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破壊の左手、創造の右手

日間ランキング95位ですって奥様!

 ゴーレムの体は上半身が脆く、下半身が丈夫という目測は見誤ってはいなかった。

 指を切り落とした時、紙をきるようにすぱっと切った。

 このゴーレムは魔法的作用が働いているはず。


 一度受けた攻撃を無効化できるほどの魔法。

 例えば、受け止めた攻撃より強度が上がるとか、攻撃される度に固くなるとか――様々な要因が考えられる。


 ……考えるのは性に合わない。


 丁度いいサンドバックが現れたと考えるんだ。


「はあああああっ!」


 剣を横に振り、再びゴーレムの間合いに入る。

 ゴーレムはすぐさま反応し、両腕を振り上げて叩き落とす。

 地面は衝撃で揺れ、辺りに砂埃が舞い上がる。


 攻撃を回避してた俺の視界も悪くなる。

 砂埃はゴーレムの足元を漂い、向こうからも俺の姿は見えていないはずだ。

 なら、奇襲を仕掛けるしかない。


 ゴーレムの股を潜り、後ろへ移動する。

 砂煙を突破すると、後ろを振り向かず、背中を反るようにして飛ぶ。

 体は宙を飛び、逆さまの状態で視界にゴーレムの頭を見つける。

 これぐらいの跳躍力は、足に魔力をためれば誰だってできる。


 奇襲なのだから声を出してはいけない。

 息を殺す必要もある。


 完璧だ。

 このまま剣で頭の隙間から見える魔石を砕いて勝てるだろう。

 いくらなんでも魔石そのものを強化することは不可能。

 生き物でいうところの、眼球を潰されない強度に鍛える――といった無理な話になるのだ。


 剣を突き出し――魔石へ狙いを定めた。


 取ったっ!


「いっけえええええええ!」


 叫んだ。

 俺じゃないぞ?


 声のする方へ視線だけ向けた。

 犯人はもちろん彼女――セレネだ。

 地面に埋まった巨大な石に座って、大声で応援している。

 とてもいい笑顔だった。両手で輪を作り、声が響くように口の前へ持ってきている。


 嬉しい応援だけど……それを今やってしまうとさあ。


 案の定、ゴーレムの首は一瞬して180度曲がり、空中の俺をとらえる。

 突如ゴーレムの背中からもう一本の手が生え、俺の体をつかみ取る。

 体をねじり、俺をボールに見立て投げつけた。


 セレネの方向へ飛ばされたが、多分すごい顔をしているのだろう……俺は。

 ため息を吐いているような、ヤレヤレと言ったような、風圧で顔がブルンブルンと歪ませているような――残念な顔になっているのは間違いない。


 セレナの隣に体を強打し、石の上でバウンドした。

 大の字になって、空を仰ぐ。鳥が二羽通過して、なんだか今日も平和だなと実感した。


 うん……そうじゃないね。


「ああ、ヘリト魔物に負けてるよ」

「お前が声を出さなければ俺が勝ってた」

「だって詰まらないんだもん。ヘリトの戦い方。準備運動のつもり?」

「悪いか? 体を動かすことを目的としているんだ。長い時間戦いたいんだよ」

「一瞬の戦いを長引かせるのって疲れない? 私は嫌いだなあ」

「運動だって言ってるだろ。そもそも今日は俺がやりたいようにするって――」


 言葉を発する瞬間、俺達に影が覆いかぶさった。

 二人して上を見上げると、今座っている石ほどの大きさ――つまり巨大な瓦礫のような物が降ってきたのだ。


 舌打ちをして横へ飛ぶ。

 瓦礫は先ほどまで座っていた石にあたると砕け、粉々になる。

 潰された石もぱっくりと割れて、流石に俺も直撃をくらってしまえば死んでいただろう。

 セレネの影は――そこにはない。どこいった、アイツ?


「ちょっと! ヘリトとの会話を邪魔しないでよ」

「びっくりするう!? 後ろかよ!?」


 セレネはどうやら俺と同じ方向に飛んだらしい。

 全然見えなかったが、まあ勇者なので仕方ない。


 ゴーレムはセレネの言葉を理解できるはずもなく、もう一度瓦礫を投げようと三本の腕で手ごろなサイズを探し始めた。


「聞けってのー! カチンっときた! ヘリトが倒さないなら私が倒す! 私の全力でぶっこわす!」

「まてまて、お前が100パーセントの力を出すと森が地図から無くなる。それだけはやめろ」


 親父と勇者との決戦の時、魔王城がなくなるんじゃないかとヒヤヒヤしたのを思い出す。


「……俺がやるから見とけ。倒したら町にでも行こう」

「本当! なら待ってる!」


 セレネの扱い方がうまくなってきたと我ながら慢心しそうだ。


 そして聞き分けの良いセレネはスキップしながら俺から離れていく。

 先ほどの場所に戻るらしい。座れそうな場所にあそこしかないからな。


「はあ…………まあ、運動にはなったかな」


 お腹周りに肉がつかないよう気にしているのだが、まだ大丈夫そうである。

 体を定期的に動かしておけば大丈夫なはずだ。うん、絶対に。


 両手を広げ、剣と鎧を闇へと戻す。

 靄となった剣と鎧は俺の影へともぐり、ゴーレムと初めて対面した姿に戻る。


 ゴーレムは首をかしげるような動作をとったのだ。

 コミュニケーションは取れなかったが、魔族や人間と似た行動は取れるらしい。

 魔物学者に今日の事を話せば喜ぶだろう。それほどこゴーレムの行動や存在は貴重である。


 だが、叶わぬ夢だ。


 先ほどと同じように剣だけで戦えば、今から一時間ほどで倒せるだろう。

 時間がかかるのは後ろからの奇襲を警戒され、腕が背中から生えたように、その場に応じて進化できるタイプの魔物だからだ。


 体を固く強化できるのも同じ仕組みだろう。

 間違いなく放置していれば、この森を制圧し、やがて街に出て破壊を始める。

 状況に応じた進化ができるのであれば、やがては地上最強の魔物になるかもしれない。


 そんな奴をほったらかしにするほど、ホーツク村派遣管理相談事務所長は甘くない。

 害がないようなら生け捕りにして俺専用サンドバッグにでもしたいさ。運動不足解消にはもってこいである。


 しかしながら後々手に負えなくなるのは分かった。

 俺との戦闘で、確実に進化をしている。

 勇者との戦闘で進化することもありないことではない。

 なら、今だからこそ一瞬で終わらせられる俺が適任だ。


 そうこうしている間に瓦礫が再び宙を舞っていた。

 目標は俺で間違いない。影が地面を暗くする。


 右へ少しズレると、数センチ隣で瓦礫が地面へ着地した。

 無言で歩き、ゴーレムへと距離を縮めていく。


 一歩、また一歩と確実にゴーレムへと近づいた。

 今、ゴーレムの目に俺はどのように映っているのだろうか?


 たった一人の魔族としてなのか、それとも運動不足を解消しにやって来た男か、さては妻をないがしろにする駄目夫かもしれない。

 ただ、理解できることもある。


 ゴーレムは恐れを覚えた。

 瓦礫を探すことを止め、一歩一歩近づく俺から視線を逸らせない。


 子供の頃読んだ『魔物図鑑』という物を思い出した。

 魔物図鑑には世界中に生息する魔物が記載されており、習性や特徴、絵や学者の解説が載っていた。

 図鑑の前書きにはこう記されている。


『魔物は生き物であり、生き物であらず。恐れ、喜び、怒りと悲しみを覚えるが、それは幻想でしかない。彼らは、空想を具現化した存在である』と。


 子供ながらに言葉の意味を考えた。

 今でも分からないことだらけだ。生き物であり、生き物ではない――意味が分からない。

 だけど、恐れや喜び、怒り、悲しみ――感情を持っていることだけは当時分かった気でいた。


 今がその時で間違いないだろう。

 ゴーレムは――恐れをなしている。


 懐まで移動して、足を止める。

 ゴーレムはまだ動こうとはしない。

 俺を見下ろして、錆びた歯車が回る音を出し続ける。


 生き物は――恐怖が限界に達したとき、逃げるか、あるいはソレを排除しようとする。


 ゴーレムは――後者を選んだ。


 体を伸ばし、右腕を大きく振り上げ拳を作り、叩きつける。

 簡単な動作で、生き物を簡単に殺すことが可能な攻撃だ。

 このゴーレムは今まで被害を出していないわけがない。

 報告はされていないが、旅人や迷い人がゴーレムの餌食になっているだろう。

 ここは、そんな世界なのだから。


 すっと、避けた。

 体を僅かだけ横にするだけで、拳は地面だけを抉る。

 恐れに負け、自然と外してしまったのだろうか。


「悪いな。詰まらない決着で」


 左手を、叩きつけられた右腕へ乗せる。

 優しく触れるように、セレネの頭へ乗せるときのように左手を動かした。


 刹那――ゴーレムの体が原形を保てなくなる。

 崩れ去るというより、溶けるようにしてゴーレムの体は眠りに就く。

 あれほど頑丈だった石の体は、灰となり、山を作った。


 風が吹くたびに、ゴーレムだった灰は徐々にどこかへ飛んでいき、やがてすべてが消えてなくなる。

 残ったのは、散乱した瓦礫の破片と、ぽっかり空いた数か所の穴。


 相変わらずこの決着は味気なく感じてしまうものだ。


「お疲れ、ヘリト」


 セレネが再び背中から抱き着き、ぶら下がる。

 満足いく結果だったらしく、怒りは静まってるようだ。


「ああ。毎回、味気ない物だよ。この力は」

「竜の魔力がなせる魔法――左手は全てを灰に、右手はすべてを黄金に変える力だっけ?」

「親父から託されたのはコレだけだからな。いつの日か、竜の魔力で扱える10の魔法を貰えれば、色々楽なんだがな」


 そう、この力は竜の魔力だからこそ発動できる魔法である。

 左手で触れたすべてを灰に変える力と、右手で触れたすべてを黄金に変える力。

 魔王――竜の魔力を宿す者だけが扱える10の魔法の一つだ。


 ちなみに親父が使っていた移動魔法の『門』もこれに該当する。

 実は魔王を継ぐ際に、全てを教えてもらえるかと期待はしていたのだが、お門違いだったようで、未だにコレしか覚えていない。


 紅蓮の番人を任されたときに覚えたのだが――覚えたというより何故か扱えるようになった。

 詳しいことは俺もわからない。ただ、親父の前で跪き、頭を数回叩かれただけで――なんだったのだろう。


「『門』の魔法を覚えたら世界旅行へ行こう! 私行きたいところがたくさんあるんだ」

「覚えられたらな。親父が生きている間に教えてもらわないと、俺が困る」


 いつまで経っても未熟な魔王のままだ

 どうせ四天王や種族長から「哀れ哀れ」と言われるに違いない。


「世界は後回しにして町に早くいこう!」

「はいはい、引っ張るな」


 背中から降りて腕に抱き着いたセレネ。

 俺を引っ張りながら馬車の方へ向かう。

 苦笑いで返し、されるがままになるが――ゴーレムの出現条件が気になる。

 何故、この場所だったのか。どうしてあのような新種が生まれたのか。


 …………それは帰ってからにしよう。

 今は目の前の我儘娘のことだけ考えれば俺も幸せなはずだ。

というわけで無事に日間100位を突破できました。

アクセスも昨日は10000アクセス超えで変な声でちゃいました。

日間上位の方々が強すぎるので、しばらくは無理かもしれませんが、いつか夢の1位を目指したいものです。


では、何か感想やご質問、誤字脱字の報告などなど、気軽に書き込んでください。

失礼致します。

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