すれ違いと思い
ミロックを元どおりにするという条件と引き換えに、私の四季剣を渡すことにした。
ミロックが元に戻るなら、何を犠牲にしたって構わない。私の決意は固かった。
「待って」
ミロック様に四季剣を渡そうとした私の手を、優は止めた。
「むつき、それを渡しちゃいけない」
それに続いてりゅうさんも言う。
「すみませんがマリック様。立春は渡せません。もし交換条件がこれのみでしたら、私たちは帰ります」
クルミル様もまっすぐな目で言った。なんだこの団結力?
「そうか…」
マリック様は下を向いた。おそらく、私の四季剣を渡す以外に条件はないのだろう。
「他に条件はないようですね。それでは失礼します。」
「え!?ちょっと、待ってよ!」
そう言うとみんなさっさと出て行ってしまった。
「みんななんで断ったの!?これを渡せばミロックは助かったのに…」
「…いいかむつき」
りゅうさんが私に目線を合わせるため、しゃがみながら言った。
「四季剣を絶対に渡してはいけない。
何があっても、だ」
「は、はあ…」
「あんなもの、マリックに渡したらどうなるかくらい想像つかないのか?」
卯月がたたみかけてくる。
「な、何よ。人の四季剣を危険物みたいに… 危ないかもしれないけどこれは私の誇りだよ!」
「誇りだろうがなんだろうが武器だ。人を傷つけることなんて容易に出来る。思い出せ、お前がその四季剣で圭太を刺した感覚を。外傷はないように見えるが、怪我をさせたのには変わりないんだ」
「優、言いすぎだよ」
私は拳を握りしめた。
「卯月にはわからないんだよ!私が背負ってるものがどれだけ大きいか、私の選択で全てが決まるの。たとえ危険で、人を傷つけるものでも四季剣は…四季剣は私を強くさせる一つの希望なの!!それをとやかく言われたくはない!!」
私はそう叫び走り出した。
「むつき!」
クルミル様の呼ぶ声がしたが、無視をして走り続けた。
…涙が止まらなかった。
ただただ悔しかった。
いきなりミロックに連れてこられ、いきなり国を任され、不安で仕方なかった私が誇れるのは四季剣しかなかった。
卯月や竜と違って立春は、能力アップのみだったけど、それでも。
それでも私は嬉しかった。
正春も解放してやっとみんなに近づいた、そう思っていた。
「はは……そういえば…また卯月呼びになってるや…」
私は行くあてもなく、ミロックの中を歩いていた。
人は誰もいない。異様な空気が漂う。
下に転がっていた四季剣を手に取った。
どうして…どうして私は…
「はじめまして、如月むつきさん」
女の人の声がした。私は上を見上げた。
「私の四季剣を愛してくださってるみたいでとても嬉しいわ」
「え…じゃ……あなたが四季剣をつくった…?」
女の人は微笑んで言った?
「霜月みな、私の名前よ。またどこかで、会えるといいわね」
それだけいうとみなは去って行った。四季剣についてたくさん聞きたいことがあったが、頭が回らなかった。
そのあと、ボーッと歩いていると見慣れた人影が見えた。
「むつき!やっと見つけた!」
「利愛…零ちゃん……」
零ちゃんは私に近づき抱きしめてきた。
「無事でよかった…」
「ほんとに心配したんだよむつき…今こんな状況だし何かあったら…」
「利愛…零ちゃんごめん……」
「早く帰りましょうむつき。みんな待ってる」
「優はりゅうさんがみっちりしばいてたから大丈夫だよ!」
二人は私に笑いかける。そうだ、私にはこんな素敵な仲間がいる。二人に連れられ、私はミロックへ帰った。
居間に向かうと、卯月以外の全員が集まっていた。
「むつき、おかえり」
「た、ただいま…」
りゅうさんに言われ、自分の失態が急に恥ずかしくなる。卯月も確かに言い過ぎだと思うけど、私もムキになってしまった…
「あの…卯月はどこに?」
「優なら牢屋の中だよ、終身刑だって」
「はぁ!?」
「白空微妙な嘘つかないで!多分部屋にいるよ」
終身刑って…まあ……行ってみるか……
私は重い腰を上げ、卯月の部屋へ向かった。
「あ〜…でもなあ……いや、やっぱり……」
私は卯月の部屋の前で一人唸り声をあげていた。いざ卯月と会ったとしても、なんて言えばいいのだろう…
「むつき、何やってるの…」
その様子を見ていた零ちゃんが話しかけてきた。なんでちょっと引いてるのかが分かりません。
「卯月にちょっと用があって…」
「優なら今マリックにいったからいないよ」
「な、なんでマリックに?」
「さあ?なんでだろうねえ」
零ちゃんはニヤニヤしている。わけわかめだ。
「卯月を一人で行かせるわけには行かないよなあ名目上…。私一応ミロック王やってるし…」
「じゃマリックまで行ってみれば?」
相変わらずニヤニヤする零ちゃん。仕方ない、行くか…。卯月だとはいえ、大切な仲間だ。放っておくわけにはいかない。
マリックまでの道の途中、私はずっと卯月になんて話せばいいかずっと悩んでいた。
さっきはごめんなさい?言いすぎた?
そもそも私の四季剣を侮辱したあいつが悪いんでしょうが!!私は怒りを壁にぶつけた。ふんぬ!とばかりに。ピキッと壁に亀裂がはいる。
はい、今ふんぬという掛け声と憤怒をかけました。うまいっ!
…馬鹿なこと考えるのはやめよう。そうだ、一度喉を潤して体制を立て直そう。その方がいい。
といっても、ミロックはまだ元通りにはなっていない。人はいないし、昼だというのに薄暗い。
私は近くのスーパー(らしき場所)を覗いてみた。そこには竜っぽい人がいた。80%くらい竜だ。おそらく、夕飯の買い出しにでもきてるのだろう。零ちゃんあたりにパシられて。
「やあ竜、ごきげんよう!」
「あれ、二重人格と有名なむつきじゃ…あいたたた!違う!それ以上腕は伸びないよ!!?」
「もう忘れてるだろうと思っていた二重人格をここで出してくるなモブ」
「え?俺モブだったの、え??」
「そんなことより何してるの」
「ったくなんだよ…。見てわからない?」
そう言うと竜は買い物カゴの中を指差した。
「ふむ…今日はカレーか……」
「利愛と白空が食べたいんだってさ。全く人使いが荒いぜ」
「よく材料集まったね」
荒廃しきった国、ミロック。こんなことをして、一体マリックは何を企んでいるのやら…
「そういやむつきはなんでここにいるの?」
「はっ、忘れてた!卯月のとこに行くんだった!!」
「優……」
竜は卯月の名前を聞くと不機嫌そうな顔をした。
「それなら俺もいくよ」
「えっいいよいいよ!買い出し頼まれてるんだし」
ついてきてほしい、私とあいつ二人とか身がもたない!という本心とは裏腹に言葉が出る。
「じゃ、じゃあ私いくね。待ってるだろうし!」
馬鹿、私の馬鹿!!待ってるわけないじゃない!竜早く、早く私を引き止めて!!
「待ってむつき」
竜は行こうとする私の腕を掴んだ。よっし!これで竜も一緒に…
「りゅ、竜?」
振り返った私の目に移ったのは、真剣な目をしてこちらを見ている竜だった。そして誰も予想してなかった、というか私が一番予想していなかった事が起きた。
「むつき、俺お前が好きだ」
竜はそう言って、私を抱きしめた。