勇者へのご褒美
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「ヘリトー! たっだいまーっ!」
「ぐふっ!?」
セレネは勢いそのまま俺の腹へ頭を直撃させる。
立っていた俺は踏ん張ることが出来ず、派手な音をたてながら、後ろの机へ吹っ飛んだ。
机は粉々に砕け、書類は宙を舞い、ペンは床へと突き刺さった。
「私頑張ってきたよ! ほら、ゴブリンの親指!」
腹の上に乗ったセレネは腰からゴブリンの親指で作られた首飾りを見せつけてくる。
昔から人間達は倒した魔物の親指を討伐の証として持って帰ってくるというが、気持ち悪いからやめてほしい。臭いし、目の毒だし……。
ゴブリンの指はざっと数えただけでも五十本はある。
それを紐でくくり、大きな輪っかにするのだ。
なんえ残酷な首飾りだろう…………。
「分かった。分かったから降りてくれ」
「ご褒美のチューは?」
「ねえから!? ああ、もう! どけどけ!」
セレネの首根っこを掴んでどかす。
彼女はびっくりするほど軽い。
前々から知っていたことだが、こんなに体が軽いのに何故振り下ろされる剣は重いのか不思議である。
腹をさすりながらゆっくり立ち上がり、どこも怪我していないことを確かめる。
「まったく、これで机を壊したのは何度目だ……?」
「えーっと、四回目かな」
「数えろって意味じゃないんだよ」
すると、正面から笑い声が聞こえた。
すっかり忘れていたが、アルクが下を向いて笑いを堪えていた。
我慢しているが、何度も「くふふ」という声が漏れている。そこは頑張って耐えて。
「あれ? アルクじゃん。お久しぶりー」
「はい……勇者しゃま……くふ……お久しぶりです」
頼むから笑うのやめてくれ。
「珍しいこんなところまで。また王様からのお使い?」
「いえいえ。今日はヘリト殿に私情で……。あ、遅くなりましたが改めてご結婚おめでとうございます」
「でへー。ありがとうー」
「お前も気持ち悪い笑い方するなぁ……」
でへーってなんだよ。
「お話は終わったの?」
「ええ、つい先ほど伝えることは伝え終わりました」
「なんの話だったの?」
「俺が後で教えてやるから、ちっと黙っとけ」
「はーい」
セレネは頬を拭くらんせてなんだか納得がいっていないようだ。
全く……やっぱり人間の十七歳はまだまだ子供だ。
「勇者様はヘリト殿との時間を邪魔されたくないのですよね」
「うん」
「素直過ぎるだろ」
「あははは、そこが勇者様の良いところです」
アルクは満足そうに笑うと、足元に転がっていた鎧を手に取って装備しはじめる。
腰回りから、胴、最後にガントレットをはめた。
「もう、行くのか?」
「ええ。目的は達成できた。ヘリト、お前も十分に気を付けるんだぞ」
「分かってる。それはお互い様だ。そうだ、今度一戦交えようぜ。体がなまって仕方ない」
「だな。暇なときこちらへ来ると良い。手合わせ願おう」
「おうよ。本当に茶も出せなくて悪いな」
「忙しのだから仕方ない。また後日ごちそうしてくれ」
アルクはにっこり笑い俺に軽く頭を下げて、それからセレネに近づいた。
「勇者様もたまには帰ってきてくださいね。民たちが寂しがっています」
「ヘリトと一緒にいくよ。私一人じゃ、私が面白くないから」
「そうですね。ふふ、楽しみに待っています」
最後にまた、大きく頭を下げて「失礼した」と言い残し事務所長室を出て行った。
扉が閉まり、残されたのは見るも無残な机と書類。あとは俺とセレネだけ。
「行っちゃったね」
「ほんと、仕事熱心な奴だよ」
「ヘリトも同じだよ。仕事から帰ってきたらご飯食べて、お風呂に入って寝ちゃうんだもん。もっと妻を甘やかして!」
「はいはい。にしても、ずいぶん早かったじゃないか。まだ昼を過ぎてちょっとしか経っていないぞ?」
目線を隣に変え、ゴブリンの親指輪っかを見つめる。
この数を狩ろうとすれば、丸一日使ってもおかしくない。
「えへへへ。早くヘリトに褒めてもらおうと思って、ちょっと本気出しちゃった」
「……まあ、仕事が早くて助かる」
「でしょ! 結婚してよかったでしょ!」
「それとこれとは別の話だ」
またセレネの頬が膨らんだ。
なんだか風船みたいで愛らしくなってきた……いや、うん、気の迷いだ。
流石に頑張って来た彼女を追い出すのは心が痛い。
何か褒美をあげたいのだが……流石にキスは俺が死ぬ、物理的に。
考えに考えた末、ため息を吐いて右手をセレネの頭の上に乗せた。
「え?」
「ほ、ほら……なんというか、お前もここ数日頑張ってくれているのは知っている。だから、えっと、褒美というか、なんというか……」
恥ずかしい。素直に恥ずかしい。
これ以上言葉に出来なかったので、無言でセレネの頭を撫でる。
サラサラとした金髪が指の間を何度もくすぐり、変な気持ちになって――いいや、俺は何も思っていない。
………それにしても本当にさらっさらだな。
「うへへへ」
「だから笑い方、気持ち悪いって」
セレネはとても満足してくれているのか、とろけるような笑みをこちらへ向ける。
頭を撫でるたびに肩をビクビク震わせ、頬を染める。
ふうーっと甘い吐息が漏れて、なんだか色っぽい……。
「ヘリトに頭撫でられたの、初めて」
「そうだろうな。俺も誰にもやったことない」
「まさかヘリトの初めてもらっちゃった!?」
「言い方を考えろ! 誤解されるわ!」
セレネの頭から手を放そうとすると、磁石のようについてくる。
右へ左へ何度も腕を振るが、一向に離れる気配はない。
それどころか、自分で頭を手に擦り付けて、グリグリと首を動かしている。
「…………そろそろ離れない?」
「やだ。まだ満足してない」
「まだ仕事中なんだけど」
「じゃ、仕事しながら撫でて」
「無茶言うなよ…………………………」
ため息交じりに手を大きく上へあげる。
身長差があるため、これでセレネの頭は俺の手から離れることになった。
「あ、ズルイ!」
「ズルイってなんだよ。いいから片付け手伝え」
ぶーぶー文句を言うセレネの口を押えて黙らせる。
ぴたっと、静かになったのはいいが………掌がやけにぺちょべちょになったのはなぜだろう。
そして、何かが未だに掌を這っているのだが……。
「おい」
「ふぁいっふぁい」
「俺の手を舐めるな」
「ふぉれふぁふふぃ」
「いいから離せ! がっちり両手でつかむんじゃねえ!!」
今度は右手首をがっちり両手でつかまれ、セレネの顔から手が離れない。
ホントこいつ力強いなぁ!?
「分かった! 降参だ! 家に帰ったら好きなだけ甘やかしてやる」
「………ふぉんふぉ?」
「本当だ! だから手を離せ!」
「うふぉふぁふぁい?」
「嘘じゃない! 魔王は嘘つかない! 絶対に本当!」
「分かった」
手を開放してくれた。
最終手段だったが、最悪の場合手首を折られていたのでこれぐらい尊い犠牲よ。
掌を見てみればセレネの唾液でべちょべちょである。
「舐めてもいいよ」
「舐めるか! 汚ねえよ!」
「もう、何度もキスして唾液の交換は何度もやってるじゃん。今更恥ずかしがることないよー」
「頬を染めながら言うセリフでもない」
うっとりとした表情をされても、全く心に響かないのは多分、日頃の行いが悪いからだ。
絶対にそうである。
「いいからやるぞ!」
「はーい」
まずは散らばった書類を集めて、円卓の上に置く。
この際順番はどうだっていい。まとめて判を押せば問題はないだろう。
次に床に刺さった筆記用具を回収し、最後に机を更に粉々にして小さくまとめる。
この作業はセレネに負けることにした。だってアイツ、机を粉末状にできるんだから任せるしかないだろ。
部屋に用意していた大きな麻袋に机(木くず)を入れてきれいさっぱりとなった。
あとでヴァラレルに頼んで新しい物を用意してもらおう。
大体ここまでの作業に十分というところか。
「終わったー! 疲れたね」
「誰の所為だと思っているんだか。ま、今から昼休みになるし昼食でも食うか」
「そう思ってお弁当作って来たんだ。ソラスに預けてる」
「そうか。なら、貰うよ」
我ながら素直になったと思う。
昔なら絶対に「いらない」と言って酒場で済ませていただろう。
それもこれも、セレネの食事が美味いからなのか……どこか期待している自分がいる。
「じゃ! 下に降りよう!」
セレネは事務所長室を飛び出して、下へ向かう。
やはりこんなところも子供だなぁとしみじみ思った。
さて、とあるソーシャルゲームで水着イベント(ガチャ)が始まりました。
僕は一万円ほどぶっこんだのですが、お目当てのキャラが二体ゲットできたので良かったです(近状報告)
Twitterなどで色々言っていますので、気になる方がこちらのアカウントをどうぞー。
origami0608
感想や誤字報告などなどもお待ちしております。
もっとあまーい話を書きたいのですが、リアル経験が少ないので大変です。