(番外編)開拓するのも楽じゃないわけなかった
よし、開拓をしよう。
おれはそう決断して、みんなを連れて村へと繰り出した。
過程をざっくり説明すると、盗賊騒ぎが終わってもなんだか活気が戻らないので理由を聞くと、村の畑やら家畜やらの立て直しに時間がかかっているそうだ。これを何とかすれば村での好感度が爆上がりなのではと下心満載で、おれらがこうして立ち上がったというわけ。
うん、そりゃね、おれだけ見た目があんまり人外っぽくないし、そのうえこいつらのうさん臭さ半端ないし。あんまり村になじめているとは言いづらい現状。それを打破するため、これはいい機会だと思うんだよ。
「姫様は本当にやさしいなー。別におれらに利があるわけでもないのに」
虎のハンテルがニコニコしながら毛皮をそよがせる。手には鍬やらなんやらを大量に抱え、それだけでおれの倍以上の重さがあるのではないかと思う。飄々とはしていても、さすが騎士といったところか、筋肉量はんぱないな。
でも、まるっきり利がないわけでもないはずだ。おれはハンテルにそう反論する。
この村がにぎわえば、物価も下がっておれらも暮らしやすくなるだろ。その助けになるのなら、別に悪いことじゃないと思うんだ。
「いや、別に姫様の意見に反対するつもりなんて毛頭ないからな。虎の毛ほどもねえよ」
どんな例えだそれは。反対されたぐらいでふてくされるほど子供じゃないし。……たぶん。
それに、これはみんなに言ってないことだが、おれはこういうやりこみ要素が大好きな人間だ。ラスボスを倒してからの裏ボス。おまけ育成要素のカンスト。そういうやりこみに命を懸けているんだよ。
その結果が目の前を歩いている獣人たちであるので、おれのやりこみ好きもわかろうというものだ。なので、こういう面白そうなサブイベントを見逃すなんてありえないんだな。考え方が完全にゲーム脳なのはご愛敬ということで勘弁してほしい。
というわけで、開発していくとたまるポイントを仮に開発ポイントとしよう。そのポイントが一定数貯まると、村人からのおれらへの猜疑が解けていくというゴールを設定してっと。ためすぎたら村長にでもなるのかな。断るけど。
「それで、姫様はどこから手を付けるつもりだ。正直、やることは山ほどありそうだが」
テンションの起伏をマイナス方向にぶっちぎっているホリークがじっと周りを見据えて問うた。やる気がなさそうなのはデフォなのでいいとして、確かに手を付けるとなればどこから手を付けていいかわからない。
ではまず何をしようか。ギルドの立て直しは適当にやってもおれらが住むだけだからよかったものの、今回はそうも言ってられないしな。
「でしたら、役割分担などされるとよろしいかと思います」
こういうときにしっかりと助け船を出してくれる有能、ヴァルが進言してくれた。
んでも、役割分担って各々どんなことができるんだ。おれはただ、力自慢のこいつらに畑の手伝いをさせたり、魔術担当のおれらで肥料を作るぐらいしか考えてなかったけど。
「こういうときはまず、問題点を列挙していくとめどが立てやすいのではないでしょうか。少しでもお力になればと思いまして、こちらに私が思うこの村の改善点を記したものがあります」
有能すぎかよ。しかも筆跡を見るにヴァルだけじゃなくてみんな参加してやがる。畜生、なんでそんな楽しそうなことをおれ抜きでしてるの!
「姫様の頭を悩ませるまでもないことでしたので。姫様はただ、これらの改善点に考察を加え、決断をしていただくだけで大丈夫です」
全然大丈夫じゃねえよ! おれだってみんなとこの村をどうするかってわいわい話し合いながら未来図に思いをはせたかったよ! やりこみ要素好きなめんじゃねえよ!
っく、考え方を変えるんだおれ。これは俗にいう『改善点がウィンドウに記された状態』だ。ここからおれはカーソルを選んで自分好みの村にカスタマイズするって感じなんだきっと。
本題からそれている気がしないでもないが、そう考えでもしないとさみしさでふてくされそう。おれの手を煩わせないという名目で、結構ハブられてんだよなあ。
がっくりとした感情が顔に出たんだろう。下から見ていたレートビィが困った顔でおれの裾を引っ張った。
「ひょっとして、迷惑だったかな?」
小さな兎の子にそんなこと言われてはいそうですなんて言えるはずないだろうが。なのでおれは引っ張り上げた口角でそんなことないよっていうんだ。助かったのは事実だし、これをもとに考えていこうじゃないか。
さてさて、改めてメモを見てみると、なんというか、この村がまだ存続しているのがすごいと思う。日本での文化水準を引き合いに出すわけではないけれど、ここは人が住めるぎりぎりのラインなんじゃなかろうか。
「そうですね。土地はやせ細り、水も濁っていますし、疫病がはやっても不思議ではありません」
……う、うん。的確な分析だけどヴァルさんは相変わらず冷静すぎるな。
そもそもそんな過酷な土地で、おれらの食生活ってどうなってんの?
「ご安心を。我らの食事はすべて森からとってきたものを使っております。さらに水に関しては魔法で生むこともできるので、ギルドの一室を水場として新鮮な水を補給できるようにしてあります」
そうそうそう、みんなはなんてことないようにこなしているけど、結構高レベルなことしてるんだよね。
え、待ってよ。それってつまりみんな過酷な生活をしてるのに、おれらだけ悠々自適に暮らしてたってこと? うわー、それはなじめねえよ。マリーアントワネットのごとく処刑されるレベルだよ。
おれは村との確執の一端をここで垣間見てしまったので、試しに聞いてみることにする。
「それって、水だけでもほかの人に分け与えたりできないのかな」
でも、魔法で生むのなら魔力がいるし、村全体と考えたらやっぱり難しいよなあ。いくらおれらといえど、無尽蔵というわけにはいかないし。
「それが姫様のお望みなら」
「できるのかよ!」
やべえ、思わず美少女にあるまじき突っ込みを入れてしまった。わざとらしく咳払いして、ごまかしながら続きを促そう。
そこで、ホリークがずいっと会話に入ってきた。どうやら水場の担当はこいつらしい。
「そうだな……まあ別に問題ないだろう。戦闘がなけりゃそこまで魔力なんてつかわないから、この村に配る分なら捻出できなくもない」
「水の生成ってそんなに簡単なものなのか?」
「おれにとってはな。聞いた話、王都にある水成場は大掛かりだが起動しても風呂桶一杯満たせないらしい。効率が悪いんだな。たぶんだが、古文書の呪文を全文そのまま転用しているせいで、余計なものまで混ぜ込んでいるとあたりを付けている。確かに水の生成は古代で盛んにおこなわれていたらしいから、そこを足掛かりにするのは悪くない。しかし、理解できない呪文を使ったところで効率が悪くなるのはその例を見ても明らかであり――」
「待ってホリーク、ストップストーップ。つまり、村全体に水を配ることができるってことでいいんだな?」
「まあそうだな。別に今ため込んでる水を配ってもすぐ作れるから問題はない。でも、そんなことするくらいなら水源を何とかした方がいいとおれは思うぞ」
……え、そんなことできんの?
おれが目を丸くしてホリークを見ると、鷲のきょとんとした顔で返された。え、できないと思ってたの、といわんばかりの顔をされては聞いてみるしかないだろう。
「そりゃ、水質汚染の原因がまだわかってないからうかつなことは言えないが、水をきれいにするだけならゼロから作るよりずっと楽だぞ」
「言われてみればそっちの方が楽そうだな……」
地球でも水蒸気を集めるよりろ過した方が早いもんな。そりゃそうだわ。
「ちなみに、ホリークでもお手上げな汚染ってどんな感じなんだ?」
「おれは解呪方向に疎いので、古代人の呪いだとか神クラスの因果律反転による性質変化とかは少し手に余るな」
「そんなたいそうなものがこんな辺ぴなところにあるわけねえだろ!」
しかも少しなのかよ。やろうとすればできるっていうあたり、さすがチート。
だとしたら、水質改善はホリークに任せた方がよさそうだ。この村の水源は近くの川と井戸で成り立っている。川のほうはなんとかなりそうだが、井戸はどうだろう。確か枯れかかってるって話だけど。
「井戸か……枯れてるってことはもうこの土地に水がない証拠だろうし、土地の復旧をするぐらいなら川をあふれさせたほうがまだ楽だな」
「そういうものなのか……なら、ホリークでも難しいんだな」
「いや、できないとは言ってないぞ姫様。姫様が魔法に特化させて作ったこのおれが、魔法でできないことなんてあるはずないだろう」
ホリークは急に語気を強めておれに食いついてきた。普段はあんなにめんどくさそうにしているのに、今は珍しいことにやる気がうかがえる。ひょっとしてこいつ、案外負けず嫌いなのでは。
「姫様が望むなら、たとえ奇跡でも起こしてみせる。だから何でも言ってくれ」
おまえ、魔法に関しては結構プライド高いんだな。初めて知ったよ。
ん、そういえば、井戸に関しては豆知識みたいなものを聞いたことある気がするぞ。おれはそれを何の気なしにホリークに伝えてみた。
「……ほう、水源のその下にまだ水源があるかもしれないと、姫様はそう言いたいのか?」
確か、水が含まれる帯水層は土の層と重なっていて、水を取る場所によって浅井戸とか深井戸とかあった気がする。結構うろ覚えなんだけど。
まあ、だからあの井戸をさらに掘り進めればまた水が出るかもしれないと。と何の気なしにいってみた。そもそも、そんな深いところから水が出てもどうやってくめという話だし、別に実践しなくてもいいと思う。
「いや、たとえ奇跡でも起こして見せると言ったばかりだ。姫様がそういうのであれば、どこまでも掘り進んで見せよう。これでも土系統の魔法にもたけているのでね」
そう言って、ホリークはくちばしを器用にゆがませて笑みを作った。笑いなれてないせいか猛禽類の怖さが前面に押し出たものだったけど、なんか楽しそうだしいいかな。こいつは完全な研究者気質で、チャレンジ精神が豊富なやつだから。
「ならばすぐに川の水質問題をかたづけよう。おれはその後井戸に取り掛かる」
それだけ言うと、英知に自信を誇るホリークはローブを翻して去っていった。あのやる気の量から言って、よほどの無理難題でなければ今日中には終わってそうだな。
これで水不足は解消されるだろう。では、残りの問題はっと……。
渡されたメモをまじまじ見ると、そこには食糧問題と記された欄があり、その横にきちんと原因と対策が考察されていた。本当におれのすることねえな。
「えーっと、対策としては、畑の開墾と防衛、あと、モンスター狩りか」
対策を口に出すと、横からヴァルがすかさず説明してくれた。
「左様でございます。この村は先の盗賊たちにより、戦力がそがれている状態です。その結果、周囲のモンスターを討伐しきれず、畑や森の動物を荒らされているようです。対策としては、森のモンスターにここに近づくと命がないと植え付けること、また荒らされた土地の開墾、それと防衛設備の充実などがあげられます」
ありがとうお助けNPC。お前は本当にチュートリアルで活躍するキャラだよな。
んで、それができるやつってだれだ。
おれが聞いてみると、縞模様の手が勢いよく上がる。
「はいはーい! 防衛といえばおれ、おれといえば防衛! 姫様に仕える完全鉄壁、このハンテルにお任せください!」
「僕も、モンスターを狩るなら得意だよ!」
レートビィも続き、これで役割分担がすぐに終わってしまった感じがある。この二人なら適任だし、問題はない。
「でも、畑の防衛ってどうすりゃいいんだ。そんなことするくらいなら村全体を結界で囲ったほうが楽だぞ」
「うーん、どうすると言われても、明確なヴィジョンはないなあ。いっそのことビニール栽培にするとか」
「なんだそれ?」
あー、ビニール栽培って伝わってないのか。そういえば、この世界に来てビニールってみたことないな。一応中世ファンタジーだったか。それに近いものはあるんだろうけど、名前が違うのかもしれない。
なので、おれが知ってる範囲の浅い知識をハンテルに伝授する。くそう、異世界に飛ばされるのがわかっていたら、もっと政治や農業について勉強しておいたのに!
たどたどしい説明だったけど、ハンテルにはなんとなく伝わったようだ。面白そうなものを見つけた子猫さながらの笑みがぱぁっと輝いている。
「なるほどな。つまり結界で囲って環境調節することで出荷時期をずらして高値を付けたり、外敵から身を守るってことだな。さすが姫様」
めちゃくちゃキラキラした目を向けられるととても痛い。こんな知識おれの世界なら小学生でも知ってるんですよ。むしろネトゲ廃人のおれは一般常識に疎いので、そんな目を向けられるほどの知識を持ってないというね! せめて、学校の地理くらいはまじめに勉強すべきだったという後悔が本当にひどい。
でも、畑を結界で覆うなんて、誰しもが考えそうなものだけど。どこかに先人の資料とかないのだろうか。あったらもっと楽なんだけど。
「んー、たぶんだけどな姫様。畑を結界で覆うって一言で言っても、ずっとしてなきゃいけないだろ。四六時中結界を作動させるのって結構大変なんだぜ、魔力も食うし。それが鉢植え一つくらいならいいだろうけど、畑全部となったら魔具を買う設備投資もばかにならんし、採算が合わないんじゃないかな」
う、言われてみればごもっとも。ビニールみたいな汎用性の高い素材があればまた別なんだろうけど、そういうのも高そうだしなあ。
「そうそう、それにモンスターに襲われる危険性がいつでもあるしな。高い素材を使っても一撃で破られちまうなんて割に合わねえし、結界くらいの強度がないと難しいんだろう。探せばないことはないだろうが、そんなことができるのは城壁に囲まれた都市の中くらいだと思うぞ」
ハンテルのさすがともいうべき考察に、馬鹿みたいに開いた口が塞がらない。おれがビニール栽培を簡単に説明しただけで、ここまで瞬時に短所と長所を把握できるとは。やはり頭の回転が速い。
ファンタジー世界も大変なんだな。たいてい魔法で何とかなるものだとばかり思ってた。
「いや、なるぞ。要はおれがずっと結界を作動できるような仕掛けを作って畑を覆えばいいだけなんだからさ」
「なるんかい!」
さっきから美少女とは思えないつっこみを誘発するのやめてほしいんですけど。上げて落とすってコントしてるわけじゃないんだからさ。
「魔具を作る能力は持ってねえけど、そこはホリークと相談してけばまあ何とかなるだろ」
えらくあっさり言い切るなこいつ。まあできるっていうのなら任せてみるか。
それであとはなんだ、ええっと、そういえば、レートビィがモンスターを狩るとか言ってたな。
ようやく自分に話が振られたとわかった兎は、満面の笑みでやる気を見せつけた。両手を握りしめて目の前でぶんぶん振るしぐさは、控えめに言ってかなり可愛らしい。
「うん! ここら辺は騎士の人らが来ないからモンスターが繁殖し放題みたいだし、僕が数を減らしに行こうかなって。それにトラップを得意としてるのは僕だし、ご飯の準備にも役立てると思うよ!」
「一人で大丈夫なのか?」
「任せてよ。ここら辺のレベルなら僕一人でも十分せん滅可能だよ!」
「さすがにせん滅はしなくていいからな!」
モンスター全部殺す気かなこの子は。やる気があるのはいいけど、そっち方向に向かうとちょっと怖い。
なんだか少し不安だけど、ここは信じて任せるとしよう。モンスター退治くらいなら別にって感じがしてるのは、完全にこいつらのチートクラスの強さに毒されてるなあとは思うけど。
「そうときまればさくっと片付けますか。せっかく鍬とか持ってきたのに、いらなかったな」
「じゃあね姫様、またあとでー! 行ってきます!」
虎と兎は元気よくそれぞれの方向へ駆けていく。まだおれは何をするかの選択しかしてないけど、もう開拓のほとんどが終わってそうだなこれ。
水と畑が何とかなったんだから、もう終わりなんじゃないだろうか。他に何かすることって……。
「姫様、私は何をいたしましょうか?」
あ、ブレズいたっけ。さっきから無言だったから存在を忘れてた。
ブレズにできる仕事か……。こいつは完璧な戦闘要員だから、こういう開墾作業でできることなんてそれこそ力仕事くらいなんじゃないかな。
「あとは、焼き畑を作るなら適任かと」
「おれら移動しないし……」
あと、こいつの火力でそんなことすると、草が二度と生えてこなさそうだから遠慮しておきます。
「何なりとお申し付けください。姫様のために、この力を振るいましょう」
う、うーん、やる気に満ちているのはいいけれど、まじでこいつなにができるんだ。
メモをためつすがめつ見てみたものの、適任は力仕事だけだな。技量を使うものは一つもない。あいにくこいつの火力が役に立つことはなさそうだ。
「お任せください! 岩でも大木でもなんでも削り取って燃やし尽くして跡形も残らぬようにしてみましょう!」
「待ってやるき出しすぎだから! もうちょっと抑えて!」
お前はここを地獄に変えたいのか。ごめんだそんなの。
単純に力仕事とは言うが、何をさせたらよいか。答えは黒狼が放ってくれた。
「ブレズ、だったら森の木を切って村に運んでくれないか。家の修復材料として高く売れそうだ」
「了解した。そんなことなら朝飯前だ」
ヴァルさんさらっと言ってますけど高く売りつけるの?
「もちろんでございます。搾り取れるところからはきちんと搾り取らねばなりません。姫様の恩恵を無償で得られると思いあがられては、反吐が出ると言うものです」
「う、うん、言わんとしてることはわかるけどさ」
無償でおれらが何でもしちゃうと、相手の自立能力を弱めちゃうとかそんな感じだよね。きっとそうだよね。反吐が出るとかはおれの聞き間違いということにしたから。お前はちょっとオブラートに包むということを学んで。
「うーん、だったら相場より安くしてあげたらいいんじゃないかな。今は別にお金に困ってるわけじゃないし、村が繁栄しないとおれらも困るし」
「おお、なんとお優しい。わかりました、奴らには姫様に感謝するように念を押したうえで、相場より安くして売ることにいたしましょう」
「なんか一言余計なものが聞こえた気がするけど、まあそんな感じで」
「かしこまりました。姫様への信仰を存分に高めてまいりますので、交渉は私にお任せください」
「なんでおれを教祖にしようとしてるんだこいつ……」
仕事は有能なのに、いちいちつっこみどころ満載なんだよなあ。訂正するのももう疲れたぞ。
「では、私は森へ行ってまいります。とにかくたくさん切ればよろしいでしょうか」
「森を全部なくさなければいいんじゃないかな……」
もうそんなことしか言えないよ……。お前はどこまで切り取るつもりなんだ。それを持って運ぶってことわかってるよな?
「もちろんでございます。帰りの際は、我が騎乗用の召喚獣に運ばせますので問題はありません」
贅沢――! 天級クラスのモンスターを木材運びに使うのかよ!
村の人たち、泡拭いて倒れないといいけど……。さっきからつっこみの連発でどっと疲れたな。何か行動するたびにおれがつっこみに回ってるんだけど。
「確かに、それはその通りでございます。せっかく呼び出すのですから、木を切るのも手伝ってもらえばいいですね」
違う、贅沢っていうのはそういう意味で言ったんじゃないんだ。林業をする天級モンスターって字面からしてギャグ要素濃すぎると思う。
だがブレズにその意味が通じることはなく、竜の首をかしげて頭に疑問符を浮かべるだけ。よく考えると、開拓にこいつらを使うっていうこと自体くっそ贅沢だったな。だったらもうどうでもいいか!
おれが許可を出すと、竜の顔が柔和にほころんだ。誰よりも戦闘に特化しているくせに、一番柔らかい表情をする。竜という種族のいかつさを差し引いても、内面からにじみ出る温和さは随一だろう。
「でしたら、さっそく行ってまいりましょう。ついでに邪魔なものを取り除き、畑として使えるようにならしておきますので、姫様の恩恵としてお広めください」
だからなんでおれを教祖にするつもりなんだこいつら。
おれのつっこみなどどこ吹く風で、ブレズはマントを翻して踵を返す。こうしてみると、やはりこの鮮烈な赤色は竜に馴染んで映えている。
竜騎士は森を見据え、高らかに叫ぶ。
「『神域魔竜召喚』起動、『火炎魔竜ハルバヴォルグ』『地殻豪竜ドラティザス』『極海深竜リーデアスカロン』、主の要請に従いその姿を見せよ」
待って待って待って待ってええええええっ!
こんなところで天級モンスター三体呼び出すなんて馬鹿じゃねえの! 馬鹿じゃねえの!?
真っ赤な飛竜と茶色と緑の甲殻竜と青く長い海竜というテンプレ的見た目のモンスターがどどんと登場した。ちなみにこいつらは全部天級なので、やろうと思えばここら辺壊滅させられるんじゃねえかな……。
一体でも贅沢だと思ってたのに、三体とかオーバースペック極まってるぞ。戦争しに行くの? 大丈夫?
やっべぇ……あの三竜、やる気満々で呼び出されたのに林業するって聞いて目が点になってる……かわいそうすぎる……。
おれが呆然と現実の処理にいそしんでいると、ブレズは竜に乗って森へといってしまった。この様子だと、レートビィのモンスター退治ってする必要なかったのでは? あんなの見たらモンスターとか絶対近寄らないだろうが。
ま、まあいいや、なんかもう、どうでも。うん、なるようになって。おれは知らない。
こうして残されたのはおれとヴァルだけになってしまった。さすがにみんなに言いつけておいて自分が何もしないというのも心苦しい。ううむ、他の仕事を探すか。
「姫様」
そこで、ヴァルに声をかけられた。見てみると、狼はまだ何か紙を持っているではないか。
「こちらは、姫様にしかできないことのリストアップです。姫様はお優しい方ですので、こうなるだろうと思いこちらをご用意させていただきました」
くっそ有能! 持つべきものはヴァルだな本当。
…………んんん? 見間違いじゃなければ、さっきもらったメモと同じ分量が書かれてるんだけど。おれにしかできない仕事ってこんなに多いの?
うん、モンスターを家畜化するのはそういうスキルを持つのがおれしかいないからわかる。あと、作物や家畜を元気にするのは回復系統がおれかハンテルしかいないし、ハンテルのスキルは対人用だからこれもしょうがない
それと、あーなるほどね。村全体にバフをかけることで雰囲気を活性化させるのね。確かにそうすればみんなに生気が戻る。一時的とはいえ、生活が改善するまではこれでしのいでもらうのが一番か。これもおれしかできねえな。
待って、これかなりの重労働じゃない?
そう思ってヴァルを見ると、黒狼は重々しくうなずいた。
「っは、姫様の唯一無二の能力は戦闘以外でも素晴らしい恩恵をお持ちです。それを求める有象無象は数多く、もちろん、これらすべてをこなす必要などありません。姫様は、ただお好きなことをなさってくださればそれでよいかと思います」
「ちなみに、全部するっていった場合は……?」
「この私がつきっきりで補佐させていただきます。すでに、ゴウランの家には事前に通達して許可をいただいておりますし、村人を広間に集める時間も公布しております。その時間以外でモンスターを家畜化し、作物などに恩恵をお注ぎください」
「なんだその手回しの良さ。お前、おれが全部選ぶのをわかってたな?」
結局全部お前の掌の上かよ。ジト目でにらんでやると、ヴァルは、鉄面皮といわれても仕方ないくらい表情筋が硬いこの狼は、柔らかく口角で弧を描いた。
なんとも珍しい。笑うと本当にいい顔するんだよなこいつ。
端正な顔に浮かぶ人らしい微笑で、ヴァルは言う。
「せん越ながら、我らの姫様ならそうおっしゃるだろうと思っておりましたので」
「なんでそんなにうれしそうなんだよ」
「気に障ったのなら申し訳ございません。ただ、やはり我らの姫様はお優しい方だと思ったまででございます。今回の開拓といい、利がないことも積極的に行う姿勢。まさに、我らの前に現れただけのことはございます。その恩恵が我らにも注がれているのだと思うと、この胸の高鳴りを抑えきれませんでした」
別にきたくて来たわけじゃないんだけど、それを言うとかなり絶望しそうだな。おとなしくしておこう。
どうやらヴァルたちにとって、おれがここにいるというだけで優しいことになるらしい。不思議な話だ。頼り切っているのはおれの方なのに。
おれは手に持ったメモに目をやって、ため息を一つ。
こんだけあると今日中に終わるかなあ。みんな揃って晩御飯を食べれないかもしれない。
やれるだけやるしかない。そう結論づけるしかなくて、おれはヴァルを引き連れて村へと向かう。
でも、初めてともいえる労働に、おれの気分がすがすがしいのも事実だ。盗賊退治では事の成り行きを眺めるだけだったのだけど、今はみんなと一緒に行動できている。
おれは後ろについてきている黒狼を振り返り、白髪が舞う中で笑みをこぼす。カーソルで選ぶだけでは味わえない達成感を求めて、こいつと一緒に頑張るとしようじゃないか。
「よっしゃ、頑張ろうな!」
応える狼は、とてもうれしそうに笑ってくれた。




