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夢幻酷法  作者: SOR
第一の反乱
2/14

ルチアとビンタ

あれからすぐにミロック城に戻った私たちはさっそく引き継ぎの話に入った。


「ミロック王はニックネームというか、そういうのがいるんだ。僕のクルミルみたいにね」

「え、クルミルって本名じゃないんですか?」

「お前アホか、クルミル様どう見ても日本人だろ」

「クルミル様の本名は武田奥斗(たけだおくと)って言うんだよ」

「ほぇ〜」

「むつき、今どうでもいいって思ったね。」

「ま、まさか〜」


クルミル様から視線をそらす。なぜばれた。

一通り説明が終わった後、一度ミロック城内の散歩をしてくるといいとりゅうさんに言われ、私は歩き回ることにした。

ん?クルミル様の部屋の扉があいてる…?


「誰だ、泥棒!」

「うわあ!!」


情けない声を出し、泥棒は転んだ。


「観念して大人しく…って卯月、何やってんの」


そこにいたのは盗聴器を握りしめた卯月だった。


「卯月もしかしてさっきの私のミロック王がなんたらっていうやつ消そうとしてる?」

「……」


図星!?


「なんでそこまで私が王になるの嫌なの?」

「お前はまだ知らない…」

「知らない?」

「反乱がどれほどのものか、お前は知らない」


卯月はこちらを睨んだ。


「俺は関係のない人を巻き込みたくないだけだ」


反乱ってそんなに酷いものなのか…


「っていうことは私を心配してくれてるの?」

「…っ!?誰がお前なんか」


あれ、ちょっとかわいい。


「そうかそうか〜なら王補佐にしてあげるよ〜〜〜心配なんだね〜〜〜」

「今の録音した。今度学校で全校放送してもらう」

「馬鹿!やめろ!!」


撤回、全然可愛くない。


「よし決めた!」

「なんだよ」

「ルチア。私のミロックでの名はルチアにする」

「俺に言われても知らねえわ」

「由来は特にないかな、発音がいいし女王っぽい!」

「お前ほんとに頭空っぽだな」

「お前らこんなとこにいたのか!大変だ、すぐにこい!」


そんな話をしていると、りゅうさんが勢いよく部屋に入ってきた。何事?




「もうあっちにいってるのか?」

「いえ、まだ途中だと思いますけど…」

「もう少しで到着するみたいです」

「厄介なことになったな…」

「これだけ本気っていうことですかね…」


りゅうさんに連れられ一度居間へ戻る。そこで、クルミル様が神妙な面持ちで会話をしていた。その会話の相手、水色の髪の男の子と対照的にピンクの髪でハートのゴムで左側にサイドテールの女の子だった。

正直、かわいい。人気投票をしたらダントツ1位だ。


「ああ、二人とも、大変なことになった。

…その前に紹介しておこう」


オホンと咳払いをし、クルミル様は続けた。


鏡賀白空(きょうがはくう)鏡賀利愛(きょうがりあい)だ。むつきも三代目になったし、それなりにメンバーは集めておかないと思ってな。二人とも情報関係が強いみたいだからミロック城のセキュリティやら相手の情報収集やらを担当してもらうつもりだよ」

「きょうが…?はくう……?りあい?」


あまりのDQNネームにあいた口が塞がらない。


「ち、ちなみに白空はどっちですか」


どうやら卯月も二人とは初対面のようだ。

少しビビっている。ちょっと面白い。


「はーい!俺が白空どぅえーーーーす!!!」

「「………」」


どうしよう、なんて突っ込めばいいのかわからない。


「ちょっと白空、全力で引いてるよ…えっと、私たち双子なんです!全然似てないってよく言われるんだけどね。あっそうだ!お近づきの印にこれどーぞ」


卯月の前に差し出された得体の知れない缶詰。


「えー利愛それさっき道端に落ちてたやつじゃん。大丈夫?」

「大丈夫だよ。缶詰だもん食べられるって!」

「とりあえずお前ら後で裏来い」

「「え!?」」


なにこれ何の漫才?いつの間にかグランプリ始まってる?


「…とまあこれから共に頑張って行くんだから仲良くしてね」


クルミル様が苦笑いをしながら言う。


「よろしくね!むつきちゃん!」


利愛は人懐っこく私の手を握った。その声が頭の中をこだまする。


よろしくね!むつきちゃん!

よろしくね!むつきちゃん!

よろしくね!むつきちゃん!


「家族以外に名前呼ばれたの…何年ぶりだろう………」

「お前も結構残念だな。同情するわ」

「同情するなら友達をくれ」

「自己紹介も済んだところで、話を戻すよ。さっきむつきを拉致ったあの女がミロックを抜けて現実の世界へ行こうとしてる」

「げ、現実!?」


血の気が引いて行くのがわかった。それって私の家族や先生やクラスメイトにも危害が及ぶ可能性があるつてこと…?


「ネットワークでどこにいるかの情報はキャッチしたんだけど、どうやってそこに行くのかがわからないんだよね…」


利愛が言う。動こうにも動けないということか。


「先回りしませんか」

「先回り、というと?」


私の提案にりゅうさんが問う。


「相手の目的地がわかっているのならば、ここでじっとしているより先に行って待ち構えていた方がいいと思います」

「待ち構えてどうする?やめてくださいって土下座でもするのか?」

「そ、それは…」


卯月に痛いところをつかれた…


「…まあじっとしてるよりはマシか。クルミル様、どうしますか?」

「ん?どうして僕に聞くの、優」

「え?」

「今決定権があるのは僕じゃなくて、君の目の前にいるむつきだよ」


クルミル様が微笑みながら言う。


「そうでした。じゃいくか如月」

「ルチア様とお呼び」

「あっ、ルチアになったんだ名前」


せっかくの!いい気分が!台無し!よ!


「二人で大丈夫か?」

「おうよ、なんとかなるだろ。向こうもプロじゃないんだ」

「むつきちゃん!これ、持って行って!」


利愛が何か持ってきた。


「これは?」

「通信用イヤホンだよ。一応持って行って!

なにか動きがあったらすぐ通信するから」

「ありがとう!」

「おい、ノロノロしてないで早く行くぞ」

「わかってるよ」


そうして私と卯月は紫の女を止めるため、現実世界へと戻った。





『むつきちゃん、そこの角を右だよ!』

「おっけー、右ね」

『違った左だった』

「どっち!?」


利愛は情報関係は強いようだが、他は全くダメなようだ。方向音痴にもほどがある。

これじゃいつまでたっても到着しないじゃない!


「なあ、もしかしてあいつらの目的地って…」

「心当たりがあるの?」

「この方向には竜の家があるはず…」

「ってことは、あの女は師走くんを狙ってるの!?」


卯月が前に言っていた、関係ない人を巻き込みたくないというのは、師走くんも第一に含まれるだろう。


「…急ぐぞ」

優は師走くんが狙われていると確信したのか足を早めた。


「ねえ卯月!もし出くわしちゃったらどうするの?戦うの?」

「戦うに決まってるだろ。他に選択肢はない」

「わかった。でもそっちじゃないよ師走くんの家」

「…まぐれだ」

「いや何が?」


もしかしてこいつ…


「1+1は?」

「3」

「干支で犬の次は?」

「キジ」

「Appleは英語で「くだらない質問するないちごだろうが」


こやつ、相当まいってるな。


「早くしないと竜が危ないんだよ。急げよノロマ」


言葉とは裏腹に卯月の足は震えていた。それを見た私は覚悟を決めた。


パシィィィン

乾いた音が響く。その音は私の手のひらが卯月の頬を叩いた音だった。


「ちょっと落ち着きなさいよ。平静を保たないと出来ることもできなくなっちゃうよ?あんたがちゃんと判断してくれないと私ばかだから死んじゃう」


卯月は目を丸くする。かなり驚いているみたいだ。

ちなみに叩いた本人も非常に驚いている。豆鉄砲どころではない。ちょっと強く叩きすぎてしまった。

いい音がしたぞ!クリティカルヒットだ。ゲームなら今頃エンディングが流れているだろうに。


「ふっ…」

「な、何がおかしいのよ!?」

「いや、なんでもねえよ」


そう言って卯月は深呼吸をした。


「よし、二手に分かれよう。竜の家の道路はT字路になっている。うまいこといけば行き止まりに追い込める」

「わかった、なら私は右から回るね。利愛からの通信イヤフォンはどうする?」

「心配だからお前が持っておけ」


ニヤリと笑う卯月。


「俺が判断しないと死んじゃうんだろ?」

「言葉のあやよ。犬死なんかしない」

「その言葉、覚えておけよ」


卯月は私の肩を叩くと左側へ走って行った。

うわ、なんか私流れに任せてすごいこと言っちゃった気がする…

って、今はそんな事考えてる場合じゃない。一刻を争うんだ。

私は右通路から師走くんの家に向かった。





一方その頃、通信を切っていなかったためイヤフォン越しにむつきと優の会話を聞いていた鏡賀兄妹はというと。


「これはできる」

「利愛どうしたの?」

「むつきちゃんと優はそのうちできるよ」

「できるってなにが?」

「できるんだよ。親密な仲になるわよ」

「え、もう親密な仲じゃないの!?」

「そういいわ白空、仕事に戻って」

「利愛はたまによく分からないなあ…」





師走くんの家に着いた、まだ女はいない様子。卯月も反対側に隠れていることだろう。このまま待機かな。

なんか緊張してきた、ゲームの中にいるみたい。でもゲームじゃない、復活なんて出来ないんだ。


一回限り、それで全てが決まる。


と、とりあえず深呼吸をしよう。すーはーすー…

「あっるぇ!?如月さんじゃん!」

「うわっ!」


後ろには買い物袋を持った師走くんが。


「あれ、なんで俺の家の前にいるの。何か用事?」

「えっいやその、なんというか〜…」

「よかったら上がっていく?今からご飯だし」

「で、でも悪いんじゃ…」

「大丈夫だよ。ちょっとお母さんに聞いてくるから待っててね」


そう言って師走くんは中に入ってしまった。どうしよう、ここで入っちゃったら任務が…


「そのまま中に入れ」

「うわあっ、ちょっと卯月いきなり話しかけないでよ!」

「中に入って竜を見張ってろ」

「見張ってろって…外は大丈夫なの?」

「俺が見てる」

「わ、わかった…」


そそくさと元の位置に戻る卯月。本当に大丈夫か?さっきは取り乱してたくせに。

卯月が隠れると同時に師走くんが戻ってきた。


「ごめんね。ささ、中に入って!夜ご飯も食べて行ってよ」

「それじゃお邪魔します…」


男の子の家入るの、地味に初めてなんだよね…期待と不安を抱えたまま、私は師走家に足を踏み入れた。

師走家に侵入するも、恐る恐る足を動かす私。我ながら情けない…


「どうしたの如月さん、なんか動き変だけど…」

「なんでもない、なんでもないよ!」


動揺しまくっている。


「竜にぃおかえり〜」

「おかえりゅ〜」

「おぅただいま」


弟さんらしき子が2人でてきた。師走くんは一番上なのかな。


「竜、早くお客さんをご案内しなさ…あら女の子?」

「はっはじめまして。如月むつきともうします!」

「にぃにがかのじょつれてきだ〜」

「竜にぃかっこいい!!」

「ばか、違うよ!普通にクラスメイトだよ!」


こういうシチュエーションって女子は弱いのかなあ…はい、彼女ですてへぺろりんとか言っちゃうのだろうか。生憎そっち方面には疎い。こんな少女漫画のような展開でも、終始真顔を保っています。


「もーお前らうっさい!如月さん、俺の部屋案内するからそこで待ってて」

「あ、うんわかっ「あれ、もしかして下の名前むつきさん?」


師走ママンから聞かれる。


「あっはい、むつきです」

「あら〜あなたがねぇ…」


まじまじと見られる。なんかやらかした…?


「にぃにがいつもむつきむつき言ってた女の子ってこの子だったんだ〜」

「それは言わない約束だろ!?ほ、ほら如月さん早く!」

「はははははい!!」


師走くんは顔を真っ赤にしている。

なんだろ、どうしたんだろ?私の話を家族にしてたのかな。

二階を上がるとシンプルな部屋に案内された。


「ここでちょっと待っててくれる?すぐに戻ってくるから」

「わ、わかった。ごめんねなんか」

「いやいや、俺こそごめん!あと…」


師走くんは一息おいて言った。


「むつき、って呼んでもいい?」

「いいよ!!」

「返事早!!?」


予想外の出来事に条件反射で答えてしまった。


「へへ…ありがとう!俺のことも竜でいいからな。それじゃちょっと待っててね」


そう言うと師走くん…竜は階段を飛び降りて言った。異性から名前で呼ばれるのってなんか普通にドキドキするな…

…そういえば卯月はどうしてるだろう。

ちょうど竜の部屋から卯月の影が見えた。

今は季節的に秋だから夜は冷え込んできてるに違いない。


「大丈夫かな…」


無意識にそんな言葉がこぼれた。窓から目が離せない。


「お待たせ〜ご飯の準備できたから降りて…どうしたの?」


言うか言わまいか迷ったが、やはりほっとけない。私は師走くんの目を見て話し始めた。




「なんで言うの」

「だって寒そうにしてたし…」

「それだけの理由で言ったのか?」

「それだけじゃないじゃん!」

「まあまあ二人とも」


師走く…竜が間に入る。


「優くんもお久しぶりね」

「あっご無沙汰してます」


ペコペコと頭を下げる卯月。いとめずらし。


「竜ちょっと話があるんだ、いいか?」

「おう、いいけど」

「えっ卯月言うの!?」

「こうなった以上言うしかないだろ。本人に伝えるのは一番安全な方法っちゃ方法なんだ」

「た、確かに…」


卯月はこれまでの経緯を簡単に竜に話した。


「んー、なんとなくは把握した。つまり今俺は狙われていると」

「そういうことだ、だから気をつけろよ」

「でも全然そんな気配しなくない?」

「そうだよ、卯月。時間的にもうこっちにいるよあの人たち」

「それなんだよな…利愛からも連絡ないし」

「もう何やってるんだろう。確かここに…あ、電源オフになってた」

「お前ふざけんなよ」


それポチッとな。


『……やっとつながった。むつきちゃん大変、奴らの目的地は師走竜の家じゃないの!!』

「え、どういうこと?」

「おい利愛、ならどこだ?」

『優の家よ。もうすぐ到着する、急いで!!』

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