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夢幻酷法  作者: SOR
第二の反乱
10/14

団欒と不安

皆さんこんにちは。

夜見てくださってる方はこんばんは。朝見てくださってる方はおはようご…え、そういう文字稼ぎはいらない?

了解です、あいつ吊りましょう。確実にクロです。

…という茶番は置いといて。



無事ミロック界は元に戻り、第二の反乱は幕を閉じました。未だ原因は不明だけど、おそらく竜の四季剣である『大雪』が関係してるということだけわかっています。

正直、元に戻ったから別に原因がどうとかはどうでもいいというのが本音です。

ハッ、ミロックの王たるものがそんなことを言ってはいけない!失敬失敬!



あれ以来、私は四季剣に対する目が変わった。

卯月にあーだこーだ言われた事をよく思い返してみると、それは私の四季剣を邪険に扱っているのではなく逆に大切にしているからだって分かった。

四季剣は私の誇りだ!とかいいながら、マリックに四季剣を差し出すなんてなんという天邪鬼だ。私は自分の言動を恥ずかしく思った。

さて、こんな小学生の日記みたいな語りは棚に上げておいて。





みなさん、お忘れかと思いますが私たちは学生です。学生の本業といえば勉強、勉強ですよ。


「むつきぃ…頼むここ教えてくれぇ……」

「竜…ここ昨日習ったばっかじゃん…」

「練り消し作りに必死だったんだよ!」


練り消し作りってなんだよ。テストも近いということで今日はみんなで集まってお勉強です。


「そんな分からないなら零ちゃんに教えてもらいなよ~。零ちゃん結構博識でしょ?」


ちょっと話題を振ってみる。


「確かに博識とは聞いた事はあるけど、間違えたら命捧げないと…」


なんだそれ。


「二人とも頑張ってるー?」


利愛が覗きにくる。ふと時計を見るともう12時を指していた。


「お昼だから居間においで。みんな待ってるよ!」


私たちが居間に向かうと、ほぼ全員集まっていた。零ちゃんがエプロンを締めている。


「なんだお前ら遅かったな」


卯月が不機嫌そうに言う。どうしたんだろ…今日は一段と機嫌悪そうだ。


「そういえば、女子勢はみんな料理できるの?」


白空の一言に私は固まった。


「私はまあまあできるよー!零ちゃんはもう完璧だよね?」

「完璧とまではいかないけど、料理作るの趣味だし人並みには出来るわ」

「むつきはー?」

「で、出来るにきまってんじゃん!当たり前だよ~!」


シンと場が静まり返る。そして何かを察したようにニヤニヤしながら卯月が言った。


「なんだお前、あんな服やら化粧やらで女子力アピールしてるくせに象徴である料理は出来ないのか?」

「そんなわけないでしょ!?ででででできるにきまってるよ」

「優も料理全く出来ないのに煽っても効果ないよ」


零ちゃんの一言で、また場が静まり返る。

卯月料理できないんだプププ~。プププのプ~。


「…早く作ってこいよ如月シェフ」

「うっさいわ!!」


私は勢いよく立ち上がり、ズカズカとキッチンへ向かった。くっそ…卯月覚えてろ!完全に負け台詞です。


「なんだかんだでむつきと優っていいコンビだよね~夫婦とかになりそう」

「「それはない!!」」


利愛の言葉に私と卯月はすぐに否定する。誰が、誰が卯月なんかと…

料理が終わると、私たちは座りご飯を食べ始めた。


「いっただっきまーす!」

「この唐揚げ、誰が作ったの?」

「零ちゃんだよー!」

「そのコロッケは?」

「それは利愛」

「グラタンは?」

「零ちゃん!」

「お前何作ったんだよ」

「…そこのきゅうり切りました」


料理だけは苦手なんです…ごめんなさい……。

でもなんだか、こうやって団欒するのも久しぶりな気がする。反乱続きで忙しかったし…

こうしている間にも、りゅうさんやクルミル様がミロックを見てくれてる訳なんだけどね。

ふと顔を上げると、竜と目があった。

竜は笑ってくれたが、私は思わず目をそらしてしまった。ドタバタしてて忘れてたけど、私竜に告白されたんだっけ……。


『優のとこに行くな…』


あの言葉が頭を回る。どういうことだろう…

竜は、私が卯月のこと好きだと思ってるってこと?考えれば考えるほど沼から抜け出せない、まさしく蟻地獄だ。

私は、卯月のことが好きなんだろうか…。





夜も遅くなり、みんなそれぞれの部屋で寝ることにした。

明日は、ミロック国民の前で話す機会がある。今まで異常事態が続いていたから、それについての説明をしなければならない。


とにかく早く休もう…。私が布団をかぶった。

コンコン。誰かがドアをノックする。


「はい?」


私はドアを開けた。立っていたのは卯月だった。


「卯月、どうしたの」

「ちょっといいか?」


話があるみたいだ。とりあえず私は部屋に入れた。


「お前、竜のことなんで避けてるの?」

「え?」


予想外の問いに私は驚いた。避けてるつもりはないんだけど…


「竜に返事はしたのかよ」

「はっ!?なんで知ってるの!?」

「え、いや、それはだな。その風の噂で…」


風の勢い強すぎない?台風??異常低気圧???


「返事は…してないよ」

「早くしろよ」

「な、なんで卯月にそんなこといわれなきゃならないの!?関係ないじゃん」


卯月は何か言いたげな目で見てくる。


「それに私は別に竜のこと好きな訳じゃないし…」

「え…」


あ、しまった!私は思わずキョロキョロする。こういう時は、本人が聞いてるっていうパターンがほとんどだし…。

バタバタと扉を確認したが、竜らしき姿はなかった。


「お前何やってんの?ついに頭わいた?」

「うううるさい!」


私は卯月をポカポカと叩いた。


「はいはい、もう出て行きますよ~」


そう言うと卯月はそそくさと帰っていった。

なんだろ、少し顔が赤くなってたけど気のせいだろうか。




穏やかだった日々はすぐに一転した。竜の体調不良の訴えから、事態は急変したのだ。

とりあえず予定していた会見をないがしろにする訳にはいかないので、私はミロックへ行き準備をすることになった。特に大事になることもなく、なんとか無事に終わった。

国民達も今までのミロックの異常事態については理解してくれたみたいだ。


「むつき、お疲れ様!」

「ありがとう、利愛」


私はタオルを受け取った。そして辺りを見渡してみる。竜の姿は…ない。


「竜はまだ寝てるよ」


私が探しているのを察したのか、白空が教えてくれた。


「熱もないし異常もないのに、苦しいってどういうことなんだろ…」

「りゅうさんの夢幻酷法でなんとかならないの?確か治癒だった気が…」

「それは何度も試してるんだけど、なんか上手くいかないんだよ」


りゅうさんが言った。


「今、優がそばにいてもらってる。何かあったら呼ぶように言ってるから多分大丈夫だよ」


竜、大丈夫かな…。

私は正装から、私服に着替え竜の様子を見に行くことにした。


「へえ、むつき先輩思ったより胸あるんすねえ」

「!!?」


いきなり声がして私は服で身体を隠した。


「ご無沙汰してます、圭太ですよ」

「なんでここに…」


よっと圭太は、私が脱ぎ捨てた服を飛び越え言った。


「お困りじゃないかなあと思って」


お困り?もしかして竜のこと…


「ん~、なるほど。前代未聞の病、ですか…」

「やっぱり圭太…竜のこと何か知って…」

「いやいやまさか。竜先輩にはいろいろとお世話になってますからね。今日はお見舞いに来たんです」


圭太は悪い人ではないと思うけど、あんまり信用はしていない…。


「竜先輩のとこまで案内してもらえますか?むつき先輩」

「う、うんわかった…」


竜のところには卯月やら誰かしらいるだろうし、そんな中変なことはできないよね…うん。


「むつき先輩早くいきましょう?」

「まだ着替え中!着替えたら行くから外で待ってて!!!!」

「あっ忘れてた」


ペロッと舌を出し、圭太は外へ出た。全くこいつは…。


竜のところに着くと、卯月と零ちゃんがいた。どうやら起きたらしく、軽くご飯を食べている。


「あっむつき、おはよう」


竜は私を見て嬉しそうに言った。


「竜先輩、体調大丈夫ですか!!?」

「はっ圭太!?お前なんで…」


卯月が言う。そりゃ驚くよね。


「これ、お見舞いの果物です。よかったら食べてください」


そう言ってバスケットを差し出した。


「あ、ありがとう…」

「それじゃ、俺はここで失礼しますっ!」


それだけ!?圭太は果物だけ渡すと退室した。


「…トイレ」


その後に続いて卯月も出て行く。私はもらった果物を机の上に置こうとして、ある物に気づいた。四季剣って、こんな色してたっけ?




「おい、圭太」

「優先輩じゃないですか。どうかしたんです?」

「どうかしたんですじゃねえよ。何しに来たんだよ」

「だからお見舞いですよ、お見舞い」

「表向きは、だろ。シラを切るな」

「はあ…さすが優先輩。侮れないですね。確認、しにきたんですよ」

「確認…?」

「僕の実験は大成功でした、さっそくマリック様に報告しないとー!それじゃ、また会いましょう!」

「おい、ちょっと待て圭太!」






竜の部屋にあった四季剣のキーホルダーは、不思議な輝きを放っていた。


「こんな色してたっけ…」

「これ…四季剣じゃないわ」

「四季剣じゃない!?じゃ一体…」


その時だった。竜の呼吸が急に浅くなった。

スースー、と息が漏れる音が聞こえる。


「り、竜!?ちょっと、息してないんじゃ…」


焦った零ちゃんは、竜の口元に手を当てる。そして首を横に振った。どうやら息はしているらしい。しかし、ほんのかすかな呼吸だ。


「むつき、りゅう兄を呼んで」

「は、はい!」


私は急いでりゅうさんを呼びに行った。事態を聞きつけたりゅうさんはすぐに飛んできた。


「気絶…してるな。何か衝撃があった…?」

「いいえ、なかったわ。急に静かになって、それで…」

「りゅうさん、竜死んだりしないよね…?」


利愛が質問した。空気が冷える。竜が、死ぬ…?


「大丈夫、それはない。息はしているからな」

「よかった…」

「そういえば優はどこに行った?」

「卯月ならさっきトイレに…」

「トイレ?俺さっき行ったけどいなかったぜ」



白空が言う。じゃあどこに…竜の四季剣が怪しく光る。原因はもう、これしかない。だとすれば私が行くべき場所は…


「ごめんみんな少しだけ、少しだけ待ってて!」

「むつき、どこ行くの!?」


私はドアを勢いよく開け、一目散にある場所へ向かった。






「たのもー!!!」


私が思いっきり開けたドアは、マリック城。

ここに来れば竜の四季剣の秘密がわかるかもしれない。しかし、誰からも反応がない。

あれ?間違えたのかな。でも確かにここはマリック城のはず…


「うるせえ!!!!」

「ぐほっ」


後ろから飛び蹴りが出る。その足は卯月だった。


「大事な話してるんだから黙れ」

「なんだよ…イーッだ!」


私は卯月に向かってあかんべーをする。すると、奥からみなが出てきて言った。


「今来たお客さんにも分かりやすくまとめると、竜の四季剣は四醋剣と化している。だから今、竜の中で四季剣と四醋剣が戦ってるってとこかしら」


…はい?ちんぷんかんで目が点になる。


「分かった、その四醋剣とやらを消せばいいんだな。ほら、行くぞ」


卯月は私の手を引き、マリックを後にした。


「ちょ、どういうこと!?」

「四季剣の中に散らばってた1つの四醋剣は、どうやら竜の四季剣と同化してしまったらしい。それがあいつらの目的だったそうだ」

「それじゃ、竜から四醋剣を取り除けば…」

「何の問題もないな」


なら早く、早く取り除かないと竜が…竜のことを考えてるはずなのに、頭の中では繋がれた手のぬくもりが渦巻いていた。






ミロックについた私たちは、すぐに竜の部屋に飛び込んだ。そしてみなから聞いたことを話した。


「それで取り除く方法なんだが直接竜の精神に干渉するらしい。そこから竜の中にある四醋剣の成分を消滅させる」

「消滅っていうのは具体的にどういう…?」

「四醋剣は実体化しているから、四季剣やらで切っていけば大丈夫だろう」


そこまで説明すると、卯月はよいしょと腰を上げた。


「…俺が行くんだけどな」

「卯月が行くの?」

「当たり前だろ、なんのために聞いてきたんだよ」


みんなが不安そうな目をしている。


「むつき、正春で俺を刺してくれないか」


おーっと!ここで卯月選手、どM宣言か!?というボケをかます勇気は全くなかった。反省はしている。


「俺を刺して、竜を刺してくれ。両方…心臓を狙え」

「ちょっと待って、それかなり危険なんじゃないの?正春で刺すなんて…」

「当たり前だ、覚悟はできてる」


卯月の目は本気そのものだった。でも…


「私も、一緒に行く」


卯月は竜のことになると少し精神を保てなくなる時がある。私はそれを知ってる。一人で行かせるのは不安だ。


「干渉出来るのは一人だけなんだよ。それ以上の人数でいくと、竜の身体に負荷がかかってしまう。俺は大丈夫だ」

「でもっ……」

「大丈夫だよむつき。不安なのは分かるけど信じてやってくれないか」


りゅうさんが私に告げた。


「優の動きはこちらで見れるようにしている。何かあったらすぐに助けに行けるようにしておくよ」

「どうやって助けに?」

「さっきも言っただろ?干渉出来るのは一人のみなんだ。後から入って押し出せばいい」


「むつき、頼む」


卯月は言う。


もし失敗したら?

卯月がいなくなっちゃったら?

もう口喧嘩も出来なくなったら?

もうあのあたたかい…手のひらに触れられなくなったら?


気がつくと私は卯月の手をぎゅっと握った。

私も行く、その思いを手から伝えた。

卯月は驚いたような表情をする。そして、私の思いが伝わったのか少し笑った。


「大丈夫。竜もお前も、絶対1人にはしない」


きっぱりと言い切る。

私はもう、この言葉を信じるしかない。


『四季剣解放、正春』


そして、私の正春はゆっくりと、的確に卯月の心臓を貫いた。

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