5話 特訓
話し合いが終わると、ちょうどお昼頃になり、昨日四季が倒した熊の魔物―イグナイトベアーをハクの魔法で焼いて食べながら、ハクから魔物についての話を聞く。
魔物にはランクというのが存在しており、ランクはただのスライムのFランクから伝説的災害級のZランクまである。ただ、Zランクは一般に知られていなく、またその存在も大昔の時から姿が確認されていなく、今では文献に記されている位である。そのため表向きは、最高ランクはSSSが最高である。
今回、四季が倒したイグナイトベアーはランクAの下位に位置される。
食べ終わると、寝床を荒らしたくはないと事で先日のイグナイトベアーとの戦闘跡地までやって来る。今後は、ここを訓練場所にする予定らしい。
目的地に到着すると、四季とスコールは横に並び、ハクは四季達の前に立つ。
「これから一ヶ月訓練をするけど、各々には三つの事を中心に訓練するわ。まずスコールは人化の練習と魔法の訓練、そして魔装術の三つを行うわ」
「頑張る」
ヤル気満々に答えるスコール。
「シキくん。貴方にはスコールと同じ魔装術、魔法の訓練、そしてその刀を自在に扱える訓練を行ってもらうわ」
刀の話が出て思わず、手に持っている刀を見る。ランクAの魔物を一太刀で切り殺したこの刀を自在に操れば、それだけ四季がこの世界で生き残る確率が高くなる。その思いから、手に持つ刀をより一層力強く握り締める。
「分かった」
「それじゃあ、三つの訓練については後で、各自にしっかり伝えますので。訓練を始める前に魔法について説明をしますね。魔法は魔力を元にイメージしたものを呪文によって世界に固定させるものよ。こんな風に、《アイスキューブ》」
ハクが呪文を唱えると、ハクの横にハクの身長と同じくらい四角い氷の塊が現れる。
「今はこのぐらいの大きさだけど、イメージ力と魔力によって、質も大きさも変わるわ。ここまで、聞きたいことはあるかな、シキくん」
「魔法を発動させるプロセスは分かった。質問は三つだ。一つ、魔力ってのは結局なんなんだ。二つ、呪文を知らないんだがどうするんだ。三つ、呪文を唱える必要はあるのか。例えば無詠唱なんか出来ないのか」
「まず一つ目ね、魔力はエネルギー。大気中に草や木、そして人の体の中に存在しているわ。体内にある魔力を放出するようにすれば、こういうことが出来るわ」
ハクが右手を前に出すと、指先から青い光が漏れ出していき、手のひらの上に青い光の玉が出来る。
「凄いな」
「これが魔力よ。ここまでハッキリと見えるようになるには訓練が必要だけどね。二人とも一ヶ月後には出来るようになってもらうから。二つ目の質問は、覚える必要はないわ」
呪文を覚える必要がないとハクに言われ、四季は頭を悩ます。ならば呪文など必要ないのか。
「いい、重要なのは呪文の意味とイメージが一致すること。私の隣に唱えたアイスキューブがあるでしょ、でもこれでもいいの《氷塊》」
すると、ハクの横にあった氷塊の横に同じ大きさの氷塊が現れる。
「呪文はイメージした事を世界に固定する鍵よ。そして、イメージは鍵を差し込む錠。一致するのなら呪文の言葉は変わっても大丈夫。だから必然的に三つ目は無理よ」
「分かった」
四季はハクの答えに納得して首肯する。
「今度は魔法の属性についてね。スコール、説明してみて」
突然振られたスコールは、ビックリしながらも説明に入る。
「えっと、魔法は属性魔法と固有魔法の二つに別れてるんだ。属性魔法は火・水・土・風・氷・雷・光・闇の八属性あるよ。固有魔法は無属性で、………ごめんなさい、ここからは覚えてないや」
「半分出来たから、及第点よ」
落ち込んだスコールを、ハク優しい手つきで慰めた。
ハクの補足説明で、無属性というのは、属性の資質が無いこと。つまり無属性の者は他の属性の魔法は使えない。
その代わり、個人にしか扱えない魔法。それが固有魔法ということだ。
「ということは、俺は固有魔法の使い手ということか」
「そうなるわね。試しに何か魔法を使ってみたら」
ハクの勧めで魔法を使うことにするが、どんな魔法を使うか考える。一応、直ぐに使う魔法は決まったので後は魔力だけだ。ハクの説明やマンガなどの内容で何となく魔力を使える筈。後は実践あるのみだ。
「《索敵》」
魔法を唱えた瞬間、四季の知覚世界は一辺する。四季のいる位置から見ることの出来ない森の中に潜む動物や魔物の動きが手に取るように分かる。
(この魔法は俺向きだな)
四季は自分の魔法との相性の良さに笑みを浮かべる。自分の刀は一撃必殺のごとき威力を誇る。その一撃必殺の攻撃を感知魔法で相手の動きを読み取り、確実に敵を仕留めれる。
加えて、感知魔法の情報取得能力は戦闘以外でも十分有用である。これならこの世界でも問題無く暮らしていけると思った。
「一人で満足げにしないで、どんな効果か教えてよシキお兄ちゃん」
一人満足げな四季に不満を思ったスコールは、四季のズボンの裾を揺らすが、四季は自分の魔法の効果の確認でスコールのじゃれあいを無視する。
そんな二人のじゃれあいをハクは手を叩いて、再度集中させる。
「二人とも、そこまで。次に行くわよ。次は一番重要な魔装術よ。一ヶ月で、戦闘時に対して肉体全身に常時、展開していられる程度にはなってもらうわ。特にシキくん。貴方の武器と魔法では接近戦が必須だから、必ず必要になるから」
魔装術は前回召喚された勇者の一人が考案した術で、自分の肉体を魔力によって強化する。この魔装術は錬度が上がれば上がるほど、効果が上昇する。
魔装術の最大の特徴は魔法とは違い、ただの技術であるために誰もが使うことが出来る。しかし、その分魔力操作が難しく、習えば全員が使えるものでもなく、使えても一瞬だけの者の方が多い。なので、ハクの言ったことを可能にするならば、かなりのスパルタな特訓をしなければならない。
「それじゃあ、二人同時にする説明はさっきので終わりね。これから、シキくんの刀についてお話をするから、スコールは向こうで前に教えた通りに人化の練習を行っていてちょうだい。後で、アドバイスをしに行くから」
「はーい。シキお兄ちゃん、頑張ってね。」
「お前もな」
スコールはハクが指示した場所に走っていく。走っていくのを確認した四季はハクに話を促す。
「ハクさん、結局この刀はなんなんだ。ランクAの魔物を一太刀で切り裂いたり、その後に体内から力が抜け去っていく。それに、ここに来る途中に抜いてみようとしも抜けなかった」
四季の言葉を聞きながら、ハクは神妙な顔つきで四季の持つ刀を見る。
「結論から言えば、その刀については全く分からないわ。それなりに生きてきたけど、そんな刀は初めて見たわ」
「それなりって、ハクさんって、いや何でもないです」
四季が言いかけた瞬間、ハクが笑顔でこちらを見ていた。ただし、その目は一切笑ってはいなかったが。
(先代の勇者は、話からして随分昔の感じだよな。ていうことはハクさんって)
「シ・キ・く・ん」
「いえ、何も考えてません! 何も」
出会った時以上の重圧を向けるハクに、これから先、そっち方面の話をすることを二度としないと決める四季。やはり世界は違えど、女性の年齢はタブーである。
「話を戻すわね。昨日貴方が倒れていたとき、刀を鞘に戻すとき、刀の柄を持った瞬間、魔力を急速に取られたわ。貴方が倒れたのは、一振りで体の中にある魔力を根こそぎ持っていかれたのね」
「待ってくれ。なら、何で今は魔力を取られないんだ。鞘にも、柄にも触っているのに」
「それは鞘のお陰ね」
「鞘が?」
鞘を見ても、特におかしなところはない。鞘が異常に頑丈なのを除いたら、どこから見ても平凡な黒色の鞘である。
「えぇ。刀は知らないけど、鞘は知っているわ。その鞘はいかなる魔法や物理要因も一切に受け付けずに、ただ悠然とそびえ立つ宝樹アルセムの枝で出来ているわ。」
「凄い樹だな、その宝樹アルセム」
「それは勿論。でもあの樹は【アヴァロン】のエルフの里と友好の証しとして枝木を送った【ウルクス】しかなくて、枝を貰ったり加工するにも、樹に宿る精霊に頼んで許しを得ないと無理なのよ。その樹で出来た鞘だから、その刀の魔力吸収を阻止しているのね」
魔力を吸収して凄まじい切れ味を発揮する刀に、魔法や物理攻撃を無効にする鞘。四季が手に入れた武器は想像を超える武器のようだ。
「刀を抜くには、柄に魔力を流しながら抜こうとすれば抜ける筈よ。そのタイプと似た封印された道具があって、普段は何してもびくともしないのに、魔力を流し込むと起動するのよ」
「なるほど」
「貴方の魔力量は膨大にあるわ。それでも一振りで全部持っていかれるのは、魔力コントロールが出来ていなくて、無制限に刀に魔力を取られているのよ。だから、この一ヶ月で一振りで魔力を全て取られずに、戦闘を続行出来るようにすること。最終的には何回でも刀を振り抜けるようになれば、どんな相手とも戦えるようになるわ」
四季の強さの可能性を語るハク。
「でもその前に、魔装術の特訓をしなさい。魔装術が出来れば、自ずと魔力コントロールも上昇するから。後、その刀の名前を決めときなさい。その刀は、今後貴方の大事な相棒になるんだから、名前を付けた方が愛着が湧くでしょ」
「名前かぁ……、そうだな『鳴神』って名前でいいかな」
「じゃあ、名前も決まった事だし、張り切って特訓するわよ」
やる気全開のハクに思わず苦笑いする四季だが、すぐに気を引き締める。
「やってやるぜ」
(この一ヶ月で、強くなって見せる。この世界で自分の好きなように生きるために)
四季は気持ちを一新に、特訓を開始する。