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美女?と野獣の異世界建国戦記  作者: とりあえず
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王都へ行こう

「姫様ー! 見てくれ、Aランク依頼全部踏破! これでギルドクリスタルから新しい依頼もらおうぜ。今度はSランクとか欲しいな」


 さすがに国が動くレベルの依頼がこんなさびれたギルドに来るわけないと思うがなあ。

 あと、おれ言ったよな。あんまり目立たないようにしろって。なんでたった数日でAランク依頼全部終わってんだよ。


「だって暇だったしよ。ホリークが魔法を使わないと腕がなまる、とか言うし。モンスター退治なら戦闘訓練にもいいだろ?」


 訓練がてらにAランク依頼って使うのはおれらぐらいだろう。最近はAランク程度なら楽勝だという認識が染みついてしまい、もはや単独で依頼に行くレベル。そんな軽いもんじゃねえだろうが絶対。


「それに、小分けにして報酬を受け取るからそこまで目立たないだろきっと。モンスターの素材はホリークが加工してくれるみたいだし、これで戦力もアップだな!」


 ハンテルは褒めて褒めてと言わんばかりに尻尾を振っておれに顔を近づける。こいつがこんなにやる気高いのも、ひとえにこのご褒美目当てなところがある。さすがに自重してほしいんだけど、こんなに期待でキラキラした目をおれは裏切れない。

 そして、そんなキラキラした目を向けてくる奴がもう一人。


「ほら、お前もなでてやろうか、レートビィ」

「い、いいよ別に……っ! 僕は別に、そんなことで喜ぶような子供じゃないし」


 お前より図体のでかい虎柄の子供が目の前にいるんだけどな。それに、そんな未練がましい口調で言われても説得力などかけらもない。子供ほど子供扱いされるのを嫌う典型だな。いつもの素直さを出せばいいのに。

 おいでおいでと手招きすると欲求には抗えなかったらしく、とととっとやってくるレートビィ。気分はさながら猛獣使いだ。ちょろすぎてお父さんは心配です。

 柔らかな毛皮が二つで暑苦しさも倍。とりあえず適当になでてやって時間を潰すか。


 曲がりなりにもAランクという事で、結構な報酬金がもらえた。盗賊の時は憲兵に受け渡したのちに証明書をもらい、それをギルドクリスタル経由で送る必要があった。けど、モンスター退治程度なら素材の一部だけでいいらしく、効率の面で圧倒的に楽ができる。憲兵の汚物を見るような視線ももらわなくて済むし、当面はモンスター退治で糊口を凌ぎたいところ。

 今思いかえすと、本当にこの町は忌み嫌われてるんだなあと思う。憲兵の態度からもそれは明白で、あと少しでおれらと敵対するところだった。まあ、おれに向けられた色目にみんなが反発したっていうのもあるんだけどさ。いやはや美少女ってこういう時に不便。


 虎と兎を部屋に解き放ち、おれはまた一人ぼんやりする時間を堪能するとしようか。二人はほくほくした笑顔で立ち上がり、新しい依頼が届いていないかクリスタルを確かめに出ていった。ひょっとして、依頼をクリアされるたびになでないといけないのだろうか。


「……まじでありえそうだな」


 やる気があるのはいいことだが、そんなんでいいのかお前ら。お金とかあってもこんなさびれた町じゃ使い道がないのもわかるけど、もっと有意義なことをしてほしい。

 ふーっとため息を吐いて、さて何をしようかと今日の予定を考える。

 ……することはない。何度脳内を漁って用事を探しても、これといった予定は存在していない。

 ギルドの改築はほぼ終わっており、手持ちのスキルで強化できるところはすべて終えている。依頼に行こうにも全部完了してあるし、そもそもおれが依頼に行くのに全員が反対している。家事全般はヴァルと、最近執事見習いになったブレズが担当しており、仕事などあるはずがない。

 まごうことなき完璧なニートの誕生である。


 いや、ちょっとだけ補足させてほしい。最初はおれもきちんと働いてたんだ。町の人のけがや病気を治したりしたし、水源の浄化をホリークと一緒にもした。モンスターを手なずける技術を使って家畜も増やしたし、ハンテルの結界技術を使ってビニールハウス的なものだって作った。

 でも、それで終わり。それ以降は仕事なし! ある程度発展させたらそりゃもうすることないですよね。あまりにやりすぎても怖がらせそうだし、これくらいでいいだろうとみんなで決めたんだ。まあそれだけでも、この町は大幅に発展したしいいよね。


 依頼料はちょっと溜まってきてるけど、おれが稼いだ金じゃないから使い辛いし、町に出歩くと男どもの視線がうっとおしい。おれは男だってぇの! そんな視線に興味はないの!

 男装しようにもこの胸と長い髪が邪魔だし、姿を変える魔法とか取っておくべきだったな本当に。あいつらの中にも使えるやつはいないしなあ。そういう魔道具を作ろうにも、自分が使えない魔法効果を付与するのは設定上不可能だ。どこからかそんな魔法が書かれた魔道書とか見つけるしかないなあ。どんだけ低確率なんだよ。死ぬしかない。

 というわけで、外にも出たくないんだこれが。ヴァルデザインのなんだか無駄にきらびやかな部屋で今日ものんびりニート生活を堪能するのであった。完。


「暇だー……」


 天蓋付きのベッドに倒れ込み、辟易した声が飛び出した。

 男になりたい、元の世界に帰りたい、なにか暇をつぶしたい。

 これがおれの三大欲求だ。誰か満たしてくれ。


「失礼します」


 低く男らしいがどこか緊張した声と共に響くノックの音。おれは慌てて椅子に座り直し、一回咳払いをしてから入室を許可する。

 ドアが開きブレグリズが現れる。普段の鎧姿とは違う執事服を着た竜は、きびきびと頭を垂れて部屋に足を踏み入れる。ヴァルみたいなすらりとした体型なら映える執事服も、ブレズが着るとただのSPみたいだといつも思う。

 がらがらと押されて来たカートには、新しいポットとお菓子が乗っている。おれの罪悪感がまた悲鳴を上げた瞬間だ。


「紅茶のお代わりと茶菓子をお持ちしました。今回のお茶は私が入れたので、ヴァルより味は劣ると思いますがお口に合えば幸いです」

「お前は本当に働き者だよなあ。どうもありがとう」

「いえいえ、私は戦うことしかできない身なので、こうした戦闘時以外はスキルを使わないサポートしかできません。足を引っ張らないようにするだけで精いっぱいでございます」


 ニートにその笑顔はまぶしすぎて溶けそう。足を引っ張るどころかごく潰しなんですよね今。

 優しい微笑を浮かべて、竜はポットを交換してくれる。最初こそ不器用さが表れていたごつい手だけど、今ではだいぶましになった。

 戦闘以外で役に立ちたいとヴァルに執事の教えを乞うたときはどうなるかと思ったが、結構さまになってきている。ヴァルとお揃いの執事服をホリークに縫ってもらい、見た目は完全に執事だ。


 つまり、ブレズ・ヴァルはギルド運営と管理を担当し。ハンテル・レートビィは依頼を担当し。ホリークは情報収集と必要なものを作ってくれる裏方担当。

 そしてニートのおれ。

 いかん。いかんぞこれは。このままだとおれの存在意義が無くなってしまう。


「ブレズ。おれはホリークの作業を手伝おうと思うのだが、どう思う?」

「申し訳ございません。ホリークには有益な情報を掴むよう急がせますので、今しばらくお待ちください」

「ううん、そういうことじゃないんだよなあ」

「なにぶん蔵書が膨大ですので、猶予をいただければ幸いです。ホリークもサボっているわけではないと思いますので」


 別に遅いから怒ってるわけじゃないんだよなあ。伝わってほしいニートの苦悩。

 この町にある図書館らしき建物はホリークが占拠していると言って過言じゃない。町の歴史やらなにやらが詰め込められた情報は膨大な量となっている。さびれてはいるが歴史ある町なので、蔵書をきちんと保管してくれているのは嬉しい限りだ。

 もっとも、ホリーク一人では調べられる量に限度がある。なので、おれも手伝おうかと打診したしだいであり、断じて発破をかけるつもりで言ったわけではない。司書がいたらもっとはかどったんだけど、生憎悲しい無人図書館だ。金にもならない紙束がうら寂しく誰かを待っているのみ。

 他にできることと言えば、ブレズみたいな執事見習いか。依頼はおれらが独占してるから、他の冒険者の為に酒場を開くっていうこともない。この見た目を活かした給仕とかいいと思ったんだけど人手は十分足りてそう。


「おれもブレズみたいに執事修行とかするかー」

「でしたら、私たちは誰にお仕えすればよろしいので?」

「そーなるよねー」


 わかってた。仕える人もいない執事とか無理なことくらい。

 ブレズは湯気が立つ紅茶をコップに注ぎ、古いカップも引き下げる。そして、ヴァルお手製のデザートが入った、皿が三段縦に並んでいるティースタンドをテーブルにセットしてくれた。こんなしゃれたお菓子置きなんてこの世界に来て初めて使ったぞおれは。

 甘い匂いをさせるカップケーキにクッキーやマフィンっぽい食べ物。味覚に関する感性が元の世界と似ていたのはありがたい。はた目から見てとてもおいしそうなんだけど、依頼で得たお金がこんなところに使われていると考えたら、あまり喉を通らないんだ。


「働いてないのにこんなもてなしをされると、居心地が悪いんだよなあ」

「姫様はすでに働いておられますよ。このギルドの方向性を決めたのはほかならぬ姫様ではありませんか。先導は指示をするだけで十分な仕事かと思います。実際に足を動かすのは私のような臣下の務めですので」


 あーーーー、なんの疑いもなく曇り一点もない澄み切った笑顔がまぶしすぎる。これがヴァルだったらまだ罪悪感も少なかったのに、こんな優しい笑みで言われるともう耐えられない。

 うううぅ、おれも働かないと。簡易医療施設でも併設してみようか。一応回復魔法はあるし、薬品知識のスキルもわずかにある。作れるのは中級までなんだけどな。

 おれってNPCを作るスキルに特化した特殊型だからなあ。モンスターを手なずけたり、人体強化とか今のところ使い道がないぞ。というか、人体改造系スキルはカテゴリとして禁忌枠なんだよな。ゲームやってる時は習得がめんどくさいぐらいしか気にしなかったけど、この世界でやったらあかん気しかしない。最悪ブレズ達にもひかれそう。

 つまり、できることがあんまりないんだなおれ。武器防具を作ろうにも素材が足りないことを考えると、アクセサリーショップか簡易医療施設の二つぐらいか。晩御飯時にみんなに打診してみるか。依頼以外に金を稼ぐのも大事だ、なんて言えばまあいいだろう。


「何かいい考えが浮かんだようですね」

「そう見えるか?」

「はい。とても楽しそうなお顔をされております。手伝えることがあれば、何なりと申し付けくださいませ」


 仕事が欲しいのはブレズも一緒か。おれより真面目だし、仕事がなかったら死にそうだよなこいつ。今だって新しい仕事の気配を感じて、尻尾を振ってるし。

 いろんな情報を探しに行きたいが、そもそもまだ足場が固まってないしな。のんびり行くしかないだろう。

 幸い町の連中には結構ありがたがられていて、溶け込めてはいる。高レベルのスキル所有者として、冒険者や用心棒のような存在だと思われている。当分はここから出れそうにない。


「まあ、こうしてのんびりするのもいいかな」


 血なまぐさいよりずっとましなことは確実だ。そう結論付けてブレズの入れてくれたお茶に口をつけると、ふわっと香りが鼻腔に広がった。丁寧に入れられた茶葉はブレズの気持ちに応えたかのように、ふわりと、優しい味を広げていた。

 感想を求めているのはそわそわした竜を見ればすぐわかる。だから、おれは口を開こうとして――


「姫様姫様! なんかすげえ依頼が届いてるぞ!」


 突如ドアを開けて入ってきたハンテルに遮られた。


「ハンテルっ! 貴様は淑女の部屋に入るのにノックもしないつもりか!」

「いや、確かにそれは申し訳ないけど、それどころじゃないんだって」


 なにやらものすごく慌てている様子。憤るブレズを押さえ、ハンテルに理由を聞いてみた。

 虎はわずかに毛を逆立て、興奮を隠しきれない様子で一枚の紙を差し出した。ギルドクリスタルから送られてくる依頼書かと思ったのだが、そこに書かれていたのは予想外の文字だった。


「『緊急依頼通知』……?」


 赤文字ででかでかと書かれ、いかにも急を要することがわかるようになっている。ふむ、なにかやばいことでも起こったのかな。


「さっきクリスタルを確認しに行ったらこれが届いててさ。なんでも、王都に優秀なギルドメンバーを集めて作戦会議するらしいぜ。今、レビィが他の二人を呼びに行ってる。ホールで会議する案件としては十分なはずだ」

「して、依頼内容は?」

「それがまだ確認中って書いてある。詳しいことは王都で聞けるだろ。ただ、依頼難易度は最低でもSだとさ」


 Sランクか。国が動くレベルということは、この召集は国が出しているのか? そこらへんの構図が今一つ理解できてない。

 それにしても、優秀なギルドメンバーねえ。最近立て続けにAランクをこなしているから、白羽の矢が立ったのだろうか。差別対象である人外の町に? 嫌な予感しかしないのはなぜだろう。


「つまりさ、明日にでも王都に遊びに行けるってことだよなこれ」

「事はそう簡単ではないぞ」

「わーってるって。どうせ奇異の目で見られるんだろうけどさ、国一番の都市なんだ、いろんなものがあるし、いろんな情報があるだろうぜ。もしかすると仲間の情報とかあるかもしれないじゃん」


 とか何とか言っているけれど、ハンテルは初めての旅行ぐらいにしか認識していないようで、何を持っていこうかなーなんて浮かれた気分で尻尾を振り回している。

 でも、王都に行けるのはいいことだ。この町で得られる情報にも限度がある、人の交流があるところにこそ行くべきなんだろう。


「して、移動手段はいかがなさいましょう。ここから王都まで結構な道のりがあるようですので、竜を召喚するのもいいかもしれません」

「僕、馬車に乗ってみたい! のんびり景色を見ながらいろんなところでお弁当食べようよ!」


 いつの間にか部屋にやって来た残りメンバー三人が当たり前のように会話に入ってきた。ホールで話し合うとか言ってたのに、なんでおれの部屋に来てるんだ。


「弁当か……確かに道中の食事にも気を配らねばなるまい。ホリーク、鮮度を保存する魔法を習得していたはずだな?」

「ああ、あんなの駆け出しなら覚えてしかるべき魔法だからな。余裕だ」

「なら問題ない。収納は姫様の『異次元袋アナザーディメンション』に入れておけばいい。腕を振るって最高のものを作るとしよう」


 ヴァルがやる気に満ちた語気で宣言するが、表情はいつもの鉄面皮のそれにわずかばかり口角を上げた程度。悪い奴ではないのだけど、人から誤解されやすいタイプだと思う。

 普段の料理でさえフルコースかよとつっこみたくなるようなものなのに、このやる気で作るとどんなものができるのか想像もつかない。食材狩りで町周辺からモンスターが消えてしまっても不思議じゃないな。


「竜が入り用なら私が召喚しようか。竜騎士ブレグリズが誇る『火炎魔竜ハルバヴォルグ』ならあっという間に着くだろう」


 あれなら確かにおれら全員乗れそうなほどでかい飛竜だけどさ、そんなもので王都に行くとか戦争を疑われても文句言えないぞ。


「空から行くのもいいけどさ、どうせなら地上の旅を満喫したいじゃん。その後で空を飛んだ方が感慨深くもなるってもんだ。お前が召喚できる竜ってたしかまだいたよな。だったら陸上用の『地殻豪竜ドラティザス』とかどうだ?」

「賛成賛成! あの子なら馬より早いし強いしね!」


 ハンテルとレートビィが楽しそうにはしゃいでいるが、ちょっと待ってほしい。馬より早いというか、あれは弾丸みたいな速度で突撃かますモンスターだぞ。馬車とかひかせたら、慣性の法則でおれらが置いてけぼりを食らいそうだ。

 ブレズの騎乗用ドラゴンは全部強すぎて威嚇する結果にしかならないと思うんだよなあ。まあ、直前で下りれば大丈夫、かな? 


「なあ、姫様」


 はしゃぐ奴らをしり目に、ホリークが控えめに声をかけてくる。こいつは常識的な部類だし、なにか忠告でも来るのだろうか。


「魔道書買いあさりたいんで小遣いが欲しいんだが」


 お前もはしゃいでるのな! 言われてみれば気だるそうな目に生気が宿ってるように見える。わかりづらいわ。


「あ、おれもおれも! うまいものとか面白そうなお土産欲しいし、いくらか恵んでくれよ姫様!」


 一番働いてない奴が財布のひもを握ってるのはこういうおねだりに弱くなるからやめてほしい。自分が稼いだお金ぐらい、自分の好きにしていいんだよ……。


「どうせまとまって動くのだからそんなもの気にしてもしょうがないだろう。現地での単独行動は嫌な予感しかしないので、できるだけ慎むように」


 さすがにこういう時はびしっと言ってくれるヴァルデックさんイケメン。


「新しい町ってわくわくするよね。いろんな隠し通路とか隠し部屋探さないと」


 探索用に作ったからなのか、レートビィ君の楽しみ方がおれにはちょっと理解できないですねえ。子供は探検好きっていうのならそうなのかもしれないけど。

 各々が好き勝手に楽しそうにしているけれど、呼ばれた理由が緊急クエストだっていうの忘れてないだろうな。ここ最近はAランクが生ぬるすぎて危機感が薄らいでいる気がする。

 まあ、危ない気配を感じたらすぐさま戦闘モードに移行できる連中だ、間違いが起こる確率はおれよりも低いだろう。


 完全にピクニックに行くような気軽さで、王都に行くことが決定してしまった。差別渦巻く町だっていうのに、なんだその気楽さは。もうちょっと心配とかしてほしいな。

 一体全体どうなるのかわからないけど、きちんと仕事して情報をもらいに行きましょうかね。町の発展にもつながるだろうし、新しい発見があるかもしれない。


 ああ、王都に行ったら何をしよう。ゲームのままだったら中世ファンタジーの雰囲気が存分に楽しめるはずだ。新しい靴とか買いたいな。


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