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夢幻酷法  作者: SOR
第二の反乱
11/14

正春と体内

私が正春を突き刺した後、卯月はそのまま倒れこんだ。どうやりうまくいった…らしい。

もう神頼みしか、私にはできない。どうか、どうか卯月と竜が無事戻ってきますように…


「今の優の言葉、軽く告白よねえ…」


零ちゃんが呟く。


「え、告白なの!?」

「むつきって恋愛に鈍感だったなそういや」


白空が笑う。こここ告白!?卯月が、私に?


「実際のとこ、優と竜じゃどっちが好きなの?」


利愛がニヤニヤしながら聞いてくる。


「や、やめてよもう!」


分かってる、みんな不安なんだ。

冗談言ってないと間がもたないんだ。

こんな事はじめてだもん。

仲間を失うかもしれないんだ、気を遣ってくれてるんだ…。


「ほらほら、痴話はやめて。モニター持ってきたから優の様子を見よう」


りゅうさんが言う。痴話って…

モニターには、卯月の姿が映し出されていた。その背後にはまるで空気のような、影のような、そんな物体が渦巻いていた。

物体?物と言えるのだろうか…

きっとあれが卯月が言っていた実体化した四醋剣なのだろう。


シャキンという効果音が聞こえてくるような、そんな動きで卯月はテキパキと動いていた。私はその無駄のない卯月の動きに見惚れる。口だけではないということが嫌でも伝わってくる。


「…さすが優。約30分でほぼ9割の四醋剣を消滅させるとは…」


クルミル様は時計を見ながら言った。


「優もまだばててないみたいだし、大丈夫そうね」


零ちゃんも安心したように言う。よかった…ほんとによかった……。


しかし、あと少しというところで卯月の動きが止まった。どうしたんだろう…

こちらから見れるのは映像だけで、音声までは聞き取れない。


「今優は竜の身体の先、つまり足から心臓にかけて進んでいるはずだ。もうほぼ四醋剣を消去しているから、止まっているのは心臓地点…」


心臓、つまり竜の核となる場所。


「つまり、竜は優に心を開いていないってこと?」


利愛が言う。心を開いていない?竜が?

卯月と竜は小学校から一緒だったし、仲良いはずりそんなことあるわけ…


「あるんだよなあこれが」

「りゅうさん回想に入ってこないで」

「じゃ、誰が竜の心を開けるっていうの…」


そう言うと、みんなの視線が私に集まったりえっ、私?


画面の中の卯月は何か悟ったのか、四季剣を解放した。そしてがむしゃらに竜の核へ干渉しようとする。しかし、竜は一向に心を開こうとはしない。


時間だけが過ぎていく。

竜の中へ入ってからどれくらい経ったのだろう。

見るからに卯月は衰退していた。呼吸も荒くなっている。


「…あまりいすぎるのは竜にとっても優にとってもいいことではないな」

「でもあの様子じゃ卯月は諦めて出てくる気全くないですよ…」


こちらの声は卯月には届かない。

出来ないと分かっていても尚、卯月は剣を振ることをやめなかった。四季剣解放も何度もしている。

あんなに四季剣を使ったら、身体の負担がとんでもないことになる。


「…本当は、もう知ってるんでしょ」


それを黙って見ていた零ちゃんが口を開いた。


「零ちゃん…なにを…?」

「竜を救えるのはむつきしかいないって…ねえりゅう兄、確か干渉出来るのは一人だけよね」

「そ、そうだけど…」

「後から入った人は押し出すような形になる…」


そう呟くと零ちゃんは私に向かって言った。


「お願い、優と竜を助けて…。むつきにしかできないの…お願い……」


零ちゃんは涙を流していた。拳を握りしめている。


「これ以上…竜も優も傷つく姿は見たくない…」


零ちゃんが何を言っているのか、私は理解していた。

ただ…まだ動く決心ができなかった。そんな私に御構い無しに零ちゃんは畳み掛けてくる。


「竜はむつきのこと好きなんでしょう!?なら、心も開いてくれる…くれるはずだよ…」

「おい零、落ち着け」


りゅうさんになだめられる。


そうだ、私がやらなきゃ…



「…私、行くよ」

「…むつき、お前正気か!?」

「もし戻ってこれなくなったらどうするの!?」


りゅうさんと利愛が言う。


「でも…」

「やってみるかどうかに価値があるんだ、後先のことは考えるな」

「く、クルミル様…しかし……」


クルミル様は私の手を握り、言った。


「必ず、必ず戻ってくると約束して欲しい。出来ないなら、僕も引き止める」

「出来ます」


私はまっすぐな目でクルミル様を見た。


「…いい目をしているなむつき。君をミロック王に推薦してよかった」


クルミル様は微笑んだ。私はその言葉に胸が熱くなる。

大丈夫、私は出来る。

竜も卯月も必ず無事に助け出す。


深呼吸をして、私は正春の矛先を竜の胸に向けた。そして、ゆっくりと突き刺していった。


『やめろ!!!』


私は動きを止めた。


「むつき、どうした?」

「声が、声が聞こえる」


りゅうさんが不安そうに言う。

私はもう一度耳を澄ましてみた。微かに聞こえていた声が、今ははっきり聞こえる。


『むつきやめろ、こっちへは来るな。一人でやれる、だからやめろ!』


卯月の声…?


「むつき、どうした!?大丈夫か!?」


どうやら私にだけ聞こえているらしい。


「大丈夫だよ」


私は一言だけ呟き、正春を突き立てた。身体がふわっとし、魂が抜けていくのがわかる。

そして私は、竜の中へと入っていった。






「ん…」

「優戻ってきたのか!!体調は…お前なんでそんな無理をして…」

「あ、むつき…むつきは…」

「むつきは今竜の中へいったよ」

「っ…くそっ!!!」


俺は地面を殴りつける。間に合わなかった。

むつきは行ってしまった。


「俺が、俺がしっかりしなかったから、むつきが…」

「おい優、しっかりしろ」

「俺のせいで、俺のせいで…」

「しっかりしろって言ってるだろ!!」


兄貴が俺の頬を思いっきり叩いた。電流が走る。


「優はよくやったよ、後はむつきに任せよう。俺らがあいつを信じてやれないでどうするんだ」


俺は叩かれた頬に触れる。

そういや、あいつにも一度殴られたことがあったっけ。


「そう…だな……」


むつきなら、俺が出来なかったことくらい安易にこなしてくれる。あいつにその力があるのを、俺はよく知っている。


俺の…

俺の好きな女は、何だって出来る奴だから。


「…料理は出来ねえけど」

「ん?なんか言ったか優」

「なんでもねえよ」







「あいたたた…ここは…」


辺りを見渡す。どこか見たことのある風景…

そうだ、さっきモニター越しに見ていたところだ。

ほんとに…来ちゃったんだ。

ってことは今私見られてる!?みんなからモニターで見られてる!?




「…おいなんかむつき楽しそうじゃね?」

「馬鹿なのかあいつは…」

「馬鹿だろ」

「そうだった」




おーいおーい!!!みんな見てるぅーー!?

如月むつき、やっちゃいますよ!!!

思いっきり手を振る。

さあ、こい竜の中の四醋剣よ。

私はやる気満々だぞ!いまにみてろ!!

卯月が突破できなかった壁の前に私は立った。モニターで見ていたものよりかなり大きく、そして暗く閉ざしている。

ここが…竜の心……


私はそっとその壁に耳をあててみた。

トクントクンと心臓が動いている音がする。


『四季剣解放、正春!』


もっとここでいろいろ観察してもいいけど、そんな時間はない。

正春の能力は…そう、外側ではなく内側のみにダメージを与える。ということは、壁の中にいる四醋剣まで正春が到達するかもしれない。

おそらくみんなが、竜を助けられるのは私しかいないと言った理由の一つはこれであろう。


一瞬で、一瞬で決めてやる。


私は踏み込み剣を構えた。






「どうして、そんなことするの?」

「…っ…竜…!?」






「竜の体内なのに竜がいるなんてあるのりゅうさん…」

「いや、あれは竜じゃない」

「優の言うとおり、あれは竜に化けた四醋剣だ」

「し、四醋剣って化けることも出来るんだ…こわ…」

「そんなことより、俺らさっきから今の状況の説明係みたいになってない?」

「メタはよしなさい」








「竜 、なんでここに…」

「みんな、みんなが俺を陥れたんだ」

「どういうこと!?」

ここにいる竜は…本物…?


「いつもそうだ、みんな俺のこと馬鹿にして。大事にしてたスケボーには落書きするし、扱いは酷いし…」

「わかる」

「三文字ですませないで?」


まあ竜はそういうキャラだし…


「だから全部仕組んだんだよ。みんなを裏切って、自分で自分の中に四醋剣を取り込んだんだ」

「ってことは……」

「そう、ここまで全部俺のシナリオ通り。本当は優を道連れにする予定だったんだけど、むつきが来ちゃったね。でも別にいいよ」


そこまで言うと竜は私に近づき、耳元で囁いた。



「むつきと消えた方がミロックの、そしてみんなへのダメージが大きいからね」






「ちょっと、あの四醋剣むつきにちゅーしてない!?」

「してる、してるよ。この状況で!?」

「……」

「優、いろいろ思うことがあるだろうが今は落ち着け」

「うるせえ」

「いってえ!そんなマジで蹴るな!!!」

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