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ホーツク村派遣管理相談事務所

ブックマークありがとうございます。

励みとなります。

 時間を戻すとしよう。

 互いに着替えを終えて簡単な朝食をとる。

 今日はベーコンにパン、そしてコーヒーだった。

 朝食に関してはセレネが毎日用意してくれている。


 結婚する前は、朝食を食べていなかった。

 そもそも俺は小食で、戦争中三日食べずに戦い抜いた。

 それが体に癖として残ったのか、食べることに関心が持てなくなっていた。


 もちろん魔族といえど生き物だ。

 何かしら腹に入れなければ餓死してしまう。

 仕事終わりに村唯一の酒場で酒と肉とか豆とかを毎日食べていた。


 この事をセレネに話すと怒られた。

 不健康すぎる、だから顔色が悪い、私に腕力で勝てないなどなど。


 結婚二日目から毎日セレネの手料理を食べることになり、少しづつだが、肌色が良くなったと周りからも言われるようになった。


 朝食を終え、俺は仕事場となる『ホーツク村派遣管理相談事務所』へと向かう。

 セレネは今朝話したように村の外に出て、ゴブリンの駆除へ向かった。

 ゴブリンのような下級魔物ならセレネ一人でも心配ない。


 家を出るとき、もう一度キスをせがまれて嫌々ながらも(逃げ切れなかった)唇を奪われる。

 触れる程度だったが、セレネは満足そうに森へ走っていった。

 やけに機嫌が良く、見えなくなるまでずっと俺の方を向いて手を振っていた。

 前を見て走れと注意しても聞く耳を持ってはくれない。


 さて。セレネから解放され、先ほど言ったホーツク村派遣管理相談事務所――長いので俺達は『ホク所』と呼んでいる。

 他の村や町にもこういった事務所は存在するので、分かりやすくホーツクの『ホク』をとって称している。


 村の最南端に位置し、かなり大きな建物だ。

 町にある『ギルド』と同じほどだろうか。

 二階建てで、一階では村人が依頼を受け付けし、掲示板にソレを貼りだす。

 俺のような奴は二階でひたすら判子を押すか、特例依頼の相談などを行う。


「おはよう」

「あ、魔王様! おはようございます!」


 ホク所の扉を開いて中に入るとまだ職員達はそろっておらず、来た者達から清掃をしていた。

 扉の一番にいた少女が挨拶をしてくれる。


「おはよう、ソラス。俺も今から手伝うよ」

「いえいえ。魔王様は二階で準備をお願いします。本日はお客様がいらっしゃるのでしょ?」

「ああ、そうだけど。別に大した客じゃないさ」


 ソラス――身長は百五十センチほどで褐色肌が健康的だ。青色の髪の毛に同色の瞳。エプロン姿なのはここで受け付けの仕事をしているからだ。

 彼女は魔鳥族と呼ばれる種族なのだが、背中に翼を隠し持っている。普段は幻術で見えないようにしているが、戦闘時や移動の際は空を飛ぶ。


 ソラスを小さな少女だと侮ってはいけない。

 なんたって元四天王の一人――『突風のソラス』なのだから……。


「やだなあ、魔王様。人間の王子様なんでしょ? 無下に扱うと先代から怒られますよ。色々とお世話になっているようですし」

「まあそうだけどさ。突然訪問しますって失礼な奴だろ?」

「急な用事なのでしょう。向こうの王子も魔王様同様に大変って噂で聞きました」


 ソラスは手に持っていた箒に体の体重を乗せて、ヤレヤレと言いたそうに首を横に振る。

 彼女の言いたいことも分かるが、俺の言いたいことも分かってほしい。


「それじゃ、お言葉に甘えて二階に行くけど。全員揃ったら呼んでくれ。朝礼をするから」

「あいあいさー。私に任せてください!」


 ここでのソラスの役割は『受付管理責任者』である。

 一階ののフロアをすべて任せており、彼女の指示で職員達は動いてくれる。

 元々四天王だったので、部下の扱いには長けている。安心して任せられるので俺も自分自身の仕事に集中できるのだ。


 他の職員達からも挨拶を受け、返しつつ二階へ上がった。

 二階は階段を上るとすぐ扉となっており、そこを開けば大きな事務所となっている。


 まだ誰も来ていない……と思いきや、その奥――俺の部屋ともなっている『事務所長室』の小窓に影が映る。


 肩をすくめてため息を吐いた。

 二階の事務所で俺より早く来るのはたった一人しかいない。


 とぼとぼと歩き、事務所長室の扉を開ける。

 中には見慣れた机と椅子が正面に置かれており、その前に小さな円卓と、その左右に二人掛けのソファーが設置されえいる。

 特に何か変わったところもなく、質素で寂しい部屋だが俺が好んで何も置いていないので問題はない。

 ただ、セレネが見学に来たとき「うわーなにもなーい」とバカにされたので今度、花でも飾ろうかと考えていた。


 ひとまず、俺より先に部屋に来ていた人物と目があい、向こうが先に頭を下げる。


「おはようございます。ヘリト魔王殿」

「あー。やめろやめろ。気持ち悪い。お前のその態度気持ち悪いからやめてくれ」


 中にいたのは、メガネをかけた男だ。

 長い茶髪にきりっとした目と眉。どうにもこのインテリ感が好きになれない。

 同じ目線で彼はにっこり笑うと、手に持っていた書類の束を俺に押しつける。


「ではいつも通りにヘリト殿。今日のお仕事です」

「笑顔で渡されてもなあ…………てか、多くない?」

「昨日残していた分も含んでいますので。まずは最初のページ……『マッドウルフ』による畑荒し対策の考案と必要失費についての確認と判子、その次は隣村から派遣者依頼が来ておりますので、適正者への手紙と報酬の相談を含めた書類、あとは勇者様が壊した東門の修理費の確認書類に、結婚式で使われた花火の決算、他にも来月に行われるホーツク祭りの出店管理とイベント企画――」

「だあああああああああ! 今言うな! 後で確認するから!!」


 俺はこいつが嫌いだ。


 紹介しよう。

 彼こそ元勇者パーティー、現事務所長補佐官であるヴァラレル・セグマージャだ。

 ひょろっとした体形から考えられるように、職業は『賢者』をしていた。

 数百の魔法を操り、前魔王ですら知らない魔法を扱っていた。


 なんでこいつがここで俺の補佐官をしているのかと問われれば、こいつも同じように向こうのお偉いさんから直々に派遣されたのだ。

 いっつもニコニコして、何を考えているかわからない。

 四年も一緒に働いて、コイツの近辺のことは何も分からない。

 てか、家何処だよ。


 知っているのは年齢が24歳で、元勇者パーティー。

 魔法学校のエリートだったらしい。履歴書で確認した。

 あとは特に知らない。だって、それ以上の情報が書かれていなかったのだから。


「では、ヘリト殿。午後から王子がやってくるので、それまでに終わらせてくださいね」

「へいへい…………」


 補佐官とはいえ、秘書のような存在なので俺の仕事はあまり減った実感はない。

 減ってはいるかもしれないが、元が多すぎるため関係ないのか……。


「はあ…………なんだかなあ」


 紙の束を机の上に置いて、俺はさっそく一枚目の資料に目を通した。

誤字などありましたらご報告お願い致します。

自分でも気づけない場合がありますので……。

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