許せない
扉を静かに少しだけ開けて、中を覗く。
しかしすぐに、扉を全開にして中に入った。
「烈、千春!?」
机と机の間で、烈が顔を押さえて蹲っている。その前で、千春は泣きながら烈に縋っていた。千春は頭の先からつま先までびしょびしょだった。
「何で、どうしたの!?」
「は、はるき…」
駆け寄ると、烈が顔を上げる。口の中を切ったのか、端から血が出ている。
「殴られたの? 誰に? なんで?」
「…それより遥希。千春に上着貸してやってくれねぇか」
「あ、ああ、そのくらいいくらでも。ていうか千春は何で濡れ鼠なの!?」
何があったのか、何もわからない。でも、酷いことがあったのは明白だ。
「…ねぇ、何があったの? 二人にこんな酷いことしたのは誰?」
「…帰ったら、俺が全部話すから。千春のことも。だから…」
烈はそこで言葉を止めた。
だから、千春には何も聞かないでやってくれ。
俺には確かに、烈がそう言ったように聞こえた。
とりあえず俺の家に行って烈の怪我の治療をした。びしょびしょの千春は、自分の体育着に着替え、ずっと膝を抱えていた。
「…今日、千春の能力が誤作動した」
治療中、烈が徐に口を開いた。
ぽつぽつと、今日あったことが明かされる。
千春の能力が誤作動した。それを見た何人かの女子が気味悪がって、変な噂を流した。悪い噂っていうのは、広まりも早くて、変な尾鰭もつきやすい。それに反論した千春は、反感を買い、水を掛けられた。ちょうどその時に戻った烈が止めようとしたら、女子が振り回したバケツで顔面を殴られた。
「もっと…遥希みたいに、うまく避けられたら良かったんだけどなぁ」
自嘲気味に笑う烈の姿が、とても痛々しかった。
「…ごめんなさい、烈…私のせいで…」
唇を噛みながら俯く千春に、烈は笑いかける。
「別に痛くねぇから気にすんな。お前は髪の毛ちゃんと乾かせよ。すぐ風邪ひくんだから」
「いつの話ですか」
「プール行った時だって、俺たちが髪の毛乾かさないから自分も乾かさないっつって、次の日盛大に風邪ひいてただろ」
「だからそれいつの話ですか!?」
千春を揶揄って笑ってはいるけれど、烈だって相当痛いはずだ。女子の力とは言え、からのバケツとはいえ、事故とはいえ、顔面を殴られている。
俺は、何もできなかった自分が許せなかった。




