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夢幻酷法  作者: SOR
第二の反乱
13/14

好きと名前

「…ッ……げほっ!!げほっ!!!」

「竜!?大丈夫!!?」


ここはどこだ…零ちゃん?

俺はゆっくり身体を起こした。みんなが心配そうにこちらを見ている。…一人を除いて。


「身体は痛くない?四醋剣に乗っ取られて…」

「ああ…なんとなく思い出してきた。なんだろう、全く身体が痛くないんだ。気持ち悪いくらいに」

「そう…よかった、よかった……」


零ちゃんは俺に抱きついた。かなり心配してくれたのだろう、目は真っ赤だった。


「それで、竜…聞きたいだけどむつきは?」

「む…つき?」

「会わなかった?むつきがまだ出てきてないの…」


指の震えが止まる。思い出した、思い出した。

伝えなきゃ、みんなに、伝えなきゃ。


「早くむつきを助けて!!俺と入れ替わるように四醋剣に…」

「そ、そんな…」

「目が、目が合ったんだ入れ替わる時に。むつき、笑ってた。満足そうに笑ってたんだ。四季剣だって外に投げ捨てて、それで…」

「落ち着け、竜」


先ほどまでずっとモニターを見ていた優がこちらへ来た。


「あいつは何て言っていた?」

「直接は分からない、たぶんむつきは…」


『だいじょうぶだよ、わたしがまもるから』


「なあ優、むつきを、むつきを助けて。お願い、お前じゃないと無理なんだ。むつきはきっとお前のことを…」

「ストップ、その先はむつきから聞いた方がいいんじゃない?」


零ちゃんが俺のセリフを遮った。確かに、それもそうだ。


「…行ってくる。誰も犠牲にさせない。あいつと俺の約束だから」


優はもうボロボロだったが、誰も止める者はいなかった。

優、押し付けちゃってごめんね。

でもむつきは俺じゃなくて君を待ってる。

早く迎えに行ってあげてね。






全く、俺は何度自分に刃を立てればいいんだ。再び竜の身体の中に来た俺は四醋剣の前に立っていた。

…ここにむつきがいる。清明じゃ歯が立たないのはもう知っている。さてどうするか…


竜の言ったとおり、四醋剣の前には立春が投げ捨てられていた。あんなに四季剣が誇りだと言っていたくせにすぐに捨てるのかあいつは。

そっと四季剣を拾う。熱い、あいつの思いが伝わってくるようだ。

…俺はなんて馬鹿なんだろう。


その時だった。

急に立春が光りだし、その光は清明へと移って行った。何が起こっているのか俺は一瞬で理解出来た。


「やめろ!!やめてくれ、これ以上俺に罪を重ねないでくれ…」


俺はそう嘆いたが光が流れるのは止まらない。そしてすぐに、立春の光は消えてしまった。

俺は怒りをぶつけるように清明を強く握った。そして唱えた。


『四季剣解放、花魁(おいらん)


むつきを連れ帰った俺は、みんなに事実を伝えた。みんなはショックのあまり呆然としていた。


あの後、新たに得た四季剣である花魁を使い俺は四醋剣の殻を破った。中から出てきたむつきを抱え、現実へ戻ってきたがむつきは虫の息だった。

もう、長くないのだろう。


「ごめん、俺のせいで…俺のせいでむつきは…」

「お前のせいじゃねえよ、竜」

「そんな…むつき……やだよ……」

「ごめんなさい、ちょっと利愛連れて外に出てるわ」

「ああ分かった。頼む、零。一度気持ちの整理をしよう…」

「俺もちょっと席外すわ…」

「うん…優はいいの?」

「俺は、ここにいる」


そっかと竜が言うと、みんな外で出ていった。部屋にはむつきと二人きりになる。

俺はむつきのそばに座り、そっと髪をなでた。そして、ゆっくりと話しだした。






「約束、守れなかった。一人にしないって言ったのにな…。きっとあいつらはお前に泣いてる顔を見せたくないから外に出てるんだろうけど、俺はもう何度もお前に情けねえ所見られてるからどうってこともない」


「最後まで変な女だった、自己犠牲が激しすぎるんだよお前は。かと思えば変なとこでプライド高いし、意味が分からねえ生き物だわ」


「…でも気付けばそんなお前に惹かれている俺がいた。ビンタ食らったのはさすがにビビったけど、その絶対曲げない所は好きだったよ。ただ頑固なだけだけど」


「自分で言うのもなんだが、竜や兄貴にも俺は完璧だと思われてんだ。本当はそんなことないのにな。こうやって生きていくのは正直辛いよ」


「はあ…こんなことならちゃんと伝えればよかった。俺は竜のような度胸はねえよ。ぎくしゃくするのが怖くて逃げてるようなヤツだ。お前なはよく分かるだろう」


「お前なら、また新しいミロックを作っていけると思っていた。そばでその成長を見ていたいと思っていた」


「…なんでだろうな、全く涙が出てこない。ここまで冷たいとは自分でも思わなかったや」


「お前の立春、俺の清明が吸い取ってしまった。ごめん、こんな能力いらなかった。どれだけ強くなっても、守るモノがなけりゃ意味がねえんだ」


「なあ、むつき。俺にとってお前は太陽みたいな存在だった。お前を見てると心の中の俺がいるみたいで気に食わない。こうしたい、ああしたいと思っても出来ないようなことをお前はやってのける」


「お前にとって、俺はどんな存在だった…?」




ここまで言い終わっても尚、俺の目から涙は出てこなかった。声が枯れてくる。

むつきはまだ気持ちよさそうに眠っている。それがなんだか腹立たしくて、愛おしくて。

俺はさらにむつきに近づき、軽く口づけを交わした。


その時だった。天井からピンポン玉が落ちてきたのだ。

俺は瞬時に戦闘態勢に入る。誰だ、侵入者?一体何が目的だ。むつきは渡さな…


「…いたっ」

「え?」


その声の主を見て俺は唖然とした。どうやらまたピンポン玉が落ちて来たらしく、それがその人物の頭に当たったのだ。


「……お前もしかして全部聞いてた?」

「ごめんなさい」

「え、いつから聞いてたの?」

「ごめんなさい」


むつきは、起き上がったまま俺と顔を合わせようとしない。俺も動揺からか語尾が強くなってしまう。


「なんで無事なんだよ」

「…圭太からクスリを渡されたの。もし何かあったらこれを飲んでって。一時的に睡眠状態にして身体の負担を減らすことが出来るらしくて…」

「そうか」

「ごめん、卯月…でも私、本気で考えて何度も何度も考えて、それで絞り出した答えだから許し…」

「許すわけねえだろ、アホ」


俺はそう言うとむつきの頬をつねった。


「い、いはいっへ!だはらあはまって」

「卯月じゃねえだろ。ちゃんと言って」


むつきは顔を真っ赤にしながら、また俺から目を逸らそうとした。しかし、俺は顔を抑え無理やりこちらを向かせた。


「優…」

「うん、そう」

「それだけ!?他にもっとなんかあるよね?」

「あーあるかも」

「でしょ?ほらほら、早く言ってください〜」

「好き」

「は、はあ!?意味分かんない、いきなり何言って…」

「好きだよ、むつき」

「う、うぅ〜……」

「いつもの怒声はどこいったんだよお前は。…したいからいいなら目閉じて」

「優は人が嫌っていってもするじゃん。目閉じたって意味ないし」

「よく分かってるじゃん」


俺は隙をついてむつきの頬に軽くキスをした。


「あ、アホ!バカまぬけおたんこなす!!!」

「語彙力貧困かよ」

「まだ目閉じてないじゃん…言ったならちゃんと守ってよ…」

「それもそうだな」


むつきが目を閉じているのを確認した俺は、そっとむつきの唇を重ねた。

その瞬間、今まで出てこなかった涙が急に溢れ出てきた。

ああ、終わったんだ。全て終わったんだ。


「あ、あのね優。まだハッキリとはしない…けど!私もたぶん優のことが…」


ケータイのメール受信音が鳴り響く。おそらくむつきのだろう。クソ、今いいとこなのに…

ケータイを見たむつきの顔は、一気に青ざめていった。


「ねえ優…これ…」

「あ?なんだよ」


『受信者:出背圭太』

『本文:ごちそうさまでした。俺、行きますね。お幸せに』


「ゴラァ!!!!」

「ちょっと優!?ここで四季剣解放はまずいって!!」


メールを読み終わる前に俺は無意識に清明を解放し、天井めがけて投げつけていた。

もしかしてピンポン玉を落としたのもあいつか?ぬかった…


「四季剣といえばむつきの生気全部もらっちゃったんだけど」

「生気って言い方がなんかなあ…。あれは大丈夫、私が故意に流したものだよ」

「故意?どういうことだ?」

「優が来たから私の力を優に渡して、それで……」


急にむつきが口ごもった。


「ああなるほどね、俺に生気を与えたくて仕方なかったんだ?」

「言い方!!!!」

「まあそれならよかった…。あっ、あともう一つ」

「な、何よ」


俺は身構えるむつきに、軽くゲンコツをした。いきなりゲンコツされたむつきは状況が理解出来ていないのか目を丸くしている。


「俺にしか聞こえてないのか〜残念〜って言っただろ。それのお仕置き」

「うわあ、ネチネチする男は嫌われるよ」

「お前に好かれてるからいい」

「べ、別に好きとは言ってないでしょ!?」

「でもあの場面で声が聞こえるってことは俺のこと考えてたんじゃないの?」

「そ、それは…」

「はい図星。今度焼き肉奢って」

「また突拍子もないことを…確かに優の考えてたけど、それは好きとかじゃなくて戻ったらどうしてやろうかってそういう…」

「優大丈夫!?今すごい音したけど!?」


バタバタと扉の向こうからみんなが戻ってくる。…そういえば清明で天井に穴開けちゃったんだった。


「え…むつき?本当にむつきなの?」

「お騒がせしました〜…本物ですよ〜」


むつきの声を聞いた利愛は奇声を発しながらむつきに飛びついた。それを引き金に全員がまた涙を流す。…愛されてるんだな。

きっとこれからもこの関係は変わらないだろう。ミロック王は、やっぱりすごいヤツばかりだ。

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