辛い世界
当てもなくふらふらと街を歩く。
脳内ではずっと、エゼルの言葉が反響していた。
『なぜLancelotにいる』
『こちらの世界から足を洗え、烈』
『お前にこの世界は厳しすぎる』
なぜ。そんなのは決まっている。千春を守るためだった。
能力を誤作動させていじめられた千春。それに巻き込まれる形で犯人にされた烈。二人を守るために逃げることを提案した遥希。そんな三人の居場所。それがLancelotだった。
千春を守るため。烈がLancelotに入ることを決めた理由。
「…お前に言われなくても、わかってんだよ…」
厳しい世界だとわかっていた。でも、千春を守るためには仕方なかった。
弱い自分では何の力にもなれないとわかっていた。梓がリーダーになって痛感した。
今までは攻撃タイプは烈しかいなかった。とれじゃーずと対峙した時も、遥希と千春の後方支援を受けて烈が反撃する。それがセオリーだった。
地面に転がっていた小石を蹴飛ばす。
そもそも、烈の能力は近接戦闘に向いていない。中距離からの攻撃に適した能力であるというのが烈自身の見解だった。
梓が入ってきて、中距離攻撃の訓練ができると思っていた。しかし、現実はそう甘くない。人形との戦いで理解した。
近接戦闘の得意な能力がいるグループで、中距離の能力は意味がない。近接が強い場合は、特に。
「…俺、よっわ」
自分で自分の心にナイフを刺す。
エゼルの、敵の大将の言葉ひとつで仲間から逃げてしまった。じわりと視界が歪む。蹴飛ばした小石に追いついた。もう一度、今度はもっと遠くに蹴飛ばす。
強くなりたい、強くなりたい、強くなりたい。千春を守れるくらい、姉御に頼りきりにならないくらい、強く。
ネオンが小石を蹴飛ばす列を照らす。
あの家にはもう帰れない。
この世界は、きっと自分には辛すぎる。




