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美女?と野獣の異世界建国戦記  作者: とりあえず
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(番外編)開拓後日談

「どうだ姫様、河川の水質向上に井戸水の復旧。姫様の言う通り深部まで掘り進めたらまた水が出たぞ。それも前よりきれいな水だ。汲むのが面倒だからポンプを設置してみたがどうだろうか。魔力を糧に稼働するポンプだから誰でも使えるぞ」


 すげえ、おれの予想をはるかに超える成果をだしてきたなこいつ。


 素直に褒めるとホリークはまんざらでもない表情を一瞬だけさらすが、すぐさまフードをかぶりなおして隠してしまった。普段あれだけ目が死んでいるせいか、こういうところを見られるのは恥ずかしいのだろうか。全くわからん。


 そして、それとは対照的に、褒めろオーラ全開の虎が一人。


「姫様ー! 聞いてくれ、ホリークと協力して小型の結界発生装置の開発に成功したぞ! これを切り替えすればモンスターだろうが暴風だろうがなんのその! 中を快適な温度に保つこともできるし、一定数の水分を通すことだってできるぞ!」


 予想はるか上の高性能を実現させてきたな! なんだその万能魔具!


「まあ、おれの結界技術をもってすれば朝飯前よ! 要は通すものと通さないものの区別をつければいいだけなんだからな! だけどそれをこんな小型の魔具で実現できるのはおれとホリークならではだぞ!」

「ちなみに、燃料は?」

「もちろん魔力だが、空気中に漂う魔力を自動採取して起動することが可能だ。ただ、低魔力で動く分、結界の強度にはいささか問題があるな。ブレズがちょっと小突いただけで壊れるけど、低級モンスターなら大丈夫だろう」

「まあブレズが小突くとモンスターが粉砕するからな、それを基準にしてもしょうがない」

「……さすがの私も力加減くらいは心得ているつもりなのですけど」


 困り顔のブレズを完璧に無視して、ハンテルが巨体で迫ってくる。褒めてほしいと期待を浮かべるこの顔を前にしては、しないわけにはいかないだろう。


「姫様、姫様、さあおれをほめちぎってくれよ。たくさん撫でてくれ。それだけのことを成し遂げたつもりだぞ。これを王都あたりで売れば、たぶん金に困ることもなくなるだろうし、資金源での活躍も考慮してくれ」

「……具体的な褒め内容は?」

「頭と胸と背中を撫でてくれ。できればブラッシングもしてくれると嬉しいな!」

「お前の人としてのプライドはどこにあるんだよ……」


 完全に野生に戻ってるじゃねえか。人としての尊厳くらい持っててほしいところ。

 それに、ホリークと共同制作というのなら、あっちも撫でるべきなのでは。当のホリークはというと、別段そんな願望もなさそうに、やる気の消えた目に戻っていたけど。


「おれはハンテルと違って撫でられて悦ぶ趣味はない」


 そりゃそうだわ。こんな趣味の奴が周りに二人とかちょっと重すぎる。


「だが、姫様からのお褒めの言葉ならありがたく受け取っておく。報酬はそれで十分さ」

「こいつこんなかっこつけてるけどな、結界装置の開発に成功したとき、真っ先に姫様の褒めてもらえるって喜んでたんだぞ」

「ハンテル。その舌を引っこ抜かれたくなければ今すぐ黙れ」

「こいつはなー、自分の魔法の力を姫様に披露できるだけでいいんだよ。自分はこんなすごいことができる、っていうのを姫様に知ってもらえることが何よりの褒美なんだ」

「決めた。殺す」

「姫様のことを尊敬してて、目標にしてるからなー。だから、こいつを褒める時は魔法を重点的に褒めるといいぞ」

「そうだな、完全鉄壁のお前を目の前で八つ裂きにできたら、さぞ姫様もおれのすごさを褒めてくれるだろうな」

「はっはっはー、それは無理だからやめた方がいいぜ。お前じゃおれの結界を破れねえよ」


 照れ隠しで殺し合いが始まろうとしているけど、ようやく発展しそうな村が崩壊するからやめてほしい。それと、魔法関係ならおれはホリークの足元にも及ばないと思うんだけど、なんでそんな尊敬の視線を受けてるんだろうか。せっかくの猛禽類の目が曇ってるのはもったいない。


 でも、そういうならホリークの魔法を褒めてみるとしよう。実際、こいつの知識欲と魔法の腕にはかなり助けられている。


「あ、ああ……そうか、どういたしまして」


 そっけない言葉だが、ばつがわるそうにフードを目深にかぶったのでいやというわけではなさそうだ。いつもきりりとして理知的なくせに、正面切って褒められるのに弱いというわけか。言われてみれば正攻法に弱そうな性格をしている。


「姫様、おれは?」

「ああ、もちろんハンテルもすごいと思うぞ。今回のことはかなり助かった」

「そうかそうか、姫様が喜んでくれておれもすげえうれしいぞ。んで、どこを撫でる?」

「それは確定事項なのか……」


 でかい虎のくせに見た目に合わないこいつは、まあ、放っておいて。次はレートビィから報告を聞くことにしようか。なんかふてくされた顔してるから、大体の想像はつくけれど。


「ブレズのあれ、ずるいよ。僕もあんな召喚獣ほしい……」


 どうやらモンスター狩りはたいていあの竜たちに取られてしまったようだ。確かに見た目の威圧感的にあっちの方が半端ないし、しょうがないとは思う。

 兎は潤んだ目でこっちを見上げ、もう心配ないだろうと語る。ここいらのモンスターに植え付けた恐怖はすさまじく、村に近寄ることはなさそうだ。おれだって天級モンスター三体が守る村なんて絶対近寄りたくないし。


「ごめんね姫様、あんまり役に立たなくて」

「そんなことないぞ。レートビィも頑張った」


 耳の根元の頭蓋をなでてやると、ちょっと機嫌が直ったようだ。目じりには水滴が浮かんでいるが、えへへと照れたように笑ってくれた。横ででかい縞模様が期待した顔をしているが、お前の番はあとな。


 その竜騎士とはといえば、あたりの森林を伐採し、その過程で岩や切株をほじくり出し、畑の面積を広げることに貢献していた。さらにハンテルの結界栽培とモンスター被害の少なさも合わさって、これは収穫に期待ができそうだ。


 竜騎士にねぎらいの言葉をかけると、ブレズは深々と低頭した。ハンテルやホリークと違う大人の対応が、なんだか新鮮だ。


「ご期待に添えたようで何よりでございます。姫様の従者として、当然のことをしたまでです」


 言葉に嘘偽りはなく、それ以上の報酬などいらないと態度で示すブレズ。

 だが、なにかないのか。撫でればいいだけのハンテルや褒められるのが好きなレートビィ、魔法の行使自体を楽しんでいるホリークと違い、この竜は完全に無私で奉仕している。その点についてはヴァルも一緒なのだけど、こいつらはなにかほしいものはないのだろうか。


「自分は姫様にお仕えできることがすでに報酬だと思っておりますので。姫様の命を達成することこそ、生きがいでございます」


 重い……相変わらずの忠義だ。その点についてはヴァルも一緒なんだろう。だけど、何か求めてくれないと、おれが困る。このまますべてのことに従ってくれると、自分が増長してしまいそうなんだ。


 だってそうだろ? こんなチート級のやつらがおれの言うことを何でも聞くんだぞ。世界の半分くらいなら軽く取れそうな戦力を持って、増長しないほど自分を律するのはおれのメンタルじゃ無理。増長した結果、世界を敵に回して四面楚歌なんて笑い話にもならないしな。

 なので、何か対価を求めてほしい。ハンテルにだって、後できちんと撫でるつもりだ。だから、言いたいことを言ってくれ。


 そこまで言うと、場が沈黙する。ブレズは困ったように視線をさまよわせ、竜の口唇から形にならない言葉をもごもごとこぼす。ものすごく言いづらそうに、でも、やはりどこか嬉しそうに、赤い竜は言う。


「でしたら、せん越ながら、そのぅ……勲章をいただけないでしょうか?」

「勲章って、あのエンブレム的なあれ?」

「はい。私の功績を、姫様がお認めになられた証でございます。私が尽くした忠義を、形として残していただければと浅慮した次第です」

「なるほど……」


 そーくるかぁ。騎士としては喉から手が出るほどほしいよなそりゃ。だけど、デザインセンスとか全くないんだが、どうしたものか。さすがにここまで言っておいて、それは難しいだなんて口が裂けても言えないし。


「……ブレズ」

「いえ、いえ! あえて、ですから! 姫様から頂けるものであればなんであれ、喜んで頂戴いたします。それでも、あえて、何がいいかと言われたら勲章というだけで、姫様の心配りでしたらどのようなものでも構いません!」

「いや、そこまでかしこまらなくても……。聞いたのはおれなんだからさ。お前はなんというか、わがままを言いなれてないよな。ヴァルもそうなんだが、もうちょっと欲を押し出してもいいと思うぞ」


 うーむ、困った表情が出てしまっていたかな。必要以上に竜騎士は萎縮してしまっていて、おれを困らせたことに罪の意識を感じているみたいだ。

 わがままを言いなれていない武人の要求を断るわけもなく、おれはゆっくりとうなずいた。


「……よろしいので、ございますか?」

「もちろん。ただ、デザインセンスとかまったくないから、お前が求めてるものにはならないと思うんだが……それでもいいか?」

「当然でございます! いただけるのであれば、見た目など些事! 騎士としての誉れを前に、なぜそのようなことに頓着する必要がありましょうか!」


 ものすごくテンション上がってきたから、本当にうれしいんだな。赤い竜の顔がいつも以上に赤く見えるのは、喜びが朱を散らしているからだろう。大きな尻尾をぶんぶんと振って、目にきらめきが増していく。

 後でホリークと相談して合成してみよう。話を聞いているハンテルもものほしそうな目をしてるし、何個か作る必要がありそうだ。……完全に国王みたいなことしてるなあ。このまま進んで、叙勲式をしようなんて言い出さないことを祈ろう。


 それじゃあ最後にと、おれは黒狼を振り返って問うてみた。


「ヴァルもなんかないのか。お前だっておれに付き合って大変だっただろうに」

「え?」


 うお、めっずらし。冷静沈着の権化が驚きすぎて呆けた声出してる。


 どうやらここまでの話の流れを聞いていても、自分に話が振られると思っていなかったようだ。ブレズと同じくらいめんどくさいよなこいつも。


「私も、ですか……? いえ、そのような――」

「いらないは、なしな。ここまで来たんだから、何か言ってくれ」

「でしたら……でしたら……」


 ヴァルは自分の要求を口に出すことにものすごくためらいがあるらしく、煮え切らない態度を続けていたが、ようやく意を決して狼の相貌を鋭くした。


「叙勲式に挑むにあたって、衣装を作らせてもらえないでしょうか」

「待って待って、え、やっぱり叙勲式するの?!」

「しないのですか?」


 さも不思議そうに問い返されると言葉に詰まるんですけど! あたりに目をやると、ブレズも当然するつもりだったみたいで、ちょっと驚いてるし! うお、まさかすでに勲章とセットだったとは、うかつだった。


 と言いますか、衣装を作りたいってそれが褒美でいいのか。もっと自分のほしいものを言えばいいと思うんだけど。


「考えたのですが、私のほしいものは、やはり、姫様の勇姿を拝見することでしたので。その手伝いとして、衣装をお作りさせていただきたく存じます」


 親か! 心のアルバムに永久保存か! むずがゆいわ!


 こいつらのほしいものって、おれの予想のはるか上をいくよな……。行動といい何もかもが凡人であるおれの規格に収まらない。付き従ってくれるのはうれしいが、制御し切れる気がしない。

 そもそも、叙勲式ってどこでするんだよ。


「ご安心を。ギルドを建て替える際、玉座の間もきちんと設置しておきました」


 いつの間にだよ本当に! そりゃ、もともとがギルドなんだし無駄に広くて使ってない部屋もあるけどさ! 普通はそれを玉座の間にしねえだろ!


「確かに玉座と冠するにはいささか手狭ではありますが、平にご容赦願いたく存じます」


 内装に文句言ってるんじゃなくて玉座の間なんて大仰なものが存在してることへのつっこみなんですけどね。さすがに慣れてきたからこいつらの意図もわからなくはないが。どうあがいてもおれを王様扱いしたがるよなあ。


 もう断る気力も失せたので好きにしていいとぶんなげると、ヴァルはかしこまって一礼した。おれに似合うドレスを縫おうと気合十分だ。どうやら、すでにデザイン案は何個かあるらしい。


「姫様の身の回りのお世話は執事たる私の仕事です。それには装飾も当然含まれていますので、姫様のご威光を損ねるような失敗などするわけにはいきません」

「……ま、まあ、お手柔らかに」

「ほかにも、ハンテルやレートビィの礼服なども取り揃え、見事な受勲式にしましょう。あの半裸族に服を着るという文化を学ばせるいい機会です」

「相変わらずさらっと辛らつだな……」


 それでこそのヴァルだとは思うがな。でも、その衣装を設定したのおれなんだよなあ。

 他のみんなは叙勲式と聞いて、お祭りみたいに思っているようだ。ハンテルもレートビィも楽しそうで、きたるイベントごとに目を輝かせている。ここまで来て叙勲式を取り下げるなんてできないし、腹をくくるかー。


 あきらめのため息をついて、おれはいろいろを思いをはせる。

 結局、村のみんなにはバフをかけて元気を分け与えることに成功した。アイドルさながらのステージでヴァルの用意したカンペを読みながらそれらしく振舞うのは引きこもりの精神にはとてもつらかった。おかげで信仰が冗談にならない感じに集まってしまったし、おれは自分の行く末が不安です。


 町のみんなには感謝されたけど、よく考えれば最高級技能のオンパレードなんだし、崇拝されても不思議じゃないよな。溝を埋めるどころか、天までの頂を築き上げてしまったような気がしないでもない。


 着実にこの町を掌握していってるよなあ。おれらどこ向かってんのかなあ。


 よくわからないことに不安を覚えているおれだったけど、叙勲式の後に苦労をねぎらうパーティをすると聞いて思わず思考をかき消された。おれもなんだかんだ結構働いたし、おいしいものが食べられるならうれしい限り。単純で現金なやつなんだおれは。


 叙勲式って言ったって、ヴァルの用意したカンペを読んで勲章を渡すだけだろ。へーきへーき。身内でやるもんじゃないという恥ずかしささえ克服すればどうってことないはずだ。その後のパーティを目標に、さくっとやってしまおうじゃないか。

 まさか引きこもりで対人関係根絶生活をしていたおれが、叙勲式をすることになるなんてなあ。まじで人生わかんねえ。


 この町も明るくなったし、良しとしておきましょう。少なくとも、悩むことなんてまだ何もないんだから。


 パーティで食べたいものを考えながら、おれらの開拓は大成功のうちに幕を閉じたのであった。



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