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美女?と野獣の異世界建国戦記  作者: とりあえず
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暗躍スタート

 ハウゼンらにはまた来てほしいとお願いして、おれらはホールで作戦会議だ。

 一気に事態がめんどくさい色を呈してきて、ご飯がのどを通らない。せっかくのヴァルお手製ご飯なのに……。ああ、脱ニートしたいとか言ってごめんなさい。こんなことになるならもっとニートでいいです。ニート万歳。


 なんて愚痴っていても仕方ないか、まずはリュシアのほうから整理していこう。


 リュシアはビストマルトを諸悪の根源だと見ており、この差別騒動もその国が裏にいると考えている。そのせいでギルドに優秀な人材が来なくなることを憂いており、おれらがビストマルトへ行くことを阻止したい立場っぽい。

 リュシアの意見を信じるならばハウゼンらはビストマルト側であり、おれらを引き抜きたい思惑を持っていることになる。最終的にヨルドシュテインとここで戦争を起こすと言っていたが、ハウゼンらの言う通り、ここで戦争を起こしても連合とヨルドシュテインの二つから叩かれるだけなのではないだろうか?


「いえ、そうとも限りません」


 おれにお茶を配りながらヴァルが補足してくれる。


「そのためにこの差別騒動があるという前提に基づくならば、連中はおそらく、戦争開始とともに獣人たちに蜂起を促すと考えられます。外と中からの圧力で、この国が連合やヨルドシュテインに助けを求める前に、もしくは援軍が到着する前に勝負を決めてしまう心づもりなのかもしれません」


 あーなるほど。この国がヨルドシュテインに助けを求めなければ、あの国の動く大義がなくなるもんね。連合は動くだろうけど所詮は他国のこと、この国を救おうと突撃するかと言われたら首をひねるところか。

 だからわざわざ獣人を迫害するように仕向けているのかと考えたら、それはそれで理屈が通る。リュシアの意見が嘘だと否定するのは難しくなったな。事実、ハウゼンらは来たわけだし。


 おれを気遣って甘めにしてくれたお茶が胃にしみる。糖分を補給して、少しでも頭を働かせないと。おれもハンテルみたいに無我夢中でご飯をかっくらえたらどんなにいいことか。

 まあたとえ十全でもそんなことできないけどな、美少女だし。


 んで、ハウゼンらの意見では、諸悪の根源はヨルドシュテインってわけだ。

 この国、ノレイムリアがヨルドシュテインの傘下に加わりたいがためにこんな騒動をでっちあげているという見方で、リュシアもそれに加担していると考えてるみたいだな。

 どっちにしろこの国が戦火に巻き込まれることは共通意見のようだし、どうあがいても戦争は起きるんだろうな。そのときにおれらがどの立ち位置にいればいいのか、あまりはっきりとはしない。

 そして、この国から逃れるためにはおれらがかくまっているイグサを逃がさないといけないくなると。ふむ、やっかいだな。


「なんか、あのおっさんすんげえヒロインみたいになってないか。おれらがどう行動するにしても、あのアキレス腱をどうするか考えないとダメっぽいな」


 ご飯を平らげたハンテルが眉を寄せながらうなる。食ってるだけかと思ったが、真面目に話を聞いてたんだなこいつ。


 どうにかするとは言っても、イグサは重犯罪人だし隠すのも難しい。ましてや禁忌使いだ。禁忌を忌み嫌う聖教国家のヨルドシュテインに捕まったら即刻処刑だろうな。そもそも禁忌とかいうカテゴリを決めたのもその宗教だし。


 なので、ビストマルトへ引き渡すという考えはあまり悪くないように思えるんだけど。

 そうおれが疑問を投げかけると、お茶のお替りを注いでくれたヴァルが言葉を返してくる。


「そうなりますと、我々に対する人質として、今度はビストマルトが猛威を振るうことになりますが」


 ですよねえ。アキレス腱だとばれている以上、どっちに引き渡しても似たような展開になるよな。


「いっそのこと、死体でもでっちあげますか。似たような種族を探し出しておけば、ばれる可能性もかなり低いでしょう」


 ……だからお前はなんでそう発言が不穏なんだ。いや、それが最適とはいかないまでも、その場しのぎとしては悪くないんだけどな。


「それに、イグサには姫様が禁忌を使うところを見られております。もし口を割ることがあれば、姫様の立場が悪くなります」

「ああ、それもあったな」

「ですので、もし引き渡すことになったのなら、ステラを人質にして口封じをしておいた方がよろしいかと」


 不穏極まりないけど、一理あるんだよなあ。


 はあ、いっそのことイグサの見た目を変えれたらなあ。そうすれば見つかってもばれないし、それを使えばおれも男になれる。万々歳じゃん。


 …………ん、それじゃね?


 最適解ってまさにこれなのでは?


 後顧の憂いを断つためにも、イグサには第二の人生を歩んでもらうのが一番なのでは。

 さすがに一度助けた命を見殺しにするのも後味が悪いし、イグサを助けるためにはこうするしかない気がしてきた。

 おれがそれを伝えると、全員が思案する。最初に口を開いたのは、ホリークだ。


「ふむ、悪くない。所詮は変装だし時間稼ぎかもしれないが、イグサをかくまっている証拠がなくなるからおれらは自由に行動できる」

「ああ、いいんじゃねそれ。で、そういう魔法に心当たりはあるのか、ホリーク」

「今のところ思い当たる魔法はないな。王都の図書館か魔術研究所の資料をもっと漁れればおそらくはあるだろう」


 そこでホリークはヴァルとレートビィに目配せをする。あからさまに悪だくみを企んでいますよと言わんばかりの目線だ、絶対ろくなことを考えてない。

 それを受けたヴァルがにやりと、まるで悪代官のように口角を上げるのだ。こういう顔はものすごく似合うのなお前。


「つまり、こっそり資料を盗んできてほしいということか」

「ああ、隠密にかけてはお前らが最強だからな。ついでに裏方の情報収集をしておけば真相もわかるだろう」

「もちろん、裏にいる国がどちらなのかを調べるために暗躍することは私の仕事だ。お前に言われなくとも進言する気でいた」

「ついでに魔導書を借りてくるという仕事はどうだ?」

「朝飯前だ。もっとも、姫様の執事としての仕事が最優先だから、片手間になるだろうがな」

「……うーん、泥棒はダメだと思うんだけど、借りるだけなら……うーんでもなあ」


 レートビィ君が良心の呵責と戦っておられる。盗賊職にあるまじき性格だが、こういうところがかわいいのだ。親ばかな自覚はあるが。

 しかし、どうやら緊急事態だと割り切ったらしく、おれを見てがんばるよとやる気をあらわにしてくれた。頭をなでてやると、嬉しそうに顔をほころばせた。


「じゃあ、おれはどうするかなあ。できることと言ったら防衛ぐらいだけど、結界魔法でこの町を要塞化でもしておくか。どうせ戦争が起きるなら防御力は高いほうがいいだろ」


 ハンテルはどうやらこの町の防衛をするようだ。確かに、おれらが暗躍してるのを探られたくはないしイグサを探されたくはい。魔法によるのぞき見を防ぐには結界が一番だ。それを町すべてに張り巡らせるのは大仕事だが、ハンテルならできるだろう。


「結界っていうのはなにも防ぐだけじゃないんだぜ姫様。中を掌握するための世界を作るってことだからな。探査もできるように機能を追加すれば外から来た異物だって一発でわかるんだ」


 ううむ、守備に関しては本当に頼りになるな。普段は甘えたがりの猫のくせに。


 だんだん方向性が見えてきたな。イグサをかくまうために、まずは姿を変えさせる。そのための魔法を探しに、ヴァルとレートビィが資料をかすめ取り、それをホリークが解析する。それと同時進行でハウゼンとリュシア、どちらが正しいか情報収集をする。

 ハンテルはいざってときに備えてこの町に魔法を張り巡らせる作業。のぞき見や侵入を防ぐのはもちろん、もし戦争が始まってしまったらこの町を要塞にして被害を防ぐつもりだ。


「うまくいけば戦争も回避できるかもしれないし! 姫様、頑張ろうね!」


 レートビィが言うゴールは最善に近いものだ。裏で糸を引いているものをあぶりだして追い出せたなら、戦争自体を回避できる可能性が高い。

 それができるに越したことはないけれど、当面の目標はおれらの弱点をなくすことだな。


「姫様、私はたびたびここを離れますが、ご入用の際はいつでも『思考伝達(チャット)』をお飛ばしください。いかなる時でも姫様の身の回りのお世話を怠らぬよう努力します」


 う、うん、さすがにそこは潜入を優先してほしいんだけど……。おれのせいで見つかったとかいやだからね。


 そう言いたかったけど真摯な表情で深々と一礼する狼を見ては、そんなこと言えるわけもなかった。ヴァルは通常運転の有能執事としての顔のままレートビィに近づき、さっそく計画を練っていく。


「情報収集なら、王都で知り合った情報屋さんの影猫のお兄さんに聞けば何かわかるかもしれないね。そこらへんからネットワークを作ってみるよ」

「なるほど、それならお任せしよう。なら、私は魔術研究所の資料室にお邪魔するとしようか」

「それだったら『第三の瞳(トライディション)』の使い魔を一匹貸そうか? 持って行ってくれたらマップ埋めはやっておくけど」

「さすがに使い魔よけの魔法障壁が展開されていると思うのだが?」

「ああ、別に大丈夫だと思うよ。中に入っちゃえば反応しないだろうし、もし反応しても一度引っかかれば僕があとでその障壁に合わせたステルス機能を足しておくよ。ヴァルなら使い魔が見つかっても即脱出できるから余裕だと思うんだけど、どうかな?」

「それなら何の問題もないな。さすが盗賊職を極めただけはある。マップさえ把握してしまえば私としても仕事がはかどる」

「それに、鑑定が得意なのは僕のほうだからね。使い魔越しだから精度は落ちるけど、居ないよりはましなはずだよ」


 隠密担当と盗賊担当が本気で手を組むと入れない建物なんてないんじゃないかと思い始めてきたな……。これはおれも男になれる日も近いのでは?


 そんな二人から少し離れて、食後のお茶を飲みながらほっこりした顔をしているハンテルが楽しそうに尻尾をくねらせている。たぶん、この町を要塞化する計画を練るのが楽しいのだろう。男の子として気持ちはわからなくもない。


「なあなあホリーク、この町を防護壁で囲むのに魔術に使えそうな絵の具がほしいんだけど?」

「文様でも書くのか?」

「そんなところかな。なにかあてはあるか?」

「……手持ちで最も絵の具に適した道具と言えば、やはり、マスラステラの血だろうな」

「あー……確かに。頼んだらちょっと分けてくれないかな」

「やってみるといいさ」


 虎と鷲の二人はその後も何やら魔法に関して話し合いをしており、聞き漏れた言葉で推察すると結構壮大な計画になってそうだな。要塞化なんて大げさに言ったつもりだったが、本当にそのくらい物々しくなりそうだ。


 各々役割を見つけ、おれもようやくご飯が食べられる。ヴァルお手製のおいしいご飯に舌鼓を打ちながら、今後に思いをはせる。

 ん? ちゃくちゃくと計画が進んでいるようだが、とても大事なことに気づいてしまったぞ。待て待て。これは結局いつも通りじゃねえか。


 ――――おれはニートか?


 確認すべく首を向けるのはブレグリズへ。こいつも仕事を振られていないはずだ。きっと思うところがあるはず。

 そう信じて竜騎士を見ると、彼はいかつい顔をにっこりほころばせた。まるで、おれを安堵させるような笑みは騎士というより聖職者のようだ。


「ご安心を。ヴァルがいない間、私が姫様のお世話をさせていただきます。まだまだ未熟ではありますが、なんなりとお申し付けください」


 ……うん、読めてた。

 やっぱりというか案の定というか、最低でも一人はおれのそばに置かないと不安なんだろうなこいつら。そりゃ、おれの戦闘能力はこいつらの中で最低だから、誰かいてくれるのはありがたいけどさ。


 こんなひっ迫した事態になってもニートを貫けるほどおれの神経は図太くないんだ。何か仕事をしたいのだけど、それは自分で探さないとだめっぽい。


 でも、できることないよなあ。おれらが暗躍してるってことがばれたらイグサを差し押さえられそうだし。そうなったらもうお手上げだ。そして、ばれないように動くにはおれの能力では不得手。それに加えてこの美貌だし、人目に付いたらまず間違いなくアウト。

 どうあがいても結論としてニートってことになるんだよな。おれが最も輝くのは人体改造してる時とバフかけてる時と回復してる時だけだから。こういうシティシナリオみたいなのは専門外だな。……おとなしくニートするしかないのかなあ。


 さっきあれだけニートしたいって言っといて、いざニートとなるとかなり気が重い。こいつらにだけ働かせて、おれは安穏と暮らすのか。


 はあ、とため息を吐いて、ニートは暗たんたる気持ちですよ。

 せめて、みんなが無事にミッションをクリアできますように。そう祈るしかできなかった。



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