ひとりぼっちは蔓延する
真っ暗闇には星が瞬いていた。月が私を睨みつけ、あちらこちらで雑草や針葉樹の葉がお化けみたいに揺れている。ただそれだけ。
いつしか私は、誰のモノかも分からないボロボロのコートに顔を埋めていた。
……教えてよ神様。どうして私は、まだ生きてるの?
お父さんもお母さんも死んじゃったのに。
友達も先生も皆いなくなったのに。
私の世界には、もう黒い影しかいないんだよ……?
「……ねぇ、キミ」
上から降ってきた声に顔を上げると、そこには「へん」な人がいた。
白い頭の天辺からはぴょこんと毛が跳ねていて、髪の色は毛先に行くにつれて黒くなっている。目は燃える様な赤と深い青の2色で、私と同じぐらいの背丈だ。
黒いシャツに黒いズボンと黒いブーツ、それに加えて黒い手に黒い翼と言う格好のこの人は、目を離したら今にも夜空に溶けてしまいそうな気がした。
「ああ、泣いてたのか。ごめん……そのコート、返してくれないかな。それがないと、ボクは仕事が出来ないんだ」
「ご、ごめんなさい」
へんな人に濡れたコートを差し出し、へんな人はそれを受け取ろうとして首を振った。
「……やっぱりいいや。それ、持ってていいよ」
「何か、あったんですか……?」
放っておくとそのままどこかに行ってしまいそうなので、鼻をすすりながら尋ねた。
でも今の私は一人だと赤ちゃんみたいに泣き続けてしまうだろうから、本当は何でもいいから側にいて欲しかっただけなのかもしれない。
そんな本心を見透かしたのか、へんな人は少し困った顔をした。
「……驚かせちゃうし長いけど、大丈夫?」
無言で頷くと、へんな人は少し遠くを見て話し始めた。
「キミ、人間でしょ?ボクは死神なんだ。いつだったか……確か数百年ぐらい前?……とりあえず、その頃にカミサマからコートを渡されて、「死んだ人の魂が右目に入ってるから、魂を狩る仕事をして下さい」って言われたんだ。それで生きながら何百億人もの人の魂を狩ってきた。だから、ボクは人間であり死神でもある。そんな存在だね」
「でも、ボクが何年生きていても大事な人達は皆死ぬんだ。作っても作っても、皆死ぬ。例外なく死ぬ。……キミはカミサマっていると思う?」
「いると、思います」
よく分からない死神さんは冷たく笑った。
「可哀想にね。……もう、カミサマはいないよ。とっくの昔に人間に殺されて死んでたから」
「嘘……」
私の口から溢れた言葉にはお構い無しに、死神さんは続ける。
「カミサマはもういない。いないのに、こうやって魂を狩って次の命に渡さないといけない。残された天使とか悪魔とか、ボク以外の生きながら死神や守り神になった人間はいるけど……皆何もしなくなって、世界は荒れていった。魂を循環させる技術は、今やボクにしか扱えない。伝えようとしても皆嫌がる。……疲れたんだ。だから、カミサマからもらった「死神のコート」は捨てる。このまま世界から消えるつもりだ。ボクがいなくなった後の世界なんか、どうでもいい」
……死神さんが言った気持ちと、今の私の気持ちは同じだった。
「それ……私も一緒に行っていいですか?」
「……ああうん……大丈夫だと思うよ。じゃあ、宜しく」
死神さんは闇を固めた様に黒い手をさし出してきた。
「……はい、宜しくお願いします」
その手からは、冷たさだけが伝わってきた。




