簿記の書き方について
「さて、君のやる気はわかったとして、まず大前提として、会社やお店の帳簿と家庭簿の違いってわかる?」
「えっと……お金の管理をするんだよな? それだと違いはないんじゃないのか?」
「うーん、やっぱり呼び止めといてよかったよ。まず家庭簿を広げるか、もしくは家庭簿ソフトを立ち上げてみて」
「えっと、項目には日付の他に、『内容』と『収入』・『支出』ってあるな」
「『内容』はなにに使ったのか、『収入』は入ってきたお金。『支出』は使ったお金だね」
「さすがにそれは小学生でもわかるだろ。でもさぁ簿記はどうなんだ?」
「たとえばパンをひとつ現金100円で購入しました。これを家庭簿で記入するとどうなる?」
「えっと内容の項目にパン。お金を払うから支出に100円だな……あれ? デジャブ?」
「君の考えは間違ってないけど、家庭簿は『単式簿記』といって、簿記のように『複式簿記』とは違うんだよ」
「ちょ、ちょっと待て? 複式ってなんだ?」
「会社で使う帳簿を「複式簿記」、家庭で使うものを「単式簿記」というんだけど、どっちも簿記に変わりはないの。ただ簿記検定の話をしているから、こちらでは会社で利用されている「複式簿記」を扱うね」
「えっと、使い方が違うのは会計の話とかでなんとなく理解はしてるんだけど、どう違うんだ?」
「そのままの意味で、単式の項目はひとつだけ、複式はふたつ以上を云うんだよ」
「まったく、さっぱりだわ」
「うん、改めて君を呼び止めておいてよかったよ」
家庭簿(お小遣い帳)を記入する場合、項目の欄は
∥|日付∥内容∥収入∥支出∥残高∥
になっていると思います。
内容の部分に商品や金銭の内容の部分に書き、それが収入だったのか、または支出だったのかを記入して、残高に書き記します。
これが単式の計算になります。
二人の会話の中に出てきた買い物を記入するとこうなりますね。
∥ 日付 ∥内容∥収 入∥支 出∥残高∥
∥四月四日∥パン∥ ∥ 100∥ ∥
ただ複式の場合は異なるといいますか、複雑になりまして、
∥| ∥ 借 方 ∥ 貸 方 ∥
∥ |日付 ∥摘要∥金 額∥摘要∥金 額∥
∥四月四日∥パン∥100∥現金∥100∥
と記入します。
もうひとつ、簿記には元帳というものがあって、
∥| 食 費 ∥
∥ |日付 ∥摘要∥借 方∥貸 方∥
∥四月四日∥現金∥100∥ ∥
∥| 現 金 ∥
∥ |日付 ∥摘要∥借 方∥貸 方∥
∥四月四日∥食費∥ ∥100∥
と記入します。
なぜこんな、簿記ひとつでも大変なのに、さらに複雑にするんだ。
そう思われますよね? ですがこの元帳が後々、さらには会計時の報告書作成に必要不可欠になるんです。
ここからは図を省略して
(借方)(貸方)
という位置付けで取引の例文、答えを示してきます。
「とまぁ、こんな感じなんだけど」
「…………zzz」
「(ドゴンッ!)うん、叩き起こされたくない前に起きようね」
「言う前から叩き起こされとるわっ!」
「それじゃぁ、単式と複式の違いはわかった?」
「複式は書くことが多いということだけはわかった」
「それさえわかればいいよ。ところでわたしが『なにをナニで購入したか』の問題を出した時、すごくしつこいくらいに言っていたのは覚えてる?」
「ん? 現金で購入したってやつか」
「そう、それを複式で記入してみて」
「えっと、たしか購入したものは借方に記入して、それをなにで購入したのかを貸方に記入するんだったな」
「日付は特に書かなくてもいいよ」
(リンゴ×15)1,500(現金)1,500
「おお、正解(本当は借方の書き方が違うんだけど)。まぁこれはわかりやすいかな」
「これを現金の元帳にはなにに何円使ったのか、リンゴの元帳にはなにで払ったのかを書くわけか」
「君、意外に物覚えいいんだね」
(一軒家)2,800(現 金)200
(未払金)2600
(注・単位は万円です)
右記のように取引上、このようなことはよくあります。簿記ではその現在の状況もしっかり記入しておかないといけません。
未払金はそのままの意味で支払っていない金額をさします。
そして借方と貸方の金額が一致していないといけません。(右記の計算ではどちらも2,800万円)
もしこれが異なってしまっては、会計に不具合が起きてしまい、最悪、癒着があったなんて汚名がかけられてしまう場合もあるんですよ。
「つまり、借方は増えて、貸方が減るってことになるんだな」
「そう。会計では借方貸方をわかりやすく『左右』に分けて、さらには「左増右減」っていうんだよ」
「言わないよな、絶対……」
「それじゃぁその調子で、もし君が私に200円貸してもらったとするよ。どう記入する?」
「(無視されたけど……)えっと、200円を借りたってことは……あれ? 借りた」
(借金)200(現金)200
「これでどうだ」
「うーん、やっぱり引っかかっちゃったかぁ……」
「あれ? 不正解?」
「簿記ではわかりやすく分けると『借方』は手に入ったもの、増えたもの、『貸方』を支払ったもの、減ったものになるんだよ。それじゃぁもう一度、君は私に200円の借金をした。もう一度よく考えてみて」
「えっと、オレが女神さまに借金をして、それが現金で増えたってことは……」
(現金)200(借金)200
「ってことになるのか」
「そうだね。借金の正しい記入は『借入金』・『貸付金』っていうんだけど、つまり借金でお金が入る(増)けど、いつか返済しなければいけない(減)からこういう記入になるんだよ」
「他にも引っかかる項目ってあるのか?」
「引っかかるってわけじゃないけど、ちょっと複雑かなってのはあるよ。たとえば」
(一軒家)2,800(現 金)200
(未払金)2,600
(注・単位は万円です)
「これってさっきのやつだよな?」
「そう。だけど一軒家って資産だよね?」
「そうだな。一軒家なんてそんな簡単に売れないし」
「そう簿記における記入。つまりは勘定の仕訳には色々とあるんだけど、大きく分けて五つの項目に別れるんだよ」
資産=会社が持っている金銭やもの。
負債=会社が抱えている借金。
純資産=会社を支援している投資家からもらったり、集めた金銭。
費用=収益を上げるために支出された金銭。
収益=経済活動で収入された金銭。
「わかりやすくまとめるとこうなるね」
「家を買うってことは、その会社の資産になるってことか。ってことは、『未払金』はまだ払ってないけど、将来的には払うことになるから、この前教えてもらった借入金と同じように仕訳けるんだな」
「おぅ、関心関心。資産を手に入れたけど、その対価を払い終えてないからね。未払金は公人くんの言うとおり『負債』になるよ」
「なるほどなぁ。あれ? たしかこの『負債』ってところは現金じゃなかったっけ?」
「そうだけど、その現金が借入金だったら?」
「借入金は借金だから、負債になるわけか」
「正確には資産に関わるものと、利益に関わるものの書き方は異なるんだよ。白文字が多くなってるけど、これはページの都合上仕方なくですので悪しからず」
∥|借方∥貸 方∥
∥ ∥負 債∥
∥資産∥純資産∥
(財政状態を示すグループ。財産の状況を示します)
∥|借方∥貸方∥
∥費用∥収益∥
(経営成績を示すグループ。利益の状態を示します)
「とまぁ、こんな感じに分けられるの。これは簿記において根幹になるから、空で書けるようにならないとね」
「ふむ。つまり財産に関わるものが資産・負債・純資産。経営に関わるのが費用・収益になるのな」
「まぁ、詳しい書き方は次回にまわしましょう。それにそろそろおなかがすいたから、ご飯食べたいしね」
「女神さまっておなかすくのな……」
『左増右減』なんて言葉はありませんよ。