日本 行動に出る
ようやく書きたかった日本編です…しばらくの間続きます。
正午過ぎ。オルフェウス達は再び日本の街並みを眺めながら歩き、優の家へと向かっていた。
道中、オルフェウスはとある事務所が気になり、足を止めた。
「ユウ、あそこは何だ?」
「あそこは政治家の事務所ね」
「そういえばここの政治家は誰がやっているんだ?貴族がいない以上、一般人がやるんだろうが……どうやってそいつらは政治家になれたんだ?」
オルフェウスの疑問は最もで、オルフェウスの世界では一般人が政治に参加するという機会はほとんどなかった。あったとしてもかなりの制限がされていて実質参加できないも同然だった。
「政治家と言ってもいろいろあるから大まかに説明するよ?日本で政治家になるにはある一定以上の年齢になったら選挙に出られるようになるんだよ」
「選挙というと日本は民主主義国家か」
オルフェウスが民主主義国家を知っているのはオルフェウスが様々な国を旅してきたが故だろう。
「民主主義の概念は知ってたんだ。まあいいや。とにかくその選挙で他の人よりも多くの票を獲得すると政治家になれるって訳」
「選挙者はどんな奴らだ?」
「その地域に住んで3ヶ月以上経った18歳以上の住民全員。」
「……は? それは本当なのか?」
オルフェウスはそれを聞いて脱力してしまった。オルフェウスが見てきた世界で選挙権が与えられる時といえば、はるかに複雑な条件を満たさなければならずそれを満たす住民はほとんどいない。しかしこの日本はどうだ?選挙権が住民にとって当たり前の権利である。オルフェウスはそれが信じられなかった。
「昔は税金15円以上を納めた一定以上の年齢の男の人だけっていうこともあったけど今は違うよ。今は18歳以上の選挙圏内の地域住民なら誰でも投票出来るって訳」
「15円? ずいぶん安いな。確か前に食べた照り焼きバーガーはその20倍の300円だったはずだが……」
「ああ、それね…今でこそ300円で照り焼きバーガーを買える時代だけど当時の15円はごく一部の大金持ちしか払えない金額だったの」
「15円がごく一部の大金持ちしか払えないか。……だとしても相当革新的だな」
「まあ文明開化の時代だったし、革新的なのは違いないよ」
優がそう頷いてその場を歩くとオルフェウスもそれに続いた。
だがオルフェウスはその足をすぐに止めた。
「革新的と言えばダンジョンはこの世界に無いんだったな」
「そうだけど何をする気?」
「乗り込むぞ。あの政治家の連中に地下迷宮が出来たことを伝える」
「はぁぁぁ!? 正気!?」
「正気だ。そもそも地下迷宮の中には魔物が棲んでいる。地下迷宮の影響で外、つまりここらには魔物は出ないことやその他諸々の安全性を伝えなきゃいけねえしやることが色々あんだよ。そのためには国と連携した方がやりやすい」
「でも政治家って皆忙しいし、絶対門前払いになるよ。異世界から来たとか言っても通じないよ!」
「あのなぁ。んなもんいちいち気にしたら負けだ。俺としては門前払いにされようが関係ない。むしろ逆だ、こちらが協力を求めていたって事実が必要なんだ」
「どういうこと?」
「俺だって政治家が頭固いってのはよくわかっている。だから一般人、それも訳のわからない連中なんか相手にしない」
「それはそうだけど……」
「でだ。その訳のわからない連中が世界に影響を持つまでに成功したら政府はどうする?」
「うーん……その人達に協力しようとする……かな?」
「1/4くらいは正解だ。政府は掌返しをして協力を申し出る。これがお前の言っていることだ…ところが俺はそれを断る。なにせこっちの話を全然聞いてくれなかった訳だしな。政府もそれに気づくはずだ。つまり頭を下げなきゃいけない事態になる」
「あっ!?」
「実際そこまで上手くいくとは思えねえが、交渉がやり易くなるのは違いない」
オルフェウスはそう断言し、腕を組んだ。
「そういうこと……でも何で1/4なの?」
「それか。政府の対応にもう一つの可能性があるからだ。」
「もう一つの可能性?」
「さっき話したのは頭は固いがプライドは低めな政府の話だ。頭も固くプライドも高い政府の場合の例だな」
「プライドが高いとどうなるの?」
「意固地になって無視する一方で地下迷宮を国のものにする…といったところだろうな。俺の地下迷宮は勝手に日本に作ったからな。そこを突いて政治家共は無理やり日本のものだと主張する可能性がある」
「確かにやりかねないね」
「ましてや金銀財宝の眠っている地下迷宮だ。可能性は十分にある。」
「でもオル、その時はどうするの?」
「もちろん元魔王の誇りを賭けて日本と戦争だ」
「やめてよ!? そんなことをしたら死んじゃうから!」
「だったら手っ取り早くクソ政治家共を洗の…説得するだけだ。そうすれば問題ない。なにせ戦わずにして勝つんだからな」
「洗脳って言いかけなかった!?」
優のツッコミもオルフェウスには届かない。
「何にしても乗り込んだとしても解決策はある。ユウ、行くぞ!」
「ええ〜!? ちょっと待ってよ〜!!」
オルフェウスは嫌がる優の腕を引っ張り、事務所の中へと入っていった。
〜事務所〜
「おう、ちょっといいか?」
「なんだお前達は!? ここがどこだかわかっているのか!?」
政治家らしき壮年の男がオルフェウスの前に立ち塞がる。
「うるせえ。それよりもここの政治家で一番偉い奴と会わせろ。国に関する重大な話がある。」
「お前のような子供に」
「俺はあいにくだが20を超えている。会わせろ」
「ダメだ!」
「何故だ? もし正当な理由なしに断るのなら手段は選ばん」
「オル!」
優がオルフェウスに注意するがオルフェウスは関係ないと言わんばかりに無視。それどころかオルフェウスを止めた人物に問い詰める
「…今、堂島先生はここにいない。帰ってくるのは数ヶ月後になる」
「数ヶ月後には既に手遅れになるって言っているんだよ。これはお前らの為にも言っているんだ」
「ダメだと言ったらダメだ!お前たちのような子供に何が出来る!」
「これを見てもそう言えるのか?」
そう言ってオルフェウスは瓶に詰まった原油を取り出した。
「日本じゃこの原油は取れねえって聞いたぜ。だけど俺達は国内、それもこの付近でそれを発掘した。それがどういうことかわかるだろ?」
「とりあえずその場所に案内してくれないか?」
「断る。会わせるまでそこには案内しない。取引の基本だろうが」
「いいからその場所へ案内しろ! お前達程度なら権力で握り潰すことが出来るんだぞ!」
政治家の男が顔を真っ赤にして唾を吐きながら怒鳴る。優は完全に涙目でありもはや戦力にもならない。
「やっぱり腐ってやがるな。この国の政治家ってのは」
「なんだと!?」
「てめえは権力に頼っているがそれは誰のおかげで成り立っている? 独裁国家ならば国と答えられるが民主主義国家の日本なら民間人だろう。お前のような政治家に権力は動かせねえ。仮に動かしたとしても選挙の前にこのことを公言するだけだ」
「そんなこと言ったところで無駄だ。お前と私の信頼の差は違う」
政治家の男がそう断言するとオルフェウスはとある道具を出した。
『いいからその場所へ案内しろ! お前達程度なら権力で握り潰すことが出来るんだぞ!』
先ほどの政治家の発言がその道具から流れた。このことに政治家の男はダラダラと滝のように汗をかき、優に至っては唖然としていた。
これは過去の見聞という魔法道具の一つであり、所謂ボイスレコーダーだ。オルフェウスはこれを使って先ほどの政治家の発言を録音していたのだ。
「これを選挙区に流したら地域の皆さんはどんな反応するだろうな?」
オルフェウスが見せるその笑みはまさしく悪魔だ。種族が悪魔王なので当然といえば当然なのだが。
「や、やめてくれ! そんなことをしたら私は……」
「やめてくれ? どうして命令するんだ? 立場ってものがわかってないなお前は。そうと決まれば行くぞ、優。こいつの悪口を広めまくるんだ」
オルフェウスは優の腕を引き、その場から立ち去ろうとした。
「お待ちください! 堂島先生にも連絡しますから! どうかそれだけはご勘弁を!」
「ならさっさと連絡しろ」
「その必要はない」
オルフェウスが急かした瞬間に後ろから声がかかった。
「嘘ーっ!?」
優はその人物を知っていた。というよりも全国の人間はその人物を知っている。そんな大物が何故こんなところにいるのか理解できずに優はそう叫んだ。
「き、君島総理!? 何故こちらへ!?」
そう、その人物は内閣総理大臣、君島彰久であるからだ。
「何、ちょっとした野暮用だよ。それよりもこの二人と話がしたいから席を外してくれないか?」
「た、直ちに!」
オルフェウスに突っかかってきた政治家の男はすぐさま席を外し、外へと出た。
「まあ立ち話もなんだし、そこのソファにかけたまえ。それから用事を聞こう」
そう言って君島達はソファに座り、会談が始まった。
何故か戦国モノにハマってしまい、信長の野○まで購入してしまった…そのうち戦国モノの小説も書きそうで怖い。