マリックと四季剣
私が膝をついたのと時間差で圭太が倒れる音がした。
「おい、大丈夫か!?」
竜と優が圭太に近寄る。四季剣が…圭太の腹部を貫通した……
おそらくかなりの重傷だろう。命を落とす可能性も…
「どういうことだ…外傷がほとんどない…」
優が言った。
「外傷がない…?私は確かに刺した…感触もあった。出血くらいはしているはず…」
私は圭太の方を見る。そこには倒れこむ圭太の姿があった。しかし、出血や傷は全くなかった。
「どういうこと…」
「ちょっとどいてくれ」
りゅうさんが前に出てくる。そして、圭太のお腹に手を当てた。
「ダメージは受けているようだ。血液の流れが不規則になっている」
「ということは、むつきは身体の中にだけ傷をつけたってこと?」
そんなことが出来るわけ…
「なるほど、わかった。それがむつきの四季剣の能力ね」
零ちゃんはそう言うと、変化を遂げた私の四季剣を手にとった。
「これは…第二の四季剣……」
「零ちゃん…どういうこと?」
私は零ちゃんに聞いた。
「四季剣にはね、三段階まで進化をするの。
その進化は、持ち主によって違う。
時期も違うし効果も違う。
むつきの立春は、もう第二段階になってるわ。いいえ…もう進化したから立春じゃないわね。」
「むつきの立春が、俺や優と違って能力アップのみだったのは四季剣が第二段階に近かったからってこと?」
「竜、その通りよ。
第二段階、第三段階まで四季剣が進化するとそれ以前の四季剣の能力は全て能力アップの状態に戻るの」
私の立春は第二段階に近かったから、初めから能力アップだった…」
「それで、そのむつきの第二の四季剣の能力は?」
「外ではなく、中身だけを傷つける…」
私は呟いた。
「圭太はそれを知っていたんだろう。だからむつきの四季剣を狙った」
りゅうさんは、圭太を見た。
「マリックの連中は何をするか分からないぜ」
そこであることを思い出した。
この勝負、私は負けた。この四季剣は圭太に渡さなければ…
「いや、渡さなくていい」
優が言った。
「は!?なんでわかったの!?まだ何も言ってないよ!!」
「うるせえお前の顔見ればわかる」
こいつ……
「とりあえず、圭太に簡単な治療をしよう。
んで、落ち着いたら俺とクルミル様でマリックまで送ってくる」
「ねえ、りゅう。今サラッと僕を巻き込んだよね」
「りゅうさん治療なんかできるの?」
「やっぱりスルー…」
フッフッフ〜とりゅうさんは笑う。
「実は俺も零から四季剣をもらったんだ!
『清和』って言うんだけど、この四季剣は攻撃ではなくて治癒能力に特化しているんだ」
りゅうさんは四季剣を解法し、圭太の上に手をかざした。りゅうさんの手から緑色の光が溢れた。
「すごい…これがりゅうさんの四季剣…!」
「よし、これでもう大丈夫だろう。んじゃ、送り届けてくるわ」
そう言うとりゅうさんは、ヒョイっと圭太を担ぎ部屋を出て行った。待ってよ〜!と、その後をクルミル様が追う。
クルミル様…頑張って…
私の四季剣はもう第二段階になったんだよね…。さっき零ちゃんが言ってたけど、私の四季剣はもう立春じゃないわけだ。
だとしたら新しい名前を…
「青春…正春…」
「ん?むつきなんか言った?」
私はドンッと机を叩いて言った。
「この四季剣の名前、正春にする!」
「うわ、ダサすぎ」
「もうちょっとなんとかならなかったの」
「はっはっは!正春とか男の人かよ!」
「てめえら後でしめる」
「「「すんません」」」
よろしい。
「それで、これからどうするの」
優の一言で空気が鎮まる。
「えっと…圭太が知ってるはず…」
「でももうあいついないぞ」
「Oh…」
まだミロックは元には戻っていない。それに、優と竜の四季剣もまだ見つからない…
「それなんだけど…どうやらミロックの異変の原因は、四季剣にあるみたいなの」
利愛が言った。四季剣が原因!?
「今ミロックでは四季剣が大量発生してる。
その出先はサラ国だと思ってたんだけど、調べてみるとサラ国は横流ししているだけだったんだ。」
「横流し…?」
「そう、白空の言うとおりなの。本当の四季剣の出所は…マリック」
マリック?マリックって圭太の…
「クルミル様とりゅうさんがマリックに行ったけど、そのこと知ってるの?」
「知ってるよ。私たちが事前に話をしたから。圭太を送り届けるついでに、その件についても話をしてくると思う」
「今の私たちがすべきことは…フィールド化を止めることよ」
「フィールド化って何?」
専門用語がいっぱい出てくる…
「むつきは多分経験してないと思う。なんかね、幻みたいなやつ」
「そう、一時的に現実ではないところへ飛ばされるの。その飛ばされた先では、自分の妄想だったり思い入れが強い人や物が出てきたり様々なんだけどね」
「思い入れが…強い人……」
優が遠くを見つめる。何か心当たりがあるのかな?
「フィールド化をコントロール出来るようになると、戦闘でかなり有利になるわ。一時的に自分の世界へ相手を引きずりこむことが出来るから」
零ちゃんが付け足した。
「それで、そのフィールド化を止めるにはどうすればいいんだ?」
「さっきも言ったように、フィールド化の原因は四季剣にある。だから、片っ端から四季剣を回収していくしか方法はない…」
なんとなく予想はできた。何より、まだ力が足りない。そこで、私はあることに気づいた。
「ねぇ零ちゃん。フィールド化の原因が四季剣ってことは、私たちも意図的にフィールド化することができるの?」
「Excellent!そういうことよ!」
誰だ、今エセ外国人がいたぞ。自分でフィールド化して戦闘を有利に進める…
これは使いこなせばすごく強くなりそう。
「それじゃ、早いとこ片付けちまおうぜ!」
そして私たちはフィールド化を止めるため、もう一度ミロックの外へと踏み出した。
外は相変わらず、鎮まりかえっていた。
クルミル様が、住民に家から出ないように警告をしてくれたらしい。これで思いっきり四季剣狩りができる。思いっきりってのはちょっとおかしいけど…。
「それじゃ、ここからはみんな分かれよう」
「それがいいね、俺はあっちを見てくる!」
竜が賛同する。そうして、私たちの四季剣狩りは始まった。
竜と優が体験したフィールド化…一体どういうものなんだろう…零ちゃんの説明では、いまいちピンと来ない。
自分の妄想や、思い入れのある人や物?
妄想やものはともかく、思い入れのある人なんているのだろうか…
街には予想以上に四季剣が散乱していた。
こりゃ回収活動も大変そうだ…私は、落ちている四季剣の一つを拾ってみた。
かなり精巧に作られている。そういえば、四季剣って誰が作っているんだろう…。
零ちゃんが作っているわけではなさそうだし…また後で聞いてみるかな。
四季剣を拾っているとあることに気付いた。
北へ向かうほど四季剣が落ちている量が増えている。もしかして北に何かあるんじゃ…?
辿っていくとある看板が見えた。
『この先、マリック国』
マリックって確か圭太たちがいるところだよね。…こっそり行ってみようかな。
わ、私だってミロックの王やってるわけだし!?いいよねこれくらい!!
そう自分に言い聞かせて、私はマリック国へ行くことにした。
マリックは、まだ発展途上の国であまり栄えていない。
規模も小さいが、何か他の国とは違うものがある、と一目置かれている国だ。何が違うのかは分からないけど。
ミロック城ほどの大きさではなく、小さな民家のような建物の中にマリック王は住んでいるらしい。一階建てのため窓から中の様子を伺うことができる。
私はさっそく覗いてみた。そこにはクルミル様とりゅうさんの姿が見えた。
『何か心当たりはありませんか?』
『心当たりも何も、俺は何もしていませんよ』
『では圭太はどうしてサラにいたんです?』
『それは彼が勝手にしたこと。国は何も関係ありませんよ』
あの意地の悪そうな人がマリック王か…圭太のことについて話してるのかな。
「ほーう?ミロックの王であろうお方が真っ昼間から覗きか?」
「ぴょが!!?優!?」
「ぴょが?」
クルミル様たちの会話を聞くのに夢中で背後がガラ空きだった…
「お前なにやって…あー、やっぱいいわ何も言わなくても。なんとなくわかるから」
「今日は一段とウザいね優」
「そりゃどうも」
んーーーー腹パンしたいーーー
「もう気づいてるだろうけど、この四季剣の分布からして原因は明らかにマリックだな」
優は中を覗きながら言った。ってあんたも覗いとるやないか。
「でもマリック側は認めてないみたい」
「噂ではここの王かなり頭空っぽらしいからなあ」
「ちょっと、聞こえるよ。それでも一応王なんだし謙遜はしないと…」
「やぁ、これはまた可愛らしい人が迷い込んできたね?」
「「え?」」
私たちの目の前には紫髪の男の人が…。
「お前ら…」
りゅうさんが呆れた顔をして言った。あ、もしかしてバレた?
「大変申し訳ありません…」
私は最大級の土下座をする。
「いやいや、いいよ。まさか現ミロック王に会えるとは思っていなかったよ」
マリック様は笑った。でも私には分かる、あれは嘘の笑いだ。部屋に入れてもらう時、頭悪くはねえだろとつぶやいてたし。
「それで、お前たちはなにをしにきたんだ」
クルミル様が聞いてくる。
「ミロックの四季剣が、マリックに近づくほどよく落ちているんです。ただの偶然だとは思えません」
「そ、そうなんですよ!」
私も慌てて優に合わせる。
「君たちも言いがかりをつけるためにわざわざここまで来たのか?本当にお疲れ様だな」
マリック様が嫌味を言う。この人、なんかやだ。
「確かに言いがかりかもしれません。先ほど言われたように、国は関係ないかもしれません。しかし、圭太がこちらに危害を加えようとしたのは事実。圭太はマリックの人間です。責任を追うのは当たり前ではないですか?」
クルミル様が言う。あのへたれなクルミル様はどこにもいなかった。
「それはつまり、圭太を切り捨てれば責任はないというわけか?」
ニヤリとしてマリック様は言った。その言葉に私はカチンときた。
「どうしてそうなるんですか!?
私には詳しい事情は分かりませんが、圭太が何か使命を果たすために頑張っていたのは事実です。それはきっとあなたの為でしょう。
冗談でも、切り捨てるなんてことは言わないでください」
「おい、むつき」
言い過ぎだ、とりゅうさんが顔で言う。
言い過ぎも何も、そんな簡単に捨てるだなんて言われて放ってはおけない。
「面白いことを言うね、ルチア様。
じゃ何か解決策がおありで?」
「それは…」
言葉に詰まる。
「あー、もうこれじゃ時間の無駄だ。さっさと決めてしまおう。」
そう言うとマリック様は一枚の紙を取り出し、何かメモをした。書き終わった後、そのメモを私に差し出した。
「読んでみて、ルチア様。そこに条件を書いたから。相談はしないで、君の意思で今返事を聞かせて」
「は、はあ…」
私は静かにメモを広げた。うわ、すごい達筆。
『今ミロックで起こっていること全てこちらで解決します。その代わり、ルチア様の四季剣をこちらに差し出してください。』
私の四季剣?
そういえば圭太も狙っていたような…
私の四季剣一つでミロックが救うことができるのなら安いものだ。
しかし、逆に言えば国一つ交換条件として出せるほど私の四季剣は重いということ。
相談は出来ない、私が決めないと。といっても答えは決まっている。悩むことなんて一つもない。
「この条件、受け入れます」
私は、まっすぐな目でマリック様を見た。




