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魔王と王子

おかげさまでジャンル別日間ランキング89位に滑り込めました。

ありがとうございます。

 数分後。朝礼を終えてホク所の仕事が始まった。

 ここに来るのは村や周辺に住んでいる人々と魔族、旅の商人達。あとは仕事を探しに来る冒険者だろうか。

 仕事を探す人間や魔族には、俺達の方からいくつかの仕事を手紙で送り、後日事務所に来てもらって正式に受けてもらうことになる。

 受ける側にあった仕事を紹介するので、ギルドなんかよりも成功率が高い。


 それを判断するのが俺の仕事でもあるので責任は重大だ。


 で、今やっていることはひたすら判子を押す作業。

 いちいち文を確認している暇はない。

 既にヴァラレルが確認してくれているらしいので、楽な作業――ではない。

 もう腕が疲れてきた……だって三時間もずっとこの作業だぞ!?


 空いている左腕は肘をつき、顔を支える。

 右手に持った大きな判子で紙に判を押し、ヴァラレルが回収する。

 次の紙が下に用意されているので、また押す。


 これを無言でずーっと繰り返しているのだ。

 よっぽど剣を素振りしていた方が楽しい。


「なあ、ヴァラレル……多くないか?」

「仕方ないじゃありませんか。ホーツク祭りでは出店の許可もここで行うようになっているのでsから。全部に承認しないと、寂しい祭りになりますよ」

「だから、なんでその仕事がホク所でやらなきゃいけないんだ? 村長のところでやってもらえよ」

「村長殿は村長殿で忙しいのでしょう。ほらほら、口を動かさずに手を動かす」

「へーい」


 文句を言ったところで仕事が減るわけではない。

 ここはヴァラレルにしたがって判子を押しまくろう。


 ――仕事を再開しようとした瞬間だった。

 トントンっと事務所長室の扉がノックされた。机の上にある『魔石時計』に目をやると、丁度お昼の時間だった。

 ヴァラレルも気づいたのか「来ましたね」と嬉しそうだ。


「どうぞー」


 早速許可を出すと、扉が開かれ「失礼する」と言って男が一人入って来た。

 若いとこだ。年齢は二十かそれより下か。短い金髪に甘いルックス。人間の女たちがキャーキャー言いそうな顔をしている。

 体には銀に輝く鎧を着用しており、何か一つの動きをするたびにガチャガチャと音をたてる。

 腰に剣は持っていないようだ。


「久しぶりだな。ヘリト。結婚と魔王就任おめでとう」

「嫌味を言いに来たわけじゃないだろうな、アルク?」

「まさか」


 彼はアルク・ドランジーナ。

 人間の国で一番大きなところの王子らしい。

 五年目の戦争にも参加しており、あのころから騎士団として戦っていた。

 確か一年ほど前に王国騎士団長になったとかなっていないとか聞いたけど、まあ実力は確かだ。

 俺と剣を交えたことはない。確か四天王の誰かがコイツをフルボッコにしたと噂は耳にしている。


「お久しぶりです、アルク王子」

「ヴァラレルさん、お久しぶりです。こちらの仕事には慣れましたか?」

「ええ。ヘリト殿が優秀なお蔭でわたしは楽が出来ていますよ」


 何故だろう。嫌味にしか聞こえない。


「今日は聞きたいことと話したいことがある。それでやって来た」

「では、わたしは退出させていただきます。聞かれたくないお話もあるでしょうから」


 別に大した話ではないと思うが、ヴァラレルは俺とアルクの順に頭を下げて事務所長室を後にする。

 俺も椅子から立ち上がり、アルクへソファーに座るよう言った。

 円卓を挟んで互いに向かいあうように座る。


「改めて、結婚と魔王就任おめでとう」

「よせよせ。どっちも俺が望んだことじゃないんだ」

「あははは、結婚式を見れば誰だってわかるさ。僕の国でも君の話題で持ちきりだよ。『あれほど哀れな魔王が存在するのか』って」

「はいはい。どーせ俺は女一人に勝てない未熟者ですよ」


 人間側としてもセレネの結婚は喜ばしいと同時に予想外な事だったらしい。

 戦争が終わってから、彼女は勇者であり、その美貌から多くの男達から求婚された。

 それをすべ断ってしまうのだから、流石にどうしたものかと頭を悩ませたとか。

 勇者が一生独身というのも、悪くはない話だと俺は思うが、それだと色々困る奴らが居るって聞いた。


「それで? 本当に嫌味を言いに来たわけじゃないだろうよ」

「もちろん。聞きたいことは二つかな」


 アルクは立ち上がり、簡易的に取り外しができる鎧を脱ぎ捨て、ソファへ置いた。

 何をしているんだ? と思いつつアルクが上半身の服を脱ぎ去った。

 俺の目に――生々しい傷跡が映った。


「その傷……」

「奴らを見つけたんだ、三日ほど前。僕を合わせて三十人ほどの騎馬隊で追いかけたが、見ての通り返り討ちさ」


 アルクの胸から腹にかけて糸で縫った傷があったのだ。

 何かで斬られたのか、抉られたのか分からないが、放物線を描くような、異様な傷である。


「どこでだ?」

「ここからずーっと東にあるデルマンの森だよ。僕も偶然だったから準備不足だった。いや、あれは罠だったかもしれない。情けない話だ」


 奴らとは、魔族と人間の戦争を裏で操っていた団体のことである。

 分かっているとは少ない。組織は魔族と人間によって構成され、おとぎ話に出てくる『邪神』を崇拝していること。

 戦争によって死んでく魂を集め、邪神を復活させようと考えていたらしいが、真相は明らかとされていない。

 そもそも邪神の存在か嘘か誠か判断できないからだ。結局はおとぎ話であって、確かめる手段がない。


「誰にやられた?」

「恐らく、そちら側の者だろう。魔獣を従えていた事と、その者自身も巨大な獣に変化した」

「魔獣族………………か」


 魔獣族は魔族の中でもちょっと変わった存在で、魔物と人の間に生まれた種族と歴史で語られている。

 普段は人の姿をしているが、魔力を開放することによって巨大な魔物に変身できる。

 厄介なのは、獣でもあるが、賢いというところか。


「ひとまず、話はこれで一つ。もう一つは――ヘリト、一週間前にディザイアの平原で奴らと一人で戦ったね?」


 ビクリと体が震えた。

 驚いたのは、あの時は誰にも見られず、死体も全て灰にしたからだ。


「……………」

「黙っていても無駄だよ。まったくもう……。周りは騙せても僕には分かるから」

「…………どうしてわかった?」

「君の魔力は分かりやすいからね。ま、特異体質の僕だから分かるんだけど。あとは勇者様もかな」


 アルクの言ううり、一週間前――俺はディザイアの平原で奴らを三十人ほど殺した。

 どこかの村を襲撃するという情報を貰い、急いで飛び出したのだが、間に合ってよかったと思っている。

 問題なのは、俺一人で行動したことだ。


 本来、奴らとの戦闘は単独で行う事を禁止している。

 先代魔王である親父の考えだ。


 奴らは常に群れで行動する。

 どんな時でも一人で行動することはまずない。

 そこで俺達も奴らと戦闘の際は複数人で行動することを原則とし、『規律』で決めているのだが……。


「ヘリト、今じゃ君は魔王だ。勝手に行動されると、他の皆に迷惑がかかる」

「だってさ、俺がいかないと間に合わなかっただろうし」

「一言誰にでもいいから声を掛けろ。君がいくら『紅蓮の番人』だとしても、奴らは未知の魔法を使ってくる。頼むから、危ないことは避けてくれ。君はもう、君だけの体じゃないんだ」


 アルクの言う通り、俺が死んだ場合色々と面倒なことになる。

 魔王が死に、魔族側が混乱に陥ること。その隙をついて奴らが攻撃を仕掛けてくること。

 そして――。


「何より勇者様が悲しむ。それだけは、本当に見たくないんだ」

「…………分かったよ。どうせ最初の話も、俺に『行くな』ってことだろ」

「察しが早くて助かる」


 アルクは服を着て、ソファーへ座る。

 態々俺を心配してここまで来たかと思うと、なんだか可笑しな奴だと思った。


「………ところで、ソラスさんはどちらに?」

「ソラス? 多分、下で仕事しているけど」

「そ、そうか」


 なんだこいつ?

 いきなりソワソワして――。


「ははーん、さてはお前がフルボッコにされたの、ソラスだな?」

「ばっ! あ、いや、それはそうだが……別にいいじゃないか、そんなこと」

「絶対俺に向かってバカって言いそうだっただろ」


 それ以外に何か絶対あるな……もしや、ソラスに惚れているのか?

 確かにソラスは可愛いと思うが……見た目が幼すぎる。人間でいうところの十二歳だぞ、見た目は。

 という俺も、セレネと結婚して何歳年下だよって言われたらそれまでなんだが……。


 アルクは若干頬を染め、咳ばらいをわざとらしくする。

 こりゃ、間違いないな。


「アルク、さてはソラスに惚れて――」


 と言いたかったのだが、ノックもせずに扉が突如開かれた。

 俺たちは飛び上がるように立ち上がり構えようとしたが――扉から飛びついてきたのは、満面の笑みを浮かべるセレネだった。

前書きにも書きましたが、おかげさまでジャンル別日間89位です。

久々の日間ランキングでテンション上がっております。


感想などお待ちしておりますので、宜しくお願い致します。

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