこいつは愚直というか、嘘をつくのが死ぬほど下手だな! 声がぶれっぶれじゃねえか。これは絶対ヴァルにばれてる。おれがかばったから、顔を立ててくれてるだけな気がする。


『ありがとうございます姫様。このご恩は必ずや働きでお返しします』


 ブレズと専用の回線で平謝りを聞きながら、おれは何度も気にしなくていいと返す。この竜は頭に超が付くほどまじめだけど、かなりのドジっ子だからなあ。


 というか、おれら全然情報収集できてねえ!


「ふふふふふふ、面白いのう。やはりおぬしらを連れてきて正解じゃったわ」


 情報収集という目的を知っているリュシアが、そのちぐはぐぶりを楽しそうに評価している。着物を着こなすロリババアは、おれほどではないがかわいい見た目をしているので、二人そろうと晩さん会の華だろうな。東洋と西洋のコラボっていう意味でも映えるはずだ。


 これでブレズがにらんでなかったら人波にもまれてたはずなんだけどなあ。まあ考え方を変えよう。誰も来ないということはゆっくり見渡せるということだ。落ち着いて主要人物らしき人を探すとするか。


 でも、誰を探したらいいんだ? 情報収集するぞと意気込みを新たにするのはいいけど、具体的なとっかかりがまるで思い浮かばない。無能ここに極まれりかよ。

 なので、おれは恥を忍んでリュシアに尋ねてみることにした。こういうのは素直に詳しい人に聞くのが一番だ。


「ふむ、ノープランとか何を考えとるんじゃとか言いたいことはあるが、まあ正直なのはいいことじゃ。そうじゃのう、ほれ、あそこにいるのがこの国の第一王子アーフィム=ノレイムリアじゃよ」


 さらっとお叱りをもらって扇で指し示された先に目をやると、いかにも体育会系と思わしき青年がそこにいた。おっさんというにはまだ若々しいその風袋は実にたくましく、日に焼けた肌と相まって自信にみなぎっているように感じられる。

 礼服を着ているがどこか気さくな印象を受けるのも、まあ、見る人が見れば好印象かもしれない。刈り込んだ頭に太い腕とくれば、完全に武力派って感じがする。

 引きこもりのおれが苦手とするタイプかあ。見ただけで感じられるリア充オーラが妬ましい。こっちは異世界に飛ばされても周りに男しかいないのに。


 おれの辟易とした顔がもろに出てたせいでリュシアが首をかしげたが、そのまま次に進んでくれた。ありがたい、おれの召喚前のコンプレックスまみれの人生を話すのはダメージが伴うからな。聞くのも語るのも。


「それで、あっちにいるのが第二王子ハイファス=ノレイムリア。見ての通り、武官と文官とで人気を二分しておる」


 あ、第二王子は理系っぽい。さらさらとした癖っ気のない髪の毛をたらし、眼鏡をかけてるし。アーフィムに比べれば全然細いし、戦ったらおれでも勝てそう。ごめん、おれ女の子だったから無理だわ。神経質そうな目も同じコミュ障として好感が持てるな。きっと本だけが友達とかそんな感じ。


 対照的な相貌を考えれば、確かにリュシアのいう通り人気を二分していそうだ。方や体育会系で武官に人気があり、方や真面目理系で文官から人気がある。

 なるほどなあ、兄弟なのに全然似てないんだな。まあ、父親が一緒でも母親が一緒とは限らないか。なにせ王家だ。そこらへんは必要な情報ではなさそうだし、めんどくさいので詳しくは聞かないけど。


「なあリュシア、どっちから話を聞いてみたほうがいいと思う?」

「お前……それを私に聞くならもっと早く聞いておけ。てっきり事前に調べてきたのかと感心しておったのに」


 ごもっともすぎる。一応基本情報はみんなから聞いているけれど、ここはロリババアにも聞いておこうかなっと思って。

 敵地に行くためにブレズらをいかに言いくるめるかしか考えてなかったせいで、肝要の作戦が非常におろそかになっている気がする。でも、一応目星はつけてあるんだし、あの王子らの顔さえ教えてもらえれば十分だ。


 というわけで、ノレイムリアの王子関係情報を改めて確認するとしよう。こういう時通信魔法があると本当に便利だ。

 すると、レートビィから待ってましたと言わんばかりの速度で返事がきた。


『えっとね、第一王子は軍部に慕われていて、その上現国王より有能だってことで次期国王の呼び声高い人だよ。行動力も度胸もあるし、国民にも優しい。でも、悲しいことに反獣人派だったはず。おそらく今一番黒い人だよ!』

『ふむ、でも調べたけど有益な情報があまり得られてないんだよな?』

『そーなんだけどねぇ……なーんかのらりくらりとされちゃうんだ。あの人自身がそういった諜報に対して慣れてるせいかガードが堅いのもあるけど、おそらく裏に優秀な参謀がいるんじゃないかな。その参謀を通しているせいで、これといった情報が得られてないんだ。本当に黒かどうかも微妙だし、今はまだ広く情報を集めることを優先してるかな』


 うんうん、レートビィからも守れるって相当すごいよな。いや、確かにレートビィやヴァルはダンジョン探索なら得意だけど、こういった対人関係は初めてだもんな。なにせ、生まれたばかりだし。いくら知能があっても、慣れないことをせかすのも申し訳ない。


 そんで、次に第二王子か。


『第二王子って確か、あんまりいい噂がないんだったよな』

『そうそう、第一王子が優秀だからなんとか引き釣りおろそうとしてるってもっぱらの噂だよ。でも、調べたところ、そんなに悪い人じゃないと思うんだけど。ちょっと誤解されやすい人だとは思うけど、普通に有能だし愛国心もありそう。反獣人派というか中庸の意見で、差別もしないけど改善もしてないみたい。そもそも、文官に覚えがいいみたいだけど、権限はいろいろとアーフィムに抑えられてるから改善しようと思ってもできないんだね。おかげでいつ内乱が起きてもおかしくないって言われてるみたい』


 コミュ障あるあるだな。ああいう人ほど、実は良いやつだったりするんだろ。よくあるパターンだ。

 断じて、おれがリア充オーラの薄いほうに肩入れしてるわけじゃないぞ。


 それにしても、少しばかり意外だ。

 おれは美少女フェイスをゆがませることなく頭に疑問符を浮かべる。


 ブレズが来ると、もっと嫌悪感をむき出しにされると思っていたのに。こんな華やかな場所に獣人が来るなんて絶対許されるわけない。

 入るのはリュシアの威光を使えばよかったのだろう。事実、ここまで案内してくれた従者はブレズと全く目を合わせてくれなかったが何も言わなかった。


 しかし、ここにいるのはそんな態度をとっても許されるように上流階級ばかりのはずだ。

 なぜ、追い出そうともせず、そそくさと目線をずらしてしまうのか。


 それをリュシアに聞くと、彼女はたいそう愉快そうに眉をゆがめた。


「それが今日おぬし等をよんだ理由よ。ほれ、あそこを見てるがいい」


 ホールの奥、立派な礼服に身を包んでいたのは――獅子?

 金の糸細工と言われても納得してしまうほど煌くたてがみに、しなやかな尻尾。テールの隙間から尻尾を振っているのは間違いなく獅子の獣人だ。それが、なんでここに?


「今日はの、ビストマルトからも客人が来ておる。そのような場でこれ見よがしに獣人をないがしろにしては、あちらの国との関係は悪化してしまうというわけじゃな。差別騒動の噂は届いておるじゃろうから、一層良い印象を持ってもらいたいはずじゃしの、表向きは」


 つまり、おれらがこういった公の場で情報収集するには今日しかないってことか。それに、ビストマルトの重役と話ができるかもしれないんだ、確かにいい機会だろうな。

 なら、王子たちも確かに気になるが、この機会だ。ビストマルトの重役とやらと話しをしてみようじゃないか。うなれおれのコミュ障。対人交流が嫌だとか言ってる場合じゃないぞ。


 でも、いったいどうやって接点を持てばいいんだ? 向こうは国の重鎮。こっちは一介の冒険者。遠巻きに話を拾うしかなさそうだけど。

 いやいやいや、そのための美少女じゃん。完璧にめかしこんだ完璧な美少女。この顔で微笑んで落ちない雄はいない。たぶん。


 よし、そうと決まれば篭絡しに行くか。さっきからヴァルとハンテルの殺意が漏れ出ている気がするが全力で無視。あの獅子の人、暗殺とかされないよね、きっと。


 あの獅子がどういう人なのかは知らないが、ビストマルトの者なら何か知っているに違いない。そう思い一歩踏み出そうとすると、その獅子と目が合ってしまった。


 ――――ここからおれのターンだ!


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