夜のたわむれ
日間ランキングに乗りましたあああああ!
ありがとうございます!!
家に帰ってすることは、まず着替える。
仕事着はなるべく汚したくないので、すぐさまクローゼットへ仕舞うよう心掛けている。
そのまま部屋着に着替え、楽な格好のまま自室を出た。
リビングに行くとすでにセレネが料理を始めていた。
キッチンが丸見えなので、彼女の後姿が椅子に座りながらも観察できる。
普段なら夕食を待つ時、読書をするのだが、昨日読み終わってしまったので新しい本を探さなければならない。
今までヴァラレルのオススメを読んでいたが、そろそろ自分で探すとしよう。
「ふふふーふーん」
「………………………………」
読書に集中していたので今まで気づかなかったが、セレネは料理をするとき鼻歌を歌うらしい。
俺も聞いたことがる――確か戦争中、捕虜にしていた人間が歌っていた。
歌の名も教えてくれたが…………思い出せない。
彼女は戦争が終わって解放されたのだが、たまに手紙をくれるので元気そうだ。
「なあ、セレネ」
「うん? どうした? 私のロプロン姿にむらっときた?」
「きてないから安心しろ。じゃなくて、今の歌――」
「うた? ああ、『命は地へ還る』のこと?」
「そんな……名前だっけ?」
「うん。昔、吟遊詩人が死んだ魂が、大地に戻る瞬間を見て唄にしたんだって。大昔の唄だから、誰が作ったのかわからないんだって」
「そうだったのか」
人間達は、死んだ者の魂はこの大地に還り、再び蘇ることを信じている。
所謂、『輪廻転生』……というやつか。
一方の魔族は、魂は仲間の元に移動し、死んでもなお共に生きる――という考えだ。
俺も魔族なので後者を信奉している。戦争で死んでいった仲間たちは、俺の中で眠っていると……そう思っている。
「ところでさ、アルクの話ってなんだったのー?」
セレネは背を向けながら質問をした。
まだ教えていなかったことを思い出し、なんて伝えようか悩んだ。
どうせこいつも俺と同じように一人で後先考えず突っ走るタイプだ。
嘘をつかず、正直に答えるべきだろう。
「……奴らがデルマンの森に現れたらしい」
「…………ほんと?」
ぴたっとセレネの動きが止まる。
しかし、こちらに顔は向けず料理の方へ視線はそのままだ。
「ああ。アルクが奇襲を受けたらしいが、取り逃がしたと」
「生きてるだけでも十分。『邪神教兵団』だっけ? あいつらが名乗っていたの」
「そう、だったな」
忘れていた。
三年ほど前に捕まえた一人がそんな名前を言っていたような気がする。
ちなみにソイツは舌を嚙み切って自殺した。
「………………」
「………………セレネ」
「なに?」
「バカなことは考えるなよ。俺もアルクに釘を刺されたばかりなんだ。夫婦そろって規律違反なんて体制が崩れる」
「分かってる……分かってるから」
突然セレネは手に持っていた道具を全て置いて、くるりとこちらへ体を回転させた。
俯いているので、顔は見えないが両手の握り拳でどのような表情をしているか想像ができる。
無言で近づいて、座っている俺に抱き着いた。
「…………ごめん、嫌な事思い出しちゃった」
「そうか」
「ご褒美、絶対だよ? 今日は私を離さないで」
セレネの両腕に力がこもる。
抱き返すわけでもなく、俺は無言で彼女の頭を撫でた。
………それからすぐに夕飯を食べたのだ。
セレネの表情は普段通りで明るく、勇者の名に相応しい眩しかった。
彼女の作ったサラダパスタを食べて、別々に風呂へ入り、俺は先に自室で待機することにした。
風呂は毎度の如く一緒に入ろうと言われた。
もちろん断った。
それはご褒美に含まれていない。
甘やかして調子に乗って、とんでもないことになりかねない。
絶対にそれだけは回避したい。
んで、ベッドの上で胡坐をかき、ついでに腕を組んで待っているのだが……やけに遅い。
俺が風呂からあがって一時間経過した。湯冷めするぞ。
不意に自室の扉がノックされた。
セレネがノックとは珍しいと思いつつ「別にいいぞ」と返事をした。
ゆっくりと扉が開き、ピンクのネグリジェを着たセレネが立っていた。
風呂上がりだからなのか、頬を染めている。両手を後ろで組み、口元はニヤけている。
「ごめん、お待たせ」
「ほんとだよ。湯冷めして風邪をひくところだ」
「えへへ、風邪をひく魔王もなんだか可愛らしい」
だから可愛いってなんだよ?
セレネはそのままベッドに上り、胡坐をかく俺の足の上に座った。
俺を背もたれにして、セレネはリラックスしたのか「ふう」と吐息が漏れる。
シャンプーの甘い香りが鼻をくすぐる。
同じ物を使っているはずなのに、セレネからはとても良い香りがする。
って駄目だ駄目だ。感想が変態みたいだぞ………。
「ねえ、本当に好きなようにしていいの?」
「ああ、今日は許す」
「子作りも?」
「それはダメ」
「えー、約束と違うよー。もしかして恥ずかし?」
「違う。いや、まあ、そうかもしれない部分もあるが、大半を占めているのはまだまだお前が子供で――」
言い訳をしていると――キスをされた。
強引なモノではなく、甘く、触れる程度のキスだ。
いつもの『無理やり』ではなく、やけに今日は優しい気がするのだが……。
押しても駄目なら引いてみろって作戦なのかも……いや、セレネがそこまで考えられるような奴では……。
「私、待ってるから。ヘリトが本気で私のこと愛してくれるの」
「…………ああ」
「私だって無理やりは嫌だもん。ちゃんとヘリトから襲ってほしいな」
「今までの行いで良くそんなことが言えたな……」
「だって相手してくれないし」
確かに相手にはしていなかった。
結婚初日は無言で仕事に出発し、部屋も無理やり別々にした。
二日目からベッドに潜られるようになり、仕事場にも乱入してくるようになった。食事も作ってくれた。
三日目から適当に会話を返したり、彼女の行動に反応するようになった。今思えば、家の中でセレネを視線で追ってた。
四日目からは、俺も気づけば笑っていたのかもしれない。自分では分からない。でも、セレネがあの気持ち悪い笑い声を出すようになったからだ。
そして今日――五日目…………セレネとこんなに近くで見つめあったのは、初めてだ。今まで彼女の視線から逃げていた。
「……私って怖い?」
「怖い? 冗談か? 全然怖くもないさ」
証拠に俺はセレネの頭を優しく二回叩いた。
叩いたといってもポンポンと親が子にするように、愛情をもって優しく……。
答える様にセレネは目を細めて、更に体重を俺へ乗せる。
俺の肩に首をのっけて枕替わりだろうか。
とても――幸せそうに笑ってくれる。
「ふふふ、紅蓮の番人――いや、魔王がここまで優しいって、皆信じてくれるかな?」
「さあな。どうなんだ? 戦争時代――俺は人間達にどう見られていた?」
「一言で言うなら『壁』だったよ。魔王城を守る、最後の『壁』――本当に、ヘリトは大きかった」
……紅蓮の番人とは、俺が戦争時代に与えられた『役職』のことだ。
魔王城は四天王の結界で守られている。彼らかが持つ封印石を破壊することで城の結界は解除され、侵入することが出来るのだが――。
魔王が座る王座の間――その門番を『紅蓮の番人』に任される。
俺は何日も流れ込んでくる人間達をなぎ倒し、城から追い出し続けた。
約七か月に及ぶ番人としての役目は、俺を椅子にする嫁によって終わらせられるのだが――今となってはどうでもいい話だ。
「そうか……誇っていいのか、恥じればいいのか」
「誇っていいと思う。ヘリトは魔族にとって英雄なんだよ」
勇者が、それを言うか。
「はあ。お前には当分勝てる気がしないよ」
「うえへへ。そうでしょう?」
「笑い方の気持ち悪さでも負ける」
魔王よりよっぽど魔王らしい笑い方をしそうだ。
「ね、ヘリト」
「あん?」
「私、絶対に貴方を幸せにする。絶対に、神に誓って」
「男が言われちゃあお終いだな」
「なら、ヘリトも誓ってくれる? 結婚式の時はぶーぶー言って誓ってくれなかったし」
……ああそうでした。
神父が「誓いますか?」って聞いた時、「知るかボケぇ!」って言ったんだった。
その口を無理やり塞がれて(キスで)……で、気を失ったと。
「……セレネ、正直俺はこの結婚、良く分からない。魔王と勇者が結ばれていいのか、駄目なのか」
「うん」
「でも、誓うよ。お前を幸せにする。言われっぱなしは性に合わない。お前のために、俺も命を投げ捨てる覚悟は持った。絶対に幸せにする」
「うん!」
がばっと抱きつかれ、二人してベッドに沈んだ。
何度も頬ずりをしてくるセレネの顔は見えないが、嬉しいことは伝わる。
ああ、もう、可愛いなちくしょう!
「じゃあさじゃあさ! 今から私のおっぱいを揉んで、首筋にキスをした後、やらしい手つきで私の――」
「やっぱさっきの誓い取り消していい?」
「あまやかしてよー!!」
「意味合いが違ってくるだろ!」
こうして夜は過ぎていくのだが――確実にセレネという女性は俺の心に入ってきているらしい……たぶん。
目標にしてた日間ランキングに乗れました!
ありがとうござます!
感想も頂き、作者の励みとなりました。
一応ジャンルはファンタジーですので、そろそろヘリト殿に戦闘をさせようかなと。
主人公最強タグつけているのに全然戦ってないと思いましたので。
シリアスも混ぜつつ、ヘリトとセレネの甘い話を書きたいと考えておりますので、宜しくお願い致します。
次は頑張って日間100位を目指します!